第71話 制圧と回転翼
マケメロンは人知れずため息を吐いた。作戦が失敗したのは予定通り。なにせマケメロンが発案した作戦だ。どのぐらい無茶かは自分が一番知っている。前哨基地の飯テロのベッドは部下に命じて破壊。彼らのリス地点は要塞となる。そこで身柄を拘束。要塞地下に閉じ込めてやる。これが彼女の作戦だった。拘束の理由はいくらでもでっち上げられる。
もし、まんぷくテロリストが戦果を求めていなかったらできなかった。BBさえ始末がつけば後は流れ作業だ。
……だった。
マケメロン、憤慨。なんでこいつらはこうも強いんだと。スナイパーをスナイプし返すレモン。リボルバーで早撃ち狙撃、全弾ヘッショの草食。どこを撃つべきか迷わないオサム。運転がやたら上手いプロペイン。たった一人で敵の守りを突破しかけているBB。チートでも使っているのかと。もしかしたらMODでも導入したのか。彼らだけ難易度下げたのか。現実逃避。
BB以外の攻撃部隊はすでに都市内部へあと一歩のところ。レモンの狙撃により敵スナイパーはやられている。リスしても、BBが街中で暴れている。彼の対処をしなければならない。だからリベルタリア軍も動けない。彼らにとっては二正面作戦なのだ。
オサムが投げた手榴弾が敵の大砲の中に。爆発。大砲が使用不能と化す。「今の見たか」「すげー」ゴブジの兵士達が感心。マケメロン放心。今オサムは山なりに投げてない。銃座に立ってプロ野球選手のような豪速球を叩き出した。
まんぷくテロリストを失脚させるのがマケメロンの任務。しかしこんな奴らどうしろというのだ。こちとら高校中退だぞと歯ぎしり。頭良くないんだぞと怨み節。なぜ自分なぞに諜報部をやらせるのか。彼女はしばらく呪詛を吐いていた。
「姉貴、飯テロの奴らどうしますかね」
隣に座る部下に問われる。マケメロンの装甲車も攻撃に参加している。彼女は目蓋を半端に下ろし手を額に当てる。部下やゴール・オブ・ジューシーはみな諜報部。飯テロ失脚作戦は全員知り、従事している。極彩色で体を飾ったパンクな見た目しておいて、マケメロンへの忠誠は固い。だから信頼できる。それが今に役立つことはないが。
「こちら草食。あたしらの前は全部やった。ここから浸透していくよ」
「こちらヒトマル了解。全員、突破口が開けた。飯テロに続け」
「だ、そうです」部下がため息。マケメロンは無線機を取る。
「こちらマケメロン。飯テロを待機すべきだと考えるよん。現場を死守して、後続を待つべきっしょ」
「こちら草食了解。何とか持たせてみせるよ。急いでねー」
部下が見てくる。目に疑問のマーク。「いいんだよ」マケメロンは通信を切りぼやく。「これで何かの足しになればいい」さらにゴブジ専用の回線を開いた。
「各自進軍を遅らせてくれよん。パンクさせるなりなんなり。とにかく飯テロの足を引っ張れ。あとで俺がお叱りを受けるからさ」
「へーい」「りょー」「ういっす」
気のない返事。少し安心した。やはり彼らは仲間なのだ。気楽でいい。マケメロンは、わざとノロノロ走る車に身を委ねた。
まんぷくテロリストは都市の道、アスファルトの上に陣取った。プロペインは運転をやめ窓から機関銃を出す。レモンも後部座席から。草食も。オサムは銃座から街を狙う。
BBの言った通り、ビルとビルを繋ぐ橋が目に入る。あれも断たねば。しかし機関銃では土台無理だ。戦車を待つことに。橋を落とせば少なくとも通路を閉じられる。敵が逃げるのを防げる。オサムは確信した。
「こちらプロペイン。ハチ、聞こえるか」
帰ってくるのはノイズだけ。やられたかどうか判らない。
それを仲間達に伝える暇もなく、左右から敵が来た。RPGを持っている者も。草食が早撃ち。左の敵を六人キル。続いてオサムの機銃掃射。当たらずとも制圧力は高い。敵を退かせる。
車両右側、プロペインとレモン。プロペインはとにかく撃ちまくる。レモンはRPG持ちを優先的に排除。頭を撃った。敵も反撃してくる。ここで身を隠せばやられる。ダメージを覚悟で撃ち返す。オサムは背中が気になってきた。仕方ない。彼女だけ車の上で身を出している。危険性は一番。
「こちらヒトマル。飯テロ、まもなくそちらに着く。耐えてくれ」
了解を返す余裕もない。プロペインのリロードの間、レモンはリピーターを取り隙を潰す。
草食は頭を出した者全てに弾をプレゼント。車両左側はほぼ草食のお陰で壊滅。敵は右側へ集中しようとしていた。そろそろバンの装甲も不安になる。「サム! 右へ!」「解った!」オサムは草食の言葉に従う。草食は一秒未満のリロードと早撃ちでミニガン状態。今度は弾が不安になる。
「ヒトマルだ! もうすぐ着く! どいてくれ!」
