開拓村:到着
いよいよ魔物がうろつく地域に隣接する開拓村に到着した。
魔物の恐怖もチラつくが、まだ現実感がないのが本当のところだ。
列が続き、馬車にガタガタと揺られている。ただ、揺られているのは人間ではなく荷物様であった。足がついているからには歩かざるを得ないようだ。つまるところ、馬車はそれなりに高いということだろう。
その揺れている荷物の中には紙を売って作ったお金で買い足した荷物も混じっている。一応モンスターの襲来に備えて皮の胸当てやら武器を購入した。鉄製の盾2つだけは買ったが、それ以上に大きい金属製の防具はあまりに高く手が出なかった。半年後に来る冬のための防寒具もとにかく高かった。ウールのセーターに厚手の外套、マフラーだけは人数分買った。毛皮のコートが暖かそうで本当であればそちらを買いたかった。だが、今後どれだけ必要なのかわからない以上節約するしかなかく、あれも欲しい、これも欲しい、とは言っていられない。結局こまごまとしたものも含めると200ソルド以上吹っ飛んでしまった。
開拓村までの行程は丁度1週間――ここにきて分かったことだが、1年が365日、12か月に分かれており、1週間が7日というのは奇しくも全く同じらしい――を予定しており、今日は3日目。歩くのにはだいぶ慣れてきたとはいえ、辛いことには変わりがない。ただ、今日ばかりはみな明るい表情をしてあるいている。というのも、今まで野宿だったのが今日には宿場で泊まれる。そして、宿屋には風呂があるらしい。
「いよいよ、お楽しみのお風呂付き宿だぞ」
道中で仲良くなった大男が嬉しそうに話しかけてきた。名前はボルトラーミ。身長は自分と同じくらいで180ちょっと、というところだろうか。現代より平均身長が低い中では高い方だ。それ以上に目にひくのはその体格である。とてもこの時代の人間とは思えない。現代スポーツで鍛えた小谷君にも引けを取らない体格である。仲良くなったのも、その小谷君と体の鍛錬談義で盛り上がったのがきっかけであった。
「待ち遠しいです」
自分も山田さんの言葉通りの気持ちであったが、そのちょっと情けない、切実な声につい笑いがこぼれてしまう。周囲からも笑いがおきた。その笑いに山田さんは戸惑っている。
「いやいや、お前さんたちは本当に風呂が好きなんじゃな」
「好きですけど……皆さんは好きじゃないんですか?」
笑われたことに不満そうに口を尖らせて少し反発した。大男に小柄な山田さんが反発するのは、それもそれで少しおかしかった。とは言え、風呂が待ち遠しいのは山田さんだけではない。現代人が風呂好きというのが周知の事実となってしまっているようだ。
「それなら、開拓村にいったら早速風呂を沸かせるようにしないとな」
どこまで本気かはわからないが、こう言ってくれるのもそう思われたためで、よしとすべきだろう。
その後の一週間の行程の中で2回宿場町に泊まった。食事は野営での食事に比べればマシ程度であったが、やはり風呂に入り、ちゃんとした寝床で寝られたのはうれしかった。ただ、想像よりもどんどん辺鄙な場所になってきているように感じるのは気になった。1つ目の宿場町はそれなりの規模であったのに、2つ目の宿場町は、宿場としての機能を最低限果たす以外にほとんど何もない場所であった。さらには、2つ目の宿場町を出て以降、人っ子一人出会わない。
「打ち棄てられた地域だから、それだけは覚悟しといてくれよ」
そうパリッセさんに言われたのを思い出しながら納得するしかなかった。
1週間の行程が終わり、ようやく目的地に到着した。川沿いの打ち棄てられた村のようである。中心部には建物は大小合わせて20軒ほど見える。村はずれの見えない範囲に建物があるかもしれないが、そこまで大きな村だったようには思えなかった。
「鉱山が軌道に乗ってこれからって時になぁ」
みな同情を口にしている。確かにこの荒れ果てた村を見ると同情の1つもしたくなるが、自分たちも同じ立場の人たちが揃って同情するのには少し違和感を覚えた。その違和感も村の中に入りしばらくすると氷解した。荒れ果てているのは人がいなくなり自然と朽ちただけではなさそうだ。建設途中の家屋が散見される。なるほど、本当にこれから、という時だったのだろう。それ以上に気になるのは……
「この穴は……」
「ああ、トロールでも無理だな……」
頑丈そうな石壁に開いた大きな穴は、どう見ても自然にできたものには思えない。さらには、木の板には大きな黒いしみがある。血の跡だろうか。考えたくもないが、ここでトロール以上の何かが暴れまわり、壁に穴をあけ、人を殺したということなのだろう。
