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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第75話 橙色のカクテル


まんぷくテロリストの者達はみなクタッと疲れた。現在攻略した基地は接収中。もうやることのない五人は、休む以外ない。


BBは夕焼けの空を眺める。この一日でかなりの激戦を繰り返した。五人がそれぞれ活躍し、言うことはない。しかし、リベルタリアを、ひいてはポストアポカリプスを征服するというゲンの野望からすれば、まだまだ緒戦だ。その荒唐無稽な計画に、今更ながらつっこみたい。本当は己の征服欲からきているものではないのか。


BBは頭を振る。こんな時にまでそんなのを考えるのか。休むものも休めない。


建物を背に座っていたBBは立ち上がる。周囲に目を配る。現在飯テロは自由行動。オサムは疲れたといってどこかへ行った。探す。


プレイヤーズが行き交う基地。草食やプロペインは作戦を計画中。レモンも疲労の末寝ている。オサムも寝ているだろう。BBは寝れなかった。まだ緊張が続いている。


道中、兵士達にオサムの居場所を聞く。彼女がいるであろう建物内へ。どれも同じような箱の形。道に迷う。


一つの建物、扉を開ける。倉庫だった。オサムがいる。彼女は木箱の上で横になっていた。一人になりたかったのか。邪魔するのは気が退ける。そうは思ったが、起床時に彼女のそばにいて、驚かせたいという欲が勝つ。


BBは棚の上に座りオサムを見る。スースーと寝息を立てぐっすり。彼女はほぼ一人で地下の敵を一掃した。BBは一人でなら敵の包囲を突破できた。しかしプロペインがいたので動けなかった。こう言っては失礼だが、彼は足枷だった。


だからこそ、オサムの活躍は嬉しかった。しかしどうしてか寂しさもある。成長は喜ぶものだ。なぜか慣れているのが確実の孤独が、BBを蝕んでいる。彼にもその自覚はある。何を恐れる必要があるのか。孤独は肌のようなもの。なのに。


BBなりに考える。だがどの結論も、彼自身が論破できてしまう。どれも自分の気持ちでないような気がする。それでもこれだけは言える。このチームは、オサムは、BBにとって深く信頼できるものになっていると。彼にとって、それは未知であり、不可思議であった。人を信用し、利用するのではなく信頼する。無条件で。BBは評価ができない。柱のない家が建ったようで、なぜ存在しているのか。説明もそれ以前の理解もできない。


物思いに耽る。外から銃声。音でオサムの目が覚める。その後続く叫びも銃声もない。ふざけたか、テストかだろう。オサムの目は棚の上のBBを捉えた。


「いたの?」


オサムが少し顔を赤らめる。BBは今までの思考を隅に置いた。


「うん、いた」


「いつから?」


「いつからだと思う?」


「もしかしてずっと?」


「さぁどうだろうね」


やりとりが楽しい。オサムをおちょくり感情を好きに変遷させるのが。好きな子はいじめたくなる、なんていうがこんな気持ちだろうか。BBは否定する。自分とオサムはそんな関係ではない。


「寝顔を見るのはやめてよ。ハチだって恥ずかしいでしょ」


「オレはオサムになら恥ずかしくないよ」


ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。オサムはプイと顔を背けた。ちょっと嬉しい。自分なら見せてもいい。オサムに一寸の独占欲。


