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開拓村:ホームパーティー

開拓村にもそろそろ慣れてきたようで慣れていない

「おう、やっとんな」


 昼食の後、日課の筋トレをしていたところ、帰宅途中のご近所さんに話しかけられた。確か毎週日曜日は礼拝の日でほぼ全員午前中礼拝に参加して、その後ささやかな競り市が開かれているらしい。


「ところで、お前さんたちは参加しないのか?」


 自分たちは一度も参加したことがなかった。自分たちの体力のなさや、剣も魔法も使えないその無力さを少しでもなくそうとまずは鍛錬する時間がほしい、というのは半分言い訳であった。実際のところ、信者でもない自分たちが参加していいのかという理由が1つ。何より一番の理由は日本人の多くがうっすら持つ宗教に対する忌避感である。


「いや、うちらは宗教は……」

「いえいえ、お気遣いありがとうございます。まだこちらの生活にも慣れてないので、おいおい……」


 高部君がそのことを口にしようとした瞬間に辻野さんが会話に割って入った。遮られた高部君は半分困惑しながら辻野さんの表情を伺っている。


「そうか。ただ信じる神が違うからといって礼拝来るな、などという狭量なやつはおらんからな」


 そう言うといつも以上におめかしをした孫らしき男の子の手を引いて去っていった。


「さて、続きをやりますか」


 まるでジムのインストラクターと化した小谷君に促されるように皆筋トレを再開した。


********


「いやー……今日の晩の見張りがないからといって少しやりすぎましたかね」


 筋トレに水浴び、魔法の鍛錬を終えると結構な時間になっていた。筋肉痛が次の日に残りすぎることを心配しながらそう呟いた。


「でも、来たばかりの時よりは僕もだいぶ鍛えられたきがしますね」


 最年長の後藤さんも手ごたえを感じているようだ。自分も筋肉痛からの回復が大分早くなったように感じる。ただ、魔法の鍛錬もはじめは基礎だけやっておけと言われているのと同様、具体的な進展が目に見えないところは少しやきもきするところである。もし、明日魔物が現れたとして前よりうまく対処できる気は一切しない。


「さて、いい子だからうまくいっててくれよ」


 辻野さんが筋トレする前に火を入れていた自作の燻製器に話しかけている。煙が隙間からあがっておりいい香りがする。それを見て、全員が今日のお酒に心を奪われた。


「これってどれくらいの火加減なんですか?」


 瀧本さんが興味津々に寄っていった


「50度から80度で数時間とか、もっと熱源入れて100度前後で30分から1時間って方法もあるらしい」

「これはどっちの温度でやってるんですか」

「大きめの木片で低めの温度でやれたはずだけど……その辺は適当にやるしかないかな」

 

 どうやらチーズの燻製を作っているようだ。日が長いおかげでまだ夕方には遠いが、休日の酒盛りと考えればそろそろちょうどいい時間なのかもしれない。全員で酒盛りの準備を始める。


「ベーコン焼き始めますね」


 豆を茹でている小谷君の隣に並んで山田さんが調理を始めた。8人の中で一番小さい山田さんが190近い小谷君の隣に立つとその身長差が際立つ。山田さんは150cmちょっとというところだろうか。とは言え、こちらの世界では決して小さな部類には入らないようだ。今、開拓村に一緒に暮らしている住民は元傭兵というだけあって、他で見た一般人よりは体格がいい人が揃っているようだが、それでも平均身長は自分たちよりも低いように見える。


「豆ももっと買っておくべきだったかなぁ」


 小谷君が少し不安げに呟いた。豆類はどうも主要な副菜になりそうで、8人で3か月分持つと市場で言われた量より多めに買ってきたが、3か月持ちそうにない消費速度である。それだけこの世界の庶民が粗食であることの証明なのだろう。そう考えると身長のことも当然かと食器を並べながら一人で納得していた。


********


「さて、始めましょう」


 ほどなくして、すべての準備が整った。一番これを心待ちにしていたであろう瀧本さんは待ちきれない様子である。


「あれ?辻本さんと後藤さんは?」


 高部君が二人がまだいないことに気が付いて見廻した。


「さっき燻製は終わったって言っていたんですけどね」


 瀧本さんが少し不満顔で訝しがる。全員揃わずに始めるわけにもいかず、外を伺いながら少し待っていた。しばらくして帰ってきた2人の手にはチーズじゃないなにかを器に入れて持っているようだ。


「一応、燻製前に大丈夫か聞いてはおいたけど、匂いで迷惑かけてないかとお隣さんに燻製チーズおすそ分けを持っていったら、お返しいただいちゃった」


 手に持っている器に何か盛られている。ピクルスとザワークラウトであろうか。


「あ、そういうの大事ですよね……」


 酒盛りを始めることしか頭になかったであろう瀧本さんが、少し恥ずかしそうに反省している。ご近所づきあいは大事である。さらに、その結果としてこれでさらに食卓に彩りが加わったと思えばうれしい限りである。


