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避難キャンプ:魔女と魔法使い

開拓村へ行くための生活必需品すら買い揃えられないありさま。

なんとか抜け出せるのだろうか。

「ほら、やっぱり足りなかったらしいじゃないの」

「すまん、値段がそこまであがっているとは……」


 夕食後に首尾を報告しに言ったら、事前に金を貸しておいてあげればよかったじゃないとパリッセさんが奥さんに怒られ始めた。この2人の関係を見ているとパリッセさんが本当に有力者なのか分からなくなってくる。確かに抜けたところはありそうではあるが、奥さんに叱られるシーンばかり見ている気がする。


「明日は一緒に買い出しに行こうか。もちろん、紙の売り先も見つけてきたぞい」


 どうやら、紙も売れるらしい。これでお金の不安が少しでも解消されることを願いながら、その日は暮れていった。


 翌朝、例によって爽やかな、それでいてなんとも気だるい朝が始まった。昨日の夜も今日の朝もオートミールか黒パン、野菜がちょっとつけばそれがご馳走という状態である。米が食べたい。塩辛いもの、甘いものが食べたい欲求が抑えきれなくなりつつある。この先もこういった食事だらけになるのかという不安が大きくなってきた。


「まずいってわけじゃないんすけど、味気ないっすねえ」


 誰もが思っていつつも口に出せなかったことを小谷君がぽろっと呟いた。贅沢で耐えることを知らないヤツと思われたくなかったということもあるが、何よりも考えても仕方がないというのが何よりの理由である。


「まずは稼いで、美味しいご飯と美味しいお酒が飲めるようになるのが当面の目標ですね」


 瀧本さんが明るく言い放った。それが達成されるのにどれだけの時間が必要なのか考え込んでしまう。と、同時に、瀧本さんの一言で終わりにしないこのネガティブな発想自体が自分の悪い面だ。慌ててその考えを黒パンと一緒に飲み込むことにした。


 朝食の後、また特に何もすることがなくなった。正確にはお金さえあれば、準備が色々できるのに、それがないために何もできないと言うべきだろう。体がなまらないようにと小谷君が軽いストレッチと筋トレを始めたので、全員それに倣って体を動かし始めた。暇つぶしに、という意味もあるが、なまった現代人が今後ここで生活していくのには必須のことに思えた。そして、脳裏に浮かんだのは肉体労働だけでなく、トロールに何もできなかった自分であった。もちろん、現代社会の中でも上位に入る肉体の小谷君ですら歯が立たなかったわけで鍛えたところでどうにもならないのかもしれない。体を動かしていても色んな雑念が頭の中を駆け巡ってしまう。


「いやー、軽くでも体動かすと気持ちいいっすねぇ」


 自分にとっては全く軽くではなかった。間違いなく明日は筋肉痛な気がするが、小谷君には軽くだったらしい。


「プロテインもそこまで量がないですね」


運動系サークルのであろうプロテインを水で溶かして飲みながら瀧本さんが残念そうに呟いた。かくいう自分は、水で溶いたプロテインのまずさにうんざりしつつ、それを隠すのに必死だった。


「筋トレするからにはやっぱタンパク質ほしいですよね」

「豆類は結構売られてましたよね」


 辻野さんが小難しい顔で呟いたのに、高部君がそれに少し明るい声で反応した。確かに大豆にはタンパク質が豊富なのは有名な話で、同じ豆類ならそれなりにプロテインの代用になるのかもしれない。


「大豆がダントツですけどここでは見ないっすね、でも、他の豆類もそれなりのはずっす。」


 さすがは体育会系、その辺は勉強しているらしい。肉が高すぎるならば豆で補うのが正解なのだろう。ただ、こちらに来てから何回か豆は食べたが、味覚的な満足感ではやはり肉には勝てそうにない。現代人の贅沢がまたも首をもたげてしまうのは自分だけなのだろうか。


「買い手が来るのは、昼前でしたっけ。まだ時間がありますね」


 手持無沙汰にしているのはそう呟いた山田さんだけでない。全員やることがなくなり何人かは昼寝を始めてしまいそうである。


 自分も横になろうかと思った時、避難民とは明らかに違う出で立ちの人間がこちらに上がってくるのが見えた。女性が体格のいい従者らしき男を連れている。目立っているのは、従者を連れているからというよりもその服装である。着丈の長いローブを身にまとってはいるが、胸元はかなり開けられており、歩くたびに太ももが見え隠れしている。なんというか、艶めかしいという言葉で形容するしかない。まさに自分たちの想像する魔女がファンタジー世界から抜け出してきたようである。この場所に似つかわしくないその姿と、さらに率直に言えばその露出の多さに目を奪われていると、あちら側もこちらを認めたらしく目が合ってしまった。異世界人が珍しいのか、はたまた自分の視線にいやらしさが入ってしまっていたためなのであろうかと戸惑ってしまう。ところが、その女性はこちらに微笑みかけると一直線にこちらに歩いてきた。


