第72話 空中のスナイパー
「ヘリ? 攻撃ヘリですか」
「そうだプロペイン。それが三機。繰り返すが戦車はやられた。今避難させている最中だ。お前達も手伝ってくれ」
「了解です。入り口ですね。急ぎます」
草食はこの会話で背筋が冷える。完全に空を制圧されていた。だが地上には対戦車兵器がある。それを使えばヘリにも勝てるのでは。考えると希望が湧く。せっかく手に入れたリベルタリアの通貨を失いたくはない。草食は急いだ。
生き残れた者はみな集まった。廊下にも人が溢れる。核部隊の隊長が集まる。飯テロのみ全員出席。彼らならばヘリに対抗できるかもしれないため。完全に兵器扱いだが誰も気にしない。
「さて」ヒトマルは手を組んだ。「どうする」
「あたしからいいですか」草食が手を上げた。「対戦車兵器あれば勝てるんじゃ」
「それなのだが、上でロストアイテムになっている。RPG持ってる奴はこの地下にいない。あのヘリ共はかなりの手練だろうな。ビルとビルの間をキレイに巡ってやがる。不意討ちじゃなきゃ当てられんな」
草食は口を開けて黙った。勝てない。彼女の絶望はあることが加味している。この地下への入口は一つしかない。出口は入口と兼用。BBがなぜ地下から敵を逃さずキルできたのか。なぜリベルタリア兵は逃げられなかったのか。それが入口のワケである。
もし地下から出たくば、デスするしかない。ここがリス地になっていたらすでに詰みだ。ベッドを破壊する他ない。アイテムは諦める。
貴重な戦車は破壊され、銃はなくなる。銃は工場がないので入手には限界がある。そしてこの作戦には多くの人がいる。ここでベッド破壊後のデスをすれば、多くを無駄にすることになる。
レモンが静かに挙手。「あの、そもそも戦車はなぜやられたんですか。街の外に配置していたのでは?」
「いや、お前達が地下に行ったあと街に入れたんだ。その後、戦車兵達は休憩のために外へ出た。そこを突かれた。全く間が悪い。そしてなんだが、すぐにでも敵の増援が来る。ヘリを今何とかしないと、ここは落ちる。敵は強くなってリスタートだ。何をするにしろ、結局地上に出ないといけないが」
全員落胆。マケメロンは思う。この中にいないスマイリムはなんと気が楽かと。彼らはデスしていない。
自分は飯テロの足を引っ張りたいが、作戦を失敗させたいワケではない。何より、飯テロには、何もしないか、何かしてくれないと失敗も指摘できない。
そうか。マケメロンは感心し上を見る。何かさせればいい。
「私ゃに案がある」
「何だ、マケメロン」いささか信用のないヒトマルの声。
「少数で地上に出て、RPGを回収させ、そして反撃に転ずる。シンプルでいい案でしょ」
「なるほど。誰がやるんだ」皮肉っぽい。
「もちろん最強の飯テロに」
「バカ。こいつらはさっきの戦闘で疲れている。特にBBはダメだ。一人で地下を制圧したんだからな。案には賛成だがやるのは我々アウターセブンだ。ゴブジにはやらせん。弾も管理できなかったからな」
「いえ、私がやります」
声の主はレモン。マケメロンの心にグッドマークが飛び出る。先の戦闘で足を引っ張りすぎたゴブジ。彼らは身動きがとれない。だから上で悪さができない。飯テロの足を引っ張れない。その中で、この提案。自分は草食より運がいい。試すようにマケメロンは言う。
「私が、ってことはレモンちゃんがやるってこと?」
「そうです。私が、一人で、ヘリを三機、やります」
「ちょいちょいちょいレモン?」草食が止める。「何を、どうやってさ」
「私の狙撃銃でパイロットを直接撃ち抜きます。そうすればやれるでしょう」
「俺からも言わせてもらう」今度はプロペイン。「ヘリの防弾性は未知だ。少なくともスナの一発でドカンとはいかないだろう。それならヘリなんざ怖くない。草食でもやれる」
