第16話 最強の剣は柄が脆い
レモンとオサムが砂の上に身を晒す。伏せて、目標を見る。工場がポツンと、煙を上げて砂漠に建っている。か弱い柵があるだけで、他に守りはない。
飯テロと暴風神風は基地破壊後、さらに移動。敵に経路を悟られないよう不規則に動いた。その甲斐あってまだ発見されていない。この世界に森林があるならと、プロペインは愚痴をこぼしていた。確かに、森とゲリラはいいタッグだ。レモンは彼に同意した。
今はとにかく偵察。工場があることは知っている。動きがないかのチェックを優先だ。動きはない。オサムは周囲を警戒しつつ隣に聞いた。
「何で工場が一つだけあるんだろう。工場って、工業地帯で火事の野次馬みたいに並んでいるもんじゃない?」
「そうですねぇ。街の、郊外とはちょっと違うところにあるイメージですけど」
「もしくは田舎とか」
レモンはスコープから目を外す。空を見た。ふと考え、簡易な結論を下す。
「あれって、建てたんじゃなくて、建っていたんじゃないんですかね」
「廃工場だったってこと?」
「そうです。ほら、プレイヤーズの頃も、ゾンビがいた工場を制圧したじゃないですか。それと同じことをしているのかも」
「なるほどねぇ。一からクラフトしないんだ」
「使える物は遣うつもりなんでしょう。だから、工場の位置を決められない」
「それでいて守りが薄いのは、攻撃を想定してないからかな」
「そもそもここまで潜入しませんからね。動きなし。無線で伝えますね」
無線で報告。帰還要請が来た。見張りのためモヒカンを送るとのこと。二人は歩いて陣地へ。
「ところでサムさん」レモンが話す。「ハチさんがモテるのって知ってます?」
「……それがどうかしたの」
少し声が低くなる。怒りではなく、不快感から。レモンは驚かない。
「あの人は何度も告白されたそうなんです。全部断ったそうですが。私、告白されるのは怖いんですよ。ハチさん、何かワケありでした」
「それがどうしたの」
感情を堪えた。オサムが知らないBBのことを、レモンは知っている。それが嫌だった。それでも友情は壊したくない。その狭間で亀裂が入る。歯噛みする。
「サムさんは、あの人に心を開いてるんですね」
「え?」
先までの心に清水が一滴垂らされた。化学反応を起こし、色とりどりの表情を浮かべる。レモンは聖母のように見つめてきた。
「だから、ハチさんのこと、大事にしてくださいね」
歩きながら、けれどオサムは喋れなかった。
心を開いている。それはそうなのだろう。彼はオサムだけに過去を語った。彼に家族はいない。美しい見た目のせいで苦しんだとも言っていた。なら、友人はいたのだろうか。オサムのような、心を開ける存在が一人でもいたのか。彼女の場合それは家族だ。でも、BBにはいない。ならば、彼はずっと孤独だ。
そのBBが、心を開いてくれた。とても、重い。それほどの信頼を注がれると自覚し、途端にプレッシャーになる。自覚がなかった。不安が占領を開始する。
果たして、BBがオサムに向ける信頼は、親愛なのだろうか。友情なのだろうか。恋なのだろうか。与えられたものに応える以外、できそうもない。その与えられたものとは、何であろうか。
「サムさん?」
レモンの声で我に帰る。心配を表にする顔。オサムはどう返すべきか、検討もつかない。
「何か、悩んでます?」
「……わたし、友達いなかったから。どうすればいいのかなって」
「ハチさんとは友人なんですか?」
「それは……」
また答えられない。恋人とは言いたくない。だがウジウジするのも嫌だった。
「それは、自分で悩み抜くよ」
オサムはそう返答するだけだ。安心し、レモンは満面に笑みを重ねる。
陣地へ。プロペインとスコスコが話し合っていた。草食も参加、聞いてはいないようだ。プロペインが首を捻る。
「工場は確認できた。あれを壊すのが俺達の目的だ。だが、どうやればいいかね。スコスコ、もう爆弾の余りはないんだよな」
「ねぇな。ガトリングガンで潰せるとも思えん」
「石油とかならドカンなんだが。見た所弾薬工場だろうな。薬莢に詰める火薬を爆破するぐらいしかやれないな」
「いやそれをやりゃあいい。最低でも火薬は減らせる。問題となるのは攻め方だな。守りは薄そうだし、押すか?」
「今回も隠し球を持っているかもしれない。やるなら慎重に、だな」
「おーけい。それじゃやり切ろうぜ」
