第81話 新たなる道
BBが行く道は現在下り坂。もうすぐで仲間達と合流できる。敵影なし。これからどうするのか。
クリエイター。マケメロンが言った謎の人物。そいつに会わせたくなかったようだ。名前からして、この世界、ポストアポカリプスの主だろう。運営に違いない。ただそうなると、いくつか疑問が現れる。
まず、なぜこの世界にいるのか。監視だけなら、別に現実でもいい。この世界に居る必要はない。二つ目は、どうしてクリエイターに会うことがマケメロンの不利益になるのか。マケメロンは脱出したくないと公言していた。それに関係があるのか。そして三つ目。なぜマケメロンがクリエイターのことを知っているのか。最初から知っているならば、もっと違う行動をしていただろう。でなければ血相を変えて追ってくるものか。
車列が見え始めた。道が合流する。まんぷくテロリストのバンが見えた。オサムが気付き、手を振ってくる。BBも手を振り返す。
道は今までと比べ若干広くなる。BBはバンの横につく。「おかえり」オサムが言った。「ただいま」BBは少し恥ずかしそうに返した。
車を見て嘆息する。ボロボロだ。所々凹み、ガラスは全て割れている。最後まで味方を守り続けた、名誉の証とでも言おうか。
しばらく走って、ずっと前に別れた車列とも出会う。さらに進み、ヒトマル達や戦車とも合流。山脈を降りた。すでに夕焼けが天上を塗る。
「こちら先頭車、ボクサイ。まんぷくテロリスト、状況は?」
プロペインが無線を取った。
「車体はボロボロだ。機銃の弾もなくなった。これ以上の戦闘は無理だ。できれば殿はやめたい」
「了解。なら前に来て。他の車は道を開けて」
五人はスピードを上げた。道は広い。他の車はどいてくれる。ほとんど先頭まで来た。ボクサイの車と並行する。
「では俺達が殿をしよう。アウターセブンに任せろ」
ヒトマルが宣言通り後ろへ。戦車が合流したので、進行スピードは緩やかになる。それぞれの運転手の疲労も濃くなってくる。
後方を警戒する必要のなくなったレモン。彼女はゆったりと椅子の背にもたれた。銃座に乗る意味のなくなったオサムも車内せ降り、息を吐く。
「終わったんですかね」レモンはオサムに向けて言う。
「もうこれ以上はいいよ。弾はないし。……ところで、クリエイターってなんだろうね」
「文字通りこのゲームのクリエイターでは? なぜいるかとか、色々気になりますが」
「デスゲーム気分でも楽しんでいるのかな」
「ともかく、今度はその人が目標になりそうですね」
話を聞く草食はいささか複雑な心境。今まで見つからなかった脱出の手がかり。それを見つけてしまった。謎解きゲーツで、謎を攻略サイトで見てしまった時のような、嫌な感じ。不必要なネタバレによってストレスを感じる。
前方に黒煙を何かが燃えている。ボクサイも気付き無線を入れる。
「こちら先頭車。目の前に黒煙が見える。停車せよ。こっちで調べるから。飯テロは確認をお願い」
プロペインと草食は目を合わせた。肩をすくめる。休めそうにない。彼らの車は進む。
近付いていく。見て解る情報はヘリであること。その近くにバイクの集団。プロペインは目をこらす。
「あっ!」
彼は驚きと喜びの声をあげた。草食もおやっと意外な顔。無線を取るのはプロペイン。
「こちらプロペイン。目の前のモヒカンは味方だ。話をさせてくれ」
「解った」
ボクサイからの許可をとりプロペインは停車。降りて駆け寄る。BBもバイクを降りる。
バイクの連中も気付いた様子。指を指して、笑っている。
「スコスコ! いるかぁ?」
プロペインが呼ぶ。「おう!」と一人モヒカンがやってくる。暴風神風の至高のバーロースコスコ、その人だ。
「久しぶりだなぁペイン。ファームシティ以来か。あの街も噂ではグチャグチャになっちまったらしいな。大丈夫か?」
「今のところは。そのヘリはどうした」
「これか? なんか撃ってきたから落とした。ヘリ持ってる勢力なんて、リベルにプレイヤーズに同盟と連邦の企業共ぐらいだ。どうしたんだ」
