第2話 マスクより告白
まんぷくテロリストと他二人はビルから出る。ラストルネッサンス達へ話を通すことに。しかしながらビル前に大勢の人間がたむろするのはどうしたって邪魔だった。他に行くところもないのでみな困っている。
ダーティハリーは飯テロの連れてきたプレイヤーズの数に当惑。同時に甘い誘惑。彼らを味方につければ、我らの戦力は強化される。どうにか勧誘できないか。
その前にプロペインが注目を集める。
「ボクサイ。俺達はピースサイダーって会社に入ることにした。そっちはどうする?」
「うーん」彼女は腕を組み横目で仲間を見る。「まずこちらだけで話させて。チェリーはうんとしか言わないから、慎重に決めないと」
「そうか、判った。ところで、スマイリムは?」
その言葉で、BBは該当の人々がいないことに気付いた。逃げたのだろうか。そんな予兆はなかったが。
「あぁ彼らなら、あとは好きにするとか言って行っちゃったよ。誰かと会っていたね。誰かは知らないけど」
「ふーむ。まぁいいか。じゃあ、また後で」
「飯テロはこれから会社のほうで?」
「話し合う。だよな?」
ふられたハリーは頷いた。仲間の紹介をしようと考えてもいた。スコスコは随分プロペインの肩を叩く。
「俺様はもういいか? そろそろ飲みてぇんだ」
「いいぞ。すまんな。色々助けられた」
「いいってことよ。飯テロ共も元気でな。また会おうぜ」
そう言い残し彼は喧騒の中へ消えた。ラスルネも駐車場へ戻る。残ったのは五人と一人だけだ。
ハリーに着いていき、ビルの三階へ。相変わらずの狭い廊下。会議室と書かれた部屋の前。オサムは物珍しげに辺りを見ていた。確かに、中学生の年では会社は珍しい。
ハリーが三回ノック。「どうぞー」と優しげな女性の声。この声が解放旅団のリーダーだろう。BBは河流相手と同じく警戒心をさらけだす。
中は電灯の光に満たされていた。電気。そういえば街に電気がある。
やはり女性が一人いた。アサルトライフルこマガジンに弾をつめていた。ロングの金髪をなびかせ、こちらを見た。軍服を着ている。
「あら、貴方達が社長の言っていたまんぷくテロリスト? はじめましてね。わたしは雫! 座って座って。長旅で疲れたでしょう」
明るく勢いがいい。草食、オサム、BBは思う。こいつは苦手なタイプだ。悪い人でないことは確定だが。
逆に、その気さくな態度を気に入ったのはプロペインとレモン。「失礼しますよ」とプロペインははにかみ座る。テーブル席は全部で六つ。一人が立つことになる。BBとハリーが譲り合った。黙っているのがおかしくて、雫が笑った。
「ハリーは立っててよ。警備役してちょーだい」
「はいはい。BB、座れ」
BBが笑わぬ苦笑を浮かべ座る。一番奥であるために雫とは話しづらいだろう。むしろ安心する。
「ふーん、皆がまんぷくテロリストなのね」
「はい、そうですね。貴方が解放旅団の?」プロペインは畏まる。
「もう、敬語はよしてよ。これから仲間になるんだから。そう、わたしが団長。ハリーの部隊には及ばないけど、これでも強いわ。貴方は?」
「俺か? 俺はプロペインだ。まんぷくテロリストの運転手。作戦とかも、この子、レモンと一緒に考えてるな」
「おー参謀だね? レモンちゃんもよろしく!」
「よろしくお願いします。私はどちらかというとスナイパーですけどね。そこそこ当てられます」
「噂には聞いてるわ。スナイパーのレモン! とんでもなく強いんだってね。強いといえば、ハチ公ってどの子?」
雫が面々を見渡す。彼女以外がBBを見る。余計なことをしやがってと内心に怒り。答えないのも失礼なので、笑顔を作る。
「オレです。BBです」下手くそな会話。「まぁ、ハチ公とかって呼ばれていますね」
「へー! ハチ公って、BBが元なのね! かわいいわね!」
「かわいい?」
「名前もそうだけどね。ほんとキレイ。美少年ね! そう思わないハリー?」
「私にふるな」と言いつつやぶさかではない。「キレイなのは確かだな。薔薇のようなものだ。棘どころか毒を持つ、な」
「ハチくんとハリーは戦ったことがあるんだっけ?」
「いや。直接的にはオサムとだ」
「へー。オサムちゃん手上げてー」
「えっ」このノリにはついていけんと思いつつ驚くオサム。
「貴方がオサムちゃんね。はじめまして! 緊張してる?」
「あ、はい。してます」
「緊張しなくてもいいんだよ」一体何が楽しいのか、ずっと笑っている雫。恐ろしいことに全く裏がなさそうなのだ。