二人が拳をぶつける。スコスコが仲間に呼びかけようとした。バイクの遠吠えが響く。誰かがエンジンをかけたか。だが遠吠えだ。音は遠い。 何者かが付近の丘を跳んだ。
「マァァイネェェェェェム! イズバイクダイスキオニワァァァァァ!」
大型のバイクに乗った巨漢。厚い鎧まで身に着けている。左手には槍。ただの槍ではない。柄が鉄ででき、刃が高周波ブレードになっている。
槍を振り回し、突撃。モヒカン共は慌てて伏せる。逃さず突きが来る。何とか回避しても、反撃できない。そのまま通り過ぎていく。真っ直ぐBBへ向かう。BBが抜刀。敵のバイクの上へ飛び乗る。突き刺そうとして、右手でつかまれ、投げ飛ばされる。回転して着地。男はターン。
その男、オールドスランガーズ四天王の一人、オニワ。奴の後ろから、大量のバイク軍団。サイドカーを付けて撃ってくる。急襲により暴風神風は劣勢に立たされた。草食の早撃ち。しかし、敵は鋼鉄のヘルメットをつけていた。一発では撃ち抜けない。
「今は逃げるぞ!」
スコスコの激声によりモヒカンは逃げ出した。三々五々に散るワケにもいかず、一直線に逃げる。後ろからバイク集団。飯テロも逃げる。しかし、オニワと交戦中のBBは動けなかった。
「ハチ!」草食が無線機に叫ぶ。「逃げられる?」
BBは槍の薙ぎ払いを弾く。バイクへ飛び突く。背後へ吹き飛ばされる。転がり、立つ。無線に叫び返す。
「無理!」
そこへ槍を振り下ろされる。しのいで横へステップ。まだ槍の射程内。振り払われる。ジャンプで避けて接近。オニワは逃げる。拳銃を抜き撃つ。オニワに当たるが効果なし。ライフルでなら貫けたかもしれない。
BBはランスチャージを避け、だがオニワは追う。避けられぬと判断、跳躍。バイクの上に着地。また掴んでくるが、突きを繰り出し斬撃。効果あり。槍を地面に刺し、急ターン。BBは落ちる。
ショットガンを抜く。オニワが突っ込んできた。真上に飛び、空中で撃つ。相手は吹っ飛んだ。バイクから落ち、BBはバイクを蹴り飛ばし着地。
回復剤を打ち、よろよろと立つ。槍を構えた。接近戦を挑んできた。槍の長さは四メートル。懐に入らねば攻撃も叶わないだろう。BBは駆ける。
そこへ槍が振るわれる。足を前に出し、穂先の樋を踏んだ。深々と字面に刺さり、両足を乗せて槍の上を走る。オニワの腕が動いた。BBは跳ぶ。頭上から、斬撃。下がられて回避された。
オニワは槍を細かく振り常に距離を保った。攻撃に移る様子はまるでない。
時間稼ぎだ。BBは察した。自分をここに置いて、本隊をどうにかするつもりだ。そうと解ればこいつに用はない。自分のバイクへ走る。オニワが追う。
バイクに搭乗。オニワへ発砲。わずか怯んだ隙に走り出す。オニワもバイクを起こし、追う。
まんぷくテロリストは殿を担当していた。オサムが機関銃で弾をばら撒く。が、威力は控えめ。弾の節約のため、小出しで撃っている。もどかしい。レモンも撃っている。ヘルメットを避け心臓を狙った。
暴風神風の後方集団へ砲弾が着弾。何事かと周囲を見る。戦車だ。三両いる。スコスコは舌打ち。そこへさらに嫌な音。ヘリだ。スコスコへ無線が来る。
「ボス、ヘリはやれます。まだRPGが」
「戦車は正面からじゃ無理か」
「戦車だってやれますぜ!」他のモヒカンは勇ましい。
「駄目だ! 突っ込んだら的だ。逃げろ!」
無線を聞いたプロペインは険しい顔になる。BBと分断したのも作戦の内だろう。少数精鋭の弱点はこれだ。数と奇襲には弱い。
「プロペイン」草食が真面目だ。「戦車を単独でやれるのはサムだよ」
「三両あるぞ」
「スモークで撹乱するのは? まだ在庫はある」
「後ろのは?」
「機関銃貸して。あたしがやる」
四の五の言わず機関銃を貸した。リボルバー以外は使いたくないのが草食の本音だが、言っている場合ではない。
「サム!」プロペインが呼ぶ。「戦車をやりたい。いけるか?」
「やります!」
草食が転がり降りた。機関銃掃射。全てがら空きの胴体、心臓部へ撃った。引き金は引きっぱなし。だがその全ての弾丸を当てた。
バイク隊は草食が食い止めた。ヘリはついでと言わんばかり、モヒカン達が落とした。残るは戦車のみ。レモンが助手席へ這い移動。スモークをたんまり持っている。
バンが戦車へ突撃。
「スコスコ! 俺達が戦車をやる!」
「すでに何人かやられた! 頼むぞ!」
スモークを焚く。オサムは銃座から車の上に。しがみつく。煙の中へ砲弾が来た。外れた。煙幕。抜ける。
