開拓村:村会議
礼拝にも参加し、いよいよ村の一員となれたであろうか
この世界に来てから2か月以上が経ち、秋の気配はまだまだ感じられないが、夏の一番暑い時期は過ぎようだ。川沿いの村の半周を囲む堀に丸太を組んだ柵、さらにはちょっとした見張り台も出来た。船着き場を含む村内の施設の補修もほとんど終わり力仕事の量もぐっと減っていた。水車だけは破壊がひどく復旧の見込みは立っていない。そのため麦を挽くのも手作業のため、主食は麦粥、オートミールが相も変わらず中心であった。
「今日の会合、今後のことって言ってましたが、基本全員参加ってなんでしょうね」
そのオートミールを朝食にもそもそと食べながら高部君が呟いた。今日は土曜日だが全休になっており全員参加の会合が予定されていた。全員で集まるのはこの村に来た初日以来である。礼拝には毎回全員でなくともかなりの人数が参加しており、自分たちも含めて1回も参加したことがない人はいないはずだ。それが顔合わせの役割も果たしており、会合が特に必要がなかったのかもしれない。わざわざ開くということはそれだけ重要ということなのだろう。
「この生活に変化があるなら、なんにせよ歓迎ですよ」
辻野さんの言うように具体的な目標がわからない、変化もない生活に辟易しており、どんな変化でも歓迎したい気分である。
「一番変化が欲しいのは食生活っすけどね」
「船着き場が出来たからお酒も買えるかなぁ」
食生活の変化を何より歓迎したい小谷君にお酒を補充したい瀧本さんが答える。多少の粗食であれば全く問題ないと思っていたが、肉などをある程度買っておけと言われた意味が今ならよく分かる。もし、週末のちょっとしたご馳走がなければ、精神的に持っていなかったかもしれない。
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「さて、どんな塩梅になっているころやら」
「さあのぉ。ただ、昨日帰ってきたパリッセの顔はそんなに明るくはなかったな」
朝食を終えて広場に行くと、すでに集まった人たちが話をしていた。船着き場の補修が終わる前後から何度かパリッセさんは村の貴重な馬3頭を使って、補佐らしき若い者とローの街に行き何事かを交渉していたようだ。忙しそうで魔法を教える約束が後回しになってすまん、と謝られていた。そのパリッセさんの表情が明るくないということは、それがうまくいっていないということなのだろうか。
続々と人が集まって来た誰も彼も噂話に花を咲かせている。船がどうの、軍がどうの言っているが、その噂話の内容が半分以上理解できず、疎外感を感じながら待つしかなかった。
しばらくするとパリッセさんや司祭役の人など村の中心人物とおぼしき人が到着した。
「全員いるかの……」
パリッセさんがあたりを見廻す。
「ボルトラーミのおじさんがいません!」
大人たちの脇で遊んでいた男の子の一人がこちらを振り向いて声高に答えた。
「あんの馬鹿。そんなんだから結婚できんのじゃ」
パリッセさんの一言に広場の全員がどっと沸いた。
「パオロ、ちょっとひとっ走り起こしに行ってこい」
そうパオロに声をかけるとパリッセさんは広場に向き直った。
「まぁ、あいつだけのようだからもう始めてしまおう」
ざわつきが収まってから続けた。
「討伐は再来年の春から、来春からはやはり無理じゃ」
周囲から若干の落胆の声が漏れる。ただ、これは村に来た当初から噂されていたことで、来春から始まれば儲けものと言われていた。
「まぁ、しゃあないな」
「木材やらの確保もあるし、来春までにじゃ、こっちの準備も整わんかもしらんしな」
そのため、そこまで大きな落胆ではないようだ。パリッセさんの表情が暗かったというのは単なる勘違いだろうか。
「で、問題は舟なんじゃが……」
少しためらいがちに言葉を続ける。
「国が約束してくれたのは月に一人漕ぎの3艘だけじゃ。それに麦と多少の酒を載せてくれるらしいが……」
「となると、他の物資は?」
パリッセさんの言葉に割って入るように最前列にいた一人の男が発言をする。
「自分たちで手配するしかない」
周囲からため息と舌打ちが上がった。
「舟持ちの商人に話を持って行ってみたんじゃが、下りに買い取れる積み荷なしじゃ割に合わんと」
それから思い出すように苦い表情で言葉を続けた。
「家畜でも育てたら買いに行ってやるぞ、と言ってきおったわ」
吐き捨てるようにそう言った。周囲はさらにざわつき始める。
「家畜なんて飼ったら、その匂いで毎晩魔物が寄って来かねんぞ」
「ああ、相手もたぶんわかっとるわい。皮肉を言われたんじゃ」
なるほど、これが帰ってきたときに表情が明るくなかった原因かと納得した。
「割に合わない?」
