第10話 シミュの楽しみ
連邦軍は全戦線でついに停止した。
経済同盟の猛反撃は失敗に終わった。これで、同盟の攻撃チャンスはほとんど消えた。このまま連邦の侵略に身を委ねる、ハズだった。攻めるなら、守る。同盟は機会を伺うため防衛に徹した。
連邦の前に壁が立ち塞がった。通称アライランスライン。攻撃を止め、全てを防衛に回した同盟。その意志の結果。負けてから造ったものではない。
雫曰く、一度ここまでは攻めた。が、このラインを越えられず、結局退いたことがあるとのこと。大真面目な話、地中を掘って突破することも考えられたぐらいには強固だ。
作戦を立てるため、ピースサイダーの指揮官や部隊長が集められ、会議を開いた。草食はいかなかった。代わりにレモンが行った。
「何で姉さん行かなかったの?」
暇をしているオサムが草食に言う。現在、アライランスラインより前の基地。草食とオサムが割り当てられた部屋で横になっていた。
草食は両手を広げ、オサムの言葉に答える。
「あたしよりレモンちゃんのほうが作戦は立てられるしね。あれだよ。君臨せずとも統治せず、って奴」
「すれども、じゃなかったっけ」
「そうだっけ。ところでハチは?」
「またオーウェルさんにつかまってる。何を話しているんだか」
「あたしの話も聞いてほしいんだけどねぇ」
「今はハチにお熱だよ」
言って、腹立つ。もうBBに依存はしてない。なのに、こうまで苦しくなるとは。そしてこれは恋ではない。オサムにとって、恋愛をする奴は自分をいじめてくる奴のことだ。
それはそれとして、オサムは悩む。自分の弱さについてだ。これは一人では解決できない。草食はとても暇そうにしている。今捕まえなければ、誰かと賭け事をするだろう。
「姉さん」ベッドから起きる。少し重たい口。
「何?」
「訓練に付き合ってくれる?」
「えぇ? あたし武器振れないよ」
「弾を斬る訓練をしたいの」
「あぁなんだ。あたしが撃てばいいのね」「そう」「じゃあやろう。どっか空いてるところへ」
外に出た。砂漠地帯。砂が吹き、風は空気のみを運ばない。目覚めの深呼吸はできなさそうだ。空き地へ。他の兵士もやることがなく、喋って時間潰し。
撃っても申し分ない場所に来た。オサムの背には何もない。周り、遠くには銃の訓練をしている人がいる。なので銃声で迷惑することもない。
オサムは刀とナタを抜いた。刀を右手に。ナタを左手に。刀を前に構えた。それより前に草食。彼女はかっこつけてリボルバーを抜く。ガンプレイをしていた。
「んで」まだ銃を回している。「どうやろうか」
「まず、どこでもいいから一発撃って」
「あいよー」
草食が片手で構え、狙いをつける。
オサムは銃口を見る。弾丸が放たれ進む軌道をシミュレーション。あとは草食次第だ。
引き金が引かれた。撃たれた。斬った。終わった。オサムは頷く。とりあえずは斬れる。確信できた。問題ないので、続けて言う。
「次は二連射お願い。できるだけ遅めにね」
「遅めね。はいはい」
草食がリボルバーを腰へ。ハンマーに左手を添える。オサムは先と同じようにイメージする。しかし二射目はどこに来るか。瞬間で判断せねばならない。
来た。発砲。どちらも斬った。問題なし。片手でしのげる。
「次はもっと早めて」
「ババンといくよー」
素早く二連射。これも斬り伏せた。だがオサムは一息吐く。速かった。反応はできたがまだ遅い。
「最後の一発だ。テキトーに撃つよ」
草食が宣言。緊張が高まる。ガンプレイをし、宙にリボルバーを投げ、体を一回転。発射。難なく斬れた。
「うーん」
草食は少し残念そうだ。当てたら喜んだのか、どうなのか。オサムには関係のないことだった。リロードしている。幸い、弾は腐るほどある。彼女は草食の早撃ちに強い期待をかけている。
「姉さん、アサルトライフル持てる?」
「まぁいいけど。サムってまだそこまで斬れないっけ」
「うん」
言葉の裏に悔しさがあるのは明白。それだけでなく、草食は寂しさを見つけていた。BBに置いていかれるという悲しみ、寂しさ。親友と学力で差があった時などは、こういう感情なのだろうか。
草食は何も言わない。卑しい意図はない。ただ、オサムに対し不思議な目で見ていることを知った。妹に向けるような。歳が離れ、成長する妹へ。
アサルトライフルを借りた。オサムは身が強ばる。強ばりが、首さえ絞めそうだ。
「まずは三点バースト……っていうんだっけ、お願い」
「バババンって奴だよね。おーけー」