プロペインが腕を組み、息を殺した。察したのか、スコスコは、
「いや、言わなくていい。何か事情があるんだろ。それよりBBの坊主」突然呼ばれる。「お前も久方ぶりだなぁ。どうだバイクは。乗りこなせているか?」
「はい。お陰さまで」率直に頭を下げる。
プロペインは、しかし意を決して事情を話すことにした。
「聞いてくれスコスコ」「何だ」「俺達はプレイヤーズから脱走したんだ。色々あってな。そんで、これからどこに行くか決まってない。何かアテはあるか」
「……そうだったのか。ふーむ。アテねぇ」
スコスコも腕を組んで悩み始める。サングラスの下の目付きも眉も、キッと鋭くなる。
「お前達飯テロは脱出を考えているんだっけか」
「そうだ」
「なら、丁度いい。俺達の知り合いに同じ目的の奴がいる。プレイヤーズほどではないが、そこそこデカイ」
「どんな人だ」
「三千連邦にいる。まずはそこまで案内してやるよ。着いてきな」
「すまんな」
「おいおい気にするな。俺様とお前の仲だ」
スコスコは命じて仲間をバイクだのバギーだのに乗せる。プロペインは無線で三千連邦について伝えた。
「三千連邦?」ボクサイは疑問符を口にした。「そうか、そこにあんたらの求めるものが?」
「ものというか人だな」
ボクサイは損得勘定で決めた。
「じゃあウチらとそっちに着いていく。チェリー、いいね。……いいんだ」
隣にいるらしいチェリーの了解をとる。そんな奴いたなとBBは考えた。ヒトマルから無線。
「悪いが、俺達はリベルタリアに向かう。ここで別れさせてくれないか」
「リベルタリア、いいの?」
「いいんだボクサイ。俺達のことは気にするな。じゃあ、行かせてもらうぞ」
後方から車が動いた。彼らアウターセブンに手を振った。「ありがとな、皆」ヒトマルはそう言い残し、荒野へ消えていった。
プロペインとBBは車、バイクに戻った。
「よぉし! 俺様に着いてこい。長い道のりだが、来いよ!」
スコスコ達が走り出す。それを追うはまんぷくテロリスト、ラストルネッサンス、スマイリム。
空の火は、出発の旗手を与えていた。誰もが照らされ、希望を持つ。西へ、西へ。彼らは進む。現実へ帰れるのは、あとちょっとな気さえする。
彼らはまだまだ戦うだろう。その自覚はある。だけど、気力揚々。オサムは、BBと仲間がいれば、無敵に思えた。レモンは仲間がいることを嬉しく思う。プロペインは、子供達の未来を想う。草食は、脱出の不安とギャンブルについて思う。
BBは、彼だけの目的を持たなかった。しかし、誰かのために働くのは、不思議と心地よかった。それが、従僕のような感情に似ていると気付かずに。
……マケメロンは基地にいた。手を縛られ、罪人のよう。他の仲間も同じような姿。彼らの頭にはそれぞれ絶望が刻まれている。
目の前には監督隊。そして、総長、ゲン。彼の憤怒には威圧されていた。
「あの裏切り者達のために、我々は総力をかけた。なのに失敗した。どういうことだ」
彼の言葉には何も言い返せない。司令官はマケメロンだった。その咎を負うのも当然彼女だった。
「奴らを、BB共を逃がすワケにはいかなかった。ヘリは全て投入した。なぜ負けた」
「……俺のせいで」
「何を間違えた」
「それは……」
沈黙。実力で潰されたのと、ヒトマルが寝返ったからだ。後者に関しては、そんなこと言えない。寝返りの原因はゲンにある。だからって責めてもこちらの罪が増えるだけだ。
「まぁいい」
ゲンは右へ左へ歩き始めた。何かを言おうとして、口を閉じる。それを繰り返す。クリエイターのことを言いたいのだろうが、この場では無理だ。
ゲンは脱出なぞ露ほども考えていなかった。彼にとっても、現実は唾棄すべき汚物だった。厳しく育てられ、一流と呼ばれるような人物となり、起業して、失敗した。功名を挙げられぬ現実は、この世界に来て見切りをつけた。彼は、この世界の王となろうとしたのだ。