「一発は耐えるでしょう。しかし二発三発全く同じ所へ着弾したら。そうすればやれます」
大人達は互いに目を合わせる。他に策はないか視線で促す。誰も意見を言おうとしない。言外に、事は決まったようだ。
「異論はなしか」ヒトマルが組んだ腕をほどく。「じゃあ、レモン。お前に全て任せる。ただし、十分経って帰ってこなかったら俺達が行く。それまでに落としてくれ。敵は待ってくれない」
「了解です。行ってきます」
「レモン、頼んだよ」「無茶しないでね!」
BBとオサムの声援を背に、レモンは走った。
ヒトマルが息を吐く。喜びと後悔が混じった。
「さぁ、解散だ。レモンを待とう」
「ヒトマルさん。俺と少しいいですか」
プロペインの唐突な声かけ。ヒトマルは了承。彼に着いていく。
人気のない所まで連れていかれた。ヒトマルは少し困惑。プロペインがやけに人目を気にするのも不思議だ。そして、ようやく口を開いた。
「ヒトマルさん。BBが総長のボディーガードになる話は知っていますか」
「なんだその話。俺は噂話に付き合わされるのか。作戦中だぞ」
「いえ、実際に本人に確認しています。……ヒトマルさんはご存知ではない。つまり、BBがそうなると飯テロが解散するのもご存知ない?」
「はぁ? 飯テロを解散? いつも何を考えてんだと思ってたがな。本当に総長は何を……」
「これも本人から確認済みです。俺達としては、解散したくありません。私情ですが。なので、できる限り戦果を挙げて総長の考えを改めさせたいのです。ですので、もし我々が独断専行をしても、ある程度認めていただけませんか」
「ふむ。なるほどな。この話はマケメロンも絡んでいるのか」
「マケメロン?」今度はプロペインが困惑。「どうしてマケメロンが」
「今日のあいつはおかしい」ヒトマルは腕を組もうとして、やめた。その代わり腰に手を当てた。「いつもなら作戦に割り込むことも、作戦を立てようともしない。だが今回はやけに押せ押せだ。そして普段ならしない凡ミスを連発する。何かあるんじゃないかとな。それを知っているのかと」
プロペイン、考え込む。ミスに関しては付き合いのあるヒトマルが正しいのだろう。ならなおのこと疑問しかない。
「いえ、知りません」
「そうか。それはともかく、お前達のことは支援するよ。キーコードはなくてはならない存在だ。それをよく証明してくれている。いつでも頼れ」
「ありがとうございます」
最敬礼して、感謝した。
レモンは地上へのハッチを開けた。ビルの中。ヘリのプロペラが回る音。難聴になりそうだ。かなり近い。もうこのビルまで来ている。
警戒を牙に外へ。風を感じる。左から。意味はないのに音をたてず角を曲がる。ヘリが一機滞空していた。二人乗り。どっちがパイロットだ。
ともかくテストとして発砲。フロントガラスに傷。威風堂々と、何もされていないように佇む。リロード。発砲。貫通を確認した。しかし墜ちない。レモンは敵を間違えた。パイロットはキルできなかった。
急上昇。橋と橋の間を通り抜けた。上下どちらがパイロットか、レモンは理解した。恐らく今の攻撃は無線で共有されただろう。彼女の場所は知られたことになる。
彼女は走った。ヘリの駆動音はそこら中からする。どれがどれほど近いか聞き分ける。
前方、橋の隙間からヘリが見える。撃とうとして、ためらう。レモンがヘリを倒すには同じ所に弾を当てなければならない。それでいてフロントガラスでなければならない。
ヘリは正面を向いて攻撃するものだ。なら正面から相対しカウンターを狙う。ミニガンが回り撃つまでの間がキルタイムだ。
前方のヘリがこちらを向く。すぐ撃つ。傷がつく。ミニガンが回る。レモンはリロード。橋を壊すミニガンの掃射。恐れず再度発砲。レモンも少し受けた。だがヘリに着弾。貫通。墜落。爆発した。
