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避難キャンプ:勧誘

定住先も職も見つからないまま、難民キャンプでただただ頭を抱える生活が続いている。

早く見つけなくては……

 学生の乱れた生活スタイルから早寝早起きに変わり、朝日とともに起きる生活をしている。空を見上げてみると今日も快晴である。顔を洗ってしばらく微睡みながら昨日パリッセさんに言われたことを思い出す。


「あんまり焦って決めないで、ちゃんと情報を集めたほうがええぞ」


 昨日パリッセさんのグループはかなり忙しく動き回っていたようで、まともに会話ができたのはもうすぐ就寝という時間帯であった。こちらの状況を聞かれたので、定住先探しが難航していることを伝えた時の言葉であった。あちらがある程度落ち着いたら相談にも乗ってくれるらしい。なんていい人なのだろうかと感謝をしながら朝の準備をしていた。


 朝食の後、荷物番もあるため何人かに分かれて募集の内容を聞きに回ることにしたが、やはりうまい話は転がっていない。噂に聞いていた国の募集らしきものを見つけて話を聞いてみてもそんなに単純な話ではなさそうだ。


「なるほど、でお前さんたちの集団の人数は?」

「えっと8人です」

「8人か……うーん……どっかの集団と一緒に行く以外だと……」


 パラパラと台帳をめくりながら調べてくれたが、なかなかないようで無言の時間がしばし続いた。


「例えば、棄てられた木こり小屋の修復と材木の切り出しとかか。期間は2年間で近くの砦などに納入することになる。ちゃんとやればかなりの稼ぎになるはずだが……」


 そこで彼はいったん言葉を止めて我々をまじまじと見廻した。


「地域的に少なくともトロール一匹や二匹くらいの襲撃は覚悟しなきゃいけないな……」


 またもトロールという言葉が障害として立ち現れた。自分も含めて全員表情が曇ってしまう。


「お前さんたちは、武器の扱いや魔法は……無理そうだな……」


 こちらの返事を待たずに、表情から察してくれたようである。


「他に少人数でもいけるのって何かありますか?」

「うーん。他も似たりよったりだな。国の募集は領主が不在な地域が主で、不在ってことはそれなりに理由があるってことだな」


 辻野さんの質問への返答は納得せざるを得ないものだった。


「もうちょっとしたら、どこかの募集に人数が足りない集団がほかの集団を勧誘し始めるのを待つというのも手だが……結局は稼げるところはその分危険なんかがあると思った方がいい」


 少し考えれば当たり前の話で、またもや納得である。意気消沈してしまうが、丁寧な対応でありがたさが身に染みる。その礼を言うと彼はこう言った。


「いやな、実は私は農村出身で、そこにも1人異世界人がいてな。ある日突然思い立ったように商売の元手を稼ぐと言って魔物退治に参加して……」


 そこで彼はいったん言葉を切ってから続けた。


「そのなんだ、ひと月も経たないうちに死んだって知らせを受けてな……変わり者であったがいい人だったんだがな……」


 その異世界人の容貌を聞くにどうもその異世界人も日本人のようで、他人事とは思えなかった。


 その後も何か所かを回って、情報を集め続けるが結局似たり寄ったりで諦めていったん戻ることにした。


「うまい話は転がってないですねぇ」


 戻ってきた難民キャンプの炊き出しは2食しかなく、夕べ余らせておいた黒パンを昼飯にかじりながらつぶやいた。他の人が集めてきた情報も大体似たり寄ったりであった、多少稼ぎがいいけどリスクがあるのと、リスクは低いが貧しい生活をとるかの2択を迫られているようだ。


「結局、その彼は何の商売を始めようとしてたんですかね」


魔物退治に参加して死んでしまったという日本人の話になったときに後藤さんが疑問を口にした。確かに気になる点ではある。


「農村で一生オートミールと黒パン食って慎ましく生きていくのに現代人は耐えられなかったってことだけは容易に想像がつきますね」


 大きな体で寂しそうに黒パンをもそもそと食べている小谷君がいうと説得力がある。今となっては確かめようがないが、何か現代知識を活かして始められる商売を思いついたけど、元手がなかったということだろう。どんな商売があり得るのか話し合ってみるが、なかなかこれと言ったものも出てこない。


「今すぐに思いつかなくても、うちらは相談しあえるし何かいいの思いつきますよね。一人じゃないってのは強みですよね」


 なにげなしに言った言葉だった。一瞬周囲が止まったかと思ったら、隣にいた山田さんがにじり寄ってきた。


「そうですよね!みんなで協力すれば大丈夫ですよね!」


 なんとなしにいった言葉であったが、どうやら山田さんに刺さったらしい。いや、周りを見ると他の人もうなずいている。少し臭いことをいったかと思ったが、そうでもないらしい。いや、むしろ、こういう状況は多少臭いことでもポジティブなことであれば口に出した方がいいのかもしれない。


 昼食後も相変わらず情報を収集し、相変わらずどれも似たり寄ったりの募集ばかりであった。半分諦めて夕食のかなり前にキャンプへ戻ってきた。ただ、目標は商売の元手を稼ぐことがとりあえずの目標ということで全員一致したことと、自分の臭いセリフのおかげか意外に明るい空気で戻ってきた。ただ、一体いくら稼げばいいのだろうか。


