第14話 久々のサバイバル
まんぷくテロリスト。彼らはすぐ問題に直面した。物資の問題だ。これまでは後方から補給を受けていたので問題はなかった。だが今は敵地で孤立無援。経済同盟の工場等を破壊するためにも、まずは水と食糧を確保せねば。
というワケで早速オアシスを襲撃した。
「うわ、前から飯テロが!」
オルスラに何十人かいる四天王の一人、逆走青年がレモンによってキルされた。レモンと草食が見つかりつつ、狙撃で制圧。残りを三人で潰し、オアシスを手に入れた。確実に報復が来るが、むしろそれを待っていた。どこに敵の基地があるか、指針を見出すために。
水筒やタンクに水を入れる。BBとレモンは偵察へ向かった。無線で状況を知らせられる。なので、緊張しなくてもいいとリラックス。寝袋を敷き、リスポーンを確保しておく。
「ところでさぁ」
草食が奪ったジュースを飲みつつ話してくる。プロペインも飲みつつ聞く。
「オルスラの奴ら、対まんぷくテロリストでのなんだの、そういった兵器をいっぱい造ったじゃん。あれ、何であたしらに向けてんの? キルしても復活するし、同盟にいるんだよ?」
顎に手をあてる。「確かに」
「でしょ? 何かおかしいと思ってたんだよね」
「運用思想は解るがな」「お、なになに?」「ようは、俺達では倒せない物体を奴らは造った。実際、第一号は俺達だけじゃ無理だったろう。二号も、草食じゃ無理だ。三号も、対空兵器を持ち歩いていないからな。パワーで押されているんだ。俺達では勝てない兵器であることが重要なんだ」
「はーなるほど。じゃあキルを目的にしてないんだ」
「多分な。だが、それにしては殺意が高いな」
「まぁ、放置するワケにはいかんしね」
「だな。あとは、俺達をキルすることに意味があるのかもな」
草食へ訝しげに眉をひそめる。ジュースをひと飲み。
「俺達まんぷくテロリストはほとんどデスしない。俺もここ数ヶ月デスした記憶がない」
「そういやそうだね」
「だから、そういう奴をキルした、という実績が欲しいのかもしれん。あくまでも推測だが」
「ふーむ」
彼女は納得したような、ないような、境界の間を横飛びしていた。瓶を傾けて、すでに空だと気付く。
会話に参加しないオサムは暇そうにしていた。つまらないのではない。だが敵地とは思えないほどの穏やかさ。眠ってしまいそうだった。眠気を妨げたのは、レモンがBBのバイクに乗っているという、嫉妬のためだった。
友人に対し狡いと思っている自覚はある。しかしその理由を否定し、都合のいいように変換しようとしている。たとえ無意味と言えようが。
件の二人は、バイクで周辺を探索していた。レモンは興奮気味だ。
「私、バイクに乗ったの初めてです! ヘルメットつけなくていいんですか?」
「ゲームだけらいいでしょ。それにしても速度が出ないな」
「砂漠ですらね。砂が硬いのが救いでしょうか」
いい天気。地上は薄茶色で、それに似合わぬ晴天。レモンは辺りを観察する。何もない。
「何もありませんね」事実と感想を口にする。
「だね。ここら辺に基地はないのかも」
「オアシスがあったら、そこから発展しそうねものですけどね。……そういえば、連邦の街、ほとんど行けませんでしたね」
「あれだけ都会だとは思わなかったよ。プレイヤーズが霞む」
「今度帰ったら、街を冒険しません? カフェとか見つけたいです」
「二人で?」何の意見性のない発言。
「あー……そうですね」
レモンはふと悩んだ。オサムを案じた。
彼女は三人で仲良くしたかった。恋仲の者が含まれるグループには配慮が必要だ。なのだが、はてこの二人はいったいどんな関係か。ネズミの目でさえ恋仲と言えても、本人達が否定しては、と。そして否定とは、思春期だと面倒なことになる。恥ずかしくて否定したのか、本当にそういう関係ないではないのか。BBとオサムはどちらか解らない。
「ハチさんは、何人がいいですか?」
レモンの問いは無言で返された。彼は何も言わない。悩んでいる。わずか、彼の後頭部が揺れる。うなだれているようだ。
「……ごめん、オサムと二人がいいな」
どこかよそよそしい声。微笑ましい。彼なりの勇気があったのだろう。レモンは好奇心をほどよく抑える。
「いいですよ。やっぱ、二人になりたいですもんね」
「言い訳すると、プロペインさんからね……二人の時の、作戦というか。そういうのを教えてもらったんだ」
「だんだん、気にし始めていますね」
