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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
67/137

第67話 標識は正解か


「全然、はぁ、全然当たらない」


「いや得物には当たってますよ」


「本体に当たらなきゃ意味ないよ」


近接訓練場。オサムとモビウスが訓練していた。新しい広報を考えていたモビウス。アイデアが浮かばず、気晴らしに体を動かすことに。そこでオサムに捕まった。結果、オサムの回避練習に付き合わされることになった。


オサムにとって、彼女を誘うのに心理的障壁があった。知り合いだからだ。友人でも仲間でもなく。こういった関係が一番誘いにくい。


オサムはBBとばかりつるんでいる自分に気付いていた。このままではダメだと発起。丁度いたモビウスを捕らえた。それでも全く知らない人を選ばない辺りが、彼女の限界を表していた。


「その動き、どこで習ったんですか、オサムさん」


「ヒトマルさんにある程度教えてもらってね」


じゃあヒトマルとやってくれ。こっちはただの広報官だ。モビウスは心中毒づく。文句つけたいのは山々だが、それを言わない常識は弁えている。


強い風が吹いた。空を見る。ヘリが飛んでいた。プレイヤーズはヘリの作成に成功。運用を開始。すでに攻撃ヘリを三機保有するに至った。これで航空支援を手に入れ、戦いはスムーズに行く。今後増えていくのは間違いない。


オサムは視線を地上に戻す。並んで走るレモンとBBを視界に入れた。ムッと顔を歪ませる。口に出せない不満は少々。だがどちらに向けたものか判らない。行き場なく、ハァとため息をする。


「どうしたんですか?」モビウスは鈍く気付かない。


「いや、何でもないですよ」


影の差した真顔なオサム。モビウスは視線の先の男女を認めた。何かあるとやっと判断できた。


しかし茶化すほどモビウスは子供ではなかった。もうすぐ大学生になる高校生。だからってすぐ慰めの言葉が思い浮かぶことはない。なので数秒待って、


「悩みがあるなら、相談に乗りますよ。ほら、身近な人には話せないことって、あるじゃないですか」


オサムは返事をしようとした。口を開く。だが昼休憩のラッパが響く。遮られた。気を取り直すモビウス。


「お昼ですね。一緒にどうです?」


「……いえ」


「そうですか。何かあったら言ってくでさいね。これでも私、総長とは近しいですから」


それじゃ、とモビウスは行ってしまう。結局、何を言おうとしたのか。オサムも知らなかった。相談させてほしいのか。嫌だったのか。


「サム、訓練お疲れ」


BBが駆け寄ってきた。すぐそちらを向き「お疲れ」と返した。


「ご飯食べに行こうよ。一緒にさ」


「うん、行こう。……レモンは?」


「もちろん、行くよ」


「そっか……」


残念に思う自分が恨めしい。レモンも大事な仲間だ。一緒にいることは当然。そう思うと、だんだん苦しくなる。理由を必死になって否定した。


「ふーん」何かを察したBB。「今度一緒に寝る?」


「い、いや何言ってるの!」オサムの顔が赤くなる。


「ダメ?」


BBが前のめりになる。上目遣いで見てきた。その媚びた姿勢が、しかしたりすぎるほどオサムを刺激した。なので本気で悩む。一緒に寝るかどうか。一緒に寝るということは、一緒のベッドで寝ることだ……。


「ハチさん、サムさん、お待たせしました」


レモンが息を荒くしながら来た。「行こうか」とBB。歩き出してしまう。オサムは我に返りBB達に着いていく。彼の言ったことが冗談だと解り悶絶した。


食堂に着く。トレーを持って並ぶ。配膳を受ける。ポークビーンズのみが乗せられた。


訴えるように見る。いつものオカマの人。親しげに話してくれる、嫌味のない人。


「ごめんねぇ。最近それしかないの。ごめんねサッちゃん」


「いえ、仕方ないことです」


「んま! 優しい。これなら彼氏には困らなさそうね」


下手くそな愛想笑いで返して、BBと共に席に座る。


「最近、食事の質が落ちてるよね」


BBはそう言ってスプーンで食べ始める。懐かしのポークビーンズ。缶をそのままぶちまげたあの味。ドックフードのほうがマシとさえ思える。


「何でだろうね」


オサムも口にした。こんなに味が濃かったか。自然と渇きが来るものだ。レモンも来て、会話に加わる。


「上からの発言はないですが、多分、農場の方で何かあったんでしょうね」


「凶作」BBがスプーンを置く。


「だといいんですが。反乱とかだったら大変ですね」


三人には思い当たる節がある。かつてあばら家だらけの街で、酒場の女店主が不満を口にしていた。


それを加味すると、プレイヤーズに対する苛立ちが出ているということになる。自分達は脱出を目指すプレイヤーである。他プレイヤーを抑圧する者ではないハズだ。なんなら、ここから出ようとする正義の集団とも言える。特にオサムはそのように考えた。


