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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
68/137

第68話 戦搥は下ろされる

6000文字越えちゃいました許して


「諸君」


要塞内にゲンの声が響く。放送され、その声は要塞の外にまで続く。


現在、訓練するしかやることのない兵士達。訓練場として利用されているばかデカイグラウンドに集められている。天気は快晴。学生ならば全校集会やら運動会やらを連想する。だがそれらのようなやる気のなさは、たとえ子供の兵士であっても存在しない。


「我々プレイヤーズの食卓事情は諸君も知っての通りだ」


号令台に立つゲン。マイクに向けて語る。いつもの癖で歩き回ろうとして、足がピクピクしている。


「なぜ? 諸君は常にそう考えていただろう。無論、私もその一人だ。諸君の舌を満足させるために、即刻調査した」


キレイに整列している兵士達。事の報告を待つ。その中の一人、BBはピンと伸びている。しかし心中では嘘つきとゲンを罵っていた。もちろん証拠はない。


「調査の結果は、全く驚きであった。農村の者らが反乱し、我らプレイヤーズの流通を荒らしていたのだ!」


兵士達は右へ左へ、衝撃を共有できる人を探す。どよめきもある。


「しかしなぜだ! 我々プレイヤーズは、脱出を考えず、行動しようともしないプレイヤー達を、特別に保護していた。大変な厚遇だった。不満などないハズだ。本来ならば、脱出という、この世界のプレイヤー達にとっての使命を果たさない者などは、冷遇されても不思議ではない!」


ゲンの言葉に熱が入る。


「それを我らは大切にしてやった。なのに、反乱が起こった。そこには、我々の関与しない、できなかったワケガあった!」


次に出てくる言葉は、きっとマジックでいう種明かしなのだろう。ゲンは黙る。聴衆の耳を集める。兵士達も、言葉を失い彼に集中する。


「ワケとは! リベルタリアである! リベルタリアはスパイによって、我々プレイヤーズの食を攻撃してきたのだ! 諸君はこれを許せるか!」


ワァーッと叫び出す。「許すな!」「リベルタリアをぶっとばせ!」「許すな!」とにかく騒ぐ。いきなりのためBBは耳を塞いだ。人の大声は苦手だ。特に唐突ならば。美しい顔を歪ませる。


「リベルタリアは国家を自称している。巨大組織の保護により、この世紀末世界で安全に暮らせると。だが諸君。かつての過去を探りたまえ。諸君の生きた現実において、国家とはなんであったか。国家を牛耳る政治家共は腐っていたではないか! この世界でも同じだ。リベルタリアは腐敗した空だ。民に対し、常に黒い雨を降らせている。そんな、民とされたプレイヤー達を解放できるのは誰だ!」


「プレイヤーズ!」誰かが叫び、他者が呼応する。「プレイヤーズ!」「プレイヤーズ!」「プレイヤーズ!」


「そうだ! 我々プレイヤーズだ! 我々こそが、リベルタリアからプレイヤーを解放し、彼らに脱出への道を、正しい道を授けてやれるのだ。プレイヤーズは、唯一この世界で脱出を目指す、目覚めたプレイヤーなのだ! 真のプレイヤーなのだ!」


「うおおおお! プレイヤァァァズ!」


あちこちでギャンギャン。プレイヤーズ賛美。真のプレイヤーと呼ばれ、解放者と呼ばれ、自身を特別視され、人々は歓喜に沸いていた。なにせ最高責任者のお墨付き。その称賛は兵士達の全身に優しかった。


BBはとにかくゲンナリした。うるさいのだ。オサムはノリについていけず半笑いでうつむく。レモンはゲンの言葉をプロパガンダと認識。厳しい目で迎えた。プロペインは外面を気にして、とりあえず腕を上げて同調。内心で疑問を抱きつつ。草食は空気に流され叫んでいた。多分言葉の意味は判ってない。


「そして我々プレイヤーズはリベルタリアに苦しめられた。プレイヤー達のため、リベルタリアに宣戦布告する! 諸君、奴らはクズだ。だが侮ってはならない。プレイヤーズ総力をもって戦わなければならないほどの敵だ。だか、私は知っている。諸君が最強のプレイヤーであることを。私は確信している。諸君が一致団結すれば、リベルタリアなど恐るるに足らぬことを!」


歓声。黄色い声。褒められた自分に対してか。ゲンに対してか。


「諸君。銃後は安心したまえ。プレイヤーズに諜報部を創設した。敵の情報を探っている。またスパイがいるかどうかもそれで判明する。諸君はこれより、対リベルタリア戦に備え、英気を養ってほしい。私からは以上だ」


拍手を背景にゲンは台から降りた。兵士達はそれぞれの準備にとりかかることにした。BBも仲間と合流しようと、足を動かす。


「キーコード、まんぷくテロリストのBB、至急司令部に来てください」


モビウスの声が放送された。BBは足を止める。何かやらかしただろうか。すぐ思い浮かぶのは先日のマケメロンのこと。一応彼女は先輩で、上官。怒られもするだろう。普通、連帯責任ではないかと考えるが。一人のほうが気楽だ。BBは歩き始めた。


