第64話 日常さえ久しぶり
結局、都市連合との戦いは一週間に及んだ。飯テロが要塞に戻ってもなお戦闘は続いた。キーコード以外の部隊も本格的に動いて、やっと戦争らしくなる。しかしながら、都市連合は弾薬不足に陥り、プレイヤーズに敗退。実際の戦闘は、ほとんどが残党狩りと言っていい。
以前手に入れた弾薬工場はフルに稼働。プレイヤーズにおいて弾薬は、通貨として認められなくなった。今回の勝因といえる工場は、けれど評価されることはなかった。
飯テロは、残党狩りはしなくていいと戦線から外された。キーコード内で活躍が少なかったアウターセブンと、ラストルネッサンス残党が主に活躍した。
「プレイヤーズの兵士諸君」
そして、要塞のグラウンドに兵士達が敷き詰められた。号令台に立つは、ゲン総長。
「我々は都市連合に勝利した!」
あがる歓声。喜ぶ悲鳴。熱狂が天を突く。
「都市連合は解散され、諸都市は全てプレイヤーズの傘下に入った。脱出を拒む落ちぶれの愚か者は、我々、真のプレイヤー達にとって恐るるに足らなかった。兵士諸君の脱出にかける想いと鋭い叡知が、敵を打ち負かしたのだ!」
兵士達の目には高揚と興奮がもたらされていた。ゲンへ称賛を求める瞳が、彼をより愉悦に浸らせる。
「諸君。諸君への賛美は尽きない。だがまずは、勝利の美酒をいただこうではないか。手に入れた各物資を使って、豪華な食事を用意した。今日は祝おう。食べて飲んで、勝利を知るのだ!」
そういって傍らのシャンパンを開けた。勢いよく液体が発射。酒の雨。誰もがパフォーマンスに手を打った。
そして、料理が運ばれる。わざわざ台まで使って。肉がある。牛か豚か。とにかく肉だ。
宴が始まった。BBはオサム、レモンと共に野菜を取りに行った。バイキング制だ。好きなのを取っていい。だが肉はあまりにも人気。三人は遠慮した。
「こうやって勝利ムードだと、何か罪悪感あるよね」
オサムがポリポリ食べながら言う。ニンジンのスティックにマヨネーズをかけて食べている。BBもニンジンをそのまま食べた。咀嚼し飲み込む。
「まぁ、オレ達は最初だけしか戦ってないからね。実質マケメロンさんの独り勝ちみたいなところはある」
「やっぱ戦いって、戦う個人より指揮官のほうが注目されるのかな。マケメロンさん、前に食堂で自慢してたよ。総長に褒められたって」
「それだけのことはしたからね。だからって、オレ達が評価されてない、ってのはないんじゃない? ほら、何だっけ。デルタフォースだっけ。あれとか、戦闘力がよく言われているし」
「あれだよね。映画に出てくる奴。わたしらってそういう立場?」
「そういうと」レモンも一本食べ終わる。「昇進とかってあるのですかね。金鉱山は手に入れましたし、通貨ができるんじゃないかと」
「通貨かぁ」BBは首を傾げる。「金貨でも作るのかな」
「多分、金本位制、でしたっけ。そういう制度でお札作るんじゃないですかね。だとしたらトウモロコシとはさよならですけど」
「むしろ、無くなってほしいけどね。トウモロコシ。ファームシティがボロボロになったせいで、トウモロコシ一個手に入れるのも苦労するよ」
「まさかゲームで経済の議論するなんて、思いませんでしたよ」
そうやって、ニンジンスティックをアテに三人は談笑を続けた。
他のまんぷくテロリストというと。草食はマケメロンと共に丁半。プロペインはヒトマルとスモークチキンを食べていた。
「今日はお疲れ様でしたね。ヒトマルさん」
「ほとんど残党狩りだが、何分数が多かった。いや疲れた。中々どうして、しぶとくいきのこるもんだな」
「……しかし、金を手に入れたことで、経済は活気づくでしょうね」
「おそらく通貨が作られるだろう。となると、工場か何かを手に入れるか、クラフトするかだ」
「それはラストルネッサンスが絡むので?」
「ラスルネは完全にプレイヤーズの配下となった。今後は工兵……施設科の部隊として利用されるだろう」