レモンはなおもスモーク展開。プロペインは危機本能に従いハンドルを回す。
煙からまた出て、眼前に戦車二台。オサムが立つ。跳んだ。戦車と戦車の間をバンが通過。オサムは戦車の上に着地。ハッチを開けた。ナイフで搭乗者をキル。抵抗の暇もなかった。
他の戦車がこちらへ砲を向ける。オサムは中からでて跳躍。撃ってきた。戦車に着弾、爆発。別の戦車に乗る。もう一台が狙おうとしている。リミットは数秒。ハッチを開けて手榴弾投擲。飛び降りる。手榴弾爆発。さらに砲撃。戦車爆破。オサムは全力疾走し最後の一台へ。飛び移る。
ハッチからプレイヤーが出てきた。拳銃を使ってきた。ナイフで斬り捨てキル。中に入り片付けた。戦車を鹵獲。
「こちらオサム。戦車を一台取りました」
「運転できるか?」プロペインが応答。
「できます」
「了解。草食を拾いに行く」
了解、と返そうとして無線に割り込み。
「サム、BBだよ。さっきの男に追われてる。援護してくれない?」
「どこ?」
「そっちに行ってる」
砲塔を回し、狙いをつける。が、素人だ。当てられないだろう。
「ハチ、当てられないかも」
「驚かすだけでいいよ」
「おーけい」
BBと男は隣同士だった。男を狙い撃つ。着弾。当然外れた。ふらついた隙を逃さずBBが一閃。腕を斬り落とす。バイクの制御ができず、転落。BBはバイクから飛び降り、着地点にいるオニワへブレードを突き立てた。回しながら抜く。
「ねこ総隊長……すまぬ……」
オニワはデスした。
だが危機は終わらない。
「こちらスコスコォ! 戦闘ヘリが三機来やがった!他にも大量のオルスラだ! 入隊するんじゃなかった!」
モヒカン達へ急ぐプロペインは現状の把握に急いだ。草食が一人でバイク隊を食い止め、戦車隊はオサムが行き、あの巨漢はBBが。そして最後の攻撃は飯テロではなく暴風神風へ。
気付いた。
「スコスコ! これは罠だ! オルスラは最初からお前達が目当てだ!すぐ助けに行くから待っていろ!」
「こちら草食。バイクは全滅。もう後ろは気にしなくていいよ」
「助かる。サムハチ! 来てくれ、工場付近だ!」
BBは爆走。遅れてオサムの戦車が追う。ヘリはどうするべきか。戦車では無理だ。当てられない。やれることは車内に手榴弾を投げ入れることぐらいだ。
オサムも自身の役割を知った。無線をかけた。
「プロペインさん、わたしは援護できません。工場を撃つぐらいがかんの山です」
「やってくれ。レモンがヘリを撃つ。BBは車を荒らしてくれ。言っとくがRPGは弾切れだ」
車列が見え、オサムとは別れた。草食を乗せるべきだったか。後悔。振り切って、突入。空のヘリは暴風神風へミニガンを撃つ。彼らは上手くバラけて被害を最小にしている。
BBは車の窓を割っては手榴弾を入れた。爆発が続く。オルスラの集中砲火が来る。耐え忍び、BBの攻撃はより苛烈になる。敵は逃げ、BBは追う。
前方でヘリが落ちてもいる。レモンが撃ち抜いたようだ。BBの後方へ墜ちる。混乱の中を暴れ、さらにもう一機墜ちた。BBはようやく前方車両へ追いついた。
まんぷくテロリストのバンに近寄る。叫ぶ。
「プロペインさん! オレが銃座を!」
「やれるか? 頼む!」
BBは跳んだ。バンの上。銃座の中へ。久しぶりだ。オサムは弾を気にしていたが、彼は気にしない。撃ちまくる。
砲弾の風切り音。ヘリが爆発。最後の一機が墜ちた。弾の飛来方向を見ると戦車が一台。オサムだ。たった一発で命中させた。
「サム、ありがとう」「どういましたして」
残るは雑魚のみ。反撃に転じ、殲滅。オルスラはたまらず逃げ出した。追撃の戦力はもう残っていなかった。なので、工場へ目を向けた。戦車の砲撃で火がつき、爆破。倒壊した。
戦果としては、戦術的に勝ち、戦略的に負けた。大量の弾を失い、暴風神風はプレイヤーを何人も失った。
オールドスランガーズは、結果的に勝った。合理的に、潰せる敵から潰したのだ。
スコスコがプロペインの肩を叩いた。
「すまねぇな。もう俺達は戦えない。仲間を回収しねぇと。あと……もう足でまといになっちまった」
「そんなことはない。だが、仕方ない。助かったよ」
「そう言ってくれると嬉しいぜ、ペイン」
暴風神風は去っていく。去り際に、「達者でな」とモヒカンに言われた。
草食も合流。機関銃をプロペインに返した。戦車は放棄。扱えない。
今後、まんぷくテロリストは本格的に物資不足に突入するだろう。