司令部は未だ改装されていない。狭いビル。BBとしても変えてほしい。ブリーフィングするにはせせこましい。彼は警備に頭を下げて、中に入る。そもそも誰に呼ばれたのか。そこに意識が向くと同時に、階段上から声をかけられる。


「BBさん。こちらへ。総長がお呼びです」


「モビウスさん。もう総長は戻ったんですか」


「いえ、まだです。でも、話したいことはあるそうです」


モビウスに着いていく。総長の部屋へ。ノックを扉を開ける。


そこにいたのはゲンではなくマケメロンだった。モビウスにとっても意外だったよう。目を何度も瞬く。驚きで固まっていた。


「やぁやぁハチ公」軽薄な態度のマケメロン。「総長が来るまでお待ち。モビちゃんは下がっていいよ」


「は、はぁ。失礼します」


彼女はおずおずと部屋から出ていった。残ったのはBBとマケメロンの二人のみ。マケメロンが着席を促し、座る。


BBがマケメロンと会うのは、前に彼女が現実について話していた時以来。場所としては食堂以来。あれから一日しか空いていない。BBはやっとこの時がきたと、むしろ嬉しくなった。


「マケメロンさん」


「なぁーにー?」


「この前はすみませんでした」


「いつのこと?」


「前に、食堂で現実のことを教えてもらった時のことです」


「……それ、掘り返す?」


彼女の表情は少し曇る。彼女の陽気さとは似合わぬ陰り。BBに罪悪感がまとわりつく。別に好きでも嫌いでもない人物。だからってそのままにするのもと、BBは続ける。


「不快にさせてしまったようですし……」


「あのねBB。それはあんたが謝ることじゃないんだよん。私ゃレモンの言葉にムカッとしただけで、BBには何も言われてないじゃんか。本当に謝るべきはレモンだよ。だからって、謝ってほしいとは思わないけどね」


「……すみません」


「いいのいいの。で、ハチ公殿はどう思う?」


「現実についてですか」


「そう。帰りたい?」


「まぁ、そうですね」


彼はとりあえずそう言った。本心でないのは確実である。BB本人として、帰りたいか帰りたくないか。どちらかは、己のことなのに判らなかった。


マケメロンは長いため息を吐いた。頑固な人に対して、どうしようもないと思った時のため息。だが彼女としても譲れないものがある。それはゲンに命じられた任務とは関係はない。彼女自身のお節介だった。


「ハチ公ってさ。嘘、言い慣れてるよね」


「嘘ではないですよ」


「さっきの話とは違うんだけどなぁ。嘘だったかぁやっぱり」


迂闊を知り、BBは目を光らせた。なおも表情は変わらない。仮面はもう筋肉と一体化していた。マケメロンは無視して言う。


「前にも言ったけど、わがままになりなよ。どうせあんたに帰る現実なんてないんでしょ。協力しているのは、ただ仲間の、オサムやレモンのため。自分の意思なんてこれっぽっちもない。優しいお姉さんからの警告だよ。自分の幸福を代償に他人を幸せにしても、自分には帰ってこないよ」


「別にそんなつもりじゃ」笑いながら言う。


「そう。ところで、自殺についてどう思う?」


食堂で、彼女は自殺のことについて話していた。その時、レモンに言われ苦しんでいたのをBBは見ている。言葉は慎重に選ばないといけない。またどこかに行かれても困る。


「正直、考えたこともありませんでした」嘘だった。


「そう。それじゃ、このままだと考えることになりそうだね。私ゃ解るよ。それを考えるのがいかに苦しいか。そんなのね。考え始めた時点で死ぬほど苦しいんだよ。そうならないために、誰かじゃなく自分を最優先する。そうしたほうがいい」


「なぜそう言えるんですか」


「……俺の経験からだよ」


俺。話し相手の心情変化についていけず黙る。そこへゲンが入ってきた。BBは立ち、敬礼。マケメロンも壁にもたれるのをやめた。


「すまないね。遅れてしまった」


彼は手を後ろで組み部屋をゆっくり歩く。自分の席に座り、背もたれに体を預ける。開けたままの扉は着いてきた二人の警備によって閉められた。


「座りたまえ」


「失礼します」


BBはちょこんと座る。背もたれとは拳一個分空けた。まるで面接みたいに。戦いとは違う緊張にBBは戸惑った。そういえばとマケメロンを見る。彼女は座らないのか。BBの目線に、彼女は肩をすくめることで答えた。目線をゲンに戻した。


「さて、ハチ公殿。忙しいところすまないね。これからキーコードは多くの作戦に従事することになるというのに。だが、話し合いの場はもう作りづらくてね。今であることを勘弁してくれよ?」