「これで揃ったことだし始めましょうか」


 瀧本さんのちょっとした反省はさておき、後藤さんの一声でいよいよささやかな宴会が始まった。机にはワインとグラッパが出されている。食事は黒パンと豆が主食に並べられ、その脇を厚切りベーコンと燻製チーズが固めている。おすそ分けの漬物類も並んでいるが、何よりの隠し種はスナック菓子である。これで持ってきた食糧のうち、甘いものが少し残っているだけでほとんど食べてしまうことになる。塩以外でこういった刺激のあるものを食べられるのは、次はいつになるのだろうかと考えると名残惜しい。


「これ……美味しいですね!」


 そんな思いを和らげてくれたのは燻製チーズの味だった。酒飲みの瀧本さんは目を輝かせてつまんでいるが、酒飲みでなくてもいける味である。チーズの濃厚な味を香ばしい香りが包んでいる。少し溶けて形が崩れてしまっているが、こじゃれた店でもないので何も問題はない。薄い鉄板に少し溶けてくっついたのを素手で剝がしながら食べていく。


「ちゃんと辻野さんと燻製にいいのを植物図鑑で調べてきましたからね」


 後藤さんと辻野さんは同じ作業班で、確か船着き場を担当して一緒に行動していた。その間に探して融通してもらったようだ。


「燻製にいいのとは?」

「キャンプが趣味の先輩に連れられて行った時サクラやクルミとかの仲間が良いって聞いて」


 山田さんに辻野さんが答える。なるほど、と思いながらワインとチーズを堪能するが、ふと疑問が立ち上がり、それを言葉にした。


「えっと、植物図鑑ということはこっちの世界の植物も元の世界と同じってことですか?」

「ええ、もちろん全部調べたわけでもないし、本当に同じのかはわかりませんが、図鑑に載っているのが沢山ありましたね」


 後藤さんもワインを傾けながら答え、さらに言葉を続ける。


「どうもヨーロッパに分布している植物だらけだったようです」

「……西洋ファンタジー世界」


 これが何を意味するのか全員が考え込む中で松田君がぽつりと呟く。そういうことなのだろう。


「確かに、見かけた野菜類も全部ヨーロッパの原産のものばかりですね」

「ええ、中南米原産のジャガイモやトマトなどは見当たりませんでしたね」


 となると、大航海時代前のヨーロッパと同じような世界と考えるべきか。


「ジャガイモがないのは痛いっすねえ」


 円筒形のボール紙の中に入ったポテトチップスを取り出しながら小谷君が嘆く。


「世界を変えた植物だからねぇ。あれがあればもっと都市人口も増えた別世界ができあがりそうですね」


 そういえば、ジャガイモの生産性の高さが近世ヨーロッパの人口増加の一因だったという話も聞いたことがある。真偽はともかく、ジャガイモがあれば大分食生活に変化がつけられそうなだけに残念である。割れたポテトチップスをつまみながら、そんなことを考えていた。


「野菜も燻製にすると塩とオリーブオイルだけでいいおつまみになったなぁ」


 辻本さんが連れていかれたというキャンプの味を思い出しているようである。


「燻製野菜のおつまみ?どんなお野菜なんですか?」

「カボチャにインゲン、トウモロコシを食べたなぁ」


 おつまみという単語に瀧本さんが早速反応して質問をしている。辻本さんの思い出すその表情からその美味しさが伝わってくるようである。


「あれ?その野菜もしかして中南米原産のばかり?」

「あー……そうかも」


 瀧本さんが言うように確か中南米原産だったはずである。


「えっと……タマネギも食べましたね。水分が多すぎるとやりづらいらしいですけど、結構なんでもいけるらしいです」


 辻野さんが慌てて思い出したように付け足した。ないものをどう考えても仕方がないが、大航海時代でもたらされたものの偉大さをただただ実感する。ただ、燻製で食に一幅広がったのは間違いがない。


「普段あまりジャンクフードは食べないんだけど、久しぶりに食べると美味しいです」

「そうですね。でも、燻製チーズも負けてないな」

「厚切りベーコンもうまいっすね」


 どれも甲乙つけがたい味である。久しぶりのポテトチップに舌鼓を打つ山田さんに、燻製チーズにご満悦の高部君、肉をほおばる小谷君。全員の気持ちがよく分かる。


「どれもお酒にあいますねー」


 瀧本さんが上機嫌で飲み進めている。気づいたらワインを早々に切り上げて蒸留酒のグラッパ飲み始めているのには少し驚いた。


 楽しい夜が過ぎていく――


初投稿なので1つでもコメント感想いただけますとありがたいです。

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