ただ、途中に出てきたその言葉を周囲は理解しているようで流された言葉だが、自分たちだけは理解できていない。高部君が我々の言葉を代弁するかのようにそう呟いた。
「川を遡るにはかなりの労力じゃ。楽に運べる下りが空荷だと嫌がられるってことじゃな」
たまたま近くに位置したお隣の老夫婦が解説するかのように小声で教えてくれた。隣を流れる川はローの街を流れる川の支流らしく、幅のわりには流れが急である。この地域の川は日本の川よりは幅広で流れが緩い川な気がするが、「大陸ヨーロッパの川は流れが緩やかである」という中学校の社会で習ったのから想像するものより全体的に急である。ヨーロッパ風中世ファンタジーに迷い込んだだけで、ヨーロッパそのものとは大分違うのか、それともたまたま山がちな地域だからなのかは分からない。分かることは確かにこの川を遡るのは大変そうだということだけである。
「ちと高くつくがしばらくは自分たちで舟と漕ぎ手を手配するしかない」
「村の共有金から出すつもりです」
パリッセさんの隣にいる眼鏡をかけた女性が付け足した。村の会計係だとかで、なるほど確かに知的な顔つきをしているような気がする。
「しかし、この間馬も買って出費続きだが大丈夫か?」
一人の男が立ち上がって不安そうな顔で問いかけた。
「まだ100リラ以上残っているので当面は大丈夫ですが思った以上に出費続きなのは確かですね」
帳簿らしきものをめくりながらその男が答える。
「というわけで、なるべく早くこの村でも産業を興さないと金が目減りしていく一方です」
当然のことで、魔物の討伐が始まる前は何も収入がなく、前々から村の中でも何かないかとたびたび話に上がっていたが、それがより喫緊の課題になったようだ。
「一番手っ取り早いのは炭焼きですが、これから建材も必要で、鉄鉱石が入ってきた後にはそっちにも使いたいので、これは最後の手段ですね」
「鉄鉱石がとれるようになったのにあたりがハゲ山ってことになったら笑えん話だな」
一人のハゲた男が自分の頭に手を当てて付け加えた。周囲から大きな笑いが起きる。
その後、あれはどうだこれはどうだ、と色々な提案が飛び交うが結論は一向に出ない。
「まぁ、すぐには結論はでないですね。この地域で採れるものを調べてまた話し合いましょう」
会計係の男が話を話を打ち切った。この地域の近くで鉄鉱石が産出されるらしい、という情報以外は何もないのだから、確かにこれ以上話をしても仕方がなさそうだ。
「ボルトラーミも来たようだし、次の話じゃ」
村の産業に何が適切なのかと話している最中にボルトラーミ氏が到着していた。その大柄な体で来たことはみなすぐに気が付いていたが、当の彼はまだ半分夢の中のようで、隅っこの方で座っているだけであった。
「あ、ああ。話はどんな塩梅だ?」
「ああ、お前みたいな大飯喰らいをどうやって村から追い出すかって話をしてたところだ」
前に出ていく眠気眼のボルトラーミ氏に野次が飛び、またも大きな笑いが飛ぶ。そらにボルトラーミ氏が何事か反論しようとしたところにパリッセさんが笑いながら止めに入る。
「ええから、魔物の状況をさっさと報告せんかい」
「ああ、この周囲は思ったほどは魔物はおらんようだ。秋が深まるまではたぶん大丈夫だ」
その大柄な体の彼は村の自警団長のような見た目通りの役回りを担っているようで、何度か村から離れて見廻りに出ていた。その安心できる言葉に全員が胸を撫でおろしつつ、彼の続く言葉を待っていた。
「……」
しかし、その後彼は押し黙ったままである。
「え?それで終わりか?」
「ああ、他に何か話すことがあるか?」
あたりから失笑が漏れる。
「これで騎士様っていうんだから全く……」
「もうちょっと詳しく話すことがあるじゃろ」
周囲からまたも野次が飛ぶ。
「ええっと。2つほどゴブリンの寝床を叩きましたが、数もそこまでおらず亜種もいませんでした」
慌てて彼と一緒に行動していた人が話を補う。
「持っていた武器もこの辺の農民が打ち棄てた農具でそこまで大きな脅威はないかと思います」
「ウェアウルフは?」
「こちらはまだわかりませんが、軍が言っていたウェアウルフが出る森との間には川と谷があるので夜が短い今はまずこっちにまでこないでしょう」
わかりやすい説明にみな納得しながら頷く。
「こういうのが報告って言うんじゃ」
パリッセさんがまだまだ眠たそうなボルトラーミさんを突っつきながら文句を言った。言われた彼は口を尖らせるだけであった。
「まぁ、そういうことで、次の議題にいくか」
脇で遊んでいる子どもたちを除いた大人たちには、会議はまだまだ続くようだ。
完全初投稿なので1つでもコメント感想いただけると嬉しいです。




