第5話 自称二十世紀
家が建てられた。まんぷくテロリストは狭いながらも満足そうで、一夜を過ごした。個別の部屋もない窮屈な二階建て。いつものウッドハウス。
朝が来た。スラムの人々も起き出し、仕事をしたりギャンブルで遊ぶ。どうせ肉体的には死なないとはいえ、実に呑気。BB達も雑魚寝から起きる。最も早く起きたのはBBだった。起床したとはいえ、今のところ仕事はない。仲間を起こすまでもない。
寝床の二階から降りて一階へ。玄関からすぐダイニング。申し訳低度のテーブルと椅子がある。水道はない。このスラムには通っていない。水は買うものだ。
散歩でもしようかと玄関に行く。ノック。インターホンがないことに驚いた。当たり前ではある。BBはわずかに警戒しつつ扉を開ける。
そこにいたのは雫だった。
「おはよ、BB君」
「おはようございます。早いですね」
「うん。伝えたいことがあってね。ランニングのついでに寄った」実際、彼女の格好はスポーティーだった。「連邦政府から依頼が来たの。だからまぁ出社する前にそのことを共有しようと思って」
「了解です。皆にも伝えときます」
「頼むわ。それじゃ」
ランニングとは意識の高いことだ。そう思う内に雫は去っていく。BBも外に出る。車から食糧を取りダイニングに並べる。いつもの缶詰めだ。
しばらくして、仲間が起き始める。草食が一番遅く起きた。各自で食事を取り、BBは一人一人に雫の言ったことを伝達した。ピースサイダーに入って初めての仕事だ。草食以外は気合が入る。
出社、ビルの中へ。そういえばどこへ行くべきかと迷っていたところ、ハリーが会議室に案内してくれた。雫がすでにいた。どうにも勤務態度は良好らしい。
「来たわね」
雫がニッコリ。挨拶を交わす。座ってもいいとのことで座る。BBとハリーは頑なに立つ。
「もう知っていると思うけど、政府から依頼が来たわ。経済同盟との戦いに駆り出されることになったの。戦争の途中で、さらに人手が欲しくなったってワケね」
まんぷくテロリストは理解はしている。だが事態は判っていない。見かねたハリーが言葉を継いだ。
「経済同盟とは長らく戦争している。今は長大な戦線を奴らと築いている。知っているなら、第一次大戦の西部戦線と同じような状況だ」
プロペインは疑り深い視線をぶつける。そして言う。
「一次大戦って、それは比喩か。それとも……」
「本当だ。あそこでは塹壕がある。そこでバカスカ撃ち合っている」
「この二十一世紀で塹壕? 戦車だのを投入すればいいんじゃないか?」
「最初にそうしておけばよかったな。だが、連邦も同盟も兵士は全員傭兵で、会社員だ。それぞれの思惑がある。ヘリだの戦車だのには金がかかる。そう易々と投入したがらなかった。結果、安価な大砲などが投入され、今や塹壕のシルクロードだ。今更戦車を投入しても大砲のいい的だ。ヘリも撃ち落とされた。それでもいいんだろう。儲かるからな」
聞いて呆れた。彼らは最早何のための戦争かさえ忘れたのではないか。ただ、子供達はイメージが湧かない。そもそも塹壕とは何だ。プロペインは彼らを見て「見れば解る」とだけ言った。
「でも、これはチャンスなのよ」
雫は手を組ませて言った。
「そうやって企業の連中が怠けていることを、私達が本気で行く。そうすれば知名も手に入れて、金も貰える。私達がこの戦況を変えるのよ」
納得する。しかしだ、プロペインは思案顔。西部戦線と言われる分厚い壁を、たかだかまんぷくテロリスト達だけでどうにかできるものなのか。
雫は彼の不安げな姿を認めた。飯テロはこの戦争については素人だ。解らないことはいっぱいだろう。だから教えることにする。
「大丈夫。あくまで私達がやることは戦線の突破よ。あとは連邦の戦力で潰しておくだけ。貴方達だけじゃないわ。私達もいる。それに、向こうに行けば作戦会議も開くから。プロペインとレモンちゃんの作戦に期待しているわ」
そう励ました。少なくとも、不安は取り除いた。
早速移動を開始。河流に別れを告げ、出発。ラストルネッサンスは戦争に参加しないという。あくまでもスラムの開発に専念。オーウェルはついてきた。
BBはバイクに乗り、バンに着いていった。車列の先頭から、雫の解放旅団、ダーティハリーの拳銃警察隊、殿はまんぷくテロリスト。
バイクから後方の街を見た。まるで砂上の楼閣だ。隣のオーウェルも見ている。彼もバイクに乗っている。
「久々に首都を離れましたよ」
オーウェルな感慨深く言う。彼のバイクはスポーツタイプだ。およそ軍事作戦に関わりそうにない。
「他にも街が?」
「ハチさん達は首都しか見たことがないんですよね。言ってしまえばどこも同じです。デザイン無視の、風情のない見た目のビル共ですよ」
