第78話 開戦は常に珍妙
村の外れで大人達が話し合っている。脱退、というよりは亡命のプランとでも言うべきか。どこに誰が逃げるかが話し合われた。敵であるリベルタリアに行こうとする者はいない。プレイヤーズに近いからだ。故に、噂でしか聞かない経済同盟などを論じる。
BB達は周囲を警戒。たった三人で四人を守れるのが、強制安心剤トリオだ。
だがそんな三人も、少し息を抜いている。
「経済同盟ってどんな場所なんでしょう」
とレモンに言われても二人は答えを持たない。二人共プレイヤーズで人とあまり話さなかった。特にオサムは一言も、と装飾しても過言でない。
ともあれ話は続く。
BBが反応した。「なんだか、企業体質っぽいよね。プレイヤーズが軍隊で、リベルタリアが国家って聞くとさ。となると経済同盟は企業、みたいな」
「あー企業。そういえばそういう団体まだ見ませんね」
BBとレモンの会話に加われず、オサムは荒野に目をやる。頭で会話プランをシミュレートしているのに、なぜか言葉にできない。
「そういえばハチさんは三千連邦って知ってます?」
「三千連邦? 都市連合といい経済同盟といい漢字四文字ばかりだね」
「そうですよねぇ。その三千連邦ってところが北西にあるみたいで。規模はそんなにらしいですが」
「同盟がダメならそこに行くことになりそうだね」
砂が靴に踏まれる音。即座に会話を中断。音の方角へ意識を向ける。何もない。聞き間違いか。だが三人は確かに足跡を見つけた。跡はこちらを向いている。村の外から、こちらを。
三人は目を合わせる。足跡はすぐそこにある。人はいない。ならあれは何だ。
違和感。BBは咄嗟の勘で刀を抜いていた。
何かが空気を掠める。ボールが飛ぶような、それに類似する音。理解できない三人。
突然。空中からスーッと円筒が現れた。投げられるような軌道をしている。フラッシュバンかスモークだ。
BBは叫ぼうとする。煙に包まれる。構うものかと駆ける。
「なんだ」「なに」「おいおい、魔法には気を付けろ!」
会議中の四人のもとへ着く。無事だ。BBはすぐ目を配らせるが意味はない。プロペイン達以外に人はいない。スモークにまみれている。
「みなさん動かないでッ。何かいます」
刀を向け、気を配る。何がいる。どこに敵が。オサムも駆けつけた。ナタは抜いている。二人して緊張する。
「レモンは?」「スモークの外」「了解」
BBとオサムの会話はこれで充分。敵を待つ。敵は監督隊か。
BBの横から殺気。何かを避ける。明確な殺意。見えないが、恐らく刃物。風を斬る音が刀と似ている。この感覚から解ること。BBの刀で防ぐことはできないということ。
二回目の斬撃。後ろに下がる。横薙ぎか縦振りか見て判らない以上後ろに逃げるしかない。だが逃げたら隊長達を巻き込む。
オサムも襲われていた。攻撃をナイフでいなしている。そのナイフの耐久力は、一度防いだだけでかなり落ちた。鋭い刃物だ。一撃でももらうと危険。
BBはよく見た。観た。視た。わずかな空間の歪み。人だと判る。人が透明になっている。そういうアイテムだと解釈した。
見れないことに変わりはない。判るのは輪郭のみ。何かを擦るほんの小さな音。体にフィットするスーツでも着ているのか。動作は極端に少ない。
愚直な縦振りが見えた。両断するつもりか。BBは左手で刀の峰を支え、敵の刃物に横から当てる。刃物はそれたらしくBBに当たらない。そのまま突く。腰を動かしただけ。
何者かの喉に刺さった。そのまま引いて横に薙ぐ。透明が解除されていき、全身をスーツで着飾った誰かが倒れた。顔も見えない。ポリゴンとなり消失した。アイテムをロストする。
オサムの周囲から殺気が消えた。走っていく足音。足跡。誰かは消えた。そして、スモークもきえはじめる。全員なおも全神経を集中。