草食が不格好に構える。擬音ばかりの表現だ。無駄なことに気付き、オサムはリラックス。もし狙ってやっているなら、カウンセラーの素質がある。
いつ撃つかは決めなかった。これまでの銃撃とは一線を画すだろう。
来た。三連射。弾道は全て想定通り。一発目を斬る。二発目が少し上に。斬る。三発目が下。届いた、斬った。金属の衝撃音が手を刺す。
また一息。とても神経を使う。
「姉さん」覚悟を決めたオサムが、頼む。「引きっぱなしでお願い。ずっと撃って」
「いいよ。気張ってね」
草食は狙いをつける。どうせ反動でバラける。胸の辺りを狙わねば多くが外れる。
わずかな静寂。日常の音さえ彼方へ消えた。
発射。一発目を斬った。二発目を斬った。三発目を斬った。四発目を外した。ダメージが入る。焦る。五発目も外した。パニック。対応出来ず全て受けてデスした。
銃を下げる。マガジンを抜きわリロード。立ってただ待つ。オサムはすぐ来るだろう。
彼女は走ってきた。ロストアイテムをどける。刀をとナタを取った。構える。目を合わせた。オサムは介錯を頼むが如く、草食を見た。
「サム。何でそこまでするのさ」
草食の問いかけに、邪推はない。それを知るが故に、慇懃に答えた。
「ハチはマシンガンだって防げるほどになった。でもわたしはまだ拳銃弾しか斬れない。あいつの隣に立っているには、弱いままじゃいけない」
「それはハチが望んでいること?」
「わたしが望んでいること。そして、ハチもそう思っていてほしいと、願っているよ」
「……なるほどね」
草食もお節介をかけたくなった。彼、彼女が親しい仲なのはよく知っている。だけどもそこに甘さは薄かった。パートナーとはまた違う。越えるべき兄と、越えようとする妹。それを幻視した。
「じゃあ、フルオートで、もう一回行くよ」
オサムは金剛のように目を見開いた。息をゆっくり吐く。落ち着きの静と、速さの動を一体化する。全て鋭く研がれる。意思は怒髪天。
来た。一、二、三発しのぐ。四、五発目も斬った。だが六発目は速い。捌ききれず次々被弾。デスした。
草食は何もせず待ち、オサムは来る。刀とナタを拾う。ロストアイテムを見て、悔恨の熱により頭は冷めた。左手を握り、止める。ナタがある。彼女はこれも前に出した。
一方で足らぬなら、もう一方を出せばいい。
またフルオート。一発目を右手で。二発目を左手で。これを続けた。鈍い激突音。火花が閃光となり散る。他の兵士達も、オサムの神業を見て来る。
全ての弾丸を斬った。なぜまだ銃弾の飛来がないのか、オサムは困惑した。斬りきったことに気付いて、やっと汗をかいた。
草食が近寄り、肩に手をかける。
「流石だね、サム」
オサムは疲れと嬉しさで、美しい笑みを見せた。
「まだ続けよう。いい?」
「休みなしでいいの?」
「もちろん。ハチは休みなしで戦ったことあるし」
「応援しなきゃね。ハチに追いつきなよ?」
「追い越して見せるよ」
二人はその後も鍛錬し続けた。オサムの奮闘は見る者を驚かせ、感嘆の至りへ行かせた。
BBとオーウェルも傍から見ていた。オーウェルは耳元で囁く。
「こんなに強くなったんです。ピースサイダーにいなくてもいいんじゃないです? 探しますよ? 給料のいいとこ」
「何度も言ってますけど、遠慮します。脱出のためですから」
「薄給のヒーローとは。共感は呼びやすいですけどね」
BBは彼の言葉を無視し、ただ、眺め浸った。
同時刻、作戦本部。
「状況を整理しよう」ハリーが舵をとる。「我々は現在、アライランスライン唯一の穴、廃墟街を前にしている。他のラインは重厚に要塞化されている。が、目の前の廃墟だけは取り壊されずそのまま利用されている。ここが一つだけ、アライランスラインで弱い部分だ」
全員傾聴。ハリーは続ける。
「しかし、実際は大量の地雷、ビルに隠された機関銃、街中に仕組まれた大砲により、守りはかたい。あくまでも、弱いというのは他と比べて相対的に、だ。だが弱いことに変わりはない。ここを落とし、同盟の深部まで進行する。そうすれば勝ちは目前。問題は、ここをどう突破するかだ」
他社の部隊長が聞く。「大砲などで街ごと潰せばいいだろう。瓦礫の山にしちまえ」
「我々が総攻撃を行えば、確かに街は滅びる。しかし、そこまで近付いたということは、すでに奴らの射程内ということだ。痛み分けになるだけだ」
「だがあれがあるだろう」部隊長はなお続ける。「有澤の列車砲が」
「あぁ確かに、それなら」
