第77話 督戦隊曰く
「偵察隊が入手した情報によれば、ここを北に進めば基地、西に行けば山脈、東に行けば街だということだ。選り好みできると言えば聞こえはいい。実質囲まれているがな」
早朝。プレイヤーズの侵攻部隊は隊長達で会議していた。ヒトマルが始めている。いつもの作戦会議。
北進論、東進論、西進論。これに別れた。北に行けば行くほど敵の首都、本拠地は近くなる。しかし行きすぎれば突出し包囲される。東西どちらに進むにも、結局戦線を拡大するだけ。後続のプレイヤーズを待つことも議論された。その間に兵力を回復されては長期戦になってしまう。
ならば空襲で敵の補給経路を潰そう。そんな考えが出たが、対空能力はヘリを所持していた以上、確実に保有している。下手に手を出せばこちらの航空優勢が崩れる。ヘリの補充はまだ来ていない。
未だ敵は強大であるという事実を噛み締めた。そこへ、ノックが三回。「失礼します」やってきたのはアウターセブンの兵士だった。
「どうした」当然ヒトマルが応じる。
「プレイヤーズ本部から、監督隊なるものが来ました。マケメロン副隊長に話したいことがあると。それから我々にも」
「監督隊? なんだそりゃ。マケメロン、行ってこい。会議は一旦中止だ」
「あぁ、うん」
マケメロンは気迫のない返事をして立ち上がった。兵士に連れられ急造のプレハブ小屋を出る。
ため息。彼女はなんとなくこの先を予知できた。ゲンの息がかかった部隊が来た。飯テロが活躍するのを聞いて、色々するために来たのだろう。そしてマケメロンは諜報部をやめさせられる。元々地位に縋る質ではないので別にいいが。
彼女は民家に来た。確かに付近にはプレイヤーズの装甲車。なぜ民家なのか。接収でもしたのだろうと合点。
「この中にいます」
「案内どうも」
「……気をつけてください。奴ら、何か変です」小声で忠告してくれる兵士にうなずき、家に入る。
中には、立つ兵士達と、民家のくせに事務所くさいデスク。椅子に座る男が目に映る。軍服を着ている。帽子は軍帽。そんな風貌に目をしばたいた。
「失礼します、の一言も、ノックもできないのかね君は」男が威圧を含めて言う。
「すみません」
「座りたまえ。元部長さん」
自分の予測と同じ結果に安堵。なにやら油断できぬ人物だ。背もたれからは拳一個分空けて座った。
「それで。どうされましたか、現部長さん」
「二つあるが、一つは君だけに伝える。もう一つはキーコードとそれ以外の連中に言う。まず一つ目だ」
足を組み、デスクの上に置く。タバコでも吸えば不良の完成だ。
「君はめでたく諜報部の長をクビとなった。やめたがっていたのだ。そのわがままに答えてやった。感謝したまえ」
「はぁ。ありがとうございます」
「……ふむ」つまらなそうな顔。サディストに違いない。「しかし、ゴブジだったか。君らのチームは依然として総長閣下のために働いてもらう。これはキーコード隊長の命令より上位、最上位のものだ。違反は許されない」
「とにかく、解散はなしと」
「そうだ。閣下はお前達に寛大な処置をしていただいた。その恩は忘れないように」
閣下とな。マケメロンは舌を出して愚痴を言いたい。もっとフレンドリーな路線ではなかったか。これでは本当に軍隊だ。マケメロンは一般人だ。
不満をよそに、男は面倒くさそうに足をほどく。そして地につけ立ち上がる。
「着いてきたまえ。さきほど言った、二つ目のことを周知する」
マケメロンは着いていった。監督隊が何者かは知らない。逆らわないほうがいい奴らだということは解る。長いものには巻かれろ、だ。
彼らの軍服が道を行く。注目を集めた。自然、随伴するマケメロンも見られる。仲間のように扱われていて大変心外である。しかしどう立ち回れば勝ち馬に乗れるのか不明な以上、不用意に動けない。
仮の司令部にズカズカ。中へ。無線担当の持つ無線機を取り上げる。
「こちらはプレイヤーズ監督隊。侵攻部隊の諸君はただちに司令部前に集合。これは命令である」
わずかに沈黙。そこへヒトマルから無線。「こちらキーコード隊長のヒトマル。そちらは誰を背に発言している?」
「総長閣下直々のご命令である。そちらより権限は上だ」
「失礼しました監督隊殿。すぐ集合いたします」