杞憂だった。誰もいない。BBはそっと敵のロストアイテムを拾う。持っていた刃物は、ブレードだ。高周波ブレード。ポップアップで名前が出ている。刀と似た形をしている。貰おう。BBは刀を納めブレードを握る。
「こいつは誰だ?」
ボクサイは呟いた。ここにいる者達共通の疑問。だが選択肢は限られる。
「まさか監督隊」
「待て草食」プロペインが手で制する。「だとしたら別に暗殺なんてしなくていい。俺達が密談しているんだ。このネタはキルするには惜しい。監督隊ではないな」
「じゃあなんなの」
「それは判らん。だが今の俺達を襲う連中は一つ。プレイヤーズ、ゲン総長だ」
「ならこいつは監督隊とは別の……」
「恐らくは。つまり、もうバレている」
冷や汗。こちらの行動をすでに把握されている。草食は目を細める。
ボクサイがため息を吐いた。
「なら、もう行動しないとね。先手を打ちましょう。ウチらは戦車も出すんで、それで司令部壊して混乱させてやりますよ」
「解った。では俺達とスマイリムはすぐに脱出の準備と、アウセブに兵舎からの退避を伝える。兵舎も壊してくれ」
「はいはい。これまでの借りをチャラにしますか」
ボクサイは走った。エンデルフィンも「あたし達は首長に対して罪を犯した」と意味不明なことを言った。
レモンがようやく戻ってくる。プロペインが彼女へ向く。まずはレモンから。
「状況は? こちらからだと煙しか見えませんでした」
「プレイヤーズに感づかれた。すぐに逃げる」
「了解です。やることは?」
「荷物をまとめてくれ。俺はヒトマルさんに兵士達を逃がすように伝えないといけない。草食、頼んだぞ」
「急いでよね。また攻撃が来るかもだし」
プロペインは四人と別れ、兵舎、ヒトマルの所へ。走り、ヒトマルの部屋をノックなしで開けた。
「ヒトマルさんッ」
「プロペイン? どうした。俺はまだ」
「すぐにここを攻撃します。アウセブの皆を逃がしてください」
「なんで攻撃なんか」
「申し訳ないですが証明する時間がありません。早くッ」
ヒトマルは納得せずとも、とにかく行動した。ベッドルームに行き兵士達を起こす。兵舎は二つある。幸いにもアウターセブンは一つの兵舎に集中している。あとはゴブジの兵士だけだ。
皆黙って避難を始めた。何が起こるのか理解していないのだろう。プロペインも外に。ヒトマルは立ち止まる。
「待て、俺はこのまま総長へ直談判する。まだ行かない」
「解りました。またどこかで会いましょう」
言いながら、プロペインも別れを意識する。
「そうだな。また会おう」
「こちらラストルネッサンス!」ボクサイの声が無線から響く。「ファッキンプレカス! しばらく眠ってろ!」
戦車の砲撃。兵舎を二つ、司令部を破壊していく。執拗に何発も撃ち込んだ。プロペインは村の外へ走る。砲撃音に驚いた村民が外に出るが気にしない。
バンまで来た。もう三人は乗っていた。BBもバイクに乗っている。車は集い、一つの勢力をなしていた。
「待たせたな」
「あとは逃げるだけだね」
草食との会話もほどほどに、エンジンを始動、アクセルを踏む。
「こちら飯テロ。移動開始。西へ!」
「ボクサイ以下ラストルネッサンス、行くぞ! 西へ!」
「完勝だ! 凱旋するぞ!」
かくして、ラストルネッサンス、スマイリム、そしてまんぷくテロリストは、プレイヤーズから逃亡した。
マケメロンが瓦礫の中から這い出た。何やら無線がうるさいので外に出ようとしたら、瓦礫の下にいた。建物が崩れている。村中探し回ったが飯テロ達がいない。まさか、逃げたのか。
「マケメロン!」
叫ばれ振り向く。ケジブだ。その目付きから怒りが判る。
「アウターセブン以外のキーコードがいない。どういうことかね」
「恐らく、逃げ出したものかと。ついでに色々、ぶっ壊して」
