第9話 戦場は日時の外へ
「でかいな」
「……そうだね」
プロペインが呟き、草食が肉体的反応を返す。
五人は、目の前にあるものが何なのか今一つ理解していない。それはあまりにも巨大であり、兵器とは思えず。巨砲なるものが歴史上かつてあった。しかし、目の前のものと比べれば微生物とさえ言える。
「それ」というものは、有澤火薬庫の列車砲だった。戦前ドイツの作った、グスタフ、ドーラというものと変わりない。見た目は、だが。故に理解できないものだ。
しかし、当の有澤火薬庫の人間は自社の列車砲は目にくれない。回収した『共産主義』をあれこれ見ていた。
「いやぁ素晴らしい! これは中々参考になりますな。これを巨大化……いや、改良して量産すれば、戦車を超える兵器になりますぞ!」
ゴーグルをかけた男が一人大興奮。いかにもなマッドサイエンティスト。
オサムは列車砲に近付く。近付くのだが、あまりにも大きくて距離感が狂う。どこまで近寄れば、手に触れられるのか。
五人はマッド野郎を無視して砲へ。何とかそばまで寄れて、触れる。ここまで来るともう建築物だ。砲の後ろには長い線路が伸びていた。
先のマッドがこちらに来た。
「いやぁ、どうですか。すごいでしょう? クラフトアイテムの中にありましたから、造ったんですよ。まだ撃っていないのですけどもね。これさえあれば、敵の心臓を狙うこともできるでしょう!」
「はぁ……」ドン引きするプロペイン。しかし質問はある。「なぁ、撃たないのか」
「いやぁ、その、金がかかるんで。あと、十分に一回しか撃てないので。正直、その、使い所が……」
「工場砲撃以外にないと」
「えぇ」
「じゃあ何で造ったんだ。クラフトアイテムの中にあったからか? 政府からか?」
「いえいえ。造りたいからですね」
「お、おう」
BBは話を聞かずただ上を見た。大砲が斜めに向けられている。オサムも我を忘れ見る。
レモンといえば、色々謎を思っていた。これはどう狙いをつけるのか。ある程度見たが、砲塔が旋回することはなさそうだ。だとしたらこれを動かさないといけないのか。じゃあそのために線路を敷くのか? バカげている。呆れる。
「何でさぁ」草食はマッドな奴に問う。「あたし達を呼んだの? そりゃあ、しばらく休めとは言われたけど」
まんぷくテロリストは現在司令部から休ませられている。これは慈悲ではない。戦果のほとんどがまんぷくテロリストなどのピースサイダー陣営に取られている。そこまでされると他社の業績に響く。
ここで反発しては反感を買うだけだと雫は言い、彼ら五人は休まされた。今の戦線は安定している。正直、飯テロほどの大戦力を投入しても過剰になるだけだ。
「いやぁ聞きたいのですよ」マッド野郎は揉み手をしている。「この兵器、そう共産主義のスペックを知りたくてですね。聞かせていただこうと」
「んじゃあハチ」草食がBBを呼ぶ。「説明してあげてよ。あたしも興味あるし」
「え、何を?」
「この、共産主義とかいう奴、兵器についてだよ」
「いいけど」
BBは全員に向けて語り出す。ロケットブースターにより瞬時に移動できること。近接戦闘に特化していたブレードがあること。ミニガンも撃てること。ブレードを斬り落としたこと。
「そして、操縦者がオールドスランガーズの人だった」
「言ってたな」プロペインはすでにそのことを聞いている。「誰だった?」
「さぁ? 仮面被ってた、声変わりしてない子供でしたよ」
「喋り方は?」
「普通でしたね。オルスラにしては珍しく」
「仮面……どこかで見たな」
オサムが記憶から光を見出し、思い出す。
「それって、ファームシティに火をつけたあの少年じゃない?」
「いや……誰?」BBは憶えていない。
「ほら、最初、はじめてファームシティに入った時の。あの時に攻めてきたオルスラの一人」
「いたような、いなかったような」
「チェリーさんがキレて撃った奴って言えば解る?」