だが、クリエイターからメールで、まんぷくテロリストはいただくと来て、状況が変わる。何としてでも、あいつらを己の物とする。そのための動きだった。それもまた失敗した。まんぷくテロリストは世界征服に欠かせなかったのに。
「諸君さ追放処分だ。無能共め。私を足を引っ張るな。立て」
ゴール・オブ・ジューシーは全員立たされた。多くのプレイヤーズ兵士が彼らを見る。見せしめだ。
「この者達は」ゲンが声を張る。「失敗してはならない任務に失敗した。その罪は重い。兵士諸君。安心したまえ。こいつらより、君達のほうが優秀だ。だから反面教師としたまえ。こんなクズになりたくなければな」
すでにベッドは破壊済み。物資は全てとられた。
マケメロンはそれでも暴れない。何もかも諦めている。この世界は終わりだ。いつしか飯テロなんかがクリエイターと出会い、脱出させられることになる。あの現実に帰ることになる。
どうやって死のう。彼女はそこまで考えた。職はなくなっているハズだ。首吊りか、どうするか。銃口が突き付けられる。良心は痛まないのだろう。リスポーンするのだから。少なくともどこかに。
「やれ」
ゲンの一言で、引き金が引き絞られた。
しかし彼女は倒れなかった。代わりに目の前の処刑人がたおれた。
「伏せろぉ!」
マケメロンは叫ぶ。ゴブジはみな伏せた。
激しい銃撃。リベルタリアだと誰もが確信した。兵士達も武器を抜き応戦している。マケメロンは地に突っ伏しているので何が起きているやら。
兵士達が叫ぶ。「敵はどこだ!」「どこから撃たれている!」四方から撃たれているのか。その割りには銃撃にばらつきがない。伏せたはいいものの動けない。手を縛られている。
何者かに抱き起こされた。目の前には羽交い締めにされたゲンの姿。彼を縛った者は見えない。透明だ。
銃撃が止む。何十人もの誰かが歩いてくる。目を向ける。そこには、テイルと、白いロングコートにメガネをかけた男がいた。
テイルがゲンに詰め寄る。
「ようゲン太郎。テメェのお陰であいつらは放たれちまった。俺の作戦がパァだ。どうしてくれるんだぁオイ」
「貴様、テイルかッ。まさかお前がッ」
「オレじゃねぇな。このメロンのせいと言ったら、半分当たりだ。もう半分は、自業自得だ」
「まぁまぁテイル君」ロングコートの男が喋る。「僕らは彼に興味はない。ヴィランとして見事な働きをしたが、ゲームのボスにはちゃんと退場してくれないとね」
ゲンが答える。「ヴィランだと? 最初からそのつもりだったのか!」
「僕はただ、ゲームを創っただけだ。ゲームは常に、プレイヤーを楽しまなければならないよ。実際、僕に、クリエイターに会えて楽しいだろう?」
クリエイター。目の前の白いロングコートの男が。ゲンもマケメロンも驚愕で固まる。
「長話はいい。じゃあなクズ。テメェが脱出を考えてなくて何よりだよ」
テイルがゲンを撃ち抜いた。ポリゴンとなり消失。マケメロンは手を縛る縄を切られ自由に。
「あんた達は……」
「知ってるだろ。オレはテイル。こっちがクリエイターだ」
「なぜ、俺達を?」
ゴブジの連中も生きていた。困惑の感情に集まっていた。
「勧誘しにきた。この世界をより面白く、思い通りにするためにな」
「待ってテイル。あんたはクリエイターと敵対してあるハズじゃ……」
「思想、理想は違う。だが目指した場所は同一だ。まぁクリエイターの目的を聞け。ラグナログみたいなことをするんだ」
「ラグナログ?」
「来るべきイベントだ。オレ達は、そこでまんぷくテロリストのような巨悪を討つのさ。来な」
マケメロンは着いていった。ゴブジも。周囲の者は透明化を解き、護衛してくれる。一体どこに向かうのかを彼女は知らない。ただ、プレイヤーズにいるよりはずっといいことは解る。
もう夜だ。クリエイターなる男は鼻歌でご機嫌。マケメロンはただ、天を仰ぐことしかできなかった。
車に乗り、西へ向かう。西へ、西へ。そこにあるのは、果たして西方浄土か。地獄としても、マケメロンの道は一つしかなかった。
ぬわ疲。第1部完。長スギィ。
次の部からは第1部の半分以下になります。今後ともよろしくお願いします。




