第11話 ヒューマンエラー作戦
「よく来てくれた、二人共。早速だがブリーフィングを始める」
ハリーが始めた。部屋にはBBとオサムが座り、他の飯テロメンバーは授業参観のように立つ。雫と、その他部隊長、指揮官もいる。なるほど気合いが入っている。オサムは見るからに緊張していた。
「今回、我々は君達に特殊な作戦に従事してもらうことに決めた。その名もヒューマンエラー作戦」
「ヒューマンエラー?」BBが眉をひそめる。
「名前は気にするな。まず概要から説明しよう」
ハリーの後ろの壁に簡易な地図が貼ってあった。現在地と、アライランスラインまで。目標の廃墟街に点がつけられている。現在地の背に列車砲もあった。ここまで運ぶのは苦労したろう。
「質問はあとからだ」ナイフで列車砲を指す。「君達の目的は廃墟街、対空兵器の破壊。そしてベッドアイテムの全破壊。以上だ。しかし会議の結果、既存の方法では侵入不可能、ないしは困難であると結論づけられた。そこで」もう一度列車砲のイラスト指した。叩く。「こいつを使う」
BBは言っていることが理解できず瞬き。オサムは予測して考える。だがそれは裏切られる。
「君達には、列車砲、梅と桜の砲弾の中に入る。そして撃つ。空中で砲弾を時限爆弾により爆破。中から君達が飛び出る。その勢いを利用したまま、つまり弾道を進み降下。着地寸前でパラシュートを展開。ノーダメで着地。そこからは君達の自由裁量だ。ベッドと対空兵器を破壊してくれれば文句ない。終わったら無線で連絡。本隊を突撃させる。アライランスラインに穴が空くワケだ」
BBもオサムも、それどころかこの場の者も、凍りついた。初耳の二人はともかく聞いていた者さえ困らせた。意味不明な作戦と言える。
ハリー自身もよく解っている。呆れで半端に笑った。ナイフをしまい、腕を組む。
「さて、細かく説明しよう。まず、列車砲の弾に乗ってもらうことからだ。砲弾は子供くらいなら入ることが確認されている。中身を抜いてな。入ろうと思えば大人も入れると検証されたが、BBとオサム以上の戦闘力を持つ大人はここにいない。まぁいい。とにかく、君らが乗るのは砲弾だ。文字通りの弾丸輸送ということだ」
「あ、あの」オサムがおずおずと手を挙げた。
「解っている。ヘリも地上も敵の対空及び航空戦力の強大さのせいで近寄れない。砲弾で運ぶと言うとたまげるだろう。けれどロケットの代用と考えてくれればいい。次に、なぜ空中で弾を爆破するのかについてだ」
草食は笑いを堪えるのに必死だ。全くもって滑稽で、やれるか判らない作戦。心が踊る。ハリーは長めに続けた。
「砲弾によってそのまま敵地に送ることは可能だ。しかし威力が高すぎて地中に入ってしまう、ないし地面に穴が空く。それを回避するための爆破だ。そして、たとえ空中で砲弾が弾けても、内部にいるプレイヤーや物体は弾道に乗り続ける」
「パラシュート。こいつは開いた瞬間、効果を発揮する。現実のものなら不可能だ。だがゲーム的には、ギリギリで開いても機能する。敵地までの弾着時間は計算済みだ。君達は無線で指示された通りにすればいい」
「時間は?」耐えきれずBBが聞く。
「あとで話す。そして一番の疑問は、そんなことしてデスしないかだろう」
盲点だった。二人は気付く。
「砲弾の中にいる時に、デスはしない。これが実験結果だ。ただしGはかかるだろうな。苦しいだろうが耐えてくれ。さて、質問は?」
「そうなると、支援は受けられないんですか?」
