第79話 その悪魔は影より
BBは悔しいことにバンの前を走っていた。現在プレイヤーズより脱走した一行。彼らはプレイヤーズに追われていた。殿はまんぷくテロリスト。BBは後ろに向けて攻撃できない。オサムの機銃攻撃の邪魔になる。
オサムは引き金を引きっぱなしだった。どれだけ撃っても後続が前に出る。リベルタリアへ投入した兵力より、脱走兵を追うほうが多い。現に敵の大半は一般兵士だ。
一行は山脈を横断していた。追撃の手を緩ませるためだ。道は狭く車が一つ通れば御の字。だから攻撃の範囲を絞れる。おかげで殿が忙しい。なにより弾が有限なのだ。今まではプレイヤーズが背後から補給してくれたのに。
レモンも後部座席からトランクを通して応戦。装甲車やバイクの乗員を撃ち抜く。すでにバンはボコボコだ。
「こちら先頭車。道が二手に別れる。一度別れるぞ」
ボクサイの声だ。プロペインは安心の息を吐く。これで自分達の負担を減らせる。
「了解した」
プロペインはそれだけ返した。右手は断崖。左手はガードレールなし。落ちたらデスは確実。運転しているこちらも気が気でない。
BBは前の車に続いて左の道を行った。続くバンも左へ。が、敵は右手の車を見ずまんぷくテロリストを狙った。
「ちょっと! 何でそっちに行かないの!」
オサムが嘆き叫ぶ。レモンも苦しそうに歯を噛む。分散に敵は気付いていないのか。それはない。見れば解る。となると狙いは脱走兵ではない。プロペインはそう考え無線機を手に取る。
「こちらプロペイン! 敵は分散しなかった!」
「ハァ!?」ボクサイが間抜けに驚く。
「狙いは俺達だ。次の別れ道があったら俺達だけ他に行く。敵を引き付ける」
数秒の沈黙。ボクサイとしてもみすみす仲間を捨てるつもりはない。故に悩む。
「判った」だが彼女に選択権はない。「そうして」
「よし。幸運を祈ってくれ」
無線を切った。草食は聞いて頭を抱える。もしここでやられたら前哨基地でリスポーンだ。プレイヤーズの真っ只中。何もできず、今まで手に入れたもの全てを奪われ、野に放たれる。武器も弾もなく。弱くなってニューゲームだ。
彼女達は知らないが、その前哨基地のベッドも破壊されている。なのでリスポーン地点は要塞だ。追放どころか監禁される可能性がある。どちらにしろ、負けられない。
オサムは空に浮かぶ点を見つけた。ヘリだ。どんどん大きくなる。
「プロペインさん! ヘリが!」
「クソ!」
あいにく戦車隊は別行動だ。この山道で戦車は通れない。そしてヘリを落とせる兵器はない。それでも絶望しないのはレモンがいるからだ。
「レモン、やれる!?」オサムは掃射に負けぬ声で聞く。
「やります!」
そう言ってライフルを上に向けようとした。天井に当たる。斜角限界。
「ダメです! ここからだと狙えません!」
もう文句を言う余裕もない。オサムは近付いたヘリに銃口を向けられない。眼前の敵に隙を与えることになる。彼女は必死に制圧しているのだ。
もうヘリの射程圏内だ。BBも無線で様子は知っている。何もできない無力感。前の車に速くしろと叫びたい。もうフルスピードなのは知っている。何も言えない。
崖の下から何かが来た。ヘリに向かい、RPGを撃つ。着弾。ヘリは操縦不能になり、ぐるぐる回りながら墜落。敵の真上に落ち巻き込む。
「こちらヒトマル! 下から失礼する!」
BBは崖際に寄って下を見る。下には更に道がある。そこにアウターセブンが走っていた。
「ありがとうございます!」
「気にするなプロペイン。さて、我々はリベルタリアに向かう。行けるところまでお前達を助ける。お互い頑張ろうじゃないか」
「リベルタリア?」
「ソ連の軍人がアメリカに亡命するもんだよ」
クハハと彼は笑っていたが、若者らに受けなかった。
敵の後方、脱走兵追撃司令部。マケメロンが指示をし、忙しそうにしていた。彼女は、とにもかくにも飯テロをキルしろと命じられている。この仮のテント司令部。そこが彼女の戦場だ。
