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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第65話 退屈という文化


都市連合に勝利してから、数日。すでにプレイヤーズは日常に回帰していた。それはまんぷくテロリストの五人とて変わりない。


BBは、レモンと近接訓練をしていた。レモンの方から申し込んできた。いい加減、最低限の動きはしたいと。BBは快く了承した。レモンが強くなったら、オサムは超えてしまうかもしれない。それが悩みどころか。


というワケでまずは走らせた。


「ぜぇ……はぁ……ひぃ……。私、はぁ、戦い方を、はぁ、知りたいんですけど……はぁ……」


「そうだけどさ。まずは体を動かせるようにしないと。常に最小限の動きで倒せるワケじゃないし。こういうところで差がつくもんだと、思うよ」


二人は今グラウンドの二週目に突入。レモンのペースに合わせるため、BBは速度を落としている。そのスピードとやらは小走り程度だけども。レモンはすでに走るのもままならず、汗だくになっていた。


今になって思う。こういうのはオサムに任せるべきではないか。BBは一応図書館通いの文学少年なのだ。スポーツ理論も効率のいい運動も知るハズがない。ではなぜBBは刀剣を持って戦えるのか。しかも恐れられるほどの戦力を。それは、そういう才能があるからだと言う他ない。


体力に関しては、よく義親から逃げ回ったから自然と。BBは改めて己の境遇に不満を持つ。学校に行っても、友人はいない。つまらない。だからって人がいると面倒。家にいたら義親が何かしてくるか、何かしている。


「も、もうだめ……」


考え事をしていたら、レモンが止まった。膝を屈め、手をつき、息を切らしている。


「休もうか」


BBは汗まみれの手を取り日陰まで行く。当のレモンに手汗を気にする余裕などなかった。


日陰。ベンチ。座った二人。水を飲むことにした。近場に水飲み場があることに感謝する。レモンは流した水分量並は飲み干した。


「何でゲームなのに汗でベタベタしないといけないんですかねぇ」


「全くだよ。その癖所々が現実と違うから変な感じ」


レモンの服は汗で重く湿っている。ゲームの仕様上、時間が経てば元に戻る。なら最初からいれるなと、レモンは天に向かって唾を吐いた。


BBはグラウンドの人々を見た。訓練場なので、しかし銃撃の訓練は別の所でやっている。目に見えるのはもっぱらナイフでの格闘だ。あとはライフルの銃剣と、長い刃物の訓練。ほとんどの人が我流でやっている。


我流。BBがふと考える。正式な、プレイヤーズの格闘術などはないのか。いわゆる、CQCとかは。あれを習うことができれば、上手く戦えるだろうに。恐らく、それを教えられる人がいない、もしくは少なすぎるかのどちらか。当たり前だ。プレイヤーは一般人なのだから。


さて。BBはより考える。レモンに教えられる動きは何であろうか。BBは実戦で身に付けた。理論的に教えるのは、できない。ここはオサムとのやり方でいくつか試す。


「そろそろ、ナイフでの動きをやろうか」


「え、もうですか?」


「まだ休みたい?」


「……正直に言えば」


「もう少し頑張ろう。その後、アイスかなんか奢るから」


「アイス!」


レモンの目が光った。実際アイスがあるかどうかは知らない。だがやる気に満ちているのは良いことだ。


早速場所を取る。木製のナイフを片手に始める。レモンが突っ立ってナイフを見た。


「あの、何をしたら」


「ずっと前にオレとサムで訓練したでしょ。あれと同じことをする。まずは好きなようにかかってきて」


BBは手足をプラプラと動かす。隙を見せ放題。だがそれを隙と呼べるのは、戦いを擬似体験したか、本体験した者ぐらい。素人から見ればどちらかも解らない。モビウスと訓練したとはいえ、レモンはまだ素人。BBが手足を動かしていることしか解らない。


レモンはまず、突きをしてみた。BBはレモンから見て左に避けた。レモンの左手を掴み、BBが逆手に持ったナイフを首に突きつけた。実戦ならばこれで終わりだ。


ふむ。レモンは自分を分析する。自分はまず突きの姿勢をとって、突いた。BBは突く以前に動いた。突きをすることを知っており、それで対処できたのだろう。なるほど。つまり、これから攻撃するという意思を見せずに攻撃すれば、勝てる。