「はぁ。あの」


「解っている。なぜ呼んだかだろう」デスクへ手を乗せ、指を絡める。ゲンは口角を上げる。「まんぷくテロリストについてなのだがね」


「うちが、どうかしましたか」


「そうそう。部隊の再編成をしようと考えている」


BBの目が大きく開かれた。マケメロンは肩を落とす。


「なぜですか」


「まんぷくテロリストがいいチームだということに異論はない。しかし、いいチームすぎるのだよ。ハッキリ言って戦力過多だ」


ゲンは黙った。BBはその機を逃さず反論。


「それの何が問題なんですか。オレ達が強ければ、どんな敵もやれるじゃないですか」


「そう、君達が頑張ればね。だが君達だけだ。いいかね。刀は切っ先が鋭いだけでは役に立たんのだ。……それと同じだ。君達の戦力を分散させ、プレイヤーズ全体を強くするのだよ」


「しかし」


「これは提案ではない。決定だ」


BBは息を飲んでのけぞる。


「学生がクラス替えを変えられないのと一緒だよ。仕方のないことだ。だがね」


また沈黙。BBは何も考えられない。不条理。その言葉がやっと思い付いたぐらいだ。


マケメロンはゲンの言葉へ内心でツッコミをいれていた。戦力を分散しちゃあいかんだろう。刀全体を良くしようとして鋭さを減らし、ナマクラにしてどうする。相手がレモンやプロペインなら簡単に論破されていたろうに。これが茶番、前振りと知らなければ、彼女はBBを擁護していた。


「だが、ね。ハチ公」ようやく口を開くゲン。「君次第では、まんぷくテロリストは解散しないでおく」


「え?」


「簡単な条件だ。ハチ公殿。君は私のボディーガードにならないかね? なれば、まんぷくテロリストはそのままにしておく。まぁ君だけでなく、飯テロも動く、かもだがね」


「それは、本当ですか」


ゲンはその通りと言おうとした。BBの眼光に気付く。彼の目は疑いを探している。どうやら、話が上手すぎると感じられたらしい。そもそもこの提案は、仲間との関係を知らないと言えない。だから彼は疑った。わざわざ解散しない方法を見つけ出したり、解散させることが悪い、というようになっているのがおかしい。ゲンは言っていた。クラス替えのようなものと。ならば命令すればいいじゃないか。


こちらを思って、とも考えられる。しかしあのゲンがそういうことを。BBにはとても信じられなかった。


「まぁ」ゲンは笑みを崩さない。「蹴ってもいい。だが、まんぷくテロリストが解散したらどうなる。プロペインやレモンは何とかなるかもな。だが草食は? 聞けばギャンブル癖が酷いらしい。誰が止められるのか。そして、オサム君は? 彼女はいつも君とつるむ。そんな子が他の子と仲良くできるかね。君がいなければやっていけないのでは?」


「サムは頑張って人と仲良くしようと」


「では解散させてもいいと?」


言葉に詰まった。どうして自分はチームの解散に怯えているのか。人工現実で出会っただけの仲間じゃないか。オサムだって、どうせ自分のことへ忘れる。なのになぜここでここまでこだわっているのか。


BBは思考に歯止めがかからない。なぜオサムのとこを思い浮かべるのか。BBはどんどん解らなくなった。自分のことさえも。なぜ固執する。なぜ嫌がる。彼は、仲間達の存在が大きくなっているのを知らなかった。


「BB」マケメロンが口を開いた。「もっとわがままになりなよ」


わがまま。それはどのように行うのか。今までそれが許された状況になかった。BBは混乱していく。自分は自分が一番知っていると思っていた。今までは。


「君には青い気持ちがいっぱいなんだよ、ハチ公殿」


ゲンが優しい口調でBBを諭す。


「少し考えてみたまえ。ここで即決しなくていい」


胸から流れ出そうなものを必死で抑え、立ち上がる。「失礼します」と言い部屋を出る。平常心を保つためにわざとゆっくり歩いた。余裕はなかった。もどかしい焦燥が脳天を打つ。


BBはまんぷくテロリストというふざけた名前のチームから、離れたくなかった。


ゲンとマケメロンが部屋に残る。ため息が二つ。


「ボディーガードにできるんですかね」


「マケメロン。若者は存外容易いものさ。自分は理性的に考えていると思って、結局根本は感情だ。彼のオサムへの感情を考えると、一人で抱え込む。諜報部様々だな」


「はぁ……。ありがとうございます。あと、俺以外を諜報部の部長にしてくださいって、何度も言ってるんですけど」


「何度も断らせてもらう。とにかく今は、ハチ公殿の心につけこめ。あぁいうのは自滅するタイプだ。そうだろう?」


反論したくてもできない。彼女は奥歯を噛んだ。任務に反するとして彼女はBBを応援した。


そのBBは自室にいた。このプレハブの下の仲間が、別の人になる。それで仲間はやっていけて、自分は忘れられる。


ノックの音。オサムだった。


「総長に呼ばれたけどどうしたの?」


「何でもない。ねぇサム。君は飯テロ抜きで、やっていける?」


「え、いや無理だよ。まさかハチ、抜けるつもりなの?」


「いや、全然」扉越しでの会話だった。

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