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避難キャンプ:取引

大きな街の近くの「難民キャンプ」に到着して

「喉が渇いたっすね」


 昼を挟んで今後どうするかの話をしたが何も進展しない。そんな中で、小谷君が呟いた。持ってきた水も底をつきかけている。川まで水を汲みに行こうかとも思ったが、昨日までいた中上流の川の水よりも汚いように感じる。聞いてみると、城壁内に入るのは制限されているようで城壁外で全てを揃えないといけないらしい。確かにあまり大きくないあの街にこれだけの難民が来たのだから仕方ない措置なのだろう。結局は川から汲んでくるか、並んで公共の井戸を利用するか、水やその他の飲み物を買うかの3択らしい。時間もあることだし、その井戸とやらを見に行こうということになった。荷物番に高部君と松田君が残ってくれるらしい。


 城門から伸びる道の途中に建物がいくつか固まったところがあり、そこに人が集まっている。近づいてみると、幾匹もの馬がつながれている建物がいくつもあり、さらに平屋立ての建物もいくつか並んでいる。馬場か兵舎といったところだろうか。そこにある井戸を難民たちが利用しているようだが長蛇の列である。まだ一部しか到着してないのにこれであれば、難民が全て到着したらどうなってしまうのだろうか。


「これ水、もっと汲んだ方がいいですよね……」


 山田さんが呟く。自分たちが持っているのはパリッセさんに貰ったちょっと大きめの鍋1つである。6人で1つの鍋だけぶら下げている自分たちが大分間抜けに思える。少し離れたところに青空市らしきものが立っている。なるほど、ここにも商魂たくましいのがいるのだろう。水場に集まる草食動物を待ち構える肉食動物を連想してしまう。山田さんと小谷君にその列に並んでもらって桶か何かを買って来ることにした。


自分たちだけで買い物をするのは初めてだ。緊張しながら青空市に入ってみると、この前の船着場のある街よりも雑然としている。売っているものは様々で家畜用の干し草や薪から、武具や家具、家畜までもが並べられている。いや、家畜や家具は売り物ではなく難民から買い叩いたものかもしれない。


 しばらく中を歩き回ってみたが、値札も何もついていない。珍しい異世界人を奇異の目で見る視線には慣れつつあったものの、この市場ではかなり気になってしまう。というのも、ゼミ仲間で東南アジアに旅行したことを思い出してしったためだ。慣れるまではかなりぼられたのを覚えている。


「お、あった」


 少しすると、樽や桶、食器やらを並べている木工職人の出店らしきものを見つけた。さっそく辻野さんが腰を落として商品を見ている。


「これいくらですか?」


 店番らしい女の人がそう発した辻野さんと、周囲の我々を交互に見つめる。


「えっとね。銅貨にもよるが、この桶なら10枚分、こっちの大きさなら15枚分……」


 普通に説明してくれる。人の良さそうな感じを受ける。楽天的すぎかもしれないがぼったくろうなどとは考えていなそうに思える。だが、その銅貨を持っていない。持っていないどころか大銀貨のソルドしか持っていない。


「これで払えますか?」


 辻野さんがソルド銀貨をみせたところ、相手は困惑の表情を見せた。


「いいけど……お釣りには小銀貨が混じっちゃうよ?後で文句言わないでよね」


 小銀貨が悪いもののような口ぶりは例の悪貨が多いという話のことだろう。話を聞くとここで使われている銅貨は10枚で正規の小銀貨1枚と交換と設定されているようである。となると、大銀貨1枚で大き目の桶を1つ買ったとしたら銅貨だと105枚、小銀貨だと10枚半分がお釣りということになる。桶の価格設定がぼったくりじゃないかというのを疑う必要がないとしても、お釣りに悪貨が混じっていることも疑わなくてはいけないようだ。


「桶2つ以上あってもいいですよね?」

「そうですね。邪魔にならない数ならあって困るものでもなさそうですし」


 確かに水汲みのことを考えるとある程度の数があってもよい気がする。辻野さんに振り返って自分に聞かれたので、そう答えた。結局、大きめを2つ、小さめを1つ買うことにした。お釣りには銅貨20枚と小銀貨6枚を渡された。