BBは赤い顔を斜めにして、恥に耐える。いじられるのだろう。不快ではないが、どうも気に食わかい心地がある。
「昔は、サムさんにあんなに口説いていたのに」
「今もだよ」
「もしかして他の女の子にもやってます?」
「レモンにはやってないでしょ」
「ですね。ちゃんと分別がついててよかったです。どんな子も口車に乗せるんじゃあ、酷いですからね」
「ナンパとかオレには関係ないかな。無理だ」
「ハチさんはモテるんですし、しなくていいでしょう」
「レモンもね」
BBの後ろは愉快に上品に微笑。BBとて、己の変化に気付かないハズもない。今まで不鮮明だったグロテスクな肉塊は、やっと形になってきた。けれどそれがあまりにも明確でありすぎて、むしろ不安へ誘われる。
「ハチさんって告白されます?」
浮遊から、空の下へ帰ってきた。この答えは如何にしよう。男女変わりなく告白はされた。ミステリアスな感じが素敵だとか、そう言われた。断って何もなしなら感動ものだ。無理やり唇を奪われそうになったこともある。過激なことをされそうにもなった。一度や二度のことではない。
だからこそ、芽生えた信頼に怯えを抱くのだ。
「されたね」安直な答え。「何度も。断ったけど」
「ですよね。私も何度かされましたけど、怖いですね。知らない人からいきなり気持ちを言われても、って。ハチさんは大丈夫でしたか?」
「……そうだね」
レモンは一息吐いた。どうもワケありとは知っていたが、これは深刻そうだ。オサムに心を開けたのは奇跡的快挙ではないか。
レモンは彼に慰めを与えることにした。
「ここは安全ですね」
「え? でも」
「ハチさんに酷いことをする人はいないですよ」
「……レモンに言われてもね」
ペロっと舌を出し、「ごめんなさいっ」と謝る。この件は互いに終わっている。BBも知っているので、これは冗談だ。だからこそ二人は笑っている。
坂を登る。坂の先では、曳光弾の光が見えた。マズルフラッシュも所々。争いだ。レモンはライフルを構え、スコープを覗く。見えたものを二度見した。
「ハチさん、暴風神風です」
「スコスコさん達?」
「はい」
言い終えて、レモンは無線をかける。
「レモンです。平原にて暴風神風発見。攻撃を受けています。オアシスより南東。来れますか?」
「すぐ行く。戦えるか?」
「やります」
レモンはバイクを降りる。BBと目が合う。頷き合う。
バイクが走る。BBが見たところ、暴風神風が押されている。相手は見たことがある。虹色の鳥の仮面を着けている。ユーロビートをやかましく鳴らしていた。鳥仮面は車のうえに鎮座。味方の攻撃を眺めている。対する暴風神風、岩やバギーを盾にするのも限界そうだ。彼らが叫ぶ。
「人々を失っている!」
「望みが断たれた!」
「地獄だ、やぁ!」
どうやら余裕はあるようだ。
BBの接近に気付く一同。モヒカン達は歓声でもって迎え、鳥仮面達はやけに流暢な「oh no!」を言っていた。
バイクに立ち、跳ぶ。空中で弾丸を斬り着地。レモンの狙撃で二人やられた。鳥仮面ことパロットが降りた。腰から、短い高周波ブレードを二本抜く。
「TINTIN」
英語っぽい日本語の発音で口にしつつ攻撃を仕掛けてきた。周りの者が首を軸に頭を回している。気持ち悪い。
パロットが上段から一刀。BBは弾く。間断なく斬ってきた。両手にそれぞれ持っている故の利点。また弾く。右手のブレードを首へ薙いできた。跳んで回避。同時に頭上から突いた。パロットはそれさえ弾く。しかし体勢を崩した。ショットガンを抜き発砲。パロットは横に飛び回避。しかし幾らかもらった。
パロットは背後、遠くへ跳んだ。その合間を機関銃とRPG兵が割り入る。パロットが指を鳴らす。機関銃の掃射。斬り捨てた。さらにRPG。跳躍。地面に着弾、爆発。兵士達を着地と共に斬った。RPGを奪いパロットへ撃つ。避けられた。
パロットの部隊はすでにレモンの狙撃により壊滅していた。暴風神風が突っ込んでくる。
「俺達はかっこいい!」
「すごいことしようぜ!」
「一日中だ!」
状況に混乱をきたしている内に、パロットは取り囲まれた。ブレードを取り落とし、天を仰いだ。
スコスコが進み出た。BBと同じ、ソードオフショットガンを持つ。
「おい、お前」
パロットにショットガンを向ける。
「俺の名を言ってみろぉ」
BBはブレードを仕舞った。どうやらオルスラと彼らは波長が合うらしい。パロットは悩んだ挙句、
「ジードォ!」
なんて答えた。「あぁん?」と素っ頓狂な声。
「もう一度チャンスをやろう。……俺の名を言ってみろぉ!」
