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開拓村:復旧作業

ほとんど廃村と化した村を復旧させ、さらには防御を固めるための作業に駆り出されている。

 村の周りを取り囲むように完成した木の柵を眺めながら微睡んでいた。2日に1回の夜の見張りをこなしつつ2週間が過ぎた。警護の兵士も去り、少し不安ではあるものの平穏な時間が流れている。


「夜の短い夏とは言え、気は抜くなよ」


 そう言って去っていった警護の女兵士は休暇の後にまたこの地域に戻ってくるらしい。見張りのあった次の日は午後からの労働、ない日も大変だろうと少し遅めまで寝ておけと言われる。


「じじい、ばああは夜が弱いから頼りにしてるぞ」


 そう言われているが、こんな楽な生活でいいのかと思ってしまう。空いた時間を筋トレと魔法の訓練に費やしており、そこそこ疲れるものの乱れた大学生の生活からするとだいぶ健康的な生活を送れているように思える。


「そろそろっすかね」


 いつの間にか自分とペアになった小谷君が立ち上がりながらそう言った。そろそろ作業に加わった方がいいだろう。柵ができた後には各所に散って作業が行われている。船着き場をはじめとする村の重要施設の補修に、木材の切り出しと畑の開墾などやらなくてはいけないことは山積みのようだ。風呂に入れるようになるのは当分先になってしまいそうなのが残念でならない。


自分たちは村の周囲の堀を掘るのに配属されている。確かに丸太で作った木の柵ではゴブリンは防げても大型のトロールなどには無力のように思える。


「おお、来たか。お前さんたちはそっちの方を頼む」


 早速指示を受けて、途中まで掘ってある箇所をスコップでさらに深くしていく。自分たち2人がここに選ばれたのは、若くてそれなりに体格はいい、さりとて魔物に遭遇する可能性が0ではない村の外縁部には行かせられないためなのだろうが、持ってきたスコップが役に立っており、これ以上ない適任だったのかもしれない。昨晩見張りだった高部君と松田君も合流するはずだが、彼らは他の人たちと同じように少し硬い地層はまず槍のような棒で突き崩してから鋤で掘るという手順を踏まなくてはいけない。


「ふう……」


 全く無言というわけではないものの、何かにとりつかれたように作業を進める。隣の小谷君も同様だ。理由は至極情けないもので、初日2日目と筋トレをしすぎで小谷君以外ヘロヘロになりながら作業したこと、そして、鋤の使い方があまりにも下手くそでかなり苦笑されたことで、それを挽回しようという気持ちからであった。これが原因なのかはわからないが、なかなか同じ作業班の人たちと仲良くなれていない気がする。


「さーて、飯にするか」


 堀の作業班は肉体労働だからだろうか、比較的がたいがいい若い人が集まっている。とはいっても、全体的に子世代に現役を譲った引退組が中心で全員後藤さんよりも年長者の50代といったところだろうか。


「しっかし、領主の野郎ケチってねえか。支給されたのはライ麦とカラス麦ばっかだとよ」

「それもカラス麦のが多いらしいぜ」

「場合によっちゃトロールじゃすまねえのが出るんだから、危険手当代わりに小麦くらいどんと支給しろっての」

「船着き場が完成したらビール、ワインを送るっていうがこの分じゃ……」

「ああ、質も期待できねえどころじゃなくって来なかったりすっかもな」


 黒パンとちょっとのチーズを齧りながらの昼休憩となった。元傭兵だから当然かもしれないが、その口調にも壁を感じてしまう。人間合う合わないはあるにせよ、数日経っても一向に仲が良くなれない。


「お、黒パンだ」


 見張り明けの高部君と松田君が昼時に少しうれしそうに合流してきた。今まではオートミールばかりだったのが、今日はパンが出たことで少し喜んでいるようだ。オートミールには飽き飽きしていたとは言え、現代人の感覚から言えばボソボソして食べづらく、決してご馳走とは呼べない気がする。そんなことはおくびにも出せないが、正直パスタが食べたい、ふっくらしたパンが食べたい、何よりコメが食いたい。さらには甘いものが食べたい、コショウの効いた刺激のあるものが欲しい。