ヒトマルからの無線。プロペインは銃をしまう。「動くぞ!」アクセルを踏んだ。車内が大きく揺れる。このまま前進。待ってましたと橋から敵。RPGを持つ者一人。なお草食の早撃ちでやられる。オサムが橋に向けて撃つ。プロペインが叫んだ。
「俺達はこのまま防衛隊の裏をとる! 誰か包囲してくれ!」
「マケメロン、できるか?」ヒトマルが取り次ぐ。
「できませんよ。パンクに走行不能にその他色々あって移動に困難。というか無理。そちらの持つ戦力でどうにかせい。戦車は渡せん。こっちがやられる」
「パンクゥ?」ヒトマルが疑問と苛立ちを混ぜた声を出す。「そんな風には見えなかったが」
「見えなくとも事実ですー。どげんかせい」
オサムは目が回りそうだった。三百六十度どこからも撃たれる。レモンが足に回復剤を刺してくれているので、撃たれても生き残れた。それもいつまで持つか。
プロペインがハンドルを右へ。後続にヒトマル以外アウターセブンが続く。彼らも頭上の橋めがけて攻撃。
またハンドルを右へ。正面に敵確認。前線を維持せんとするリベルタリア軍。飯テロが一斉に射撃。後ろを突かれた彼らは瞬く間に壊滅する。
オサムは見た。心なしかゴブジの攻撃が弱い。彼らの戦線が崩れそうだ。飯テロの攻撃により、リベルタリアの防御線に穴が空く。
「こちらオサム。ゴブジの皆さん、攻撃がよわいですが大丈夫ですか」
「大丈夫じゃ、ない」マケメロンげ大声で笑う。「弾がないや」
「はぁ? 弾がない?」ヒトマルが割り込んだ。「そんなハズはない。朝から昼まで撃ち続けられるぐらい持ってきただろう」
「こちとら戦力差ついて苦しんじゃ。撃たんと撃たれるから撃ちっぱなし。なくなるのが想定よりも早い。あ、敵がこっちに来た! 退くぞ!」
「待て退くな。もう包囲できる。そのまま耐えろ」
「……了解。ヒトマル、ちゃちゃっとやって」
オサムの近くから、味方の銃声が耳をつんざく。敵はどこへも敗走できず、やられるがままだった。そこへ、
「こちらBB。ベッドルーム確保。次の指示を」
BBからベッドルーム、つまり敵の心臓を食い破ったときた。
「ヒトマルだ。ベッドの数は?」
「数えてません。多すぎます。でも全部破壊したのは確かです」
「そうか。総員! 敵を殲滅するぞ!」
リベルタリアは敗走を続けた。撃滅された。消化試合と言える。長い防衛ラインは、全て掃除された。
しばし後。都市に残る敵を探すプレイヤーズ。飯テロはいつものように待機を命じられた。ヒトマルの命令をマケメロンは反対。彼らを敵の残る可能性の高い、地下へ向かわせた。
地下。敵のベッドルームがあり、また武器弾薬もある基地。薄暗い照明が外界からの疎外を感じさせる。
分岐路に立った。まだまだ道は続くらしい。
「ここで別れよう」プロペインが提案。「誰がどう行く?」
十字路。前と右と左が行っていない道。三つに別れる必要がある。
「あたしは一人でいいよ。弾薬庫探したい。皆はまだ弾あるでしょ」
「よし。じゃあ三人は好きにしていいぞ」
プロペインに指定された子供達。「じゃあ」レモンが手を上げた。「私、ハチさんと一緒がいいです。近接戦が上手い人が隣にいてほしいですし」
「じゃあ、組もうか」BBが快諾する。彼はオサムと目を合わせる。ふっと笑い合う。レモンは少し関係を心配したが、問題ないようだ。
「わたしはプロペインさんとだね。お願いしますね」
ということで、草食は単身前へ。BBとレモンは左へ。プロペインとオサムは右へ行った。地下とはいえ、飯テロ間なら無線は繋がる。危機はすぐ共有できるだろう。
プロペインとオサム。二人共アサルトライフルを持って歩く。筋肉男と少女の組み合わせは少々危うい姿。
「サム」歩きながらプロペインは聞く。「ハチとはどうだ?」
「どうって?」
「関係性だよ。仲良くなれたのかなと」
オサムの目線が下に。微笑みを見せる。
「いい感じじゃないですかね。言っておきますけど、わたし達は付き合ってないですよ」
「そうか。そうだな」
プロペインはそれ以上聞かないようにした。彼女がどう思っていようと、それが危険でないなら一人で悩むべきだ。どうしても困ったら相談してくれればいい。心配性な親は、子にとって煩わしいものだ。過去を想い彼の口角が上がる。
「いつでも頼ってくれよ、サム。大人は頼るもんだ」
「そうさせていただきます。ハチのことも気遣ってやってください。ハチは、あまり頼ろうとしませんし」
「そうだな。でも、あいつの一番近くにいてくれるのは、現状お前さんだ。俺もハチのことは気にする。けど、ずっと一緒じゃない。だから、お前さんが知ってやってくれ。それが一番の救いだ」
「知る……どうやって?」
