第76話 敵意の兆し
マケメロンは装甲車に乗った。背もたれに文字通りもたれ肘を突き頬に手を乗せる。不満げだ。それは隣の運転手も同じだった。
「メロンの姉貴、なんで飯テロに協力するとか言ったんですか。ウチらあいつをどうにかするハズでしょ」
マケメロンはBBと話した。その後コブジの仲間にまんぷくテロリストの支援を告げた。衝撃は大きい。しかしマケメロンの言うことならと受け入れてくれた。
運転手とは目を合わせないで、可視範囲の狭いフロントガラスを見つめた。すでに出発のために車もバイクも集まっている。すこしプレイヤーズを残し、敵地に進軍。後続の者達が来れば、後顧の憂いはない。
「別に、任務をやめるワケじゃないよ。失脚させるのはそのままに、でも総長には飯テロの良いとこ言っとく。とはいえ、どっちも意味ないけどね」
「そらそうっすよ。ゴブジ以外は飯テロ支持ですし、総長は飯テロの人気を危険視してるし。ウチらゴブジは何もできませんがね」
「俺はこういう政治は苦手なんだよ。帰ったら諜報部はクビだね。次の部長はあんたかね」
「いやですよめんどくさい。ゴブジの連中とつるめないのにそんなことしても楽しくない。この世界はゲームなんだ。楽しんだもの勝ちよ」
「そうだね。プレイヤーズから抜けようかなぁ。いやキーコードから抜けたいな。いやいや諜報部から……」
「こちらヒトマル。作戦の復習をする」
無線機から声が。マケメロンはフッと笑って肩を竦める。先の発言は本気でない。やめるつもりのないサラリーマンの言葉と同じ。彼女は別に飯テロを恨んでいないのだ。何なら仲良くなりたい。今の立場がそうさせないだけだ。しかし諜報部だけは本当にやめたかった。
BBは飯テロの仲間と離れ、またスマイリムと共にいた。今回もバイク隊が活躍する予定だ。彼は作戦について思い出す。ヒトマルが補足するように言う。
「まずBBとスマイリムによって目標の村を襲撃する」そう、攻略目標は村だ。当然プレイヤーの村。「その際民家のベッドは壊すな。我々プレイヤーズはギャングではない。民間人、または無抵抗の敵までは撃たない。その代わり兵士は撃て。村は守られているハズだ。偵察もそれを証明している」
ここで疑問が浮かぶ。無抵抗とはいえ、プレイヤーだ。敵となるなら撃っていいのでは。そもそもプレイヤーなんだから武器ぐらい持っているだろう。ブリーフィングではプロペインが尋ねていた。
しかし、プレイヤーズもそうだったが、民間人と扱われているプレイヤーに対しては武装を禁じているのだ。偵察隊は、兵士でないプレイヤーが武装していないという情報をもたらした。プレイヤーズとしての経験もあり、民間人は武装していないと結論。
プレイヤーが武装するといつ反乱されるか判らない。刀狩りだ。代償として、保護をしている。サバイバルゲームにおいて、生存の保証は強い意味がある。
……ヒトマルの話は続く。
「兵士を攻撃し、詰所を破壊、プレイヤー達を解放する。スマイリム達は我々の到着まで戦ってくれ。やれるなら詰所を壊してくれてもいい。敵は今の所少ないからな。こちらの進軍スピードにあちらは間に合ってない」
リベルタリアは国家を自称しているだけあって、その中身は民主主義。決定にはとにかく時間がかかる。「全く民主主義万歳だな」ヒトマルが嗤った。
「それでは、スマイリム及びBB、少し早いが、健闘を祈る」
「了解しました」
BBが簡単に答えた。ヒトマルの出発という言葉に従いスマイリムも発進。車よりも速度は速い。すぐ距離が離れる。
「スマイリムさん、またよろしくお願いします」バイクに負けない声で言った。
「面倒は避けてね、同族さん」
エンデルフィンが言った。同じことを前にも言われた。
BBは頭上を見る。夜だ。改めて、想う。現実の肉体はどうなっているのだろう。閉鎖されて何ヵ月か。今まで誰もそのことについて話さなかった。マケメロンの話を聞けば、それもそうだと納得できる。この世界から脱出できない人にとって、そんなの野暮だ。
ぶるりと震えた。自分は何だかんだ見た目がいい。女装も似合ってしまい、普通の格好でも目立つ。BBはそんな己が嫌だ。義親によっては性的な接触を求められた。美少年なんかでいるのにメリットはない。彼はそう思う。