「すでに本部には連絡済みだ。監督隊の拠点を知らなかったのは奴らのミスだな。すぐに味方が来る。君も指揮をとって奴らを撃滅しろ。元よりプレイヤーズに戻すつもりはない。幸い奴らのリスポーンは奴らが潰した。次のリス地は巨大廃墟前の基地。そこで全アイテムを没収後追放とする。この追撃任務の失敗の際は、マケメロン、君にも同じことをする。意見は聞かん」
無茶苦茶な命令だ。抗議は聞かないだろう。こんな時こそ、やるべきことを決めるのだ。マケメロンは行動する。
まず、デスした仲間がリス地からここに来るのを待つ。早速追うことにしよう。建物を壊したのは戦車か。あの戦車は少々遅い。もし捨てないなら、まだ追い付ける。
無線機を取る。失敗は許されない。だが、まんぷくテロリストにかなうのか。
「こちらマケメロン」声は重い。「生き残っているメンバーは俺に続け。脱走犯を討つ。すぐに村中央に集まれ」
無線を切り、沈黙に悶える。
「待て」まだ近くにいたケジブは言う。「ヒトマルを捕らえろ」
「え、逃げたのでは?」
「まだここにいる。どこにいるのかは知らんが。部下はヒトマル、アウターセブンの脱走を見ていない」
「……了解、です」
マケメロンは形式的に走った。どうかいないでくれ。彼女はヒトマルに願った。敵に回るなら、そうして欲しい。彼はマケメロンの仲間なのだ。プレイヤーズ加入の時、取り立ててくれた恩もあった。戦友を売ることはしたくなかった。
だが非情にもヒトマルはいた。村の外にたむろしていた。車から無線機を取り出し、通信していた。周囲にアウターセブンの兵士達もいた。
「なぜです総長! 俺達は貴方の命令に従っていましたッ。なのになぜこんなことを! 彼らへの労りもなく!」
「ヒトマル君。別に君を排除しようとはしていないのだよ。君は優秀だ。依然隊員であり続ける。もういいかね? 私は眠いのだ」
「しかし!」
「異動なんてよくあることだ。それよりも早く脱走者を討て。彼らは非、プレイヤーだ。君とは違う」
「そんな考え……」
「私に対して意見は必要ない。それでは」
無線を切られ、意気消沈している。マケメロンは唇を噛んだ。だがこちらにも信じて着いてきた部下がいるのだ。
「ヒトマル」
「……マケメロンか」
両者は冷たく向き合った。どちらにも殺意なく、ただうつむいていた。
「来てほしい。監督隊が呼んでいる」
「そうか」
よろめいたように連れていく。してケジブの前に立たされる。
「ヒトマル隊長」顔を仰向けに、見下す。「諜報部は脱走者と、君との関係を知っている。この責任はどうするかね?」
「……彼らを討てと」
「その通りだ。君は兵士だろう? なら命令に従いたまえ」
ケジブは服従を求めた。アウターセブンの兵士も、ゴール・オブ・ジューシーの兵士も、ヒトマルの震える拳を見た。
「バカヤロォゥ!」ヒトマルはケジブを殴った。彼は倒れ情けない面でヒトマルを見た。
「兵士だからって何でも従うワケねぇだろ! 軍隊だろうと自衛隊だろうとパワハラは問題になるんだよたわけ! なめんじゃねぇぞクソ野郎!」
拳銃を抜き躊躇わず発砲。他の監督隊も容赦なく撃ち抜いた。ヒトマルの動きに合わせて、アウセブの兵士が監督隊の殲滅を始める。
「……ヒトマル」
「悪い。ゲンのことでイライラしていた。俺はプレイヤーズを抜ける。恐怖政治の駒にされるのはごめんだ。マケメロン、お前はどうする」
「俺は」マケメロンは仲間を見て、ヒトマルを見る。「プレイヤーズにつく」
「……事情があるんだな」
「うん」
「なら止めん。でも、戦場では遠慮なしだ」
「すまないね」
マケメロンは去るヒトマルを止めなかった。
「姉貴、どうします?」
「ここを拠点に脱走犯を追う。本部と繋いで。ヘリを寄越させる」
マケメロンは一人になった。寂しさがエンジンとなる。