「ジャッカル!」
「ぬぁぜだぁ!」
そこへ、まんぷくテロリストのバンが到着した。レモンも回収したのか、一緒に車から降りた。スコスコは用無しになったパロットを撃ち抜いた。「セッ……」何かを言いかけてパロットはデス。
「ようスコスコ」プロペインが手を挙げて挨拶。「こんな所にいたのか」
「ペインと飯テロ達か。久々だなぁ。おうハチのボーズ! さっきは助かったぜ」
「それはレモンに言ってあげてください」
「レモンの嬢ちゃん! ありがとよ!」
「いえいえ、持ちつ持たれつです」
暴風神風はバイクやバギーを立て直し始めた。スコスコが一人話に応じる。
「にしても、こんな所でどうしたんだ。突出しすぎて置いてけぼりか?」
「いや、自分達で来た。同盟の内蔵を痛めるためにな」
「なるほどなぁ。さしずめ特殊部隊か。それだけ強けりゃ当たり前かね」
「俺は運転するだけだがな。お前達はどうして」
「いつも通りさ。ウロウロして、物くれって言ったらこの有様よ。オルスラだけじゃない。他の同盟軍にもこうだ。ただ、結果的にはよかったな。お前さん達と敵対せず済んだからよ」
「そうかもな。けど、スコスコお前どうすんだ。ここでは誰からも物資をくれないんだろ」
「そうなんだよなぁ。だから、一つ思いついたんだ。協力してくれねぇか」
「聞こう」他のメンバーも興味ありげだ。
「同盟の補給基地を見つけたんだ。どうせ撃たれるなら、こっちから奪ってやる。襲ってパーティーだぜ! どうだ?」
「いいな。ちょうど俺達も物資に困っていた。乗った。皆もそれでいいな?」
異論はなかった。
「決まりだな。目標はそんなに大きくない。倉庫はたんまりだがな。行くぞ!」
スコスコは仲間に呼びかける。「襲撃に飯テロが加わったぞ!」「ヒャッハー!」「新鮮な肉だぜ!」実に楽しそうだ。
BBは乗り捨てていたバイクを起こし乗る。いつでも援護ができるようスコスコのそばへ。
出発。傍目から見れば、どう見ても無法者達だった。
「ようハチ」早速スコスコが話しかけてきた。「ピースサイダーはどうだ?」
「仲良くやっていけてます」
「そりゃあいい。流に紹介した甲斐もあった。しかし拳警のあんちゃんは大丈夫か? バチバチやってきたんだろう?」
「いえ、問題なく。信頼されてるみたいで」
「おいおい万事順調だな。心配する必要なかったか。何かあったら言えよ。俺様達と会えるのは少ないからな。部外者にしか言えないこともあるだろう」
「ありがとうございます。では一つ質問を」
「何だ?」
「入社時に聞かれたんですけど、それを。スコスコさんは脱出したいですか?」
サングラスを太陽で曇らせる。口をへの字に曲げる。彼は嘘も言わず真面目に答えた。
「そうだなぁ」バイクのハンドルを軽く叩いた。「俺様はどっちでもいい」
「はぁ……?」
「この世界も現実も楽しみ方次第だからな。だからよ、どっちでもいい。どっちにしたって好きにするよ」
「強いですね」
「強くはねぇな。楽なほうを選んでいるだけだ。ハチ公はどうだ。楽しいか?」
「……この世界は」
「なら、今を大事にしろよ! ワハハハハ!」
そう言っていると、基地が見えてきた。作戦はどうするのだろうか。
「おいスコスコ、作戦は?」当然プロペインは疑問に思う。
「決まってる。安心しな」
「で、何だ?」
「俺様達暴風神風は直進以外ない!」
「ヒャッハー!」「ヒャハハハハ!」「汚物は消毒だぁ!」「俺達はかっこいい!」「殺人タイムだ!」「頭ねじ切っておもちゃにしてやるぜぇ!」「うんぬ」
各々叫んで基地に突っ込んだ。マシンガンを乱射。火炎放射器を振り回す。斧を投げ、チェーンソーで切り刻む。急襲に敵は対応できない。
大半の敵は暴風神風が片付けた。ふざけた武器しか持っていなかったが、荒野をさまよう内に強くなったのだろう。
基地は掃除された。あっという間だ。ベッドルームは灰になった。倉庫を開ける。
「ヒャッハー! 飯だぁー!」実際、食糧はたんまりある。
「おい、札束とかあるぜ」「今じゃケツ拭く紙にもなりゃしねぇのによぉ!」
言葉の意味はともかく楽しそうだ。
もうすぐ夜になろうとした。歩哨を立て、手に入れたもので食事をしていた。モヒカン達の中に草食が入り、喚いている。
「スコスコ」プロペインが水を渡した。
「ヒョー。助かるぜ」
「強くなったな。今後もいてくれたら助かるんだが」
「いいぜ」
「え」
あまりにもあっさり、暴風神風が仲間になった。