「ダメよハリー」雫が止める。「アレは一時間に六発しか撃てない。あの街は昔攻めたけど、再生能力が高い。クラフターまみれなのは間違いないわ。時間の無駄よ」
「ふむ。では、どうする」
「空中から投下するってのはどう」自説を展開する。「ヘリの最高高度まで行き、そこから兵士を投下する。そうすれば、被害なく行ける」
「ちょっと待ってくれ」今度はプロペインが割り込む。「たとえそこまで対空兵器が届かなくても、大量の兵士を投下できるほどヘリはない。皆戦闘か偵察ヘリだ。それに、パラシュートを開く高度によってはただのカモだ」
「あーそっかー」雫は頭を抱える。
「……反対だけじゃ意味ないな。俺も言わせてくれ」
「聞こう」ハリーが耳を貸す。
「これまで聞いたのを融合すればいいだろう。列車と通常の大砲で集中砲火。対空兵器をボロボロにした後にヘリで兵士を投下。殲滅。被害は大きいし投下する兵士は少ないが、どうだ?」
全員が納得した。リスクは大きいが、無理というワケでもなさそうだ。
だが一人納得していない者がいた。レモンだ。
「質問いいですか、プロペインさん」
「どうした?」
「敵の所有するヘリ部隊はどのぐらいですか」
彼は腕を組んで周囲に助けを求めた。プロシオンのパイロット、プロシオン(奇しくも機体の通称と同名)が言った。
「十二機はいる」
「ではこちらは?」
「五機」
落胆の声が聞こえた。プロペインもその一人だ。数で負けている。
ハリーが再びまとめに入る。
「あの廃墟街は近付く方法をいくつか挙げてもらった。まず砲撃による接近。空中からの投下。それらを複合した方法。しかしどれも対空能力もしくはヘリの存在で不可能になっている。このままでは制空権を取れずじまいだ。この点を考慮して話を進めていこう」
とは言われても。誰もが頭を捻った。空はダメ。陸もダメ。なら海は。部隊長がそれに気付く。
「アライランスラインは西の、海まで続いているんだろう? なら海で迂回してもらえばいい」
「すまない、伝え忘れていた。アライランスラインの海は最も対空防御が固いんだ。とても突破はできない」
「おいおい手詰まりだ。いっそ地面でも掘るか?」
「それは考えたわ。昔ね」雫が苦々しく答えた。「やろうとした部隊は失敗したわ」
ふりだしに戻った。誰もが黙りこくっている中、一人が進み出た。
「あのー」
皆が見ると、有澤火薬庫のマッドサイエンティストな奴がいた。
「何だ」ハリーが受け答える。
「パラシュートの開く最適な瞬間ってのは既に調べてまして。ゲーム的な仕組みで、着地の寸前に開いても大丈夫ですよ。だから空中で撃ち落とされる心配はゴザイマセン。まぁ、開くのが遅れてデスするかもですが」
「なるほど。ありがとう」
「あぁちょっとお待ち。それとですね、梅と桜……列車砲の名前です。その二つの砲弾を色々いじった所、一人の子供ぐらいならすんなり入れるようになったんですよ」
「この話に関係あるのか?」呆れを含む。
「まぁ話は最後まで。そんで、我々から一つの提案です。ハチ公と誰かをその中に入れて、梅と桜から発射。時限爆弾で砲弾を破壊。中の人を外へ。そして着地寸前でパラシュートを展開。着地。あとはハチ公にお任せです」
「お前は何を言っているんだ」
至極真っ当な感想をハリーから入れられる。砲弾の中に人を入れてぶっぱなしましょう。酒飲んで思いつくようなネタだ。ここはサーカスではない。
レモンが噛み付く。
「人が砲弾の中にいて、それで撃ったとしても、中のプレイヤーは無事ですか」
「もちろん。通常の弾で実験しました。中にネズミを入れて撃ちまして、弾頭を回収。ネズミは生きていました。プレイヤーでもいけるでしょう」
「となると、ですよ」レモンは全員に向けて語りだす。「ハチさん達二人の少数精鋭で攻めるだけでコストは少なく済み、なおかつ二人の輸送の安全は保たれます。砲弾を撃ち落とすなんて、大砲にはできないでしょう。意外といけるのでは?」
「じゃあ、ハチともう一人は?」プロペインが試すように聞く。
「もちろんサムさんです。ハチさんの次に強いですからね」
「……他に、何かあるか?」
見渡す。一人一人苦虫を潰したような顔をしていた。
「やってみよう」
雫が同意した。彼女には希望が芽生えていた。感化され、他の者も同意。やらないよりやるほうがマシであることを、兵士達は知っていた。
二人を砲弾で輸送するこの作戦を、ヒューマンエラー作戦と呼称した。ずいぶん酷い名前だ。
実際のグスタフの弾見ると大人でも入れそうに思える(小並感)