マケメロンは心でヒトマルに謝る。体育会系が階級に逆らえないのは知っている。この男に嫌らしいことを言われるのではないか。不安と苛立ち。
彼女の困り事も知るよしもない兵士達。プレイヤーズは司令部前に整列した。彼らの視線の先に、監督隊の隊長である男が立つ。列に連なる
BBは、とにかくハリネズミ。警戒まみれ。
「諸君。私は監督隊隊長のケジブである。だがプレイヤーネームなどどうでもいい。我々は諸君に教育と再編成を伝えに来た。」
再編成。目を開いてプロペインと草食は歯を噛み締めた。キーコードと関わらないところで飯テロを解体しようというつもりだ。怒りで目が
鋭くなる。
「この貧しい村を見て、諸君は適当なこと思わなかったようだ。この、反脱出派の非プレイヤー達に、諸君は同情した。真のプレイヤーの肥やしにすぎない彼らにな」
同情。これには監督隊以外全員困惑。マケメロンも狂人を見る目でケジブを見た。BBは警戒から殺意へシフトチェンジ。すでに狙いをつけた。彼は話を聞かずとも内容を理解できた。
「いいかね諸君。我々は脱出を目指すプレイヤーだ。そこいらにいる、安心なぞを求める惰弱とは違う。彼らはプレイヤーズではない。プレイヤー扱いしていいものではない。脱出という目的に本気になれない者をどうしてプレイヤーと言えよう。諸君にはプレイヤーズとしての自立が足りない」
何だこの説教は。レモンは呆れ果てる。ただの優生思想だ。オサムも怒りを超えて、気色悪さに青ざめる。父の言葉を思い出す。世の中には関わってはならない人がいる。
「その自覚が足らない君達は、今一度再編成し、正しきプレイヤーとして進軍してもらう。我ら監督隊は、プレイヤーズがプレイヤーであることを監視する部隊だ。非プレイヤー的動作が見られた場合、アイテム没収の上追放する。さて、今日は再編のために司令部を使う。諸君は命令あるまで待機せよ」
彼らは言うだけ言って去っていく。残されたのはマケメロン。視線が彼女に集まる。蒼白の顔面。とんでもないクズについていってしまった。クソ彼氏に幾度となく騙された若い己を思い出す。
「マケメロン」怒りをじっとこらえるヒトマル。「どういうことだ?」
「いや、私ゃに言われても」
「なぜあいつらについていった?」
「だって呼び出されたじゃん。このまま……」
「じゃあ、あいつらについては何も知らないと?」
「監督隊なんて初耳だよ。私ゃ知らない。今のも始めて聞いた」
「そうか」大きく息を吐き、うつむく。ヒトマルは無理に顔を上げて「疑ってすまん」とだけ言った。
兵士達はみな解散となる。重い暗い空気は村中を包んだ。ゴブジのメンバーはマケメロンから解散せずと聞き、安心した。同時に他チームへの罪悪感で天を仰いだ。
まんぷくテロリストは集まらなかった。それぞれが思いのまま動く。このショックを誰もが受け止められなかった。BBはショックより怒りで満ちていた。威圧的なその傲慢が許せなかった。そして何よりも、仲間と、オサムと離れるなんて許しがたい。
気持ちを撃ちつかせようと、岩の上に腰かける。深呼吸しても、怒気は溢れる。そこに、アウターセブンの兵士がやってきた。顔はバイザーで隠されて判らない。判ったとしてもBBには馴染みのない人だ。
「よう、ハチ公」
落ち込んだ声で男だと判る。知らない人に変わらず。
「隣いいか?」
「かまいませんよ」
兵士が岩の上に座り肩を落としていた。考えていることは同じなのだろう。その結果が、怒りではなく諦めであるのが違いか。
「すまねぇな」兵士は突然謝った。
「何が、ですか」
「俺達もあんたら飯テロに協力するって隊長が言ってた。解散の危機だったんだろう? だから協力して……なのに何もできなくて。謝っても仕方ないとは知ってるが」
「……いえ、ありがとうございます」
少し黙った。兵士は口ごもり返答に窮した。話の流れが断たれる。このまま続きを話すのは不自然だ。話題を変える。
「プロペインには、いつも訓練場で世話になってたんだ」
「そうなんですか」
「あぁ。面倒見がよくてな。よく駄弁ってたもんだよ」
足音。監督隊かと見上げれば、ゴブジの者だった。その女は酒瓶を何本かぶら下げている。
「オッス。酒飲む? ハチ公はサイダーで」
「おー。いただくよ」「……いただきます」
