第73話 ビルの崩れる先
プレイヤーズ各隊は攻撃準備をしていた。空の脅威がなくなった今、進軍ができる。スマイリムも合流し戦車以外は立て直した。戦車相手でも、リベルタリアのRPGをかき集めたので何とかなる。装甲車の銃座から撃てば実質戦車だ。
プロペインはラストルネッサンスの副リーダー、ボクサイと会っていた。出発まではまだ猶予がある。その間にヒトマルに対してと同じことをする。
「何か御用ですかね、プロペインさん」
眠たげな声でプロペインは聞かれる。これが彼女の普通、通常運転なのだろうか。どこもかしこもダウナーだ。どこかで見た気がする人だが思い出せない。ファームシティにおいて、ラスルネとして飯テロへ応対した女性なのだが、印象が薄い。
「えぇ、少し話が。その前に、チェリーは?」
「あぁ彼ですか。今は引きこもっていますよ。ファームシティをボロボロにされてショックだったんでしょう」
「自分達で造り上げた街ですからね」
「それもありますが、彼としては、街の文化が潰えたのが悲しいんでしょう。まぁアレです。芸術家気質特有の敏感さ、って奴です」
他人事のように語るボクサイ。不安を抱く。協力も他人事にされてしまうのではないか。ダウナーさに心が見えない。
「貴方はどう思います?」
「あー、ウチですか。これは飯テロの人にしか言いませんよ。政治的に敗北したからムカッとしますね。お陰でプレイヤーズの首輪つけられたし。チェリーは鬱だし。踏んだり蹴ったりですよ」
悔いはあるらしい。充分つけこめる。
「で、話があるんですよね、プロペインさん。その前に、ウチの計画も話させてください。どうせそっちもこっちと似たようなものでしょう?」
「まずは聞きましょう」
ボクサイは気だるげなまま笑みを歪める。
「ウチらはプレイヤーズから抜けようと思うのですよ」
「総長に話す……なんて平和的でなく?」
「もちろん」目が大きく開く。「派手に反乱して、ゲンの鼻をへし折ってやる。ウチらをコケにした報いは受けさせてやる」
プロペインの口角が下がる。顔を横や斜めに向け困惑を示す。内戦にはしたくない。関係が深いからこちらにも飛び火するし、それで解散させられるのはごめん被る。
「ボクサイさんは、脱出についてどう思います?」
「プレカスの目的、それを達成するための手段について、でしょう? クソッタレですね。私見ですよ? でも、ゲンが本気で脱出を考えているとは思えないですね。どうせただの支配欲だ。じゃなきゃ農場で反乱は起こらない」
「そうかもしれない、とだけ言わせていただきます」後頭部が寒くなって周囲を見る。裏路地なので人はいない。「ですが、聞きたいのは貴方の意見です」
「えー……。ウチは別に。多分チェリーもですけど。脱出のために頑張ろうとかは考えないですね。帰ってもそんなにいいことないし。まぁ反対でもないですが。無関心ですね」
「解りました。では、俺の番ですね」
肩を揺らす。要塞でもそうだが、脱出しようという話をあまり聞かない。ゲンが演説する時ぐらいか。プレイヤーズの一般兵士も、実は乗り気でないのでは。だとしたら自分達はなぜここに入ったのか。後悔を胸に押し込み話を進める。
「俺達は、総長から解散をちらつかされました。それが嫌ならBBをボディーガードにしろと」
「ケッ」しかめ面のボクサイ。「やっぱクズだな。ガードとか言ってただの私兵にするつもりか。で、それを避けるための協力を?」
「そうです。俺達は解散しないために、どんどん戦果を挙げて、総長を黙らせます」
「戦果でね。向こうは難癖つけて解散させようとするんじゃないですかね。そもそもなんで……いやそうか力をつけすぎた奴ってこと。それより、ゲンにもの申せるようになったら、ラスルネの離脱も提案してくださいよ。無理でしょうがね」
「約束します。しかし総長を動かせるかは」
「いいですよ。ウチらもゲンに嘆願しておくんで。こちらの独立にも噛んどいてくださいよ」
「もちろん。お願いしますよ」
「この話はスマイリムにも通しておきます。ウチがね。そっちは忙しいですし」
「助かります」
二人は車に戻る。別れ、プロペインは仲間の元へ。子供達三人が雑談に興じていた。
「あの状況でよくデスしなかったね、レモン」オサムが感嘆と呆れを持って言う。
「いやぁ私もあそこまで走れるとはおもいませんでしたよ。体力って大事ですね。それよりも、ハチさんもビルの倒壊を生き延びましたよね?」
「オレ?」二人の視線が集まる。「そうだね」
