避難行最終日:魔法習得
ようやく目的地らしい街に到着した。
その傍でまたも難民キャンプ生活に入ることになりそうだが、魔法を教えてくれるらしい。
よし、覚えた魔法で異世界無双だ!……?
翌朝、陸路で早くに出発する家畜を連れた難民たちの列を横目に見ながら、荷物をまとめて舟着場に向かう準備をする。川を降れば今日の遅くない時間に到着するらしいが、話によると陸路は相当急がないと2晩かかってしまうらしい。慌ただしく出立した家畜連れの難民に同情してしまう。
舟着場に行ってみると、集まっている舟は数人で満員になりそうな小さなものから、複数の櫂がついたもの、さらには帆付きのものまで並べられており、寄せ集めという言葉がぴったりな光景であった。しばらくの待機の後、パリッセさんたちと到着地での再会を約束し、ちょうど人数分で満員になる舵取り一人いるだけの小舟に乗せられ出発した。
船に押し込められた自分たちは移り変わる景色を楽しみながら……とはいかず、ただただ、昨日の飲みすぎを後悔してぐったりとしているだけであった。川舟の揺れが少ないせいか、酒の質が良かったのか、チャンポンで飲まなかったせいか、飲んだ量にしては吐き戻すほどの二日酔いではない点だけが幸いであった。ただ、一番量を飲んで勧められた酒全てをチャンポンして飲んでいたはずの瀧本さんだけはケロっとした顔をしているのはどういうことだろうか。
途中、昼休憩のために接岸した時も、地面に腰を下ろしてぐったりとしていただけだった。舵取りの男が寡黙で、無言の時間が続くのはありがたい気がする。頭痛と無言とで長いような短いような時間の流れが経過した後、まだ陽が高いうちに目的地に到着した。その頃にはようやく頭痛も和らいできた。
街は周りを川から引かれた水が堀に湛えられており、城壁で囲まれている。周囲の語り口からは街道と河川交通の要衝でそれなりに重要な都市で大きいものを想像していた。しかし、来てみるとさほどの大きさではない。城壁の高さも二階建ての家より大分低そうである。何よりぱっと見の横幅は数百mほどだろうか。奥行がどの程度あるのかはわからないし、城壁の外側にもまばらに建物があるようだが、万の単位が住んでいるようには到底思えない。別にここに住むかどうかはわからないが、あれやこれやが詰まっているファンタジー世界の都市をイメージしていただけに少し落胆した。
確かパリッセさんが、ここらで待っていれば今日魔法を教えてくれると言っていたはずだ。到着した難民たちが集合地に向かう中、船着場の傍の開けた場所に腰を下ろして、三々五々と到着する難民船をぼんやりと眺めていた。
「お、いたいた」
しばらくしてパリッセさんが近づいてきた。当たり前だが、人数の少ない自分たちと違って数艘に分かれて到着するため、さらに待機する必要がありそうだ。二日酔いを覚ます時間と考えれば悪くない。元気な女の子たちと遊ぶ余裕があるのは瀧本さんだけのようで、それを横目に見ながらしばしまどろんでいた。
その後、街を少し見下ろす丘に移動して、またもキャンプの準備をする。そこまで高い丘でないため、街の全貌が完全にわかるわけではないが、やはり小さいように感じる。どうやら自分たちの下ってきた川は支流で、その本流に合流するところに建てられた街のようだが、せいぜい東京ドーム3、4個分といったところだろうか。そんなことを考えながら天幕を張り終えた。
「さて、夕飯前の明るいうちに少し魔法を教えてやろうか」
いよいよ待ちに待った魔法の訓練が始まる。その言葉に二日酔いも完全に吹っ飛び、わくわくしながらパリッセさんの前に車座で座った。他の人も同様のようで、年長者の後藤さんですら目を輝かせている。わくわくすると同時に、自分たちも魔法を覚えられれば、あのトロール相手に何もできない無能な存在から抜け出せるのではという期待も高まる。
「まずは、魔力、というのを感じてもらおうか」
そういうと順番に我々の手のひらに指をあててきた。触られた人は小さな声をあげたり、体をびくつかせたりしている。自分の順番が回ってきてその意味がわかった。触れられると、何か生暖かい、それでいて電流のような痺れる何かが手のひらから流れ込んできた。
「これが魔力じゃ。これを魔法にする方法は今はさておいて、同じことができるようになるのがまず第一歩じゃ」
自分の右手を左手に当てて同じような感覚が出ないかを何度も試す。その間にパリッセさんが回って何度も同じものを流し込んでくれる。
「まぁ結局は感覚で言葉で説明してもなかなかうまくいかん。何度もこの感覚を流し込まれて身体で覚えるしかない」
言葉でも色々と説明してくれたが、結局は感覚らしい。何かスポーツ的なものに近い気もする。そこまで運動神経がいいという自信がないだけに、使えるようになるか段々と不安になってきた。その後も何度も何度も同じことをしているうちに段々と日が暮れてきた。
「うーん……」
当然のことかもしれないが、なかなかうまくいかず唸ってしまう。
「そんなすぐにはできないぞ。それができるようになるまでに覚えのいい子どもでも普通は数日かかる。1か月じゃきかないやつもいるくらいじゃ」
「そうだ。あんまり焦らんでええで。炊き出しもらってきて飲みながらゆっくりやんべ」
周りで見ていたパリッセさんの仲間たちがはやしたててきた。
「いえ、もうちょっと頑張ってみます」
「お、お、そうか。頑張れよ」