「よし、今日はここらで終わるか」


 昼飯を挟んだ後、3、4時間といったところだろうか。まだ日が高いうちに作業終了となった。柵ができた後からは夕食は各家で用意することになったし、肌寒くない時間のうちに水浴びもしたい。ただ、いくら可能性が小さいとはいえ今日明日に魔物が襲来するかもしれない中でこんなのんびりな作業ペースで良いものだろうか。


「……お前らもとっとと休め」


 同じ作業班の一人だけがそう言い、他はこちらに一瞥すらせずに去っていった。ぬるま湯生活うんぬんよりもこちらの方がもっと気になる。具体的な敵対行動をとられたわけでもないのが、心のどこかに引っ掛かってしまう。


「お、先に浴びてるぜ」

「早いっすね、どうしたんすか?」


 

 川に水浴びにいくとボルトラーミ氏が先に水浴びをしていた。彼は村の周縁部の森の伐採担当で、今まで自分たちより後に村に戻ってきており、自分たちの後に水浴びを始めるのが常だった。小谷君がパンツ1枚で水浴びをしに川に入っていった。この2人が揃うとお互いの筋肉を見せつけあう行動をとっているように思える。


「いや、今日はちょっとした事故があってな」


 ボルトラーミは少し前かがみになりながら大胸筋に力を入れて話し始める。


「事故っすか?」


 小谷君も負けじと腕の筋肉と肩の筋肉に力を入れながら近づいていく。事故、という単語に反応すべきなのだろうが、会話が全く頭に入ってこない。


「ああ、不注意な野郎が木の伐採に巻き込まれてな。幸い比較的細い木だったから良かったが、骨が折れてるかもしれねぇ」


 彼も負けじと体を横にしながら肩の筋肉と背筋を見せつけながら話してくる。


「で、験がわりいってことで今日は早めに切り上げたわけだ」


 なるほど、全く話が頭に入ってこない。仕方がないので、水浴びに集中してさっさと終わらせるようにした。


「で、調子はどうだい」


 廃村の廃材を焚火にくべて温まりながらボルトラーミさんが話しかけてきた。


「多少慣れてきたものの、全然ですね。特に鍬がうまく使えないです」

「そりゃ誰でも最初はそんなもんだろ」


 高部君の素直な悩みを一笑に付した。ただ、足を引っ張っているのではないか、それが作業班の人たちと壁を感じる原因の1つではないかと勘繰ってしまう。思い切ってそのことを聞いてみた。


「それは大丈夫だ。やつらは結構後の方になって仲間になったんだが、最初の方はそりゃひどいもんだったぞ。そんなんで嫌いやせん」

「そうですか……でも、なんか壁を感じるんですよね」

「わざとならともかく慣れてないだけで……」


 ボルトラーミさんはそこで何か思いついたような表情をして言葉を詰まらせたように見えた。少し様子を伺いつつ、聞いてみる。


「何か別に嫌われる要素が……」

「あっ、いや……気にするようなことじゃない」


 そう言われても、気になってしまう。だが、彼はそれ以上は教えてくれなかった。


「ともかくお前さん達は嫌われるようなことは何もしてねえから安心しろ」


 そういうと彼は立ち上がった。


「ただ、見張りの時に寝んなよ。夜の短い夏がいくら安全とは言え、それをすると一発で信用を失う」


 微笑みながらそう付け足すと彼は大股で去っていった。これ以上気にしても仕方がないのだろう。とにかく今はやれるだけのことをやって信用されるようにするしかない。


 帰宅してしばらくすると別の場所で水浴びをしていた女性陣も帰ってきた。次の日に疲れを残さない程度の魔法の修練と筋トレをしてから食事の準備をする。まずは基礎固めと言われてやっていることは魔力を手に集めて感じることらしい。単調でともすれば退屈だがしかないが耐えるしかないだろう。食事の方も同様に主食オートミール一色、調味料は塩と油だけでこちらも同様に単調である。2日前に小さなパン焼き窯が1個、修復が終わったとのことだが、全員分は焼けないようでまだ夕食にはお目見えしていない。この単調さも現在の生活の最大の敵の1つであった。


気が付いたら一か月ぶり……ペースをあげないと……あ、でも、お酒も飲みたい。できたら毎晩!

次回は食生活あたりがテーマに



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