「それからどうやって地下に行ったの?」オサムも興味を抱く。
「ビルからビルにジャンプしてね。レモンだって、落ちていく瓦礫から瓦礫へ移ったんでしょ。似たようなものだよ」
「二人共アグレッシブだねぇ」
表情だけは、仲間の働きを喜ぶ。まるで自分事のように。だけども内心といったら、劣等感がわめき散らしていた。二人はここまで強くなって、活躍している。オサムは何もできていないと自責する。一人だけ、足手まとい。だが絶望はしなかった。諦めもある。いつものことだ。自分はいつも、まんぷくテロリストの最下位だ。それならそれで、できることをしよう。
それでも感情が上気することはなかった。劣った己に苦しむ。
「よぉ。英雄さん」
「おかえりです、プロペインさん」レモンが顔を上げる。
「ラスルネの人と話した。あとはマケメロンだ」
「根回しですか。やってたんですね。……マケメロンさんですか」
「何かあるのか、レモン」
「ハチさん、総長の部屋にマケメロンさんがいたんですよね? ボディーガードの時に」
「そうだね」BBは腕を組む。
「と、なると。もしかしたら」
「一枚噛んでいるかもと」
四人は周囲を窺う。注目はされてないと知る。プロペインは難しい顔をした。
「じゃあ、あいつは避けよう。となると、もう戦果だけだな」
全員首肯した。草食はバンの助手席で聞く。ふと思いつき、彼女は車から体を出す。
「じゃあさ、あたしをハチのバイクに乗せてよ。バンバン撃って威張るから」
「そうしよう。独断専行の許可はヒトマルさんに得ている。好きにしてくれ」
草食は車を降りる。BBはバイクに乗り背を譲る。草食が乗りバイクに重さが増す。エンジンをかける。車の助手席にはレモンが乗りオサムは銃座へ。発進準備が終わった。予定時刻がもうすぐに迫る。
「ハチとバイクに乗るなんて始めてだよ」
「そうだね、姉さん」
互いを見ずに言う。
「ハチは遠慮なく飛ばしていいからね。とにかく敵の中に飛び込んでバカスカ撃つ。ハチの運転にかかっているから、期待してるよ」
「全員、時間だ。行くぞ」ヒトマルの無線通信。全ての車両が進み始める。まんぷくテロリストも続いた。
街を出る。荒野へ。偵察隊の情報によれば、敵は基地に集合しているらしい。そこを叩き、基地を奪うのが当座の目的。かなり広い基地だそう。全容は不明。行ってキルするほかない。
「おーい」草食が隣のバンへ叫ぶ。バンのオサムが反応。続く言葉を待つ。「あたしらは前に行くからねー。先陣切るからよろしくー」
そう言い残し、BBと草食は行ってしまった。
オサムは人知れずうつむき、放心して空を見る。BBのバイクに、自分以外の人が乗った。それだけのことで、彼女の心は大事件。ずるいと、自分も乗りたいと。しかし、現状活躍していない自分がシャシャリ出て、何の役に立つ。現実と願望の狭間で彼女は潰されかけていた。
三十分後。基地が見えた。先頭のBB達は機銃陣地を眼前に認めた。さらに車の侵入を阻止するスパイク、鉄条網も。守りは頑強だ。
「ハチ! このまま突っ込め!」
草食が耳元で叫ぶ。戦闘開始。
「判った。姉さん、攻撃は頼んだよ!」
一気に速度を上げる。後方の車両から離れた。
「お、おい飯テロ! 草食! まだ指示してないんですけど!」
「悪いねメロン。一番槍は貰ったよ」
マケメロンの静止さえ聞かない。孤立した二人へ、機銃の集中砲火。BBは抜刀と同時に全て斬る。草食が狙いをつけず撃つ。命中。当然ヘッドショット。弾は当たらず、一方的にやられるリベルタリア軍。基地は目前。塹壕を飛び越え、金網を破る。基地へ入る。
コンクリート製の豆腐小屋。待機中の戦車。訓練場。この基地を構成するものを目にし、覚悟を決める。正念場だ。
進行方向右より敵。草食が撃つ。三人キル。前方より四人。三人撃った。一人はBBが斬る。左へ曲がる。リロード完了。建物上から攻撃。撃ち返す。六人キル。リロード。BBが刀を振るい弾を防ぐ。すぐ前方の敵を片付ける草食。後方より敵複数。早撃ち。六人キル。リロード。射撃。六人キル。敵が引いた。
反対側まで来た。右へ曲がり再び前進。ベッドルームを探す。建物の外、中、上から攻撃される。草食の早撃ちで全て撃破。弾は腐るほど持ってきている。
さらに右へ。基地中央を目指す。無線で連絡を受けた敵が固まっている。BBが手榴弾を投げる。届かない。草食が撃ち手榴弾を飛ばす。爆発。キル。早撃ちで残党も仕留めた
