第3話 二つ辺りの趣味
「ところでハチ公。ちょっと来て」
ボクサイに言われる。BBはオサムを見て、目で了承を得る。ボクサイに着いていく。車の後ろ、影に来た。言いづらい話をされるほど仲良くはないハズだ。
「どうしたんですか」
「うーん。ハチ公、女装してくれる?」
「は?」
顔を歪ませ睨む。サンドロチェリーに女装させられ辱しめられたのは何ヵ月か前。またやれというのか。たとえチームにメリットがあったとしても、今回は断るつもりだった。
「いやぁ気持ちは判る。そんな顔をしないでよ。せっかくの美人が台無しだ」
「それで?」
「いやね、チェリーか落ち込んだままだからさ。いい加減戻ってくれないと面倒なワケよ。神輿は軽いほうがいいっていうでしょ? だから女装」
「つまり、オレにチェリーさんを慰めろと?」
「そゆこと」
「嫌です」即答した。彼にもプライドがある。
「だよねー。でもいいの? オサムは君の女装を見たがっているかもよ」
「は?」すでに軽蔑の色が見える。
「ふーん。いいんだぁ。レモンにら女装姿見せてオサムには見せないんだぁ。ふーん」
「貴方には関係ないでしょう」
「確かに。今回のことで協力してくれたらこちらで家建ててあげようという計画以外は君と関係ないね」
逆に言えば協力すれば無償で家を建ててやるということだ。
「管理もうちがやろうかなぁ。家賃なんて取らないし。赤字になることは確実でも仲はいいからやろうと思ってたんだけどなぁ。残念だなぁ」
このアマ。BBは必死に表情を隠す。仮面を被る。しかし無表情になったことでむしろこちらの葛藤を悟られた。ボクサイはあくまでも残念そうな顔をする。
「おや。ちょっと悩む感じ? なら五秒以内に決めてもらわないと困るなぁ」
「五秒?」
「四、三、ニ」
「や、やります」半ば勢いで受けてしまう。
「よしそれじゃあさぁこっちに来てグヘヘお前をいじるのを楽しみにしてたんだオラ着替えんかいアラヤダ華奢でかわいい頭にお花乗せて女の子になるんだよ!」
あっという間に女にされた。髪に造花を添え、ブレザーの女子制服。ミニスカート。タイツに革靴。そして彼の顔には不動明王。画竜点睛を欠くとはこのことだ。
ボクサイに背を押され集会の中へ。恥辱。BBは刀を探した。ボクサイが手にとって渡す。今すぐそれで斬りかかろうと画策した。そこへオサムの、想い人を見るような目付き。気に入られたらしい。取り合えずはと殺意を抑える。
「よしチェリー。ハチと二人でデートしてこい。思いの丈をぶつけるんだ」
「……いいのかい!ハチ君」
やつれた瞳でBBを見るチェリー。あまりに惨めなものだから、BBは諦めとも呆れともつかぬため息を吐いた。
「嫌ですけど。でもこうしたら家を建ててくれるそうです」
「そうか。ボクと同じことをするのか」
そう言って、立たない。てっきり連れていかれるものだとBBは思っていた。だがチェリーは動かない。構ってほしいと訴える体育座りが純粋に不快であった。BBは手を引っ張って立たせた。
「今日だけカウンセラーです。どこか行きますよ」
「……うん」
自分より高い背の人を引っ張るのは違和感。道中オサムと目が合った。限りない怒りと不機嫌があった。耳元に口を寄せる。
「終わったらこのまま一緒に……」
そう言って駐車場を出た。
チェリーは引っ張られ続けた。充分離れたということで、近場のベンチに座る。一人分の距離を置く。チェリーはうなだれた。まるで浮浪者だ。よく街で、現実で見た失職者のようにも見える。
目の前の車道に車が停車する。ビルの影がBB達にもたれて薄暗い。人もまた、あちこちへ。右からも左からも来て、BBを見てくる。いつものことだと諦観に従う。
「ハチ」ようやくチェリーの口が開く。「足、閉じなよ」
「はい?」
「女装しているのに足閉じないの、ダメだよ」
お前らがやらせたんだと青筋を浮かべる。
「スカートなんだから、みっともないよ」
ここで反抗しても意味がない。足を閉じる。さっきまではヤンキーだったのが、令嬢になる。冷たい眼光は、豚を見るのにふさわしい。
「まだショックですか。ファームシティの」
BBはいい加減話させるために喋る。とっとと答えてほしかった。オサムとの約束があるのだ。
「うん。まだ、ね」
「そうですか。……ここで再建するのは?」