口の端が上がっていき、ニヤニヤと笑い出した。オサムはそれを見て不信に首を傾げる。
「デートだよ。少し二人でほっつき歩け」
「デ、デート? だから、わたし達はそんな関係じゃ」
「大人は本格的な関係じゃなくてもするもんだよ。気軽に遊べればそれでいい。いや待て、プレイヤーズで遊ぶところってどこだ? ギャンブル場には草食がいるし、だる絡みされても困る」
「そういえば、姉さんって訓練中どこにいるのかな。訓練場で見たことない」
「本人は作戦シュミレートをしてるとかなんとか。それにしても近接のほうにも来てないのか。変だな」
「もしかしたら、サボっているのかもしれませんよ」イタズラっぽくオサムは笑った。
「いやいやまさか。あいつもファームシティで懲りただろう。間違いなく大人なんだし、そこは弁えているだろ」
二人は和やかに調査していった。通路は続いて、中々部屋が見えない。
一方草食はリベルタリアの通貨を集めてエンジョイ。
そんなことを置いておいて、BBとレモン。長い通路を進んでいた。曲がり角を曲がりうんざりしている。二人は真面目に残敵を調べようとした。だがここまで道しかないと気もそぞろ。レモンも口を開き喋り始める。
「ハチさんって、総長のボディーガードにされそうだったんですよね」
その話か。顔には出さないが恥ずかしい。なぜ恥ずかしいのか。そこは不快とかではないのか。BBは構わず答える。
「そうだね。もう警備はいるだろうに」
「なぜなんでしょう」
「リベルタリアのスパイが心配だったって、マケメロンさんが言ってたね」
「マケメロンさんが? どこで言っていたんです?」
「司令室……って言うんだっけあそこ。とにかく総長の部屋にあの人がいたんだ。そこで」
「へー。総長の部屋に。どうしてでしょう。二人に何か関係が?」
「多分何かはあると思う。まぁ、古参にしか判らない話でもあるんじゃない?」
「それならキーコード隊長のヒトマルさんのがいいんじゃ」
レモンは黙り考え込む。BBは邪魔せず口を閉じる。あごに手を当てる姿は理知的だ。メガネでもかけたら見た目のIQは上がる。
「うーん、私達の解散に一手絡んでいるのかもしれませんね。マケメロンさんは」
「いやだね。仲間内で争っているみたいで」
「ですね。まぁそれよりもハチさん」
「何?」
急にニッと笑うのでBBは対応に困る。そして思い出す。ちょっと冷や汗。サディズムの香る笑みだ。
「ハチさんって、モテるんですか?」
「はぁ?」
レモンがこういった俗っぽい話をするのとは、正直意外だった。だけどもかつて女装をさせられた際に、こんな顔をしていた。
「まぁ」会話は続けなければならない。「いや、判らない」
「ハチさんって、キレイというか、美人ですからね。モデルというより、肖像画? まさに美少年!」
「この見た目で困ることもあるんだよ。変な人に話しかけられたり、路地裏に連れて行かれそうになったり。……女装させられたり」
「ア、アハハハハ」わざとらしく笑い目を背ける。「でも、実際似合ってましたよ。そのまま写生したいぐらいです」
「……レモンは絵を書くの?」
「上手くはないですが。ハチさんのことなら本気出しますよ。って、それこそラスルネの人に頼めばいいか。あの人達美術系ですし」
「勘弁してよ」BBは肩を落とし深い息を吐く。
「あ、スクショすればよかったんだ。いや今しましょう。この機能があることすっかり忘れてましたよ」
レモンはBBの前に小走り。一瞬呆然のBB。写ると判ると顔を赤らめ目をそらす。パシャリ。そのまま体をくねらせれば性的なモナリザになる。
「うん、キレイに可愛く撮れました!」
「可愛くなんかないよ」
「そういうところですよハチさん。運動部に属していたら人気者ですよ」
「そういうのが怖いから部活には入りたくないよ」
全くレモンと雑談するといつもこうだ。彼女の手玉に取られる。真面目に見えて、結構アグレッシブ。プロペインに着いていけばよかった。BBはそのように考えた。でもレモンとの関わりは嫌でない。いたことはないが、これが悪友というものか。
一方その頃。草食はベッドルームに来ていた。リベルタリアの兵士達の荷物が無造作に捨て置かれている。一つ一つのベッドは穴だらけ。BBがやった跡。草食はバックパックやボックスを漁る。
「お、リベルタリアの通貨! 硬貨まであるとはなぁ。儲け儲け」
残敵の確認なんてしない。どうせマケメロンも同じことをするのだ。仲間を勝手に同罪認定し、心の安定を図る。
無線機からノイズが流れる。耳障りだ。耳をすます。明瞭になっていく。
「こちらヒトマル! 地上には出るな! 攻撃ヘリが三機来た!」