「……」
これで同情の意味も分かってしまった。何も知らない我々でもあちらこちらにある戦いの痕跡があることは理解できてしまう。皆だまりこくってしまった。
村の反対側から兵士らしき一団がやってきた。人数は6人、男女半々である。兵士に女性が多いのには慣れたが、今まで出会って来た兵士に比べ、なんというか少し粗野な感じがする。
「おう、来たか」
女性にしてはかなり大柄な兵士が話しかけてきた。彼女がリーダーだろうか。かなり重そうな鎧を着ておりまさに女戦士といった出で立ちである。
「5日間頼むぞ。なんとか柵だけは作ってしまいたい」
最初の5日間だけ、念のために警護が付くと言っていたが彼女らがそれだろう。ただ、もはや念のためとは思えなくなりつつあった。暗い表情の我々をよそに会話は進んでいく。
「で、状況はどうだい」
「あの丘にある砦からこっち側はだいたい安定している。トロール以上の大型はまず出ねえだろう」
「丘の向こう側は?」
「奥の山にはかなり大型の魔物もいるようだが気づかれずに一晩でここまで来ることはねえかな」
「ふむ」
「ただ、ウェアウルフがおるのと、ここらのゴブリンが武装してやがるのだけは気がかりっちゃ気がかりだな」
「群れるとちとやっかいじゃが、まぁその程度なら」
会話の内容は理解できないが、パリッセさんの口ぶりからはそこまでの不安は感じられない。
「まぁ今日は遅い。作業は明日からだろ?使える家に案内する」
「おう、頼む」
「当たり前だが掃除はしてねえからな」
少しの会話の後、パリッセさんの奥さんがテキパキと割り振りを始めた。自分たちが案内された家は木と漆喰で作られた板の間3部屋と小さなかまどのついた土間の家でほとんど壊されてはいなかったが、埃や汚れがえらいことになっていた。川まで桶に水を汲みにいき、掃除をしないといけないようだ。夕飯まで時間がなく、寝るための1部屋分だけを掃除した。
とっぷりと日が暮れ始めた頃、夕食が出来上がったから集まれと呼びかけがあった。疲れた体を休めるわけにもいかず、慌ただしく広場へと足を運んだ。
「飯を食いながらでええから聞いてくれ」
たぶん、パリッセさんから重大な指示がありそうだが、目の前の夕食の方に意識を奪われていた。パスタにたっぷり、とまではいかないがチーズがしっかりとかかっており、ニンニクの匂いもしっかりとする。具材はネギだろうか。かなり幅広のものが和えられている。さらにはちょっとだけだがベーコンが入っている。副菜にはまた例の豆がついてきた。以前の宴会とは比べ物にならないが、今までの炊き出しどころか、道中の粗末な宿屋の夕食よりも豪華に思える。
「これからなんじゃが、警護がついているうちに村の周りをぐるっと防壁で囲む。」
よく分からないが、どうせ自分らは指示通りに動くだけだろう。食べながらでいいと言っていたし、と話半分に料理を堪能していた。
「で、夜の見張りなんだが夜半課あたりまで若い衆から出しとくれ。その後は老人組だな」
一瞬反応に遅れたが若者と言えば、我々しかいない。
「はい、もちろん……」
「ああ、見張り組は作業に加わるのは昼からでええからな」
言われていたことだし、たいてい大学生は朝が弱い代わりに夜更かしには慣れている。何も不満はなかったが、具体的に見張りとはどのようなものなのかは少し不安になる。
「ああ、一応俺がつこうか。立っているだけとは言え初めてのことで不安だろうし」
そうした我々の顔色を察してくれたのか、ボルトラーミさんがそう声をかけてくれた。
「初めてなのかい。じゃぁ私もくわわってやろうか。見廻り1人かけたくらい大丈夫だろ」
口調に合わず女戦士が優しく請け負ってくれた。村の2か所に見張り場を設け2,3人ずつ配置につくことになるとのことだった。初日に我々のうち誰が見張りにつくかをお互い視線で会話している間にも話は続く。
「で、防護柵ができたら、次は船着き場だ。だいぶ崩れとる。それさえできれば物資も運び込める。陸路で重いものはよう運んでもらえん」
「パリッセ爺の心配は物資というか酒だろ」
大きな笑いが起きた。後半の陸路は確かに悪路だったし人気もなかった。ど田舎、という表現がまさにぴったりな土地に来てしまったようである。ただ、そんなことは魔物の脅威に比べればたいしたことはないように思えた。買ってきた肉類や酒類がきれた後はなかなか手に入らないだろう。そんなちょっとした不便がある程度だとしか、その時は考えていなかった。
月2投稿・・・これが限界か・・・週1目指します
完全初投稿なので何か感想、指摘いただけますとうれしいです