そんな自分が、何もできずに肉体が放置されている。自分の肉体をまさぐろうとすればできる。相手が誰だろうと、無抵抗の体に触れられると思えば……。せめて、病院かどこかにいることを願う。
街が見え始める。電気は通ってないり松明が燃えている。
エンデルフィンは笑う。斧を抜き、高々と掲げ、叫ぶ。
「皆行くぞ!」
「おー!」メンバーが呼応する。
「叫べ!」
「ポストアポカリプスはスマイリムのものだ!」
全員が叫び、スピードを上げる。武器を手に、村へ突入。門衛は突然のことに対処できない。侵入を許しついでにキルされた。
BBは彼らを追う。一直線、脇目も振らず駆け抜ける。バカスカと発砲。それが警笛のように住民を起こす。
狙いはただ一つ。詰所、兵舎、兵士達。住人だの民間人だのは知らぬ。BBもスマイリムの意図が判り気が楽だ。
二階建てのコンクリートプレハブこ前でスマイリムは止まる。バイクを素早く降りて追って来る敵を迎撃する。射撃が上手い。パニック下の住民に当てず、兵士だけに着弾。
「BB、ついてこい。攻撃こそ最大の防御だ。そうだろう?」
エンデルフィンが何か言ってきた。突入するのを手伝え、ということだ。ライフルを持ち、扉の横につく。彼女はグレネードの手振りを見せる。手榴弾を投げろ。BBは手榴弾を手に持つ。エンデルフィンは手を振った。何か投げられた。受け取るとフラッシュバンだ。
エンデルフィンが扉を引く。BBがフラッシュバンを中へ。扉を閉める。轟音。再び扉を開ける。
「はっ、見つけたぞ」
スマイリムは敵を撃った。この兵舎だけ電気が通っている。敵の確認は容易だ。どんどん突入していく。エンデルフィンとBBが最後に入る。
スマイリムは自然と別れた。二階を制圧する者、一階を行く者。BBはエンデルフィンに着いていく。彼女は二階に行くらしい。先陣を切っている。
撃ち下ろす敵を難なく撃破。階段を登り二階へ。出待ちする輩を二人で撃ち倒す。続くスマイリムは窓を破り外の敵を撃つ。奥の通路は十字に別れる。迷わず正面へ。部屋を蹴破った。ベッドがある。火炎瓶を投げた。ベッドが燃え、別のベッドも燃え広がる。BBはここまで活躍らしい活躍をしていない。無線が鳴る。
「一階は制圧。ベッド全てを燃やした」
「おいおい、魔法には気を付けろ」
軽口を言い合い、次のベッドルームを燃やした。二階にも続々とスマイリムが来る。すでに火の海が創造された。
「よし、全部やった。完勝だ、後退するぞ!」
一階はもう火が行き渡っている。どうするのかと思ったら、窓から飛び出している。BBも続く。着地。背には赤々と輝き燃える兵舎。兵士はリスポン不可となる。
あとは守りきるだけだ。そう考えていたのはBB。むしろスマイリムが押せ押せと進んでいた。敵は追い込まれている。これではどちらが攻めているのやら。だが好機に変わりなし。BBも撃ち戦う。
「こちらヒトマル。着いた。状況は?」
「詰所だか兵舎だかを破壊。今は掃討戦だ」
「了解したエンデルフィン。あとは任せろ」
「喜んで後に続こう、友よ」
発砲煙が見える。機銃を撃ちばらまいている。戦車もいたが、手持ち無沙汰といったところ。退路を絶たれ、リベルタリアの兵士は殲滅された。
詰所を戦車によって完全破壊。村を占領。駐屯のめに簡易の基地を築く。これまでの戦訓を活かし、ベッドルームは個別にした。また、バリケードも作り始める。ラストルネッサンスの活躍どころだ。
その間、住民を集める。農地が所々にあるということは、農民なのだろう。農作業をbotにやらせていたファームシティは驚異だったのだ。まんぷくテロリストはやっと解った。
「さてみなさん」
ヒトマルが冷たい視線を受ける。彼は全く動じない。慣れているのだろう。
「みなさんをリベルタリアの圧政から解放した、というのは建前ですが。まぁここはプレイヤーズ領となります。現在リベルタリアとプレイヤーズは戦争中でございますので。約束しますが、我々は貴方方へ対し不当な扱いはしません。ですが、信用していただけないのは承知しています。行動で示しますので、我々をよく見ていてください。それでは」