「あ」全員思い出した。「あいつか」BBも納得。
「あの子、わたしが持っている刀の持ち主だったね」
「そうだね。言われたよ。おれの刀を返せって。なるほどあいつか。まぁ、どんだけ恨んでいるんだって話だけど」
「執念深いのかもね。また出てくるんじゃない?」
「だね。前はあれっきり出なかったけど」
いつの間にか話を取られたマッドな奴は狼狽する。それでも聞きたいことは聞けたので、大人しく退散する。それをプロペインに止められた。
「他に聞きたいことは?」
「いえ、ございません」
そう言ってどこかへ行く。もうここにいる理由はなくなった。けれどこれから行く所もない。五人は見合って、困った。
休みと言われても、一日程度。連邦に帰られるワケではない。仕方なく戦場に帰ることにした。邪魔にならないようにする。
オーウェルがひょっこり現れた。彼も列車砲を見ていたらしい。話も聞いていた様子。満足気な顔だ。
前線近くに戻ってきた。戦場は、現在手に入れた山を守っている。敵は奪還のため攻撃してきた。すでに防御陣地はできており、包囲もされていない。敵もヘリを投入。だが対空戦車のカモにされた。
まんぷくテロリストは山の地下要塞の中にいた。することがない。やることがない。たまらず戦場に出ようとして、数多の兵士に押し返された。
仕方なくカードゲームをした。賭けは禁止。そのせいで盛り上がらず。
巡回兵が暇そうな五人を見つけた。
「あの」兵士の女は話しかける。「マジで何もすることないんですか」
「そうですね」レモンが答えた。「だって、前線ですることは戦いでしょう。それをしなければ暇なだけですよ」
「はぁ。じゃあ上に掛け合って戦闘に参加します?」
「え、でも」
「あれですよ。山の上から撃ち下ろすだけの作業なら許してくれるんじゃないですかね」
「やってくれます?」
「いいですよ」
彼女は去る。前線なのに戦っていない兵士を見れば苛立つ。他意はなくとも。
結局、前線に行った。ただし突撃等は禁じられ、レモンと草食は大砲係に任命。完全に左遷だが、暇よりはいい。
BBとプロペインは二人並んで撃っていた。オサムは別に回されている。
「そういやハチ。共産主義は第二号だったんだな?」
「そうですけど。二号機らしいですね」
何人かキル。リロード。
「となると、あれと似たようなものが何機かいるということか」
「もしくは全く別物か」
「ありえるな。そういや雫はどこだ」
「さぁ判りません。どうかしました?」
「俺達が戦っていることを伝えないとな。あくまでも暇潰しとして。本格的な参戦はしていないとも」
「多分もう伝えられていると思えますけど」
「一応、な」
プロペインは移動。BBのほうは草食の元へ。サボっていないかの確認だ。大砲陣地へ。
地下要塞の上。地上。そこは大砲陣地に変えられていた。自走砲、大砲、対空戦車。よりどりみどり。その中で、汗を流して大砲の弾を運ぶ女がいた。草食だ。
BBは駆け寄った。草食もそれに気付く。
「ハチ。どしたの」
「いや、様子を見に来ただけ。サボっていないみたいだね」
「そりゃレモンが見えるからね」
「オレも持つよ。重いでしょ」
「助かるよ」
一つの砲弾を二人で持った。何ともバカバカしい光景。BBは手に伝わる重さを計量。これは一人でも持てそうだった。彼は草食に合わせて行く。その草食が口を開く。
「あたし最近思うんだけど」
「何?」
「何でマケメロンがこっちを攻撃したのかなって」
「あの人……やっぱクリエイター関連でしょ」
「そうだけどさ。心変わりが早すぎるっていうか。あいつ、現実には帰りたくないって言ってた。でも、だからって暴れるような奴じゃない。だから余計解らなくって」
「クリエイターと現実への帰還に、関係があるんでしょ」
「そう、なのかも。帰ったら、ヤバいこといっぱいあるからね」
大砲まで来た。レモンが双眼鏡で敵の陣地を観察している。
「やぁ、レモン」