「小さな飲食店でも確か5、600万とかはかかるとか聞いたことがありますね。当然それ以上は必要なんですかね」


 高部君の実家は田舎でいくつか飲食店を開いているようで、それなりにあてになる知識のようだ。


「8人で稼ぐとなると小さな飲食店レベルじゃすまないっすよね」

「うーん、現代と違って銀行から借りられるわけでも、政府からの助成金が出るわけでもないだろうから、小さな事業を始めるとしても現代の感覚で想像するなら1千万、2千万とかかかりそうですかね」


 小谷君の言葉に反応した後藤さんの言う通り、現代の感覚からすると最低でもそれだけは必要な気がする。確か衛兵の年収が金貨18枚と聞いた。ただ、衛兵はそれなりの身分と実力でなくてはなれないようで、一般人よりはかなり高額と見てよさそうだ。と考えると、その倍かそれより多いくらいを貯めれば8人で小さな事業くらい起こせるのだろうか。ただ、鉱山での稼ぎだと年に金貨5、6枚も稼げれば上出来のようである。そうすると8人で年に40枚である。食事が雇い主持ちだとしても自分たちでそれなりには使うだろうから、2、3年はゆうにかかるように思える。


「あの図書館の売れるもの全部持ってこれたら……って考えるのはよした方がいいですね」


 そんな計算をみんなでしている時に、辻野さんが言ってはいけないことを漏らしてしまったが、それは誰もの頭の中にあることだった。自分はさらに、もし瀧本さんと山田さんが「酒場」で働いたらどれくらいで貯まるのかを頭の中で暗算していた。当然こちらはもっと言ってはいけないことであるのは明白で、そんなことは頭の中だけにしまっておいた。


 夕食の炊き出しを待ちながら話し合っていたが、手堅く鉱山で働くか、荘園で働いて副業を見つけ出して稼ぐかのどちらかで意見が割れていた。危険な開拓村で、という選択肢はもはやほとんど挙がらなくなっていた。


「どうだ。どんな塩梅じゃ?」


 夕食の炊き出しに行こうとするとパリッセさんが声をかけてきた。


「いやー、結構厳しいっすね」

「息抜きがてらご飯一緒にどう?こっちはひと段落してちょっとしたおかずも用意してあるわ」

「まじっすか」


奥さんの誘いに小谷君が食いついた。彼でなくても期待してしまう。


炊き出しのパンを貰って行ってみると前回の宴会ほどでないが、おいしそうなおかずが並んでいた。だが、炊き出しではせいぜい豆がたまに添えられる程度でまともなおかずがない状況からするとかなりのご馳走に見えてくる。


「今日はお酒はちょっとだけですからね」

「まったく、うるさいのぉ」


 お酒も出されたが、あくまで少しということらしい。どうやら前回飲みすぎてパリッセさんは怒られたようだ。軽い乾杯の後、夕食を食べながらこちらは何も決まっておらず、困っていることを伝えた。パリッセさんたちのグループは開拓村に行くつもりらしい。引退したとは言え歴戦の傭兵からすると当然の選択なのかもしれない。


「で、だ。お前さんたちさえよければうちらと一緒にこんか?」


 突然の勧誘に少し戸惑ってしまうが、話を聞けばおいしい話のように聞こえてきた。よさそうな開拓村の募集を見つけたが、人数が少し足りないので我々に声をかけたということのようだ。


「魔物の討伐予定地域の背後にある放棄された村を修復拡張して、来年春までに補給の拠点に使えるようにするのが条件じゃ。それを達成すれば魔物討伐中の商売の独占が許可される」

「商売というと?」

「小休暇を取ってくる兵士やら、前線への補給業者やらいくらでも客はいる。宿屋、飯屋、酒場、雑貨屋、工房、馬場……相当まずい飯を出して悪評でもたたん限りかなり儲かる」

「商売をするにもうちらは元手が……」

「建物の材木は国が安く融通してくれるし後払いでもええ。その他金が必要なら儂が貸すぞ」


 まさに渡りに船とはこのような状況をいうように思えてきた。


「危険度はどのくらいなんですか?」


 瀧本さんが少し不安げに質問した。


「うーん、そうじゃなこの手の開拓村は、半分以上は魔物の襲来を経験するし、10に1つか2つは壊滅的な被害を受けて村を放棄したり、場合によっては全滅したりする」


 そこでパリッセさんは言葉を区切った。やはりか、と思い表情が強張った我々を見た上で言葉を続けた。


「ただ、お前さんたちも知っての通り多少年齢がいってはいるが、うちらの集団は腕が立つ連中ばかりじゃ。絶対安全とは言えないが、他の集団に加わるよりははるかに安全じゃと思うぞ」


 ますます、これ以上ない誘いのような気がしてくる。もはや、この話に乗らない手はないように思える。そう思ったとき、さらに瀧本さんが続けた。


「なんで私たちを誘ったんですか?」

「いや、そりゃまぁ、うちらは年がいってるのばかりで若いお前さんたちがいると何かと心強いからな……じじいどもには夜の見張りは特に堪える」

「それだけだったら、他にもいそうですし、魔法や武器が使える人とか、大工仕事ができる人とか……すごい失礼なことを聞いているのですが、あまりにも有難いお話だけに何か裏があるのではないかと疑ってしまうのですが……」


 そう瀧本さんがいうとしばらく沈黙が流れた。いい人そうだというだけで信頼していたが、言われてみればおいしすぎる話である。自分たちだったら絶対に何もできない若造のグループなど誘わない。本当に何か裏がって騙されるところだったのだろうか。


完全初投稿です。1つでも意見感想もらえると嬉しいです。


前回神の取引でだまされるパターンの方が良かった。少しは痛い目見てもらわないといけないように思えてきた。

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