「いい質問者だ、オサム。支援は梅と桜の十分間に一度の砲撃のみだ。少なくとも君達が現地に送られてから十分は支援なしと考えてくれ。……これは非常に過酷な任務だ。子供二人に任せる大役ではないだろう。だが、君達しか頼れない。頼んだぞ」
「オレ達もプレイヤーです」目が笑っているBB。「プレイヤー同士、フェアに行きましょう」
「あぁ。では移動しよう」
ブリーフィングは終わった。まんぷくテロリストは車、バイクに乗って列車砲まで行く。見送りとして他の兵士たちも着いていく。その間、爆破、パラシュートの時間を聞いた。訓練なしのぶっつけ本番だ。
改めて、列車砲二基と向き合った。今は砲身が横になっている。BB達は別れた。それぞれ、BBが梅、オサムが桜へ。砲弾の弾頭から入る。先端の尖りをパカッと開いて入ったのだ。閉じられる。中は暗闇となった。外から溶接される音。
居住性はよくない。暗い。手狭。BBに恐怖が襲う。こんな暗い中に閉じ込められるいじめを受けたことがある。冷や汗が流れた。彼の強がりで耐える。
「こちらプロペイン。大丈夫か?」
気軽に聞いただけなのだろう。オサムは「平気です」とこれまた気楽。BBも、極めて平静を装って、「大丈夫」とだけ答えた。
「ハチ? 本当に大丈夫?」
しかしオサムには気付かれた。不思議と息が抜ける。なぜだか心が安らいだ。
「うん、大丈夫」「……よかった」
二人はこれで会話を終えた。
砲身が傾く感覚。ハリーが無線で話してくる。
「これより、ヒューマンエラー作戦を開始する。天気は晴れ。現在昼。二人共、鳥になってこい。……発射!」
爆発。背中が壁に叩きつけられる。口一つ開けられない。今は外か、どこか。
「時限爆弾カウント開始!」
雫の声が聞こえる。遠い。耳に轟音、目も開けられるかどうか。
「……残り十秒!」
いつまで経ったのか。背中につけられたパラシュートのお陰でぶつけた痛みはない。
「四、三」
来る。覚悟。
「二、一」
目の前で何かが起こる。
「今!」
爆発。光が目に飛び込む。砲弾が破片として後ろへ。空だ。眼下には砂漠。左を見る。遠くにオサムがいた。手を振る余裕はない。
「展開まであと五秒!」
もうすぐで街だ。武力的抵抗がない。反応されていない。
「三、二、一、展開!」
指示通りパラシュートを開いた。目の前にはアスファルト。開くと空中に体が持っていかれ、落下が急にゆるやかになる。着地。ノーダメージ。
立ち上がり、パラシュートを外す。アサルトライフルを取り出し、無線をかける。
「こちらBB、着地成功」
「同じくオサム。成功です」
「それじゃ、作戦に移って。すでに部隊の出撃は備えているわ。頑張ってね、二人共」
雫に応援され、二人は駆け出した。
オサムはまずベッドルームを探ることにした。BBとは離れた位置に着地したようだ。故に完全孤立無援。なら、まず敵の量を減らさなければ。リスポーンを断つことにした。
オサムに気付いた敵が一人。サイレンが多い街のビルから見下ろした。視線に気付きすぐに撃つ。ヘッドショット。無線で伝わってしまい、オサム達の侵入も看破される。
幸い付近に大砲はない。ビルの中へ行こう。走り出した瞬間、遠方から銃声。BBも始めたようだ。そしてバイクの音。こちらに来ている。叫び声。
「三千連邦は同盟のものだ!」