「なるほど。……ところでファームシティなどの諸都市プレイヤーの処遇は?」
肉にかじりつき、ヒトマルは咀嚼して飲み込んだ。
「今までの街と同じ扱いだろう。今後トウモロコシ以外の作物を育てるだろうし。そうだな、徴収ははね上がるな」
「……ヒトマルさんはどう思います?」
「さて、どうだろうな。少なくとも平等でないのは確かだ」
「どうして総長は搾り取るようなことを」
と言って、迂闊だったと表情を潰して黙る。ヒトマルも言いにくそうにしていた。今は人が騒いでいる。今なら、雰囲気に酔ったと言い訳できるだろう。
「建前だろうな」肉の残った骨を見て、ヒトマルは言う。「俺達プレイヤーズは脱出を目指す真のプレイヤー。それ以外は脱出しようとしないバカ。それらを区別、している」
区別という言葉に意味を加えて言った。やっていることは、ハッキリ言えばただの独裁。あまりいい気はしない。
「それにしても、ラストルネッサンスには悪いことをしたな」
どうやら話題を変えるらしい。確かに先の話を続けるのは憚られる。プロペインは気楽に聞く。
「作戦前に言っていた、ラスルネの影響力を削るというのは、あれでしたか」
「あれだったらしい。俺も、総長から命令されるまで確信は持てなかったな。あぁいう風に言えって言われた。だから言った。正直マケメロンに任せたかったよ」ファームシティでチェリーにやっていたことを言っている。
「彼女なら、適任でしょうね」
ハハハハハ。二人は笑いあった。その後も少しの談義をした。
そして飯テロの一人、草食。丁半で負けてしまった。マケメロンは見かねて肉をぶんどってきた。こんなので機嫌が治せるなら安いもんだが、草食は安かった。
二人で肉を食らい、酒を飲んでいる。自然、会話は弾んだ。草食がゲラゲラ。
「いやぁまさか牛肉にありつけるとは思わなかったよ」
「草食ら牛とか食べなかったん?」
「いやいや。この世界の話だよ。どこで手に入れたんだろ。まさか狩り?」
「牧場からいただいたんだと。いやはや総長様々だね。これがなくちゃ戦う気が起きん」
二人は串焼きステーキを頬張る。味付けは塩コショウだけ。それ故肉の主張が目立ち、生命力に味覚は泣くのだ。
「ところでさぁ草食ぅ」
ビールをラッパ飲み。マケメロンは上目遣い。怪しいセールスマンのようで、草食は口角が上がる。
「ぶっちゃけ、脱出についてどう思うよ。私ゃ反対だけどね。現実に戻ってもいいことないですし」
「なぁにぃ? せっかく楽しい時だったのにそんなこと」
「いいじゃん真面目ぶんなくたって。この私ゃがいれば全部冗談になるもんよ」
「随分信頼されてないね」
「それ、あんたが言える?」
フヒヒ。下品に笑った。瓶を持ったまま腕を組む草食は、言われた反対に、真面目ぶって答えた。
「あたしも脱出反対だぜ。現実では早撃ちなんて役立てないし借金苦だし。いやー帰りたくないわーマジないわー」
「こりゃ酷いことを聞いた」
「誰にも言わんでよー。今のはジョークですからね。本当は脱出する気満々よ。パパンとママンに会いたいねー」
下世話に笑いつつも、内心、本気に帰りたくはなかった。暴動だのテロだの治安は悲惨で就職は怪しいし貧富の差は最早マントルから太陽。そんな二○五二年に誰が帰りたいものか。この世界は常に、楽しい冒険に満ち溢れている。誰もが一度は望んだ、ゲームの世界に入って、快楽を味わう。その体験、捨てられるものか。
草食の「冗談」を聞いたマケメロン。二へラと気味悪い笑みを浮かべる。草食もそれを真似し変顔する。やはりこいつは同志だ。腹を割って話せる。マケメロンをまんぷくテロリストに入れられたらと思う。
「おっと」
視界の中にあるHUDを見て、マケメロンは急いで飯を掻き込んだ。その慌てぶりは真面目なサラリーマン。おおよそ彼女とは合わない姿。
「どしたのメロン」
「いやこのあと総長と話し合うことがあるんだよね」