一人勝手に頷くレモン。BBは下がった。再戦。レモンは何も構えず、伸びた体勢のまま、突いた。


ナイフを持った右手を掴まれ振り回された。BBが背に行きナイフが首に。おかしい。相手からは全くの不意打ちだったハズ。あっさりいなされた。


何が起きたか解らないレモンとは裏腹に、BBは驚いていた。レモンの遅さに。単純に動きが遅い。これでは根本からお話にならない。さてどうしたものか。


また二人は離れる。レモンは、困った。どうすればBBに一撃与えられるだろうと悩んだ。その悩みが解決するのなら、オサムは今頃サム公とでも呼ばれている。


「ハチさん」


レモンは思い付いた。学ぶとは真似るからきたと言うじゃないか。ならばBBの動きを真似すればいい。


「どしたの」


「私に向かって突いてみてください」


「いいよ」


防御の練習か。いや、観察している。どうやら動きを見ているらしい。BBは内心膝を打った。敵を崩すには敵を見るのが一番だ。


しかし、さて困った。確かにBBは自分から仕掛ける。積極的に。しかし、レモンとの距離は少々離れている。ナイフで突くには飛びかかるか、二歩以上進まないといけない。なら銃で撃つほうが速い。そもそもBBの得物は刀だ。斬るのであり突くのはおまけ。


勉強がてらやってみよう。腰を落とし、右足を後ろに。両手を前に出した。


右足で地面を蹴る。突き出した左手がレモンの肩を掴む。そのまま彼女を倒し馬乗り。そして首を狙い突く。寸前で止めた。


今の動きは現実的であろうか。もっと効率よく敵をキルできるのではないか。BBは反省する。あいにく知識不足なので何も言えない。


「どう、かな」


BBはレモンに聞く。彼女はBBに乗られているにも関わらず、その重さを知らないように考え込む。


近付いて来るのは判っていた。火を見るより明らか。しかし体が反応しなかった。ドッジボールで、顔面にボールが来ているのに避けられないのと同じだ。


「ちょっとよく解らないです」


「え? あぁ、そう」


BBは先の動きの評価を聞いていた。違うことと思われたらしい。オサムなら通じたのに。BBはレモンから離れて、また同じ位置に立つ。


「ハチさん、さっきの動きを見せてください。私は観察するんで」


「相手なしで先の動きを?」


「そうです、そうです」


というワケで。BBは誰にもいない虚空へ飛びかかり、地面にナイフを刺した。恥ずかしい。元自衛官とか警察官に見られたら、鼻で笑われるのではないかと意味のない不安を覚える。


気難しい顔でレモンを見る。彼女はうんうんと頷き納得していた。いつか本当に、ヒトマルから格闘術を習わないといけない。


「じゃあ、私も同じ動きをしてみます」


そう言って、レモンは腰を落とす。右足を後ろに、両手に前を出して。今か今かと、BBに向けて飛び出しそうだ。


そして地面を蹴った。跳んだ。落ちた。転んだ。


「あれ?」


レモンは顔を上げて疑問符を顔いっぱいに広げた。全く同じ姿勢でやった。なぜ?


その後もレモンは同じ動きをした。落ちた。BBに届くことはなかった。端から見れば、BBに飛びかかろうとして、一瞬だけ地上に浮いて落ちる姿しかない。


「……レモン」


地面に突っ伏している彼女に、呆れ半分でBBは言った。


「体が自分の思い通りに動いてくれるなら、人は紀元前に空を飛んでるよ」


「……はい」


というワケで、しばらくレモンは走り続けることにした。体力作りは大事だ。しかしBBは、自分の教育センスのなさに肩を落とす。自分ができるなら他人にもできると少し思っていた。それがヒョウがアリの代わりをするようなものだと、今更気付く。