まずは一機。しかし息つく暇なし。左からミニガンの回転音。前へ全力ダッシュ。地上が薙ぎ払われる。ビルへ入る。橋から狙撃しよう。走る。走る。階段を登る。割れた窓から隣のビルへ橋が繋がっている。進み、待機。音の方向からしてこのまま正面に来る。銃口を向ける。荒い息遣い。スコープが上下する。
現れた。レモンに気付く。旋回。レモンが撃つ。ガラスにヒビ。ミニガン発射。ライフルをリロード。橋が二つに裂けた。崩れる。橋に掴まり、片手で撃った。ヘリのフロントガラスへ着弾。数ミリずれた。橋ごと落ちる。まだミニガンは掃射中。橋から飛び降り走る。後方からロケット弾。着弾。爆発。爆風でレモンは吹き飛ばされた。
転がりながらビル内部へ。また階段を登る。二階へ。三階へ。そして橋へ。足を進もうとして、ミニガンが橋を割った。レモンは階段へ。上へ。気付かなかったが、このビルはかなり高い。なのに、まだバテない。五階、六階。まだいける。走りこみは無駄ではなかった。不敵に微笑む。
走っている内に屋上に着いた。扉をタックルで開ける。流石に疲労する。十階。息は荒い。苦しい。肩は上下する。だが疾走は終わりではない。深呼吸。ヘリの威容は天へ昇っている。橋へ足を出したのを見られたか。それで上に逃げたと判断したのか。それとも上から地上を探そうとしているのか。
レモンは銃を前に向ける。音は前方下から。来る。風が来る。音がくる。ヘリが来る。
来た。
刹那、静止。相手は発見の驚きから。レモンは狙いをつけるために。
引き金を引いた。その後ヘリはミニガンを回す。着弾。貫通。敵はあらぬ方向へミニガンを撃ちながら落ちていった。
肩を深く下ろす。息は乱れる。二機目。あとは一機。まずは呼吸を戻そうと息を吸う。空を見た。青空。吐いた。コンクリートが見える。
ヘリの音が近い。それだけでなく、何かを撃っている。ロケット弾だ。なぜ。その答えは、地面のヒビを見て納得。このビルを破壊しようとしている。
気付いた時には遅く、地面が割れ崩れ始める。レモンは空中に投げ出された。ただ足は瓦礫となったコンクリートに立っている。
プロペラの回る音。近い。下がってきた。目を巡らす。落ちていく瓦礫の外にいた。レモンは発砲。当たった。瓦礫の上を走る。別の瓦礫へ飛び移る。空中でリロード。薬莢がおちていく。ヘリがロケット弾を乱射。さらに別の瓦礫へ。下へ下へ。転落した場合のダメージを少しでも減らす。
横の瓦礫へ飛んだ。横目にヘリ。体をくねらせ撃つ。先と同じ所へ着弾。貫通。墜落する。
瓦礫にしがみつく。どれだけ落ちているか解らない。今乗っているコンクリートの上に鉄筋が落ちてくる。どうか自分の上に落ちないでくれ。彼女は祈る。転落ダメージでデスしないでくれ。お守りに回復剤を注射。目をつむり歯を食い縛る。
激突。凄まじい煙と轟音。動かない。動けない。
音が止んで、目を開ける。すぐ周りを見る。石、砂、瓦礫。立ち上がれるか。足を動かす。感触がある。動ける。仰向けになる。さっきまであったビルが崩れ落ちている。レモンの上には何も落ちてこなかった。自分は生き残った。
倒壊したビルから空へ目を向ける。口角を下げ、目を閉じ、口を開き、思い切り笑った。自分は、生き残った。
デスしたかと思っていた。瓦礫を下にしたからデスしなかったのだろう。ゲーム的な処理だ。現実だったら何があろうとお陀仏。
走り込みをしてよかった。レモンはそこをとにかく喜んだ。あれげなければ途中で倒れていた。
もう体力は限界だ。何分戦闘していたかは知らないが、ひとまず、休む。崩壊したダムのように疲れがきた。いつも暴れているBBやオサムの体力を思い、呆れ、笑った。
しばらくして。無線が響く。
「レモン。無事か? いるなら返事してくれ」
「無事ですよヒトマルさん。もう動けないんで倒れてます」
「ヘリは?」
「やりました」自分で言って、誇りに思った。