聞き覚えのある声だ。思わず足を止める。バイクが走り来た。片手にマシンガン。撃ってきた。建物の影に入り、バイクは通り過ぎた。体を出し射撃。三人やった。だが敵は華麗にターン。こちらに来る。銃撃を防ぐ場所はない。銃を捨て刀とナタを抜く。一斉射撃。オサムは全ての弾丸を斬り捨てた。
「ここに来るべきじゃなかったな、オサム!」
女性の声。エンデルフィンだ。スマイリムのリーダー。
右手の刀を咥え、銃を持ち背中を撃つ。一人やった。しかし依然エンデルフィンは健在。十字路で彼らは三つに別れた。正面に向かった者を撃つ。そこにスマイリムの長はいなかった。
横から敵が来る前にビルの中へ逃げ込む。「ぶっぽるぎゃるぴるぎゃっぱっぱぁー!」と中の敵が叫ぶ。構わずキル。撃ち続ける。刀とナタを納める。間違いない。彼らはオールドスランガーズだ。オサムは無線を取る。
「ハチ! スマイリムがいる! 外をウロウロしている!」
「出会った! 今はビルの中!」
「わたしも! 敵はオルスラ!」「敵はオルスラ!」
共鳴。相手はオルスラ。なら付け入る隙はある。練度が低くてもおかしくはない。
もちろん油断はしない。オサムはビルの中を走り探索した。一階クリア。二階へ。狭いビルだ。一階ごとは大きくない。二階クリア。三階へ登ろうとしたらワイヤートラップが。わざと作動。天井から手榴弾。爆発。音を聞いて敵が降りてきた。待ち構えるのはオサム。弾丸の雨を降らす。来た者全員をキル。
階段を登る。三階部屋にはに敵多数。銃を捨てて壁へ。刀とナタを抜く。手榴弾のピンを抜く音。聞いたオサムは室内へ突入。投げられた手榴弾を跳ね返す。爆破。
正面から撃たれる。斬って捨てる。そのまま進む。敵は恐れて下がろうとする。逃がさず斬った。キル。背後からの銃撃。ステップでかわす。撃ってくる敵へ直進。三回斬ってキルした。三階クリア。ベッドなし。次の階で最後のハズだ。
階段を登る。四階。機関銃の乱射を防御何発か貰った。近付きキル。周りの者へは手榴弾。キル。
外からプロペラの回る音。ヘリだ。上から来た。ミニガンを撃ってくる。オサムは階段へ逃げる。屋上へ。飛び出て、ヘリへ身を投げる。フロントガラスへ引っ付いた。指先で捕まった。驚いたパイロットはヘリを無茶苦茶に操縦。落ちていく。
オサムはヘリが横を向いた瞬間、別のビルへ飛び移る。窓を破り中へ。ベッドが無造作に置いてあった。敵も複数。しかしヘリパイロットは持ち直し、こちらを狙う。オサムは背を低くし走る。仲間を巻き込むミニガンの乱射。ベッドを次々破壊。すでに上の階にいるオサム。
その階に敵はいない。ただし武器は置いてある。RPGだ。拾う。罠だ。周りの家具から人が飛び出る。躊躇なくRPG発射。天井を破壊。瓦礫が敵の上に落ちた。キル。もう一発あったので貰う。ヘリがこちらへ。オサムは横に走る。ミニガンが回り始める。オサム、ビルから飛ぶ。狙いはヘリ。発射。ミニガンも発射。RPGの弾頭がヘリに弾着。オサムはそのまま別のビルへ。
屋上に着地、ダメージ。すぐ回復。刀とナタを抜き走る。階段を滑り降りる。下の階はベッドルーム。先制できる敵を次々斬撃。カウンターしていく。突破。手榴弾を転がしベッドルームを破壊。さらに下へ。
外へ出た。地上。スマイリムがまた来た。オサムはついでに滅ぼそうとした。少なくともバイクを破壊すれば奴らは一兵卒だ。道中拾ったアサルトライフルを使う。
「は! 見つけたぞ!」
バイクで走ってくる。すかさず銃撃。腰を屈める。正面の敵のバイクを撃ち続け爆破。連鎖して他のバイクも爆発。