しかしつい先ほど送ったヘリが落ちたと聞き、頭を抱える。部下は送ったがやられたようだ。監督隊の視線が痛い。いるだけなら誰でもできる。何かしろ。そう念じた目線を送る。彼らは微動だにしない。
すでに山脈の先に兵士を向かわせた。あの山々を越えた先に待機。山脈以外のルートは、リベルタリアの勢力圏内か、奪われた戦車の通り道だ。ヘリを別ルートで行かせるべきか。すでにもう一機ヘリは来ている。
地図を前に、ため息。今日で何度目だろう。もうすぐ朝だ。
指示を出そうと入り口に顔を向ける。テントの入り口がガサガサ動く。ちょうど人が入ってくれた。指示をおくろうとして、瞬間の殺意に身構える。
銃撃。監督隊は全員ヘッドショット。マケメロンは弾を斬り生き延びた。
「おっと失礼。まさかお前がここにいるとは思わなくてなぁ、マケメロン」
入ってきた男は、アメフトのヘルメットに、錆びた鉄の鎧をまとっていた。見覚えがあるために記憶をたどった。
「……テイル」
その男は、かつてBBと一騎討ちした、テイルだった。
「リベルタリアか!」
すぐサブマシンガンを向ける。片手で握れるサイズのそれを向けられ、テイルは全く動じない。体をゆっくり回転。マケメロンに近付く。そして向き直る。
「オレは別に、お前と戦いに来たワケじゃあない。そこの……もう消えたか。軍服の野郎ともリベルなんたらとも関係ない。お前個人と話に来た。ビビるぜ。撃った弾をあっさりと」
「要件は?」
「いやいやお願いをしに来たんじゃない。オレがお前に忠告をしてやろうってことだ」
マケメロンは耳をすます。こいつがここまで来れたということは、周りの仲間もやられている。ならばなぜ銃声の一つもしなかったのだ。
「安心しろ。ファストトラベルで来た」
「ファストトラベル? そんなのあるハズが……」
「ないね。だが知っているハズだ。オレにはクリエイターがバックにいると」
そういえばゲンが何気なく言っていた。つまり、こいつはクリエイターの兵士だ。
「んで、忠告なんだがよ。まず、お前。何でゲンがまんぷくテロリストにあそこまで注力するか。知ってるか?」
「……いや」
「考えたこともないってか。まぁいい。あいつを狙うのは、クリエイターも飯テロに注目しているからだ」
「クリエイター?」
「聞いての通りこの世界を創った奴だよ。そいつがまんぷくテロリストに注目している。ちょうど脱走が始まる前に、クリエイターの私兵部隊がここを襲った。お前は知らないがな。そこで飯テロは、BBは攻撃を退けた。私兵部隊の攻撃をゲンのものと勘違いしたあいつらは、とっとと逃げ出した」
「そんなことが……いや、何の繋がりが」
「まんぷくテロリストをゲンとクリエイターで取り合っているのさ。もちろん、相手はこの世界の運営だ。好きにできる。だから、あいつらをワープさせるなんて造作もない。それをしないのは、クリエイターなりの遊び心だよ」
事態についていけない。マケメロンは混乱するばかりだ。飯テロが取り合いになっている。それと自分への忠告とやらが噛み合わない。
「お前にとって、これは大事なことだ。ついでにオレにとっても」
「要件を言え!」
「まんぷくテロリストにクリエイターは注目している。なぜか? あいつは飯テロを捕まえて、イベントを起こそうとしている。……このポストアポカリプスを巻き込むイベントをな。しかしあいつは鍵を求めた。その鍵が、まんぷくテロリスト。ヒデー名前だ。そいつらと出会ったら、イベントとやらを始めるのさ」
「だから!」
「そしてそのイベントはこの世界から脱出するかどうかの大イベントだ」
呼吸が止まった。それに気付いたのは息苦しくなってからだ。飯テロが脱出するかどうかの鍵になっている。やっと理解に落とし込んだ。
「そう。飯テロがクリエイターと出会ったら、脱出に向けたイベントが開催。そこであいつらは脱出の是非を問う。脱出することになったら、この世界は終わりだ。楽しい生活は消え、クソみてぇな現実が来る。そんな大事なことで、まんぷくテロリストなんて輩が鍵となるなんて、ふざけてる。だろう?」