「へー。何話すの?」
「さぁ。もしかしたら昇進かもねー」
舌で唇をなめて言った。草食はその行為を、唇の掃除と捉えた。マケメロンは司令部に行ってしまう。残された草食は話し相手を探しに料理の下へ。
するとそこには、先ほどとは違う集まりがあった。
「ハチさん、サムさん、アイスですよ!」
「これは食べなきゃ!」
レモンとオサムの声がする。どうやらアイスを求めているらしい。この世界で甘いものなぞフルーツ缶ぐらいなもの。アイスなんて贅沢もいいところ。誰もが競ってアイスをねだる。
「サム、切り抜けるよ!」
「よっしゃあ!」
BBも盛り上がっている。草食は一人微笑んだ。彼らはまだ、子供なのだ。
……司令部。ゲンがいつもの部屋で、マケメロンと向き合っていた。
「作戦は半分成功といったところか」
窓の外を見ながらゲンは言った。デスクの上にはターキーが乗っている。彼は口にしようともしない。
マケメロンのその威圧に、叱られているでないのに萎縮していた。この部屋には今二人しかいない。いつもの警備さえどこかへ消えた。
ゲンが沈黙を貫く。反応を求められていると、ようやく理解した。
「……はい。ラストルネッサンスは崩壊。プレイヤーズへの経済的影響はなくなりました」
「それに、金も手に入れた。これで電子部品と、ついでに実質的な通貨を手に入れたワケだ。さらに嬉しい誤算に数々の都市も我々に屈した。そこは君の才が遺憾なく発揮されたということか」
「いえいえ、これも飯テロのお陰でして」
「それだ」
「へ?」
ゲンはやっとマケメロンへ体を向けた。笑っていなかった。勝利の喜びはそこにない。赤いオールバックの髪のせいで、怒りさえ見える。
「この作戦はテイルを利用して飯テロとやらを没落させ、チームを解散させる口実を手にいれるものだった。金鉱山には間違いなく閉じ込めたのだな?」
「は、はいもちろん」
「ならばテイル側がしくじったか。その後、テイルから連絡は?」
「いえ、ありません」
ため息。ゲンの口から出ると、マケメロンは笑って誤魔化したくなる。この状況下で笑うなんて無理なことだ。それでも笑いたい。あと酒を飲みたい。
「今後、秘密裏にテイルの調査部隊を編成する必要があるな。クリエイターと通じているのは奴だけだ」
クリエイター。マケメロンはまだ一度しかこの名を聞いたことがない。先の飯テロを解散させるための秘密任務。それを受ける際にゲンから聞いただけ。一体何者なのか。どういう人物なのか。ゲンは答えない。おそらく脱出に関することだろうと彼女は思う。
だからこそ、マケメロンは困るのだ。
「あの……」
「何かね」
「総長は脱出したいんですか? あと、飯テロは……」
「前者に関しては、敵を騙す方法を思い出してくれたまえ。後者は、私の目的の、いつか邪魔になるからだ。強者は常に発言権を持つからな。例え本人に自覚がなくとも。ところで、件の飯テロはどうだ。外せそうか?」
「草食は、俺と同じです。ハチ公は、オサムがカギになるかと。他はまだです」
「その二人で充分だ。プロペインやレモンは寧ろ邪魔となる。しかしオサムがカギか。彼女はどうだ」
「見たところ、ハチ公とぴったりです」
「青いな。存外、容易いかもな」
「……そうは思えません。ハチ公は、何だかんだ俺に近いものを感じます」
「ふむ。そうか。ひとまずは領土の維持に専念しよう。リベルタリアや経済同盟はその後にする」
「リベルタリア? 経済同盟?」
「君達がいない間に作った諜報部がキャッチした巨大組織だ。奴らが、次の敵となる」
リベルタリア。そして経済同盟。都市連合のような敵は、まだまだいる。そして、未だ飯テロを解散できていない。ゲンは彼らを離別させたがっている。自分に歯向かう者になるかと。けれども彼らの戦力は欲しい。
マケメロンは別に悩まなかった。自分がスパイになるとは、しかし思わなかった。いつか、諜報部に入れられるだろう。