もし反乱が本当だとしたら。BBは反乱者に賛辞を送りたい。しっかり行動で示せるのは偉いことだ。何もせず、口だけ文句を言うなら誰であれできる。


BBは頷く。二人はどこにも行けぬ疑念を無言で表現している。そこへ、マケメロンがどっかりと座る。テーブルの上に。


「やぁ少年少女。ポークビーンズにはもう飽きた?」


「マケメロンさん」


「オッスハチ公。なんだか女子二人が暗いねぇ。どしたん?」


「最近の食事事情のことですよ。支配下の街で何かあったのでは?」


「支配だなんて言っちゃあいけない。我々プレイヤーズは脱出の意思を持たない者を、特別に保護してあげてるんだ。悪いことはしてないよ」


「ともかく、そこで問題が起こってるんじゃないですか」


「起こってないよウンウン起こってなーい。でもまぁ、特別に編成された部隊が農場とかに向かうらしい。いや何でだろうね。特に元都市連合の所に行ってるっぽい。いやホントなんでやろなぁ」


ここまで言われれば何かが起きたと解る。オサムは反射的にマケメロンを問い質そうとする。BBに目で止められた。確かに、この人物相手ではのらりくらりとかわされそうだ。悔しくも納得して座り直す。マケメロンへ気にもしない。


「それよりあんたらさ。聞きたいことがあるんだけど」


「何ですか?」


レモンの反応を喜び、ニヒルな笑みを浮かべる。


「やっぱ、脱出したい?」


「そんなの当然でしょう」


「まぁまぁレモンちゃん。そりゃ脱出したい。でもどうしてさ。どうしてゲームの世界から出たいのさ」


「家族に会いたいからです」


レモンは即答。オサムも真剣に同意。BBだけが遠くを見ていた。


「家族。いいねぇすごくいい」マケメロンは舞台の上のように動く。「でも、それってあんたらの都合だよね」


「……はい?」


「社会の勉強をしようじゃないか」


そう言って、マケメロンは梅酒の瓶をラッパ飲みする。


「ニ○五ニ年現在。この年までは災難の連続なんだわ。ニ○三五年に東京大暴動が起きてから、日本国では不満の表明として暴動やテロが普通になった。三五年以前ではありえないことなんだけど。まぁあんたらは知らないことだ」


「それ以前から、AIの進化によって職はどんどん失われていった。街には失業者で溢れ、その人達の雇用先はない。今まで続く不満ができた。正直、このゲームが遊べるだけで上級なもんなんだわ」


「んで、下の奴らは貧困に、死ぬほど、比喩ではなく死ぬほど苦しんでいる。餓死とか普通よ。いや普通である方がおかしいけどね。あと少子高齢化が進みすぎて単純に若者不足、年金問題で色々死にかけなんだわ」


「ちなみに海外も同じかそれ以下ね。むしろ日本はまだマシか。ヨーロッパでは極右か極左の政党がワラワラ台頭。アメリカでは銃撃事件ばかり。ギャングがどんどん表に出てるそうだよ。ヤバい時代に生まれちゃったねぇ。あと自殺者の話する? 八万人越えてんのよね。ま、正確ではない。警察はもうそんなんでは動かんからね。そりゃ忙しいわ」


ひとしきり言い終わったのか、また瓶を傾ける。オサムは、幾度となくスマホで見たことある情報を聞かされうんざり。その通り大変だろうとは思うが、実感がない。だから、言われたところでどう返すべきか。


レモンも同じように考えたのか。言う。


「それが、脱出と何の関係が」


「いやいやレモンちゃん。そんな現実に、誰か帰りたいんだって話よ。高校すらマシなのに、高卒じゃなきゃ仕事ないもん。あったとしても低賃金。ま、そういうワケで、帰りたくない人ってのはいっぱいいる。それなのに帰らせたらどうなると思うよ」


「……まぁ、頑張るしかないんじゃないでしょうね」


「ブッブー。レモンちゃんどしたの。間違いとは珍しい。いい? あんたらが、いやあんたらじゃなくてもいい。もし脱出の糸口を見つけ、脱出しちゃったら。絶望して自殺する人が出ちゃうかもしれない。ポストアポカリプスという世界を脱出するってことはね。家族に会えるかどうかじゃない。命の問題なんだわ。それをあんたらは背負えるの?」