「村は? 農業とかはしているんでしょう」
「もちろん。ファームシティが何個もあると思っていただければ」
ファームシティが何個も。それほどの経済力を持ってしてなぜ同盟に勝てないのか。もしかしてプレイヤーズは弱いのではないか。
「あの、プレイヤーズって弱いですか」疑問をぶつけてみた。
「いやいや。リベルタリアと戦える時点で強いですよ。今は確かに、キーコードの解散、というか消滅で弱体化してますが。戦車を何台も持ってるんですよ。強いです」
「詳しいですね」
「もちろん。自分はそれで食ってますから」
日中は移動を続けた。アスファルトの道から外れ、荒野へ。すっ転ぶほど何もない。遠方に村を見つけたが、泊まらないらしい。一刻も早く戦果を挙げたい心がひしひしと伝わる。
夜になる。夜営。百人に届く人数が寝るのは壮観であった。その癖食糧は缶詰めだ。会社から配給してくれないのかとも思う。ハリー曰く、金がないそうだ。
次の日。また移動。昼頃、戦線に着いた。着いたといえど実感がない。BB達から見れば、ここは土に穴を空けて動き回る人しかいない。実際オサムは工事現場かと勘違いした。だがこれこそ紛れなく塹壕だった。
話し合いの末、まんぷくテロリストは最前線に送られた。
数時間後。まんぷくテロリストの配置場所は砲弾の嵐に見舞われた。先祖代々の仇でもここまでしないばかりに撃ち込まれた。
今は修復作業中だ。草食とレモンが点にしか見えないプレイヤーを百発百中してしまった。そのため敵はリスポーンが間に合わず戦線が崩壊。同盟は、塹壕同士で正面から撃ち合って力負けするハメになった。
味方は突撃を敢行するも無駄だった。だが飯テロの威光を知らしめたのは本当だ。
BBとオサムは塹壕を直すための土を運ぶ。botが掘り、プレイヤーが運ぶ。二人は撃ち合いにあまり役立たない。草食とレモンが巨大すぎるだけで、BBもオサムも平均以上の腕はあるのだが。
土嚢を肩に乗せて歩く。焦ってはいない。空いた戦線を埋めるように砲撃を返しているのだ。二人に近づく影。
「やぁ二人共。お前達も土運びか」
「ハリーさん」
オサムが答える。ハリーも肩に土嚢を乗せている。
「私達も土運びだよ。拳察隊は奇襲以外得意ではなくてな。そもそもメイン武器が拳銃だ。塹壕を守るのはともかく、攻撃じゃな」
「あの」BBが見上げて聞く。「なんで拳銃を使うんですか?」
「そりゃあ拳銃警察隊だからな」
「それも含めてです。どうしてこだわるのかなと」
オサムも追従して頷く。その通りだ。なんでそんな縛りプレイをしているんだ。
ハリーは悩む。うんうん唸って、答えた。
「かっこいいだろう?」
二人は冗談だと思ったので笑ってやる。しかしハリー自身が心外しそうな顔をしたので笑みがなくなっていく。もしかして本当にかっこいいだけで拳銃を使っているのか。
「もちろん、状況によっては他のものも使う。だがメインはハンドガン! これは譲れない」
よくハリーの武器を見る。腰の左右に一丁ずつ、腰の後ろに二丁、太ももに一丁ずつ、胸に一丁、上腕に一丁ずつ。計九丁。そんなに使わないだろうと誰もが謗る量だ。
BBとオサムの冷たい目線に気付かぬまま修復地点へ。敵はおかしいことに突撃しなかった。慎重なだけかとも考えた。だが、近くにいたプロペインとハリーはため息を吐いた。
「プロペインも解るか」
クラフト画面に四苦八苦する子供達を眺めつつ、ハリーはプロペインに聞いた。
「あぁ。あいつら、保守的すぎる。危険にならない内は積極的に攻めてこない。こんな大穴空いて、たとえ罠でも突っ込まないと戦果にならんだろうに」
「そうだ。言っただろう。思惑があると。連邦にはまだ政府がある。存在感はないが。だが、経済同盟に政府機構はない。だから企業共が決定を下す。そして奴らの経済基盤は戦争。あぁやって、弾を消費し、武器を壊してくれれば、願ったり叶ったりということだ」
「そして何より」プロペインは思うだけで舌打ちした。「撃ちまくっているだけでは全く意味がないってワケだ。現実と違いリスポーンがあるからな。ベッドを破壊しない限り無尽蔵に湧き続ける。リスを制限するチケットとかもない。バカみたいに不毛だ」
このゲームにおける集団戦闘の鉄則。それはリスポーン地点を確保しない限り戦いは終わらない、ということ。この戦線でそれをしない、しようとしないのは、二人の会話通り。ここまで無意味な戦いは他にないだろう。
塹壕は復活した。ただ飯テロは別の場所へ移される。そしてそのまま夜まで撃ち続け、何度も反撃の憂き目にあった。
銃声は聞こえているが、それでも休憩となった。シフト替わりだ。夜担当が戦闘を開始。
