避難キャンプ:開拓村へ
美味しい話には裏があるのだろうか
あまりに良い話に思え、それに飛びついてしまいそうだったが、相手の真意を確かめるのがまず先なのかもしれない。
「うーんとだな。少し長くなるが……」
そういってパリッセさんは話し始めた。
パリッセさんたちは魔物討伐で武勲を立てて、リーダー格の何人かが一代限りの騎士爵をもらうことができた。その騎士爵で下級役人になれたり、都市住民になれたりといくつか特権はあるもののそれだけで安泰とまではいかないらしい。何より全員がその特権を享受できるわけでもなく、集団全体でそれなりに良い暮らしをするとなると別の手段を考えなくてはいけないようだ。息子たちもかなりの腕前らしく、彼らが爵位や褒美をもらって帰還した際に、パリッセさんたちが棄てられた土地や辺鄙な土地を開発しておけば領主として認められる可能性があるとのことだ。その後は自分たちも大体は知っている。辺鄙な土地を開発しようとした矢先魔物の大発生があって追い出されてしまい、ここにいる。今回の魔物討伐予定地域は、昔良質な鉱山と森があって一大鉄生産地だったところらしい。魔物討伐が終わった後も開拓村は物流の拠点として残りそうで、そこの領主になれたら孫の代まで安定して暮らせそうだと考えているらしい。
「そこで、初めの場所に戻りたいというお前さんたちが真っ先に浮かんだ。異世界人は田舎暮らしがあまり好きでないらしいしな」
「つまりは、魔物討伐が終わった後は別の場所に移住してほしい、と?」
「いや、まぁ……」
瀧本さんの言葉にパリッセさんは言葉を詰まらせた。これで色々納得は言った。つまりは自分たちが領主として経営するのに一定期間で外に出て行ってくれるであろう我々が丁度良かったということなのだろう。
「いや、じゃがうまくいけばそれなりに稼げるのは確かじゃ。お前さんたちが稼げるようにする。悪いようにはせんつもりじゃ」
「失礼なこと聞いてごめんなさい。ただ、どうしても聞いておきたくって」
「こちらこそ悪かった。最初に本音を言ってから話を始めるべきじゃった」
何が狙いかはよく分かった。そして、その話を聞いてもなお美味しい話に思える。いや、むしろ、その狙いが分かったことで逆によりありがたい話に思えてきた。結論は明日でも良いと言われたが、もはや結論は1つのように感じる。少し話し合ったが全員同じことを考えていたようで、あっという間に結論が出た。
「そうか、そうか。よっしゃ、歓迎の宴会といくか」
それを伝えるとホクホク顔でそういった。半分は飲みたいだけじゃないのかとも思い、内心少し苦笑してしまった。奥さんも同じことを考えているのか首をふりふり苦笑している。
結局、前と同じくらいの長時間の宴会となってしまった。幸いなことに女性陣が強い酒を勧めてくるのをしかりつけてくれたため、そこまで荒れた宴会にはならずに済んだ。それでも酒は残っているようで頭が重い朝を迎えることとなった。
頭がほとんど回らない中、朝食を食べた後パリッセさんと今後のことを打ち合わせることとなった。一人だけ元気な瀧本さんが最初は応対してくれる中、あの宴会の前に打ち合わせをしておけばよかったのではないかとおぼろげに考えていた。
「――ってことは3日後に出発で、それまでにその辺の必要物資を買っておけばいいんですね」
「うむ。明日は一緒に買いに行けるが、まずはその細かいのは今日のうちに買っておいてくれ――」
10分か20分くらいだろうか、どういったものが必要かを話していたらしい。白湯を飲みながら聞いていたが、ようやく目が覚めてきた。だが、もはやここまで話が進んだのだから全部瀧本さんに任せてしまおうかと黙って聞くことにした。
「種もみやらのまとめ買いのものは後で払ってもらう。馬車とかも手配しておく。その費用はこっちもちでええぞ」
「で、そのお金なんですが、紙を持ってきていてそれが売れないかと……」
「なるほどな。どれどれ……」
何枚か手に取り眺めた後にパリッセさんは感嘆の声を上げた。
「こりゃすごい。ここまで良い紙を見たことがない」
「これなんですが、こないだ買い叩かれそうになっちゃいまして」
「ふむ。確かこの街にも何人か魔法研究家やら欲しがるのがおるはずじゃ。売り先は任せておけ」