「あぁ、はい。わたし、やっぱり始めての人とは緊張しちゃって」
「そっかぁ。大丈夫! すぐに慣れるよ。オサムちゃんも強そうだし、こりゃわたしの地位も危ないかな。そういえば、早撃ちの草食って子は?」
「あたしです」軽く手をあげる。
「あ、同じ金髪! 素敵! 見た目こってるね。カウボーイ?」
「そう。かっこいいでしょう」
「いいなぁ。わたしもコスプレしようかなぁ。早撃ちが得意なんだっけ?」
「そう。あたしはまぁそのぐらいかな。他は他の子に譲っちゃう」
「とか言っているが」ハリーが口を挟む。「この女はかなり強い。プレッシャーになるほど期待しておけ」
「いやそりゃないよ!」
草食が不満を言う。しかしハリーは鼻で笑い、雫はクスクスと笑う。これで紹介、というより雫のコミュニケーションは終わった。
すると彼女の顔がすましたようになる。いかにもこれから大事な話をするという面持ち。表情にあてられ、空気も清められる。
「ねぇ皆。皆は、脱出を志しているんだよね」
「そうだね」草食が哀愁の笑みを浮かべる。
「そっか。ね、それはどうして?」
聞かれて、草食は左右を見る。どうやら自分が一番手らしい。拒否するように目を回しても、反応は語りの催促だけだ。仕方ないので喋る。
「あたしは、まぁ、親のためというか。迷惑かけてきたのに、何もしてあげられなくて。だから、帰って親孝行したいなぁなんて」
帽子を上げ下げする。本心と嘘が入れ混じった言葉。彼女は唇を舐めた。迷惑かけたのも孝行をしたいのも本当だ。だが帰りたいとは思わない。
「そうなのね。親御さんが。わたしの話もしていい?」
「どうぞ」
「わたしはね。結婚してるの。夫と、子供がいて。なのにゲームに閉じ込められるなんてね。だから、帰りたいじゃないくて、帰らないといけないの。家族のためにも。……ハリーも話してあげて」
「かまわない」視線がハリーに集中した。「私には母がいる。父はいない。私の勉強のために、母は尽力してくれた。だが見てのとおりだ。学生とはいえ遊びすぎた」
「え、学生?」草食が身を乗り出す。
「そうだが。私は学生だが」「何歳?」「十八」「え」「え」
とてもそうには見えない。その年なら、もっと薄いか、チャラチャラしてるものではないか。
この場にいるものは察する。ハリーは大人っぽい子供ではなく、大人にならなければならない子供であるのだ。それが哀れで、雫はうつむいた。BBは少しの同情を寄せる。
「私はいい。プロペインは? 嫌なら話さなくて構わないけど」
「いや話そう。思えば、五人の間でもこういう話はしたことなかったな」
「……そうですね」レモンは大いに同意。草食は苦くなる顔を四苦八苦して隠した。そんな話はしたくないのが本音だ。
「俺もハリーと似ているな。おふくろはずっと昔に死んでな。親父が一人で育ててくれた。いい人だよ。まだ育ててくれた恩を返しきれていないんだ。帰らないとな」
「私も、家族に会いたいんです」レモンが話を継いだ。「私は、自慢になりそうですが、かなり恵まれているほうで。両親はどちらも失っていないし、友達もいます。皆に会いたくて」
悲壮な目は、人に感情を引き出した。雫も「大変な目にあっちゃったね」と深い同情を示す。
「……わたしも」言いにくそうなオサムはを全員優しく迎える。「家族に会いたくって。忙しいのに、大事にしてくれた。困ったことがあったら、すぐ相談してくれた。学校も、嫌な、とても嫌なことがあったら言ってくれて。その、とにかく帰りたくて」
嫌なこととはいじめだ。彼女は多くを語らず、そこで止めた。隣にいたレモンが背中をさすってあげる。オサムは頬をかいた。
さて困ったのはBBだ。彼に帰る理由はない。まず本当の親がいない。全て義親だ。施設に送られわ拾われ、虐待などされ逃げて施設へ。それを繰り返した。今、彼がゲームをできているのさ現在の義親のおかげだ。けれどさんざん不信を育てられた彼に、親を信じることはできなかった。
人の目が集まった。語らなければならないが、この流れで真実を言えば、裏切りになる。なら嘘でも吹いている他ない。
「オレも、みなさんと同じ理由です」
表情は完璧。さも家族に会いたいかのような幼気な子供の顔。仲間は同情の瞳を向ける。急場はしのげた。これでいいとBBは満足。それにどこか詰まったものを感じつつ。
オサムだけ彼を見る目は違った。BBはそれを知らない。
「湿っぽくしてごめんね。皆の気持ちが聞きたくて。これから頑張ろう? 皆、家族が待っているんだし」