傷心のBBのもとへ、一人の男性が近寄った。


「ようBB。どうしたんだ。元気がないぞ」


声の主を見る。ヒトマルが立っていた。


「ヒトマルさん。あ、いえ、ヒトマル隊長。訓練ですか?」


「さんづけでいい。軍事組織なんてただの謳い文句なんだから。俺も訓練をしたくてな。この頃は上から下へグチグチ言うだけだったからな。少し動きたいんだ」


渡りに船。BBは自然に頬が緩む。


「それなら、オレに色々教えていただけませんか?」


「おいおい。今更ハチ公殿に教えるもんなんてないだろう」


「バイクの次は、格闘術を教えて欲しいんです」


「バイクなんてマケメロンが大体教えたろ。しかし格闘術ね。自衛隊格闘術のことか?」


「はい、そうです」


ヒトマルはため息。この少年が身につけるもののほとんどが、言ってしまえば殺人術。葛藤はある。今更と言われればその通りだ。プレイヤーなんて皆、銃を握っている。


だからって、悩まないほどヒトマルは機械的ではなかった。それに、勝手に教えていいものだろうか。BBは一般人である。しかも未成年。結局己の思考をまとめきれず、苛立ちを感じた。


「BB」


「はい」


「一つ約束を……いや、お願いをさせてくれ。あまり、この技で、やりくりするというか、なんと言うかだな」


「仲間を守るために使いますよ」


その一言で、ヒトマルはカッカッカッと笑った。おっさんの考えなんてお見通しのようだ。


「なら、遠慮なくやらせてもらうぞ」


「よろしくお願いします」




ヒトマルとBBが訓練している中、草食はというと。


「ダブルダウン!」


「またかいな」


ブラックジャックをしていた。マケメロンと一緒に。


草食の賭け金はかなりのもの。さらにさっきからダブルダウン(賭け金を倍にして一枚だけカードを引く)を繰り返している。ディーラーからも呆れられ、マケメロンはそれを肴に酒を飲む。


ディーラーがカードをめくる。珍しいことに、草食が勝った。いただけるものはいただいた。ホクホク顔である。


「ふぅー。気分がいいから少し休むかぁ。メロン、奢ってよ」


「いや勝ったあんたがやらんかーい。……いやしゃあない私ゃが奢るよ」


「最近気前がいいねぇ。いいことでもあった?」


「まぁね。炭酸とウィスキーが見つかってウハウハだよ」


言い合いつつ、二人はチップをお札に変換した。手に入れた金を元に、プレイヤーズは札束を発行し始めた。領内で通用する通貨の作成に成功したのだ。


したのだが、そもそもプレイヤーズは軍事組織。弾も銃も支給される。飯も保証されている。なので、使う場面は少ない。使うのは要塞外における支配下の街か、こういったギャンブル場ぐらいなものだ。チップを持ち出すことは禁止されているので、むしろ都合がよかった。


二人は休憩室に立ち寄る。マケメロンはウォッカを二瓶目、草食はビールを開ける。体内に流し込む。


「ところでさぁ草食ぅ」


「なにさ」


「幾ら貯まったよ。あの使えない札束。私ゃ紙飛行機にできるぐらいにはあるぜぇ」


「残念ながらあんまり。ここでほとんど溶けてるよ」


「そりゃあんたのプレイが下手だからさ。なんなら……」


「いや! ギャンブルでは我道を往くのがいいんだ! 幼い頃にネットで見た!」


マケメロンの目は実に呆然を物語る。何度もギャンブルのいろはを教えようとした。そして嫌だ嫌だと喚いた。なんでこんなに頑固なのか。ウォッカを流し込んでため息を殺した。


「でもよぉ」足をだらしなく開き、天井を見ながらマケメロンは言う。「金なくなったらギャンブルできないんじゃ」


「だよねぇ。給料まだかなぁ。月給じゃないのが救いか。あとはハチ達の目は誤魔化せてるし」


「ハチ公がどうかしたん?」


「いやね。元々ギャンブルの紐はハチが握ってたんだけど、この頃あの子忙しいからね。言及されんのよ。それを利用してるってこと」


「へぇー」良いことを聞いた。


「隠れてやってるから借りれないし」


「じゃあ私ゃが金あげようか?」


「え、いいの?」


ここで拒否反応がでない辺り流石である。友人との金銭関係は大抵、ろくでもないことになる。その経験もした。全く懲りていない。


「いいよん。ただし、貸すんじゃなくて、あげるんだ。プレゼントだよ」


「いやぁそれは流石に悪いよ」


「だったらいつか返してよーん。何らかの形でね」


懐から二、三枚のお札を出す。ゲンの肖像がのっている、自己顕示欲のお札。草食は受け取って、金を味わっている。


「ありがと」


「どーいたしまして」


それがいわゆる賄賂だということに、草食は気付かなかった。マケメロンは酒で後味を直そうとした。

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