なんとも精気のない演説。というよりは証明。住民達も目を合わせて困っている。ヒトマルは言いたいことを言って去った。マケメロンは頭をかき、二歩歩み出る。
「まぁ、そういうワケなんで。私ゃらはプレイヤーズの、えー、兵士なんで。ま、みなさんの敵ではないと。そりゃ自分の飯を作ってくれる人を敵に回すなんて……」言いかけて、総長ならやりそうだと小声で言った。「ともかく、危害は加えませんのでご安心を。物取るかはちょっと判らんので、続報をお待ちくださいな」
「そんじゃ」マケメロンと行った。住民達は評価を下す。少なくとも酷い奴らではなさそうだ。安心というより呆れのもと家に帰った。リベルタリアもあまり信用されなかったらしい。
ラストルネッサンスが小屋を建てている間、兵士達は自由時間。とはいえクラフトなので時間はかからない。少なくとも現実の建築よりは。
草食は農場の隅に行って寝転んだ。少しの傾斜。星空を眺めやすい。ベッドができるまで寝よう。そうして目を閉じる。何者からか声をかけられた。
その方向へ目をやる。マケメロンが立っていた。草食はわざとらしく顔を歪めた。マケメロンはそれにゲスな笑みで返す。
「へっへっへっ。お前達を失脚させるぞー」
「いやハチが言ったことマジなんかい。メロン、総長の息かかってんじゃん」
「何言ってんの。私ゃ組織の人間だからね。上の指示には従うよ。社会の掟ってやつさ」
「ふーん」
社会経験なしの草食にとってはあまり実感のない言葉だ。上司と先生に違いはあるのか。あるのだろう。
マケメロンは隣に座った。胡座をかきあくび。先程の戦いがなければなんとのどかな光景だろう。草食は会話する。
「メロンはさ。なんであたしらをどうこうしようとしてんの?」
「あー。私ゃの意思ってこと?」「うん」「うーん。上からの指示だからねぇ。こういうの逆らうとさ、だいたいクビじゃん。ゴブジが解散したらやだなって」
「え、ゴブジも解散ちらつかされてんの?」
「いやいや。でも任務失敗したら多分ね。私ゃ総長から気に入られとんのよ。頭悪いから動かしやすいんだろさ」
「それ、楽しいの?」苦虫を潰したかのような表情をする草食。
「現実にいるよりは楽しいよ。ところでさ」
マケメロンは、ふと草食を試したくなった。試せるほどの人間性は自分もないを傲慢とは知っていた。しかし聞きたかった。
「草食は現実に帰りたい?」
「……マジの話?」「マジ」「誰も言わない?」「言わんよ。忘れてやってもいい」「そう」
草食はため息ではない息を吐く。星空だけが正直だ。人工的でも、嘘なく輝いている。
「あんまり、帰りたくはないかなぁ」
「私ゃもだよ。帰りたくないのは、やっぱギャンブル?」
「んー、社会情勢。この世界だったらテロ相手に楽勝だけどさ。現実じゃそうもいかんでしょ。それに、何より仕事に就けない。非正規でも雇用が厳しいって、昔はなかったらしいね。AIのクソヤロー。自動化には中指だね。そっちはアルコール?」
「そだね。私ゃ何とかバイトにこぎつけたけど。次は判らんね。病院に行く金ないしなー。帰るメリットがないんよね」
「だよねー。総長は本気で帰りたがってるのかな」
「いや判らん。それよりもさ、飯テロの子供達は本気で帰りたがってるけど。どうすんの」
「……そりゃ子供優先でしょ。建前上、脱出掲げてんだし」
「じゃああんた帰ったらどうすんの」
「もう死ぬしかなくね」半笑い。「自殺するしか」
「やめろ」
「え?」
強い語気に草食は気圧された。目を見ると、マケメロンに悲しき怒りが現れている。
「自殺はね。失敗するととても苦しいんだよ。たとえ後遺症がなくともね」
「……ごめん」
「いや、こっちこそごめん」
気まずい沈黙。草食は明らかに地雷を踏んだ。自殺について嫌なことがあったのだろう。それは素直に自責を想う。
数秒後、草食が口を開く。
「メロンってさ。結局仲間なの?」
「まぁ、飯テロの敵には、なっちゃうね」
「そりゃ残念。上手いところ落としたいね」
「こっちもどうにかしたいけどね」
「りょーかい。互いにどうにかしましょうや」
二人はまた黙る。先の会話で緩和され、いつもの軽薄さはなかった。互いに敵同士だというのに、敵意はなかった。