「ちょっといいですか」


 後藤さんが後ろから手を伸ばして小銀貨をまじまじと見た。


「別に悪いのを押し付けたわけじゃないよ」


 その姿を見て店員は口を少し尖らせて言った。


「失礼。気分を害したなら謝ります。ちょっと見ておきたかっただけなので」

「大丈夫よ。まぁ、悪貨かどうかは私もちゃんとはわからないのよね」


 後藤さんは丁寧に謝ったことで相手の機嫌を損ねずにすんだようだ。


「後藤さん、銀貨の良し悪しはわかるんですか?」


 先ほどの店から少し離れたところまで来たところで辻野さんが不思議そうに聞いた。


「まさか。分かりませんよ。ただ、悪貨の手法は鋳つぶして混ぜ物をして再鋳造するっての以外に、削り取るってのもあったらしく、原始的な削り取りくらいは見ればわかりそうかなと思って」


 自分も小銀貨を手に取って見てみるがよくわからない。完全な円形ではなく縁が波打っており、単純に熱して柔らかくして刻印したものなのだろう。


「あ、炭も買いましょう」


 瀧本さんが炭売りを見つけて声を上げた。そういえば周囲に薪を拾えそうな森や林もない。そもそもこんな人口密集地でそういった行為をしていいのかどうかもわからない。水を沸かすのにも買う必要がありそうだ。


「ほい、銅貨10枚分な」


 近寄って行ってみると目の前で丁度売れたところのようである。銅貨10枚分で嵩に直すと5,6リットルといったところのようだ。目の前で売れたことでだいたいの価値がわかった。手元にはちゃんとした銅貨もある。今回は悩まずに取引ができるだろうか。


「私たちも銅貨10枚分買います」

「まいど」

「お願いします」

「……」


 瀧本さんがにこやかに話しかけたが、会話が止まってしまった。店番の男は怪訝そうな表情をしている。


「お前さんら、何に入れていくんだい?まさかその桶にいれるのかい?まぁ炭が飲み水に入ったところで大したことじゃないのかもしれないが……」


 入れ物を自分で用意しないといけないようだ。なんと答えたらいいのか良いのかわからず固まってしまう。


「まとめて大袋で買うならいいが」


 入れ物がないことを伝えると、店員は後ろにある麻の大袋に入ったのを顎でしゃくって指した。あまりに大きい。地元で史上最強クラスの台風が来る、と騒がれたときに行政が持ち出していた土嚢袋を思い出す大きさだ。


「いや、さすがに……でかすぎですね……」

「うーん……まぁしゃあない。小さい麻袋もつけてやるわ。そんかわり銅貨20枚分かってけや」


 その申し出をありがたく受けて買うことにした。


食器も買わないと、ということになり木工職人のところに戻って買おうとするが、お釣りの銅貨が足りなくなると言われ、小銀貨3枚分になるように無駄に人数分以上のお椀と匙を買わざるを得なかった。


「前に東南アジアに行った時みたいにぼったくられるのを心配してましたが、別のことも心配しないといけなかったですね」


 買い物をするだけで精神的に疲れ切ってしまった。周りも同じなのか自分の言葉に頷くだけで返答はない。


 井戸に戻ってみると大分前進したものの、まだ時間がかかりそうであった。こちらの2人も疲れ切った表情をしている。列を作る難民たちの表情から察するにかなりイライラしている人が多そうだ。その険悪なムードに当てられてしまったら仕方ないことなのだろう。買い物組もその雰囲気に飲まれてこちらも押し黙ってしまう。


 結局水汲みだけで4時間以上の列待ちとなってしまった。買い物と合わせて精神的に疲れ切ってキャンプに戻ってきた。留守番組に簡単に首尾を報告したところ、こちら側でも「取引」の提案があったらしい。


「なんか、アグスティナさんから聞いて、紙と筆記具を売ってくれって。みんなと相談しないと売れないっていったら、夕飯の前くらいにまた来るって」


 いつかは売るつもりで持ってきたはずのものだが、その取引がめんどうなものに思えてきてしまう。とりあえずは腰を下ろして、どんな人なのかを聞いてみることにした。


「うーん……身なりがよくって、……なんだろう物腰柔らかい頭の良さそうな人でしたね」


 イメージがつくようでつかない。というよりは、どんな人かを口で説明してくれというのがそもそもハードルが高かった気がする。その上、相手の人相風貌がわかったところで何が変わるわけでもなさそうだ。また来ると言っている以上、結局は待つしかなさそうだ。