話はトントン拍子に進んでいるようで安心した。勧められてもあまり深酒をしないようにしようと反省しながら、重い頭を言い訳に瀧本さんに会話を任せることにした。
「皆さん……ってお酒ちょっと残っていますか?」
パリッセさんが帰ると同時に、瀧本さんはこちらを振り返りそう言った。お酒が残ってないのはお前だけじゃい、と言いたくなったがそんなことを言う元気もでてこない。
「お風呂屋さんの場所も教えてもらったから、そこ行ってから買い物にいくよ」
確かにお風呂にはそろそろ入りたい気分だ。残った酒も出ていきそうで、想像するだけで気分が良くなってきた。ただ、目に見えてテンションが上がっているのは元気な瀧本さんだけで、他の人は内心はともかく気だるそうに立ち上がり急かされるままに準備をするだけだった。
交代で例の樽の風呂屋に入って戻ってくる頃にはたっぷり2時間はかかってしまった。風呂のせいか、その時間のせいかは分からないが、だいぶ酒も抜けた気がする。
「で、今日は何を買い物すればいいんですかね」
「最低限の服、寝具、照明、食器、調理器具……つまりは家の中で使うものは自分たちで買っておいてくれ、ってことみたいです」
半日で買うにしては結構な量になりそうだ。
「あ、あと、毎回質素な食事じゃ気分が滅入るからたまのご馳走の保存食とか酒とかはそれなりに買っておけって念押しされました」
自分が買いたいだけの気がするのは気のせいだろうか。酒の話になった瞬間、明らかに言葉のテンションが違う。
「保存の効くご馳走っていったらソーセージとかチーズとかその辺っすかね」
今度は「酒」でなく「ご馳走」というキーワードに小谷君が食いついた。なにはともあれ、酒が抜けたことでみんな元気が出てきたようだ。いや、酒が抜けたことだけでなく、生活手段がどうなるかすらわからなかった状況から抜け出せたせいかもしれない。男性陣は鉱夫、女性陣は……というところまで追いつめられていたのだからさもありなんというところだろうか。
軽い昼食を済ませた後、荷物番2人と買い出し班3人ずつ2班に分かれて買い出しをすることとなり、瀧本さんと小谷君と自分は食料を始めとする台所周りを買い出すこととなった。
パリッセさんより貰ったという空の麻袋を携えて、先日も行った青空市に足を運ぶ。2日前に来た時の倍以上の面積に広がっている。難民の数が増えると聞いていたので予想されることだったが、あまりの変化に驚いてしまう。面積だけでなく、活気も段違いだ。馬場に一番近いところにできている家畜の取引所では、途中で寄ってきた船着き場の町の家畜の取引以上の怒号が飛び交っている。
「いやー、すごいっすね。家畜の大事さってやつっすか」
あまりの熱気に全員しばし無言で立ち尽くしてしまった。その中で、一番早く言葉を口にしたのは小谷君だった。ラグビーという競技の特性上多少の怒号には慣れているのかもしれない。
「ま、まぁ、さっさと分かれますか。買うもの多いですし」
辻野さんがその声に圧倒されながらそう言うと、2班に分かれて市場に入っていった。
家畜の取引ほどではないにしろ市場の中もかなりの賑わいで、呼び込みの声も2日前とは比べ物にならない。一番先にお酒を探しに行こうとする瀧本さんを引き留めて、まずは何より保存食を買いに行くことにした。
「そうですよね……お酒はなくても生きていけますしね……」
口を少し尖らせて彼女はそう呟いた。一番冷静で、常識人に見えた瀧本さんは酒が絡むとどうもダメ人間になるようだ。
「お、この辺ですね」
少しだけ探し回ったが食料品売りが集まった一角を見つけ出した。所狭しと食料品が並んでいる。城壁内にある店が露店を出しに来たというだけではなく、難民に売りつけようと近隣からも集まったような賑やかさである。最初ブラブラ歩きながら保存の効くものを探すこととした。玉ねぎやニンジンなどの野菜もそれに該当するのだろうが、嵩張りそうで買うのは後回しでよさそうだ。やはりまずは肉だろう。
「まずは……やっぱり肉ですかね」
そう呟きながら、肉屋を探した。他の2人も首をダチョウのように伸ばしながら探している。
「あ、あそこじゃないですか」