「サム、今日は大活躍だったね」


「ハチのほうがすごいでしょ。……でも、まぁ、わたしも少しは成長できたよ」


「成長。レベルアップ?」


「うん。銃弾斬れるようになって」


「おお」これは素直に驚く。尊敬した。


「でも、まだハチほどではないかな」


「それでもすごいよ。あとは慣れで弾は無効化できる。強くなってるじゃん」


「ありがと」オサムはBBを見る。「ハチは拳察隊と上手く戦えた?」


「拳察隊? 地下の奴ってそんな奴らなんだ。ん? 拳察隊って、拳銃警察隊?」


「そ。憶えてたんだ」


「懐かしいな。あの時もオサムが活躍したっけね。手榴弾で機銃潰して」


「そうだっけ?」


「そうだよ。自分の功績ぐらい憶えないと」


「じゃあハチは自分の活躍憶えていたの? 例えばクマを倒したこととか」


「クマ?」キルしたかと記憶を辿る。「あぁ、ファームシティのね」


「そうじゃなくて、姉さんと会った時の」


「いたっけ?」「いたよ」


二人は自然と笑い合う。もう付き合いも長い。こうして過去に浸るのも悪くない。BBは心が暖かくなる。これも不思議だ。覚えのない感情だ。名前は何であろう。


「そろそろ水でも飲まない?」


BBの誘いに快活に答え、オサムは立つ。背を伸ばす。あいにくベッドで寝てないのでリスポーン地点にならない。


扉へ歩く。車から水を取らなければ。オサムはそういえばと考えた。いつの間にかチームの荷物は皆で管理するようになった。


扉を開いた。


「ようようサムハチコンビ。探したぜー」


マケメロンがいた。二人は思わず武器に手を伸ばしかけた。今のマケメロンは飯テロの潜在的な敵。何かを嗅ぎ付けたのは間違いない。何をされるか。


「ちょーっとおいおい。そんな警戒せんでも。あんたら相手に挑もうとはこれっぽっちも思わないよ。それはそれとしてハチ公借りるね」


「え」


BBが反応するより速く彼の手を引っ張った。抵抗するが、背丈の関係であっさり脇に抱えられた。


「何するんですか!」オサムが激昂。


「安心しなよ。別に奪おうってワケじゃないんだから」もうすでに小走りで去っていく。「私ゃショタコンじゃないからね! ギャハハハ!」


BBは暴れるが、暴れすぎることはできない。一応味方なのだ。表面上は。それに攻撃するのは今後不味い。


BBは倉庫地帯の路地裏まで連れて行かれた。人通りはない。襲いかかるには絶好の場所だ。そこでBBは降ろされた。


BBはマケメロンを殺気立って睨む。彼女は気にせず酒の瓶を取り出す。


「飲みなよ。祝い酒さ」


「何ですか急に。飲みませんよ。帰らせていただきます」


「まぁそう言わずに。話を聞いてくれたら総長にいいこと言っとくよ。そっちの助けになるかもしれない」


「何のことですか」さらに敵意が研がれる。


「知っているよ。あんたらが私ゃらを孤立させ、そんで総長に物申せるようにしてること。いや怖いねぇ」


黙るBB。ここは話に乗ったほうが味方を増やせるかもしれない。自分を狙うとはかなりナメられたものだ。こんな奴に。すこしプライドが傷付く。それより大事なものがある。


「お酒、いただきます」


「エライ子だね」


瓶を一つ渡す。ナイフで王冠を飛ばす。変な匂い。酒を知らぬBBにとっては異臭。マケメロンは気にせず飲む。BBも口に含んだ。


一口で、顔をしかめる。吐くほどではないが旨くはない。味が主張しないサイダーだ。甘くもないし苦くもない。香りは強い。彼の知らない香り。強すぎて一気に飲み込もうとは思えない。後味と香りが全て同色で、一口飲んでお腹いっぱいだ。


「なんですかこれ」


「ハイボール。ウィスキーとを炭酸で割ったやつ。旨い?」


「……いえ」


「そうかそうか。ま、子供だからね。酒の旨さは判らんよ」


横目でマケメロンを睨む。ではなぜ渡したのか。普通のサイダーもあるだろう。


「ハチ公。酒なんて、いいことないよ」


「は?」BBは眉をひそめる。マケメロンが唐突に語り始めた。


「酒は楽しむものだ。コーラみたいに爽快感のためとか、乳酸菌がどうとかの健康のためじゃなくて、味とか香り、そういったものを楽しむもの。少なくともお……私ゃはそう思う。でも私ゃ飲んでる。ガバガバと味も判らず」


瞬き。まさか愚痴に付き合わされるだけなのか。いや、それで味方になってくれるなら言うことはない。そんな簡単な奴だろうか。


「私ゃね。現実ではアル中なんだよ。辛いことが嫌で、四六時中酒を飲んでた。飲まないと苦しくてね。でも飲んでも苦しい。だけど飲まないと、てな感じでね。何度もやめようと思ったよ。でもやめられない。病院に行く金もない。死にたくなるよ、全く」


「それは、その」


「ハチ公にはさ。憶えてほしいんだよ。現実に帰りたくない奴にも、ちゃんとワケがある。ただゲームが楽しいから帰りたくないってことじゃない」


「オレじゃなくても」


「あんたじゃないとダメだ。草食はすぐ旗変える可能性がある。プロペインは理解しない。レモンは否定する。オサムはなんだかんだ自己正当化する。何もないあんたが一番いい」