一番呑兵衛であろう瀧本さんが真剣な表情で静かに答えると、おっさんどもが気まずそうに一歩引いた。
「ほらほら、邪魔しない。というか昨日案だけ飲んだのに今日もまた飲むつもりですか?あきれた」
女性陣が介入してきて、男どもを引っ張っていってくれた。
時間は流れ、もう始めてから4、5時間は経っただろうか。炊き出しを貰ってきて上の空でかき込み、さらに練習を続ける。あたりが完全に暗くなっている。そんな中、まず始めに声を上げたのは山田さんだった。
「あ……」
どうやら何か感じ始めたらしい。
「できたかも……」
「ほんとに?」
「ちょっと待ってください……」
隣の瀧本さんの言葉に山田さんは自分の左手に何度も右手を押し当てて確認している。その後、瀧本さんの手をとると、そこに右手を押し当てた。
「あ……ほんとだ……」
どうやらできたらしい。山田さんが順番に他の人にも手をあてて魔力を流している。自分も手を当てられたが、パリッセさんの時と同じ感覚である。
「すごい、智恵ちゃん」
「才能っすかね」
全員で最初の成功者を喜んだが、それも束の間、皆真顔に戻り負けじと練習を続ける。たまに魔力を流しに来てくれたパリッセさんたちは、少し離れたところで早くも酒盛りを始めている。先ほど食べたのはまたしてもオートミールと豆である。美味しそうに食べているおつまみをおすそ分けしてもらいたい気分をぐっと抑えて練習を続ける。そんなことができるのかという半信半疑な気持ちも山田さんができたことで消え、負けてたまるかという気持ちと相まって、さらに練習に身が入る。こんなに集中したのは受験勉強以来か。むしろ、こんな何も進展がないものに集中したことはないかもしれない。
その後、山田さんを中心に練習を続けると、案外あっさりと全員できるようになっていった。後藤さんだけはかなり遅れての習得で、やはりスポーツの習得と同じように年齢がネックになったのだろうか。それでも、夜も遅くならないうちに習得できていた。
「お?できたんか?」
「それも全員らしいですよ」
騒いでいると、良い感じに酔いが回っているおっさんどもがやってきてはやし立てはじめた。
「ほんとか、全員揃って1日でできるとは……こりゃ驚きだ。才能あるぞ」
パリッセさんも寄ってきて、驚きの声を上げた。もしや、これが転移ボーナスのチート能力というやつだろうか。
「僕らもパリッセさんみたいな魔法が打てるようになりますかね?」
期待に胸を膨らませながら聞いてみると、しばらくの沈黙の後に笑いの渦が巻き起こった。何を笑われたのか分からずに固まってしまう。
「はははは。いやいや、悪気はないんだが、本当に知らないんだなと思ってだな」
「確かに才能はある方なのは間違いないが、パリッセだけじゃなくうちらも子供の頃、それこそリタとマルガリータくらいの頃から鍛錬してきて、あれじゃ」
「んにゃ、才能あるのがそんだけ鍛えてもなかなかパリッセと同等には。今じゃ少し衰えたがパリッセは昔この国でも10本の指に入ると言われたくらいの使い手じゃからな」
「絶対に無理とは言わないが、お主ら若いとは言えもう大人じゃから今から鍛えてあのパリッセ並みというのはのぉ……」
酔っぱらいにまくし立てられてかなり気落ちしてしまった。どうやらリタとマルガリータというのはあの双子の姉妹のことらしい。大人になって初めてやったゴルフやテニスでプロから褒められて「自分もプロになれますか」と聞くようなものだったか、と思い直し穴があったら入りたい気分になった。
「すまん。ちょっと言いすぎたが、才能は100人に1人レベルじゃぞ。今から鍛えても十分、それなりの使い手にはなれるんじゃないか」
「それこそ、一般人からしたら充分羨む程度にはなれるぞ」
それを察してか慌ててフォローをしてくれるたが、決まりの悪さはどうしようもない。ただ、今は自分たちにもそれなりの魔法が使えそうだということを喜ぶべきだろう。
「ま、鍛錬を続けることじゃ。次の仕事を見つけるまでに数日はここにおるはずじゃから、また教えてやろう」
「そうですね。これ以降は明日でいいですわね。この人たちもそろそろ飲みすぎなので寝たほうがいいわね」
酒瓶をぶら下げたパリッセさんがそう言うと奥さんがそれを取り上げて引き上げていった。パリッセさんは奥さんにすがりついているが、どうやら酒盛りはこれで終わりのようだ。
「まぁそんなもんかぁ。大人になってからプロ野球選手に、とか土台無理な話か」
「ラグビーみたいなフィジカルスポーツ、つまりは技術や感覚よりも身体が大事なスポーツだと大学以降に始めてもポジション次第ではプロになれたりするんですけどねぇ」
高部君が呟くと、それに小谷君が被せてきた。そういえば同じく感覚や繰り返しの鍛錬が必要な将棋では高校生になってから覚えてプロになったのも過去に一人いたらしいが、という話もしてみた。
「まぁそんな特殊例をもとに淡い期待をしても仕方ないか」
自分でも慌ててそう言い直した。
「結局、そこまでの超一流になれなそうだし、鍛錬も必要ってことはこれから何をして生計を立てていくかを考えないといけないか……」
辻野さんが言った誰もが思うこの一言で、魔法が使えるというわくわくする状況だったはずだが一変して暗い空気になってしまった。
基本週1くらいで投稿していきます。
完全初投稿なので、意見が1つでもいただけたらうれしいです。
と毎回のあとがきで書いていたはずですが、体調崩したり忙しい時期はどうしてもこうなっちゃいますね。




