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開拓村:紛糾と反感

会議は続く、されど自分たちは見守るの見であった……

引っ越しの準備を進めている。引っ越し、というのは明日、元領主の館らしき家に引っ越すことである。


「うーん……」


 準備している一同の口からは内心複雑な声が漏れてくる。かくいう自分も帰宅してから少なくとも5回は首を捻っていた。


引っ越す先は、僻地の村のため「館」と言ってもそこまで大きくはない。それでも、村で唯一の二階建てで、いくつかの部屋には暖炉もついている。洗い場も確保されているようで樽か何かを用意すれば風呂にもありつけそうだ。まさに願ったりかなったりの待遇だが、全員の顔が必ずしも晴れていないのには訳があった。


********


 遡ること数時間前。再来年春に向けて、各自がこの村でどの商売を受け持つかを会合最後の議題として話し合っていた。


「鍛冶屋はそのままボルトラーミたちでええか?」

「そうだなぁ。ただ、見廻りやらで最近忙しいからな」


 前の村での生業が引き継がれるらしい。手に職をつけた者がやるのは当然のことであるが、とすれば技能が何もない自分たちは何ができるだろうか。


「魔物討伐が始まれば鍛冶屋自体も忙しくなるじゃろうし、無役だった者から2、3人回してもええかもしれんのぉ」


 無役とはその名の通り前の村で特定の職業を持っていなかった人だ。これは村に来てからの会話でなんとなくわかっていた。そして、特定の職業を持てるかどうかは手に職を持っているかどうかに加えて、傭兵時代の集団への貢献も加味されていることもなんとなく察せられた。今回の村ではどうなるのかというのが食事時の会話などでちらほら上がる話題で、皆の関心事項の1つであることは明らかだった。


「となると、今後のことも考えて1人はパオロがええかの。そろそろお前も大人の仲間入りじゃ」

「はいっ!」


 役がもらえるだけでなく、大人の入り口に立ったことが認められ、少年は誇らしげに答えた。


「で、あと2人くらいか」

「力があって、ある程度器用じゃないと務まらんが……」


 少年パオロは後継ぎ的に将来にわたって村が鍛冶職人を持てるように選ばれたのだろうが、残りはたぶん経験もない中高年ばかりである。無役になっても何もやることがないわけではないし、村の開拓が上手くいった後には当然土地も配分されるらしい。元傭兵集団の結束からか儲かっている職種から分配金も出るらしい。それでも、村の中での貧富の格差や地位の差があるのを感じていた。


 決定権はパリッセさんたち指導役にあるらしく、最終的には決まるものの、それまでの過程では誰が選ばれるかでかなり紛糾した。それでも魔物討伐が始まって人流が増えることを見越して、各職種増員されるようで村の半分以上を占めていた無役もどうやらかなりが解消されそうだ


「で、次は宿屋なんじゃが、これは魔物討伐の間だけ1つ増設せんといかん。当然、討伐が終わったら閉めることになるから……」


 そういうとパリッセさんは我々の方を向き直り言葉を続けた。


「ある意味お前さんたちが丁度ええじゃろ。儂とばあさんも手伝うのとシモーナにも手伝ってもらおうかな」


 シモーナさんとは4人の子どもがいる女性で、確か未亡人であったはずである。どの程度美味しい商売かは分からないが、なにはともあれお金が必要な自分たちに役が回ってきたのは有難い話だろう。もちろん、儲けさせるから、ということで加わった開拓団なわけで役を回してもらうのは約束のうちでもあったはずではある。


「修復が終わった領主の館に一緒に住むのにも丁度いい人数じゃ」


 その言葉を聞いて少し周囲がざわつき始めた。具体的に何に対してざわついているのかはわからないが、その視線から、そのざわつきにはよくない意味が込められていることが理解できてしまう。


「外部の者が宿屋となると儲けの配分はどうなるんですか?」


 一人の男がおずおずと立ち上がり質問した。堀の作業班で同じだった人である。


「儲けの6割を持って行ってもらって、残りの半分を村に、半分を儂らとシモーナで割るつもりじゃ」


 パリッセさんのその答えにさらにざわめきが大きくなる。


「それはちと持って行かせすぎじゃないですか」


 別の男が立ち上がり続ける。こちらも同じ作業班だった人である。


「村を出て行ってもらう約束で引き込んだんじゃ。討伐後の恩恵は受けられんで、それくらい当然だと思うがの」

「しかし……」

「そもそも、討伐終了後は潰すんじゃ。彼ら以外に適任はおらんだろ」


 さらに食い下がろうとするが、パリッセさんへの反論の言葉が続かないようだ。自分たちは当事者にも関わらず、この論争を見守ることしかでず、ただ狼狽するばかりであった。


「にしても、あの家にまで住むってのは優遇しすぎじゃないか」

「パリッセの孫の恩人だからって贔屓しとらんか?」


 他も立ち上がってさらに食い下がる。比較的若い層が中心に我々に美味しいところを持っていかれすぎではないかという思いがあるようだ。


「お前ら言っていいことと悪いことがあるぞ!」


 パリッセさんと同年代であろう初老の男が立ち上がって一喝し、さらに言葉を続ける。


「一番の功労者で指導役のパリッセが館に住むのは自然じゃろ?まさかお前さんが住むつもりだったんか?」

「いや……」


 文句をつけている男に問い詰める。


「同じ宿屋をやるのが一緒に住むのは自然だろ。臨時の宿屋とはいえちゃんとしたものを作ってもらわな」

「よしんば、孫の恩人にえこひいきしとるとして何が問題じゃ。お前らどんだけパリッセに今まで世話になってきた?」


 さらにもう1人の女性が援護に加わってくれた。彼女もそれなりの年齢が行ってそうだ。そして、彼女は前の村でも酒場兼宿屋を営む予定だった人で、見方によっては我々の競合相手のはずである。そんな彼女もこちら側に回ってくれるということは、我々がえこひいきされているのではないかと疑うのは比較的若い年齢層で、その逆が高めの年齢層という構図のようだ。


「絶対反対ってわけじゃないんだが……」

「うむ。村に貢献できないのに美味しいところをもってかれるのは……」


 年齢の差なのか立場の差なのか分からないが、次第に反対もトーンダウンしていく。


「これから夜が長くなれば見張りは3交代だ。今うちらの人数からすればいてくれるだけで貢献だ」

「……」


 ボルトラーミさんも横から入ってきた。今や反対していた人たちはしゃべるどころか立っている者もいなくなった。ただ、自分たちもそれをそわそわしながら見守るだけしかできていない。


「これは指揮官としての決定じゃ。そもそも、彼らを引き込む際に話して決めたことじゃないか」


 もはや誰も反論できない。パリッセさんの鶴の一声でこの話題は終わるようである。


「で、次は馬場の管理者だが、討伐後はそこで家畜を飼うことになるじゃろうが、逆に討伐が始まるまで暇じゃから……」


 その後も会議は続いたが、戸惑いと気まずさから半分上の空で聞いていただけだった。この会議の結果は歓迎すべきことなのだろうが、一部の人から反感に近い感情を買っていること、そして何より自分たちはおんぶにだっこ状態であることに気づいてしまった。これでは元いた世界での鬱屈とした逼塞感と同じではないか……


週1投稿・・・予定・・・予定は予定・・・

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