「何もない?」


「ハチ公。あんたにはあんたがない。私ゃ判る。だから言う」


「貴方に何が……」


「ハチ公。あんたは何のために戦っている?」


「脱出のためですが」


「その脱出は誰のため?」


「皆の……」


「自分は? 自分はどこにいる。BBの意志は? そこだよ。それだよ。ハチ公にないものはわ……いや、俺もなかった。だから酒で埋めた」


「……説教はいいですよ」


鬱陶しくなってきた。マケメロンに説かれているというだけでなく、なぜか棘が刺さるのだ。どこか納得している自分がいる。吐き気がした。


「そうだねー。説教はいいよ。憶えてほしいのは、現実に帰りたくない理由があること。ゴブジにも、無職だから帰りたくないって奴もいる。草食も、ギャンブル依存でしょ。あいつが現実に帰ったら苦労するよ。俺も帰ったら、酒のせい、収入のせいでお母さんに苦労をかける。なら、最初から戻らなければいい。そういうことだよ」


「そういうことって」BBは変わらずしかめ面のまま。「現実って、そういうものじゃないですか」


「それを言われたら弱るわ。現実は厳しい。その通りだよ。正論は安酒より不味いね」


久々の沈黙。マケメロンは瓶をあおる。その目、顔にいつもの怠惰がない。先の話は真面目なのだろうか。BBも彼女に合わせて飲む。やはり不味い。


「現実って、なんで厳しいんだろうね」


遠い目。空が時間を語る。BBも問いには答えられない。確かになぜだ。そんなこと考えても仕様がないじゃないか。それは学者の考えること。自分のような子供の考えることではない。


だいたい、中学生に空気はなぜあるのかと聞くようなことはやめてほしい。大人が考えてくれ。BBは口にも顔にも出さず文句をつける。


「ハチ! ハチー!」


「おやもう来たのか」


オサムの声にマケメロンが笑う。どこか悲しげ。ハイボールを一気飲み。ポイ捨てし、瓶は割れる。


「ま、この話は憶えておけな。あとで総長には言っとくよ。どうせ変わらないだろうけどね」


「ハチ!」


路地裏にオサムが来た。走ったのだろう。せっかく休んでいたのに。BBは罪悪感で溜まる。


「よっすオサムちゃん。ちとハチ公借りてたよ。私ゃ特製の悪知恵仕込んでおいたから、聞いてやりなよ。あ、ハチ公。そのハイボールやるよ。飲みきるんだぞー。ワハハハハ」


マケメロンはオサムの脇を通っていくをオサムは彼女には目もくれずBBに近寄る。マケメロンは背筋を伸ばしていた。


「大丈夫?」BBに言う。


「別に。少し話していただけだよ」


渡されたハイボールの瓶を見る。まだ重い。捨てるのももったいないので飲むことに。その前にと、BBは喋る。


「マケメロンさん、総長には良いこと言うってさ」


「良いこと?」


「協力するってことだろうね」


「何で?」


「判らない。もしかしたら嘘かもしれない」


二人は見つめ合う。ため息。


「悪いねサム。休んでたのに走らせちゃって」


「いいよ、気にしないで」


「……マケメロンさんは、現実に帰りたくない事情がある人がいるって言ってた。帰りたくないってね。どう思う」


ふいに聞かれた。オサムは考えた。事情がある。


「それならわたしだって、帰りたい事情があるよ」


「まぁそうだよね。ところで、これ飲む? 口つけちゃったけど」


BBの口がついている。そんなことを意識する自分に嫌悪した。でも興味は溢れている。瓶の中身に、であってBBの口がうんたらではない。己の保持のため欺瞞を飾る。


「何が入ってるの?」


「ハイボール、らしい。知ってる?」


「いや。飲んでみるよ」


オサムはBBから瓶を受け取る。飲む。瓶から口を離す。


「変な味」「だよね。大人はこんなの飲むのか」


BBは返された瓶を傾ける。おいしくない。オサムは自分が間接キスをしたことを噛み締める。咀嚼はできない。彼とは恋愛関係ではない。歪な理性が阻む。


「行こうか。レモン探しに」


「うん」


二人は並んで歩いた。マケメロンの真意など知ることはない。

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