頷く一同。想いには多少のムラがある。
「それじゃあ事務的な話をしようかを家のことね。寮はないから、不動産屋でも伝えるよ」
「じゃあ、オレはラスルネの人達を見てきます。それじゃ」
雫に対し柔らかく。しかし突き放したように言いBBは席を立つ。「わたしも」とオサムも立ちBBを追う。飯テロは何かあると察した。他は疑問符だけ。
外に出る。太陽は上。BBはこれ以上あの場にいたくなかった。疎外感が強くちょっと息苦しい。孤独には慣れているのにどうしてなのか。
後ろから足音。オサムが来ているのは知っている。振り向かず歩く。互いに不快感はなかった。
路地裏へBBは歩いた。奥までは行かず、手前で止まる。路地裏、という言葉は嫌いだった。十は越えないが、何度か連れてこられた。嫌な思い出だけがある。
「ねぇハチ」ようやくオサムが口を開く。「どうしたの?」
うつむいて、笑った。静かに、呆然とも言えるような。
「別に。本当にラスルネの所へ行くだけだよ」
「そうじゃないよ。どうして嘘ついたの」
「嘘?」
やっと振り向く。オサムは真面目だった。責めるつもりのない、心配だけの姿。優しさがBBを困らせる。
「嘘って何のことかな」
「脱出する理由。あれ、嘘でしょ」
「嘘じゃないよ」「いや、嘘。わたし判る」
今までなら、ここまで踏みいられるのを嫌っていたハズだ。なのに嫌ではない。どこか暖かい。そのワケが不明で、BBはより困惑に進む。
「勘って奴?」
「そんな感じ」
ならなおさら信じられてしまう。BBは目線を下げた。影しかない場所で、影は濃くなる。
「他の人には言わないで欲しいんだけど」BBはオサムを直視する。口が勝手に開く。「オレ、家族がいないんだ」
オサムは驚愕しつつも声は出さない。BBの独白に身を委ねる。
「五歳の頃だったかな。両親、血の繋がった両親に蒸発されてね。施設に拾われた。あそこはよかったな。少なくとも、殴られることはなかった。そんで、自称親族が現れてわオレを引き取った。ひどいめに合わされたよ。で、逃げた。また施設に行った。次は知らない人に引き取られた。男性と女性。気に入らないことがあったら怒鳴られたよ。何度も何度も耳元で。ごめんと言っても聞かないし。女性のほうは、その、時々性的なことを求められて。だから、そういうのは苦手なんだ」
一旦息を吐く。オサムにとって最後の言葉は重い。過去におけるBBに対しての行動。それが正しかったのかどうか。
「今の親は、まぁいいかな。口下手で何考えているか判らないけど。このゲームも買ってくれたしね。帰ったらどうせ捨てるだろうけど。オレなんてそんなもんだよ。この見た目もいいもんじゃないんだよ。いろんな人間に絡まれて、セクハラにもよくあった」
BBは全て笑みのもと話した。それが痛々しくて、オサムは見ていられない。肩を落とし、顔に暗がりが集う。
「君が落ち込むようなものじゃないよ、サム」
「だって……酷すぎるよ」
「そういう星の下に生まれてきたんだ。しょうがないよ」
BBはオサムを優しく撫でた。彼女がBBの腕を掴む。
「だったら、どうしてハチはわたし達に協力するの?」
彼も悩む。どうしてなのか。流れのままだろうか。しかし初心に帰ってみる。一つの答えが出た。
「一番はサムのため。次は皆のため」
「わたしの?」
「うん。姉さんがまんぷくテロリストを立ち上げた時、サム、一番反応していたじゃん」
「そうだっけ」「そうだよ」
彼の言葉は嬉しかった。しかし悲しみでもあった。だから、彼女の声は震えた。
「ハチは? ハチの意志は?」
「オレはいい。というか、オレの意志が、サム達の意志に従うことになるんだよ」
「でも」「いいの」
押しきられた。肩に手を乗せられ、額と額をくっつけられる。オサムは黙ってしまう。とてもずるい行いだ。彼女は批判の目を向ける。彼は意に介さない。
BBはオサムから離れ、歩き出そうとしている。オサムが止める。
「あの、ごめん」
「何が?」
「エッチなこと、苦手なんでしょ? なのに、わたし……」
「サムならいいよ」
「えっ?」
今度は振り向かなかった。少し赤くなったのを隠すため。オサムも体が熱くなる。
BBとオサムは手を繋いで歩いた。先の言葉で頭が支配され、オサムはそのことに気を配れない。駐車場に着く。ラスルネが話し合っていたをチェリーもいる。体育座りでうなだれている。
二人に気付いたボクサイが、一言かける。
「昼間からお暑いね」
やっと手を離した。オサムは今すぐ逃げ帰りたい。