「だめだね。ボクは、文化を創りたかった。文化生活から生まれる。だから、街を再構築した。前の支配屋とは色々あったよ。それでも、トップになれた。なのに……なのに、全部壊れた。やり返しても意味がなかった。ファームシティはプレイヤーズによって、もっと犯された。あの街は、ボクの作品になるハズだった」
泣き始めるチェリー。BBには理解ができないが、生きる街を作品として創造したかったのは判った。どうも独特な美術観を持っているらしい。自分の信念があるのは、誰であろうといいことだ。多少は信頼してやろう。
「辛かったですね」
しかし優しげな甘い声は出さなかった。BBなりの距離の置き方。それがチェリーにとってありがたかった。自然な態度が心を開かせる。
「あぁ、辛かった」
その後、チェリーは泣き続けた。一般の往来で泣かれると同伴者はいい迷惑。BBは一縷の哀れみから、二人を見る好奇の目に耐えた。
十分ほどか。チェリーは泣き止んだ。激しい威風のある相貌を抱いている。もう大丈夫だろう。今後二度と頼らないでほしい。それでも最後に一つ、聞きたいことがあった。それが飯テロとの関係に影響しそうなのだ。
「チェリーさん。貴方は脱出したいですか」
「……したいワケではないけど、現実に戻って、建築とかに関わりたいな」
「そうですか」
二人は駐車場に戻った。チェリーはすっかり元気になった。あと一押しだったのか。それを見た一同はホッと一息。それと、刀を持った美少女学生に注目が注がれる。それを一身に受け、オサムの手をBBが取った。
「行こう」「服は?」「借りていく」
実際、服のことで止める野暮な者はいなかった。
二人はどこへともなく歩いた。目的地はない。BBも決めていない。なので困っている。正直、車の音がうるさくてムードもない。そしてこの世界は世紀末だ。そこに女子高生がいるのだから存在感は醸されて当然。
BBは段々恥ずかしくなり顔を赤らめる。オサムの前でなかったら澄まし顔をしていただろう。赤い顔を見たオサムは、BBの手を強く握る。少し火照っている。それが少女性、また少年性を垣間見せて、かわいらしい。
オサムが前に出て引き始める。エスコートだ。意思に気付いたBBは媚びるような目でオサムを見つめる。艶かしさが彼女を上気させる。今回は自分が主導権を握る番だ。オサムはそう決め腕を絡ませる。負けじとBBは上目遣いで攻める。自分の外見を利用し理解している。そっぽを向かず、止まって見つめ合う。
オサムが負けた。BBにクスクスと笑われる。その度に揺れる頭の造花が愛おしい。BBはオサムの横に並び歩く。まだ会話はない。なのに濃厚であった。
「ハチ」横を見る。「似合ってるよ」
「ありがと。こういうの、サムも着たい?」
「いや、遠慮しておく。ハチに着てもらいたいから」
「そう? じゃあサムと二人の時はラスルネさんに頼もうかな」
「いつかね」
「うん、いつか」
二人は上品に笑みを称えた。BBが耳元の髪をかきあげた。特に意図のない行動。それがとても艶やかで、オサムの目に焼き付いた。自分の身では出せない色気。滾る独占欲を呼び、不思議な嫉妬さえ感じた。
気がつくと、人気のない所にいた。路地裏。BBはとても驚いた。苦手なハズの場所へ、何の抵抗もなく入れた。オサムを見て感謝の微笑み。しかしオサムは事実への当惑に包まれていた。
「どうしよう。わたしら迷っちゃった」
「初めての街だしね。そういうこともある」
余裕なBB。そしてオサムをいじるネタができたことを内心喜ぶ。別にいじめるつもりはない。ただ、ちょっとサディズムが刺激されただけだ。
「サムって、もしかして方向音痴?」
「そんなんじゃないよ」
「へぇ」
BBはより近付いた。やろうと思えばキスできる。
「そういうハチだって気付いていなかったじゃん」
「オレはサムを試そうとしただけだし」
「ふーん。そういえば性的なことしていいって言っていたよね?」
「え?」
「試す?」
そう言いオサムは肩を掴む。恐怖以外の感情で心臓が跳ねる。もうオサムに下手ないじりは通用しないのだ。指先で制服の上をなぞってくる。
胸先まで来ようとして、BBはオサムを押して離れる。彼女は罪悪感を感じた。少し、BBは困る。嫌ではなかった。恥ずかしいだけだ。
「そ、それよりもさ」
BBは頬をかき空気を整える。
「これ」BBは手に持った刀を前に突き出す。「あげるよ」
「いいの?」
「もう上位互換のもの持ってるし。それとも、いらない?」
「いや……」
悩む。BBからはすでにナタを貰っているのだ。その上刀まで貰うのか。少々の遠慮がオサムを襲う。
実用抜きにしても、欲しいといえば欲しい。BBの厚意を無下にしたくはない。