「ハチさん。姉さんを甘やかしちゃいけませんよ」
「ごめんごめん。次は一人で運ぶよ」「え、マジ?」
草食の言葉を無視し、また砲弾を持ってくることに。なぜ人力で運んでいるのか疑問だ。周りを見れば、同じような兵士が幾人も。彼ら彼女らもまた、同じことを思っているだろう。
「現実に帰るのも、ひと苦労といったところかな」
「そういう姉さんは、帰りたくないの?」
「え? んまぁ、うん。帰りたいね」
草食は唇を舐めた。
「嘘だと判るよ、姉さん」
「何が?」
「帰りたくないんでしょ? 現実に」
彼女は辺りを見渡して、唇を噛んだり、頭をかいたりする。図星なのは明らか。
「そんなこと、ないよ」
「オレは姉さんがどう思おうといいよ、別に。人に言いふらすつもりもないしさ」
BBを見る瞳には、わずかだが理解者への甘えが滲んでいた。周囲を憚り、うつむく。確かな罪悪感があった。
「あたし、さ」草食は語り始める。「まぁ、うん。現実には帰りたくないな」
「どうして。言いたくないならいいけど」
「いや、ハチには知ってもらうよ。あとで愚痴とか聞いてもらうためにも」
彼は息を吐いた。諦観と、枯れ木に美を見出す息だった。
「あたしさ、見ての通り賭け事ばっかりやっててね。スロットにどハマりしていたんだ。そのせいで、いっぱい借金して。そこそこの大学は出たけど、全く就職できなくて。ずっと遊んでばかりいた。親からは当然疎まれたし。食卓は地獄だよ。ニートなんてこのご時世珍しくはないけど、やっぱ厳しいね」
大砲の弾を受け取り、二人は一人一つ運ぶ。足はゆったりと動かす。
「姉さんはよくこのゲームを買えたね」
「それも借金だよ。このままじゃダメーってのは判るんだけどさ。どうにもやめられなくて。現実から逃げてたんだよ。バカだよね」
慰めの言葉をかけようとして、意味はないことに気付く。今は独白を聞くだけ。話の腰を折るワケにはいかない。ただ、「続けて」とだけ言う。
「続けてって言われてもね。あたしはただのクズだよ。社会に適応できず、ゴミみたいなことばかりする。その分、この世界はいいよ。得意なことをやったら褒められる。死ぬこともなければ、家族とかいう圧迫もない。あたしにとっては、楽園だよ。帰る理由がない」
「そうだね」
「そうだねって、家族がいるのに帰らないとか、親不孝だと思わない?」
「思わない。親孝行なんて親が子に依存しているだけだよ。そんなの気にしなくていい」
草食は彼の思想の貫徹に驚く。親を殺されたかのようとはいうが、恨んでいるのは親のようだ。
「ハチは家族が嫌いなの?」
「家族なんていないよ。それより、姉さんはどうして脱出なんて言いだしたの」
「そりゃあ、そのほうが仲間集まるじゃん。実際、色んな奴が集まったでしょ」
「そうだね」
「……ハチは家族いないの?」
「言いたくない」
「嘘を言わないこと、感謝するよ」
彼女は目を閉じ笑みを浮かべる。暗い過去があるのかと聞かれ、言いたくないと言われれば、それが答えだ。嘘つくこともできるだろうに。
二人はまた大砲に着く。砲弾が発射された。レモンが耳を塞いでいる。BBはうるさくて歯を食いしばる。
「持ってきたよー」
草食が弾を粗雑に置く。BBもふらつきつつ置く。
「それじゃあオレは他の所行くよ。じゃあ」
「ありがとございます。それじゃ」
レモンに言われ、BBは去る。砲兵は弾を入れ、また撃つ。レモンと草食は自然、会話を始める。
「ハチさんと何話してたんですか」
「乙女の秘密だよ」
「姉さんって何歳ですか」
「二十三だけど」
「乙女とは言えませんね」
「レモンちゃんや。シンプルに傷つくこと言わないでよ」
彼女にクスクス笑われ、草食も皮肉に笑う。レモンが自分の真意を知ったのなら。心に不安がよぎる。もしそうなら、裏切ったのは自分だ。
いつかは知られるだろう。ならせめて、今は交流を楽しみたい。わずかな諦めが、むしろ心地よかった。