「おはよう」

「おはようございます……」


 まるで知り合いかのように話しかけられ、さらに戸惑ってしまった。


「パリッセから上質の紙を持ってるって聞いてね。こちらであってるかしら」


 こちらと目が合い続けた理由は合点がいったが、突然のことに驚き口ごもってしまう。見たところ、30代半ばというところであろうか。近くに来られてさらに目立つ肌面積に目を奪われないようにと抵抗するのが精いっぱいである。


「その紙を見たくて来たのだけど、見せてもらえるかしら」


 見せる分には一向に構わないが、相手のペースでことが運ぶと以前の雑貨屋のように騙されかねないと不安になる。


「ええと……約束は昼前では」

「もちろん、取引はパリッセが来てからでいいわ」


 他の仲間も集まってくる中、その魔女はこともなげに話を進める。


「あらあら、こんな若くて可愛い子がいるなら、おばさんもっと若作りしてくるんだったわ」


 おばさんという年でもないだろうしなんともつかみどころのない性格のようだ。半分諦めながら彼女のやりたいようにさせることにした。


「あら、これは……」


 そう呟くと従者の男に目配せをした。男は頷くと小走りに難民キャンプのある丘から下って行った。


「さて、待たせてもらうわね」


 ローブを敷物代わりにして座り本を読み始めた。ローブの下の服装は肩も出されていた。露出イコール若作りの考えはあまりに短絡的ではあるかもしれないが、この格好以上に若作りするのであればどうなるのだろうと、つい想像してしまう。


「なんていうか、自由人ってかんじですね」

「あと、えっちぃ……」


 少し離れたとことで高部君が困惑交じりにそう言ったが、山田さんが付け足した言葉には全員納得しつつ笑ってしまった。昼というのを正午と解釈すればまだ2時間以上はありそうだ。


1時間ほどして従者が戻ってきた。どうやら追加でお金を持ってきたらしい。ということは、どうやらそのお眼鏡にはかなったようだ。ただ、彼女のあまりの自由気ままさには少々閉口してしまう。こちらの世界のものに興味を持って何度か質問したかと思うと、すぐに興味を失ったのかまた本に目を落としていた。


 特に何をされたわけでもないのだが、パリッセさんが来る間落ち着かない時間を過ごすこととなった。自分たちのテリトリーに大きな草食動物に入ってこられた小動物の気分はこんなのだろうか。


「おお、待たせたの」


 パリッセさんがもう一人の男を連れてやってきた。こちらも三角帽子にローブを着たファンタジー世界の魔法使いのようである。あまりの想像通りの姿に戸惑いながら挨拶をしようとした矢先、件の魔女と言い争いを始めた。