「……自殺するかどうかは、本人の問題じゃないですか」


レモンは叱られ追い詰められた子供のようだ。俯いて愚痴のように呟いた。その悔し紛れの発言。それを聞いたマケメロンの顔。オサムも俯いているのでそれは判らない。BBは、マケメロンの、親を殺した仇を見るような目で、静かに、殺意なくレモンを見るのを目撃した。


「ハハハハハハハ!」


目は怒りで満ちていた。今にも泣き出しそうなくらい。BBは突然に見せた彼女の弱さを見て、どうしかてか深く同情した。


「マケメロンさん……」


「いやいやハチ公。何でもない。何でもない何でもない。うん、何でもない。アハハ。泣くほど笑えるよレモンちゃん。じゃ私はこれで」


マケメロンは足早に去っていった。呼吸が不規則になっているのをBBは知った。


場は、お通夜だ。レモンやオサムから見れば、彼女はただ荒らしてきただけだ。なのにBBはマケメロンに違うものを見た。何か、抱えているのだろう。脱出したくないのも、彼女にはどうしようもない問題があるのでは。


「わたしはただ、お父さんやお母さんに会いたいだけなのに」


オサムの言葉は虚しく鳴った。


さてどうしよう。BBは今すぐマケメロンを追いかけてやりたい気持ちもある。せめて慰みぐらいはしないと。たとえそれが自己満足であれ、なればこそ拒絶された方がマシだ。


ではマケメロンはどこに行くのか。今は昼休憩。彼女は草食と仲がいい。なら草食に聞こう。多分、ギャンブルでもしている。


「ご飯、食べられなくなっなね」


行動する前に彼女達のケアだ。どちらもフォローする。レモン達が間違ってないことも言わないといけない。とにかく言葉を尽くす。


「あれは、あの人なりの警告だったんだよ。あとは覚悟を問うための。でも、今の話を聞いても二人は帰りたいと思っている。なら、それでいいじゃないか。二人は間違ったことを考えてない。オレはそう確信しているよ」


内心は冷や汗で溺れそうだ。人の機嫌をと本格的に取るなんて。前の義理父からの暴力から逃れる時以来かもしれない。特にここまでは。頼むから機嫌を直してくれ。マケメロンを追う以前に、この空気がキツイのだ。


「ありがとう、ございます」


レモンの表情が少し緩んだ。まぁ及第点だ。オサムも、少し悲しみを抱えつつも俯き加減は浅い。


「気晴らしに行こう」この勢いのままギャンブル場へ。「ギャンブルで遊ぼうか」


「でも……」オサムは何か問題があるかのように否定的。


「黙って悩むのも解決の一つだけど、少し気分を変えるのも解決の一つ。どうせ姉さんがいるんだし、あの人にも話してみたら? バカなこと言ってきて、どうでもよくなるかもよ」


言葉に従い、ギャンブル場へ。食堂以上にやかましい。大声で話さないといけない。BBは草食を探した。彼女はブラックジャックをやっていた。


トコトコ近付き、声をかける。


「姉さん」


「ギャアアア! あたしはちゃんと訓練してるから今は見逃してぇ!」


「何言ってるの?」


草食はサボりがバレたかと土下座をした。しかしBBの頭は、その行為への呆れがあるだけ。BBにバレることはなかった。


「マケメロンさん見なかった?」


「え? メロン? 見てないけど」


「そっか」


「何かあったの? セクハラされた?」


「何でセクハラ前提なの。まぁ、謝りたいことがあるだけだよ」


「あ、なんだ。でも今じゃなくてもいいんじゃね? あいつウジウジ悩むことないし。まぁ、急ぎなら行ったら? 折角来たなら遊んでいってもいいと思うけど」


「オレはいいや。二人と遊んで」


そう言いBBは早々に去る。二人を草食に押し付け、足でマケメロンを探し始めた。


そのマケメロンは自分の部屋にいた。声を圧し殺して、泣いていた。部屋の隅でメソメソと。


自殺するかどうかは本人の問題。あんたの問題だ。死にたいと母親に告白して、そう返された。その否定がトラウマだった。どういう心理で死への想いが表れたのか知らない癖に。判らない癖に。何でそんな断定的にものが言えるんだ。


そうやって相手を罵りたくても、マケメロンはできなかった。産みの母親と、何も知らない少女。打ち明けることなんてできない。


ノックの音がする。BBがマケメロンのことを呼んでいた。鳴き声を殺し、黙りこくる。鍵は閉めてある。


BBは、いないと考えその場から消えた。

ゲームでも現実でも世紀末で草

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