後ろからも来た。エンデルフィンがいた。撃たれる前に撃つ。敵はどんどん倒れる。しかしいくらかオサムも貰う。エンデルフィンを狙うもウィリーで防がれる。ガソリンタンクを撃ち抜いた。ウィリーを止めバイクの上に立つ。オサムは弾切れ。リロードしている。エンデルフィンがバイクから空中へ跳ぶ。火炎瓶をバイクへ投げた。
意図を理解したオサムは横へ走り身を投げた。火炎瓶炸裂。爆発。バイク爆弾だ。オサムは起き上がりながら回復。エンデルフィンが挑んでくる。
大ぶりな斧の振り下ろし。オサムは避け腹を斬る。キルには至らず。斧を斜めから振り下げられる。刀で弾く。ナタで首を一閃。避けられた。サブマシンガンを向けてきた。撃つ。オサムは下がり弾を斬る。弾切れ。その瞬間、オサムは跳び頭上から兜割り。エンデルフィンが避ける。ナタで突く。よろける。機を逃さず刀で首を突いた。キル。
「こちらオサム。エンデルフィンさんをやった! バイクも!」
「了解! 次だ!」
BBに報告。再度ベッドルーム探しへ。
そこへまたヘリが到来。更に街中に配備された戦車がオサムを狙う。
オサムは走る。一つの戦車へ。砲撃してきた。ジャンプでかわす。眼前へ。上に飛び乗りハッチを開ける。中の者をキルしていった。戦車を操縦。砲塔を回す。ヘリを戦車で撃ち抜いた。二機目も落とす。他の戦車から撃たれる。戦車から抜け出す。跳ぶ。戦車爆発。爆風でより飛ぶ。転がり着地。ビル内へ。
そこへ、砲弾の飛来。戦車隊をぶち抜き、アスファルトの地面を吹き飛ばした。列車砲の支援砲撃だ。
あとはもう、特筆するようなこともない。ひたすらBBとオサムが暴れ、ベッドと対空兵器を破壊。ついでにヘリと戦車とスマイリムを壊滅させた。
「こちらBB。ベッドルームは大方破壊。確認できる範囲では対空兵器を全滅。もういいでしょう」
わずか三十分のことだった。走り詰めだ。
「了解よ。あ、ハリー、その弾はこっちに。よし。あとは待機して休んでね。でも警戒は解いちゃだめよ」
「はい。それでは」
無線を切った。BBは、近くに来たオサムに微笑みかける。
「お疲れ様」
彼女は頬が赤くなる。返事をしようとして、
「かかったなアホが!」
サイレンから声。街中のからだ。BBには聞いたことのある声。仮面の少年が現れた時の、あの女の声。
「まさか我々が、我々オールドスランガーズが、お前達まんぷくテロリストをこの程度で止められると慢心したと思うか。お前達がここに来るとは知っていた。ここは唯一、防衛ラインに空いた穴だからな!」
罠か。二人は武器を構える。
「そしてお前達の弱点は研究済み! ついでに連邦も滅ぼしてやろう! いくぞ! 畳返し作戦、フェーズ3に移行! 対まんぷくテロリスト専用決戦兵器第一号、資本主義! 起動!」
地面が揺れる。裂ける。二人は走る。
逃げ、振り返る。そこには、幾多数多の砲を備えた、街からはみ出るほどの巨大な壁がそそりたっていた。
「続けて! 対まんぷくテロリスト専用決戦兵器第二号共産主義、全機出撃!」
壁、資本主義から続々共産主義が現れた。
「まだだ! 対まんぷくテロリスト専用決戦兵器第三号帝国主義、投入!」
壁の後ろから、箱にプロペラを四つ着けた兵器が現れる。歪なことに、大量の銃器がハリネズミの如く生えている。
「さぁ、まんぷくテロリスト! これが我々の本気だ! そして、畳返し作戦、フェーズ4に移行!」
ヒューマンエラー作戦の失敗が判明した。