「こんの業突く婆は、人が来る前に独り占めしようってか!?」

「先に来て品を見ていただけよ。低能なじじいにはもったいない紙だったわ」


 突然の喧嘩に泡を食ってしまい、全員固まってしまうしかなかった。


「全くお前さんたちはいい歳をして……えっとじゃな、こいつらは俺の一応妹弟子と兄弟子って言えばいいのかな。まぁ古いつきあいじゃ」


 パリッセさんが紹介してくれる間も二人はいがみ合っている。


「ロベルトもすぐ来るはずじゃ……お、来たな」


 船着き場のある町であった例の商人がこちら側に上がってくる。


「さて、始めようかの。紙を持ってきてくれ」


 促されるままに持ってきた紙を出す。


「ほほう……」

「これは、これは……」


 事前に紙を見ていた魔女以外の2人は目を白黒させて驚いている。これは多少期待してよさそうだ。


「で、だ。せっかく来てくれたからには手ぶらで帰らせるわけにはいかないが、この子たちの手持ちのお金を考えると安値で譲るわけにはいかない。」

「なるほど、3人で競わせようというわけか」

「まぁそうなるかの」


 ここまで考えてくれているからにはもうパリッセさんに任せるしかなさそうだ。他の人も同じ考えのようで口を挟もうとしない。


「うーん……1束16。ここらでどうだ?」


 しばらくして、価格交渉もようやく大詰めに来たようだ。雑貨屋に買い叩かれそうになったことを考えれば十分な値段に思えてくる。


「うーん……王都あたりにいけばもうちょい高値で売れるような……」

「ここは王都じゃないわよ……それ以上は……」


 まだ会って間もないが、最初はあの魔女が困り顔をするとは想像だにしなかった。演技でないとするならば、この価格あたりで手を打つべきだろう。


「そうじゃ、お前さんたち2人は人数分の初級魔法の巻物をおまけしてくれや。多少の書き損じでもええが、ちゃんと丈夫な羊皮紙でな」

「うーん……そのくらいが手のうちどころか……」


 男性魔法使いがそういうと魔女の方も頷いている。パリッセさんはもう1人の商人に向き直るとさらに言葉を続けた。


「ロベルト、お前さんのところは布なんかも扱ってたな」

「ああ」

「質の良い敷布と毛布を人数分……」

「ちょっとまて、それはおまけにするにしては高価すぎる!」

「わかっとる。それを20ソルドくらいで売ってくれ」

「半値近いじゃないか……」

「じゃぁ……こっちから筆記具も1つか2つおまけでええか?」


 こちらを向き直った。今度はこちらにおまけをつけさせるようだ。


「持ってきますね」


 山田さんが天幕の中に入り荷物をあさり、ボールペンを何本か持ってきた。


「えーっと……これが筆記具?」

「はい。こうやって」


 紙の切れ端に山田さんが書きつけている。


「おお……なんと……」

「すごいわね……ちょっと書かせて……」


 反応したのは商人ロベルトよりも魔法研究家の2人だった。二人とも手に取って書き始める。その書きやすさに驚いているようだ。それもそのはず、大学生協で売っている一番安いペンでなく、比較的良いものを持ってきたはずだ。数百円レベルのものも持ってきたが、並べられているペンの中には、きっと大学入学時に親戚から買ってもらったであろう贈答用のかなり良いペンも含まれている。今自分が懐にいれているのもアキラの持っていたペンで、大学の入学祝いにおじさんからもらったとか何とか言っていた。いくらのものかは聞いていないがそれなりのものに見える。唯一元の世界とのつながりを感じるものだ。


「で、これは、どれくらいインクはもつのかしら」

「えーっと。よくわからないけど、相当持ちます。文字にするとたぶん数万字は……」

「なんと……」


 一瞬、感傷に浸っている間に、山田さんがボールペンの説明を進めている。詰まった時の対処法なども含めて話しているようだ。どうやら筆記具にかなり詳しいようで説明は彼女に任せることにした。


「じゃぁ2本ずつとそれも2個、あとその替え芯ってのもあった方がいいのかしら」

「そうですね」

「儂も同じだけもらおうかの」

「値段がわからないのだけど、あわせて20ソルドでいいかしら。代わりに使い心地が良かったら宣伝しておくから」


 シャーペンや消しゴムまで説明して売りつけることに成功したらしい。そして、意外なのか、ボールペンよりもこちらの方が評判が良かった。シャーペンはすぐ壊れる印象があり、ボールペンより数を持ってきてないのが残念でならなかった。


「ふむ、よし、評判が広がったらその仲介は俺に任せろ。不良品だのなんだの言ってくるヤツにこそ商人の腕の見せどころじゃ」

「おう。ただ、うちらの開拓村に来るときは必ずいい酒は持って来いよ」


 壊れた時の心配を伝えるとロベルトはそう言って請け負った。おまけの話はどこにやら、その仲介を独占させてくれということらしい。安値で寝具一式も買えそうで満足な取引になりそうだ。


「おお……」


 嵐のような―主には魔法研究家の2人の喧嘩によるものだが―時間がすぎさり、取引の成果は合わせると580ソルド。金貨の単位であるリラになおすと29リラ。大銀貨に交じって今までみたことのない金貨も含まれており、その輝きに一同ため息をついてしまった。もし、筆記具が評判を呼べばこれ以上の金額が手に入りそうだ。なにせ質の悪いものはおいてきたとはいえ、かなりの量を持ってきたはずだ。


 昼ご飯がわりに朝に配られた黒パンをかじりながら、手に入れたお金で何を買うべきか、何を節約すべきか話し合った。もちろん、無駄遣いをするつもりは誰にもないが、ちょっとしたエリートの年収1年半分を得たことで少し明るい気分になっているのは間違いないようだ。


週1投稿とは夢のまた夢……


魔女のイメージは、タクティクス〇ウガのデネブあたりで


一人当たりのもってこれる紙の束の量、もうちょっと多いかなと思って増やしたものの、思ったより価格が上がってしまった。ちょっとこいつら贅沢させすぎになっちゃいないかと思ってしまう。現代人が途上国の農村にぶちこまれたくらいの苦労をさせたかったかも

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