 果たしてやってきた男は荷車を引いた従者らしき男を1人連れている。


「リナルド・ベッリーニと申す。この街で雑貨商をやっています。上質な紙を持っていると聞いてきました。そして異世界人は上質な筆記具も持っていることが多いと聞いており、そちらも買い求めたいと思っています」


 会ってみると確かに高部君の言ったことが当てはまる風貌な気がしてきた。


「もちろん、自分たちも売るために持ってきましたが、売るかどうかは値段次第で……」


現金も必要だし、確かに荷物を減らしておくのも悪くない。問題は値段である。あの僻地でどうせ持ち出せないからと多少安めに売った自覚はある。今回は相手からわざわざ探し出して買いに来たくらいだからあの時よりも高めに売っていいのだろう。ただ、前回の取引は貨幣と物品との混ぜた形だった。剣や手槍がいくらくらいの価値なのかとんとわからない。値段次第と言った後で言葉に窮してしまった。


「その1束が500枚ですかね。1束1ソルド半でどうですかね」


 全員顔を見合わせた。確か1束5ソルドが相場だったはずである。さらには、現代の紙の品質は驚かれたはずで、それ以下ということは絶対にないはずである。完全にこちらが知らないと思って買い叩こうとしているのが目に見えている。物腰が低く丁寧だが、人は見かけによらないとはまさによく言ったものである。


「では1ソルドと9デナロではどうかね」


 こちらが押し黙っているのを見て少しだけ価格を上げた。だがどう見ても相場からはほど遠い。


「失礼ですが、アグスティナさんからどのように聞いてこられたのですか?」


 言い方は丁寧にしたつもりだが、ちょっと腹が立って少し語気が強くなってしまったのを自分でも感じた。


「何回かお客様として来ていただいています」

「今回は?」

「お見かけはしましたが今回はお取り引きしていないですね」


 相手は冷静に受けごたえをしているが、少しだけ眉が動いた気がした。どうやらたいした知り合いではなさそうだ。この値段提示と合わせて考えると何も知らない異世界人が紙を持っているらしい程度に聞いて来て、あわよくば買い叩いてやろうとして来たのだろう。


「大変申し訳ないのですが、我々の知っている価格よりもだいぶ低い提示なので、今回の取引はなかったことに……」

「いや、では価格を上げますので……」

「結構です。正直申し上げますと、値段がわからないものの、最初に低すぎる価格を提示されたのではないかという疑念が拭えない以上、信用して取引させていただけないので」


 あくまで礼儀正しく、口調は荒げずに、を心がけたものの、それがどこまで出来ていたかはわからない。


「……大変残念です」


 しばしの沈黙のあと、そういうと彼は帰っていった。


「ふぅ……ひとりで勝手に言いたいこと言っちゃいましたけど、先走ったりしちゃいましたかね……」

「いや、良かったんじゃないっすか?舐められたら今後も足元見られて終わりっすから」

「でも、恨みを買われて後で仕返しとか……」


 後になって強気に出すぎたのではないかと弱気になってきてしまったが、周囲も納得してくれているようで安心した。


「まぁ大丈夫でしょう。我々の持ってきた量だと、多く見積もっても庶民の年収の半年か1年分程度で、それで大きな仕返しなんて割にあわないでしょう。せいぜいあの人の店では買い物しづらくなる程度じゃないですかね」


 後藤さんが束の数を数えながらそう言った。確かにそうかもしれない。だが、冷静に考えてみると手持ちのお金とあわせても、せいぜい庶民の年収の1年分程度が自分たちの資産らしい。それで8人食っていくと考えると早く働き始めなくてはいけなそうだ。というよりも、まずはどこに住むかを決める方が大事なのだろう。異世界での取引のめんどくささで疲れきった頭には重くのしかかる問いではあるが、否応なしに突きつけられたお金の話が出たことで、夕飯を挟みながらその話題を全員で議論をした。当然のことだが、特に結論が出る話題でもなく、ただでさえ味気ない炊き出しの夕飯がさらに味気なくなっただけであった。


完全初投稿です。1つでも意見感想もらえると嬉しいです。


にしても、まだまだテンポが悪い。なんだか半分プロローグの続きみたいになっている気がする……さっさと動きのあるストーリーに入らないと……

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