草食はリピーターを捨て、レモンはライフルを捨て、ベッドに伸びた。二人が何人キルしたのか。二桁は軽く超えているだろう。それが全て無駄弾だと思うと、プロペインはやりきれなかった。
そして、作戦会議に行った。草食とプロペイン以外は休み。会議場所には雫もハリーもいた。三人は一斉攻撃のための準備砲撃を他の指揮官に提案。もちろんそれはしていた、と答えられる。失敗したことも。雫はまんぷくテロリストの戦闘力をひたすら証明。ハリーは政府からの少なくない圧力を盾に詰め寄る。
一斉攻撃はできないと却下。しかしピースサイダー社による突撃は許された。他の者からしたら、弱小勢力の賭けにしか見えない。それでも、飯テロの戦力を知るハリーは満足そうだ。
砲撃が開始された。兵士達は大砲がやかましくて寝れないとクレームをつけた。いつものことだと退けられたが。
砲撃は朝を越え、昼まで続いた。ピースサイダーの者は装甲車などを用意。突撃の準備をした。戦車も借りる。安くはないが勝利のためだ。解放旅団の管轄となる。
「皆、準備はできたかしら」無線から雫の声。BBはバンに左手で掴まっていた。バイクは使わない判断だ。レモンは解放旅団のヘリに乗って援護する。「これから私達で一斉突撃を行うわ。戦線に一気に穴を開ける! 頑張ろう!」
元気な返答が響く。声を背景に雫は決断。
「全車発進!」
アクセルが踏まれた。滝のように放流される装甲車。入念な砲撃により反撃は薄い。凸凹の地面を乗り越え、塹壕に着く。
BBとオサム、そして草食は車を降りて塹壕内へ。プロペインは転進。バンを保護するため去る。他の仲間も次々降車。
車で突撃したのは塹壕間の荒れ地を突破するため。それ以上は塹壕という溝のせいで進めない。なので味方を降ろしたらすぐに引く。ここに残された兵士達は、捨てられたも同然だ。これが許されたのはオサムと、特にBBがいるからだ。
敵から砲撃の豪雨。自分の陣地だったのだ。当然狙いは正確。しかし飯テロと拳察隊はすでに電撃的に侵攻。敵地へ。
BBとオサムと草食がトリオとなって進む。会敵すればすぐBBが一閃。敵が遠ければ草食の早撃ち。完封していく。
上空からレモンが狙撃。対空砲火から逃れるために無茶苦茶な軌道をするヘリ。そこから一発も外さないレモン。そのせいで大砲手や機銃手が倒れていく。
地上。BB達が頷きあう。道が別れているのだ。
「あたしは一人で行くよ」「頼むよ姉さん」「ハチもね」
三人は、BBとオサムの二人、草食の一人に別れ走った。
BBが曲がり角を曲がる。後ろにはオサム。敵を発見。即座に撃たれる。斬り防ぐ。銃を斬り上げて胸を突く。キル。一人分しか通路は通れない。BBは跳んで塹壕から抜ける。溝から地上へ。オサムは攻撃を継続する。刀とナタの二刀流。
銃剣で敵が刺そうとする。左手のナタで弾き刀で腕を切断。舞うように首を断つ。BBが奥の敵中へ入る。挟み撃ちも何のその。二撃で前後の敵をキル。オサムの方向へ斬り進む。オサムと合流。背後からの銃撃を、BBが盾となり進む。オサムは着いていく。
オサムが手榴弾を投げる。爆発。塹壕内で敵がやられていく。撃ち方を止め退こうとしているも逃さず二人で追撃。BBは腰を屈める。オサムがBBを踏んで奥へ。敵の肩に乗る。頭を刺す。次の人間へ。ナタで首をはねる。次の人間へ。次の。次の。次。
BBは走るだけだ。オサムが着地。BBはすぐ上へ出てオサムを追い越す。地上にいるためマシンガンに撃たれる。全方向の弾を彼は斬る。おかしいと思った機銃手は撃つのをやめてしまう。バグかラグかを考えている頭をレモンが撃ち抜く。
BBは先に進んで敵を屠っていく。どんなに攻撃しても通じない。敵は恐慌状態となる。そこをオサムが突く。
曲がり道。注意して出ると、何者かと出くわす。拳銃を向けられた。拳察隊だ。互いに挨拶しBBが先行。
地中への穴を発見。手榴弾を投げ入れるオサム。爆発。BBが内部に入り生き残りをキル。資材が入っていた。今後使われないようにと拳察隊が火炎瓶を投げた
地下への通路を見つけては手榴弾を入れた。ベッドルームを見つけた。BBが盾となり、拳察隊が援護、オサムがベッドを破壊した。
追撃を重ね、制圧していった。解放旅団は活躍できなかったが、他のピースサイダーはまさに無双だった。さらに他の連邦軍も援軍に駆けつけた。
三日後、トゥルー通信社は同盟との塹壕を連邦が突破したと報じる。そこにはまんぷくテロリストが絡んでいるとも。国民意識のない勝利に人々は酔った。
BBとオーウェルは、戦闘の感想を語っていた。オサムはそれを見ても、疲れで何も考えなかった。