BBは決して目を合わせない。先のこともあるから。それ以上に、プレゼントというものが彼にとって特別な意味を持つ。誕生日を祝われたこともなく、プレゼントされたこともない。そんな人がプレゼントする。内容に値するものは重い。
オサムはここまで知っているワケではなかった。だが見た目も相まって、バレンタインの少々のようで愛らしい。刀を取り、いただく。
「大事に使うよ」
「別に……酷使していいよ」
彼女は刀を右手で持ち、左手でBBの髪を撫でた。まるで妹だ。男だが。こんな弱々しいBBは初めてかもしれない。特に、トラウマなどを想起していない彼は。
「フッフッフッ……」
上から声。何者かと見上げる。外付けの鉄骨階段の上に人がいた。背は低い。茶色のスーツに山高帽。声は少々高い。
「とうっ!」とかっこつけて跳ぶ。BB達の間近に着地。失敗。転ぶりダメージもあるようだ。間抜けさのせいで敵意も警戒心も湧かない。BBは確実に見下げているが。
よろめき立つ謎の人物。山高帽の下はピンクの髪。茶色の服にはあっていない。落とした帽子を拾い咳払いをいくつか。
「はじめまして!」
太陽のようね笑顔で挨拶してくる。まだこいつが敵かどうか決まったワケではない。が、BBもオサムも、雰囲気を壊した者へ容赦するつもりはない。
二人に睨まれて、たじろいだ。しかし負けじとスマイル。
「自分、トゥルー通信社のオーウェルって言います! 貴方達はハチ公ことBBと、オサムさんですね! いやぁもしかしたらと尾行してよかったですよぉ!」
「尾行?」
オサムの冷徹な声。足が震えるオーウェル。二人を知っているなら、その二人が逆立ちしてもオーウェルに勝ち目がないのは知っているハズ。ななら低身長で腰を低くする。
「いや、別に悪意があるワケじゃなくてですね。自分は、まんぷくテロリストについて調査しているんです。そして、その人達が連邦に来たという情報を得まして。これはいてもたってもいられない! 是非! インタビューを!」
「オーウェルさんは」BBは鬱陶しそうだ。「記者なんですか?」
「そりゃあもちろん。あ、トゥルー通信社をご存じない? トゥルー通信社は真実をお届けするマスメディアでして。嘘は混じっていませんよ。いつだって本当のことをお届けします! 我々を懇意にしていただけるなら、多くの情報をお届けしましょう! ちなみに諜報能力もあるのでそこも期待してもいいですよ!」
営業トークを聞きつつ思案。協力できる人物かもしれない。ラスルネと似たようなものだ。情報は何よりも欲しい。しかしそれはBB一人の一存で決められない。
BBはオサムを見た。オサムもBBを見る。頷きあう。意見の一致。
「じゃあひとまずここからピースサイダー社まで送ってくれます? 迷ったので」
「いいですよ。BBさん、あのー、ところで」
「何です?」
「いえ、なんでコスプレしてるのかなと」
BBは唇を噛んだ。オーウェルはしかし動じない。
「いやとってもよく似合ってます! もしよかったら、広告のモデルになってくれませんか? 我々トゥルーの看板娘として」
「オレは男です!」
「知ってますよ。ちなみに自分も男ですよ。女みたいってよく言われるんですけどね」
オーウェルは帽子を外す。確かに、男というより女だ。少女と言っていい。BBの美とはまた違う、少女性の強い可愛らしさ。オサムは人知れずため息を吐く。なんでどいつもこいつも美人なんだ。
三人はオーウェルを先頭に歩き始める。
「ところでBBさん。BBってどういう意味ですか」
「一九八四年のビックブラザーの略です」
「一九八四年の! 自分も大好きな作品なんですよ! オーウェルはジョージ・オーウェルからとってるんですよ。いやはや意外な相違点。でもオーウェルって呼びにくいでしょう。ベルって呼んでください」
「考えておきます」
三人は端から見れば少女三人組。目を集めるには事足りた。オサムだけ疎外感がある。察したBBは手を握ってあげる。彼女はBBへ微笑みかける。彼も同じようにした。
もし、BBと一緒にいれたら。一緒に学園生活を送れたら。オサムは想像する。そんな未来が、どうかあってほしい。彼と一緒にいたい。
「着きましたよ」
オーウェルの言葉で我に帰る。ピースサイダー社の前。BBが中に入ると、当然のようにオーウェルも入った。
あらすじにも書きますが、第2部は今のところ5000文字以上しかないです。
ご了承ください。