中央に着く。止まる。BBもアサルトライフルを使う。背水どころか四面楚歌。草食の腕に全て賭けた。
向かってくる敵は計三十三人。六発を五回。まずは南の敵を早撃ち。撃たれる前にやった。リロード。BBが援護。しかしかなり攻撃を受ける。一秒未満でリロード完了。西。すでに銃口を向けられている。マシンガンのような発砲音がリボルバーからした。南、西に敵はなし。東から来たので残るは北。残り十三名。
BBはバイクを動かす。北へ発進。敵を一人轢いた。草食は後ろへ撃つ。全て当たる。二人は回復剤を注射。HPは満タン。北東へ。
「こちらヒトマル。基地に入った。後続は建物を壊すな。戦車もだ。まだ利用できる。全員降車! 戦うぞ!」
どうやら味方も到着した様子。その間にも敵は倒れていく。
だが銃撃が激しい。正面には大量の敵、機銃。一斉に放たれた。たとえBBが防げても、バイクのほうが持たない。右へ曲がり回避。したと思ったらそこにも敵多数。バイクがやられてはマズイ。ハチの巣だ。
また曲がり、中央方面へ。一時撤退。
「ハチ!」
「何姉さん!」
「さっきの場所であたしを降ろして!」
「やれる?」
「やる!」
互いに叫びあう。Uターン。BBは突っ込む。
弾丸の嵐。草食が後ろへ飛び降りる。降りる間の空中で屋根上の敵をキル。BBは曲がり草食の視界から消えた。彼女もまた壁に隠れる。
一人になった。バイクもない。だからこそ動きやすい。草食は瞬く間にリロードし道に出る。六発撃つ。機銃手がやられる。なおも撃ってきた。ダメージ。回復剤を何本も注射。同時にリロード。早撃ち。また他の者が倒れる。わずかに銃撃が止む。回復剤を打つ。リロード。
腰の辺りにリボルバー。右手は引き金を。左手はハンマーに添える。サイトは使わない。どこに銃が向いて、どのような弾道で弾が飛ぶのか。それを体で理解しているから、使わずとも当たる。
前方機銃陣地。敵が顔を出す。即撃ち抜く。他も出した。撃った。キル。三人同時に顔を出した。同時にキル。もう頭は上がらない。撃たれていないのに制圧射撃されたようだ。
手榴弾を投げてきた。それを撃って弾く。空中で爆発。陣地の先の建物にスナイパー。草食はサイトを使わず狙撃。キル。彼女はゆっくり歩いて進む。戦車のような威圧を与える。
こうなれば最後の手段。敵は全員近接武器を持つ。人海戦術のごり押しで。無線からもそのような指示。
「突撃ィ、前へ!」
防御陣地から続々敵が湧き出した。草食は立ち止まり、機関銃の如く撃つ。リロードも速い。アサルトライフルよりも速い連射。敵はバタバタと倒れ行く。
しかしいくらなんでも多すぎた。草食はジリジリと後退する。足に何かが触れる。呑気に見る。アサルトライフルが転がっていた。草食は舌打ち。仕方ないとライフルを持つ。弾が全部入っていることを確認。
撃ち始めた。一発ずつセミオートで。頭を貫いていく。弾切れ。相手は一人に残った。ナイフを投げ、キル。
どうやらラッシュは終わったようだ。ライフルを捨てる。こんなのに頼りたくはなかった。彼女なりのこだわりから、ライフルなどは使わない。刀を神聖視した江戸の武士と同じように、彼女はリボルバーを神聖に見ていた。
防御陣地を乗り越え、その先へ。コンクリートの豆腐ハウス。守りが固かったから、おそらくはベッドルームだ。ここを落とせば勝てる。草食はポーチをまさぐる。弾がない。無線機を手にする。
「こちら草食。ベッドルームと思わしき建物の外を制圧。残弾なし。助けてー」
「こちらプロペイン了解。すぐ向かう」
弾がないなら戦えない。先の陣地からライフルを拝借。またこれかとうんざりする。
草食には無駄なこだわりがある。ゲームをプレイする時、好みの武器しか使わない人がいる。草食もその一人だ。カウボーイという格好に固執する。
建物の扉へ銃を向けていると、車の走る音を耳にした。見ると仲間のバンだ。手を振る。まんぷくテロリスト達は手を振った。BBはいない。
「ここか?」プロペインが降りてきた。
「うん。多分ね。もうあたし弾ないからあと任せた」
「一人でやったのか?」
「だいたいはね。自慢する気はないよ」
「俺以外の奴は大活躍だ。いつか俺にも手柄くれよ」
二人は拳骨をぶつけ合う。バイクが一台来た。
「すみません、遅れました」
BBが来た。バイクはボロボロ。
「草食、ここに残ってくれ。俺達はこのまま突入する」
「おーけー。ヘマしないでよ」
四人は建物内へ。草食は門衛として立つ。少しの慢心があった。