「じゃあ、俺は……」
「そうだ。この戦いはゲンに勝たせないといけない。クリエイターは焦っていない。とはいえ、飯テロの連中がクリエイターに近付くことになるのは不味い。オレはごめんだね。お前は会話ログからして残留派だ。ゲンと同じく。どうする? ここにファストトラベルしたから、仲間は撃ってないぞ」
このまま地図とにらめっこして取り逃したら後悔どころじゃない。自分がやる。マケメロンはテイルを押し退け外へ。武装したゴブジがたむろしていた。
「今すぐバイクを用意して。俺専用の」
「は、はい」
バイクは持ち込まれていた。マケメロンがかつて愛用していたもの。専用に改造され、ピーキーすぎて彼女以外扱えないバイク。
バイクが持ってこられるまで、仲間に指示を飛ばす。全員に一気に話しかけた。ヘリも車もバイクも何から何まで駆り出される。ついには基地を守る者さえ。ヘリをまず向かわせる。先回りだ。
ついにバイクが来た。大事に保管されていたようだ。一応持ってきておいて正解だった。
バイクに乗る。息を吐く。
マケメロンは、現実ではあまりいい境遇で育たなかった。幼少期に両親が離婚。母親に連れられ母子家庭になる。母親はいつも父を貶していた。しかしたまに会う父親は実にいい人だった。今も仲は良く、このポストアポカリプスというゲームだって父から貰ったのだ。
小学生の頃も中学の頃も、勉強はできなかった。それで母親にさんざん怒鳴られ、更にできなくなる。反論はできない。誰が金を稼いでいるかと言われれば、何も言えない。ホスト通いはやめていたが、結局男は漁っていた。
底辺とはいえ高校には行けた。酷い学校だった。学費はバイトで稼いだ。このご時世、バイトでさえ就活並に落ちる。もしかしたら勉強よりバイト探しのほうが苦労したかもしれない。だが、母親が仕事をクビになったことで、生活もままならなくなる。高校は中退した。バイトに専念することに。
そのバイトで、元彼と出会った。まだ未成年の頃。体を売る買うの関係。いつしか本気になった。
愛情に餓えていた彼女は彼を困らせた。自分に眠る欲求から逃れようとしても無駄だった。そして子供ができた。まだ腹の中。彼氏に言われて中絶。その後まだ未成年なのにお酒を飲まされた。
そして、その彼からも逃げられた。重すぎて嫌になったのだろう。死の影に誘われたが、失敗した。だから酒に溺れた。男性不信にならなかったのは父がいたからだろうと回想する。
そのまま成人。学歴はないも同然。それはいいとして、母親がホスト通いを再開した。言い争っても無意味だ。いつの間にか、アルコールがないとやっていけなくなった。
それを見た母親は、ようやくホスト通いをやめた。金は一銭も戻らない。増えもしない。減っていく。だがアルコールはないと動けない。今度は母親からあれこれ言われる。また首に縄をかけた。
そうこうして、父親からポストアポカリプスというゲームを貰った。始めての本格的なゲーム。彼女は熱中した。酒、ゲーム、仕事。この三つで彼女はできていた。そして、今に至る。
……こんな現実に、誰が帰りたいというのだ。そこまで苦痛を舐めて腐って、それ以下になってどうする。
帰らない。誰が何と言おうが、譲れない。プレイヤーズに入ったのも、ゲンが本気で脱出しないと信じていたからだ。そのハズだ。
回想をやめる。全員揃った。まんぷくテロリストを逃がすワケにはいかない。絶対に止める。自分の小さな幸福のため。この世界という楽園のため。
「皆! まんぷくテロリストを何としてでもキルしろ! 他はどうでもいい! あいつらだけは逃がすな! 総長もそう考えている! 行くぞ!」
走り出した。マケメロンはトップスピードを出し、仲間を置いてけぼりにする。原動力は殺意。たとえ他者の命を奪ってでもこの幸福を完遂する決意。
現実への不安と恐怖が蘇った。体がアルコールを求める。でも、この世界なら怯えなくていい。覚悟が不安をねじ伏せた。
設定盛りすぎたと反省している。公開はしている