兵士とBBはそれを受け取り口に含んだ。誰も飲料ごときで立ち直れるほど単純ではない。
「ゴブジって、あいつら側なのか」兵士が女に問う。
「知らんわあんな連中。メロンの姉貴もかわいそうだ。何も知らずあいつらに連れていかれて、そして仲間扱いするんだものね」
「言っちゃあ悪いが」BBを横目に。「マケメロンって飯テロと仲悪いんじゃねぇのか。解散の関係がどうたらって」
「……こっちも上には逆らえない。うちは解散しないんだってよ。その代わり総長の駒扱いだ。断るとどうなるかは皆を見れば、おのずだよ」
「ゴブジは解散しないんですか」BBが食いつく。
「悪いね。恨んでもいいよ。それだけのことはやったんだから」
「言っていいんですか」
「ハチ公。私らだってやりたくてやってるワケじゃない。いやダメだ、これは言い訳だ。まぁ忠誠心なんてないとだけ言うよ」
三人は暗い空気を吸いため息として吐いた。誰も止められない。不条理が身を焦がす。どんどん般若となるBBを、二人の無名兵士はどうすることもできなかった。
夜まで、この不気味な風は続いた。士気は削げ落ち、寝ようとしても寝られない。昇進の話さえない。昇格もない。なのに長年暮らしてきたチームを離れる。大人達は受け入れられる。しかし若者は強く燻った。社会なるものを受け入れるには若すぎた。
夜。誰かの声がする。人々が外に出てみると、ラストルネッサンスの副リーダーのボクサイと、スマイリムリーダーエンデルフィンがプレイヤーズを呼んでいた。なんでも、お別れ会をやろうと言っている。飯テロ全員と他の隊長格だけを呼ぶ。マケメロンは呼ばれなかった。
村の外で集会。ラスルネ、スマイリム、アウセブ、飯テロ。集まった。監督隊はいない。
「さて、みなさん」ボクサイが始める。「まさか本当にお別れ会なんてやると思います? 一応監督隊にはそう言いましたが」
「いや」ヒトマルが主導して聞くことに。「何のつもりだ?」
「簡単ですよ。プレイヤーズからの脱退です」
「しかし」
「もちろん。ゲンは許さないでしょう。しかし許さないからなんだ。アウターセブンはともかく、ウチとスマイリムは知ったことではない。こっちはただ吸収されて、仕方なく働いただけです。その上勝手にチームの裁量を決めるなんて我慢できませんよ。飯テロだってそうだ。彼らは五人だから、彼らだからプレカスは目をつけていたワケで。なのに解散なんてね。しかもそれで何かくれるのでもない。こちらに一切メリットがない」
「だが命令だ」
「ウチは命令に従うよう教育されていませんので。王と臣の関係じゃないんです。たとえ向こうがそう思っていたとしてもね」
ボクサイのハッキリした態度は好感を集めた。
「さて、どうです。ウチとスマイリムは無理にでも脱出しますよ。チェリーはすでに確保してますから怖いものはない」
プロペインは子供達を見る。彼らの目に宿っているものを心に写す。深く目を閉じた。草食は帽子に手をかける。
「いいんだね? 三人は。振り出しに戻るよ」
草食の言葉に三人はうなずいた。元々離別させないと言ったのはゲンのほうだ。
「飯テロは決まりですね。さて、ヒトマルさん?」
胸を張り、空を見て、ヒトマルは口を動かす。
「俺達はまだ抗議しに行く。お前達とは動かない。総長とは長い付き合いだ。通すべき義理がある」
「はいはい。んじゃ、ウチらが何しても止めないでくださいよ」
ヒトマルは立ち去った。あとはプレイヤーズ離脱計画の話し合いだ。指揮官達で話し合う。BBら三人はヒトマルを追った。裏切らないかの確認だ。
「まさか、こんなことになるとはって感じです」
「レモンも? わたしらどこに行くのかな」
レモンとオサムは不安を口にしあった。辺りを気にする小声が、その負をかさました。
ヒトマルは兵舎にいた。裏切りの兆しはない。レモン達に外の警備を頼んだ。BBはヒトマルのもとへ。
ヒトマルの部屋にひっそりと入る。「ハチ公か」そう言われた。
「貴方にとって、これは裏切りですか」
「そうかもな。結成当初からの仲間だ。でも、DVからの離婚は裏切りではないだろう。正当な権利だ。だが、そう簡単に割りきれないんだよ」
BBは、裏切りというものが判らなくなった。裏切りは嫌いだ。しかしこの場合裏切られたのはどちらだろうか。エゴイズム。その言葉が響く。