背が高いだけあって、小谷君が真っ先に見つけたようだ。果たして、近づいてみると荷台に肉類を並べた店がいくつか並んだ一角があった。
「うわー意外に種類がありますね」
わずかだが、牛の足らしきもや鶏が丸ごとそのまま吊るされているものもある。衛生的にもその絵面的にも少しぎょっとしたがこれが普通なのだろう。そういえば辻野さんがアフリカの肉屋ではでっかいハエが大量に飛び回っているどころか、たかっているのが普通だと言っていた。確かに加熱すればその程度なんでもないのかもしれない。
「うーん……」
生の肉も置いてあるが、難民向けのためなのかほとんどが燻製肉やソーセージなどの加工肉である。前回食べたときはコショウなどの香辛料が限られているためか塩辛さが前面に出すぎていたものの、それでもかなり美味しかった。ここにはかなりの種類があるようで、それぞれどのような味なのか楽しみになってくる。そんな疑問を持ちながら眺めていたが、ふと味以上の疑問が沸き起こってきた。
「賞味期限って……」
その疑問を店員などに聞こえないように瀧本さんと小谷君に呟いた。2人ともその疑問にはっとしたように顔を見合わせた。ドイツなどでは冬の保存食にソーセージやベーコンなどを作ると聞いたことがある。ただ、今は冬ではなく初夏である。ドイツの農家のソーセージ作りをテレビか何かで見たことはあるが、塩以外にコショウを大量に使い、さらにはビン詰めなどこの時代にはないものも使っていたように記憶している。
「確かにどんくらい持つんすかね」
小谷君も首を捻っている。2人で首を捻っている横で、瀧本さんが何でもないことのように動き出した。
「こういうのは聞いちゃった方が早いですよね」
そう言って店の人に近づいていった。
「すいませーん」
「なんだいお嬢ちゃん」
「開拓村に行くので保存食がほしいんですけど、お勧めありますか?」
「どんくらいもたせたいんだ」
「冬前にはもう一回買い込むことになってますが」
うーむ、本当に頼りがいがある。お酒さえ入らなければ。
「こっちの腸詰は夏だと、そうだなひと月かふた月というところだな。で、こっちの乾燥腸詰ならちょっと高いけど間違いなく冬まで持つよ」
そう言われて指をさされた先にはサラミのようなものが置かれていた。
「もちがよくて、でかいのなら、こっちの豚腿の塩漬けはどうだい」
後ろから別の店の人が声をかけてきた。その店には一度は憧れるいわゆる生ハムの原木らしきものがドンとおいてある。
「そっちのも悪くないけど、高いだろ。こっちの燻製なら一塊大銀貨1枚でいいぞ」
また別の店員が話しかけてきた。こちらには一塊4、5kgはありそうな巨大なベーコンがおいてある。あたりの店の店員が全員しゃべりかけてくるかのような大騒ぎとなってしまった。そんなてんやわんやの中、ソーセージとサラミ1箱ずつ、ベーコン1塊をそれぞれ1ソルドで買うことにした。残念ながら生ハムの原木は1つで4ソルドと高くいったん諦めお金があまりそうなら買うことにした。その後、直径40㎝はありそうな巨大チーズを買い込んで、その場を離れた。
「ぼったくられたりはしてないかな」
これまでの経緯から市場でぼったくられる不安は消えつつあったが、やはり気になってしまう。
「たぶん大丈夫っすよ。他の難民がむっちゃ見てたの気づきました?」
小谷君に言われて気づいた。いくら我々がよそ者でも難民もここではある意味よそ者。我々からぼったくったら評判がガタ落ちなのかもしれない。
「あと、1ソルドってキリのいい商品はぼったくりはまずないってさっき聞きました」
どうやら自分の気にしすぎであったらしい。そういえば例の紙を買い叩かれそうになった件以外、お金関係で気分を悪くする経験はしてない。あとは調理器具を買って余ったお金でお酒などを買い込めばとりあえず今日は終了だろう。残る心配は、瀧本さんがお酒を買いすぎないかという心配だけに思えた。
週1投稿目標のつもりが……忙しいのと何より夏バテで帰ってきてもぐったり、休日もぐったり。もはや東京は人が暮らす環境に思えない……そしてまた某ゲームのイベントが始まる……目標とはあくまで目指すもの……
完全初投稿なので、1つでも意見感想もらえるとありがたいです。




