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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第63話 戦火の消火


「……潰れてるね」


「……潰れてるな」


草食とプロペインは、目の前にあるものに対して呟いた。


ファームシティには、まんぷくテロリストの家があった。ぷれいやのプレハブよりも生活感のある家だった。過去形が続くということはつまり、彼らの家は、文字通り潰れていた。


現在、ファームシティ。都市連合の攻撃によって壊滅していた。すでに敵部隊はマケメロン達によって退けられている。あとに残っていたのは街だったものだけだ。とても人の住める状態ではない。


「へぇー。ここがファームシティかぁ。見る影もないね」


呆然としている五人に向けてマケメロンが言った。それは挑発か。それとも空気を読めないだけなのか。ともかく五人の気分を損ねたのは確かだった。


「ここ、元はあたしらの家だったんだ」草食は視線を変えずに言う。


「あーあー。そいつはゴシューショーサマ。都市連合に文句言う理由ができたじゃないか」


「実際」プロペインが口を挟む。「どうなんだ。俺達はこれから何をするんだ」


彼の疑問は最もだ。ファームシティに着いたものの、ここは住民さえわずか。プレイヤーズの姿はどこにもない。都市連合もまた然り。ここで仲間達と出会うのが作戦。もういないとなれば、何のための強行軍か解らない。


「今、無線が繋がってねー。ヒトマルが来るらしいよ」


「なんだ」マケメロンの言葉を聞き、プロペインは安心した。てっきり要塞まで引いたのかとさえ思っていた。


「話はヒトマル達アウターセブンが来てからだね。それまでは私ゃらゴブジと飯テロでここを管理する。ってことだわ。ところで、この街って酒場ある? 酒貰いたいんだけど」


「ありますよ」レモンがマケメロンへ目を向ける。「……ところで、ラストルネッサンスはどこに? サンドロチェリーさんは?」


「ん? あぁ、この街の実質的なトップの奴ね。どーもベッドを大量破壊されちゃったみたいでね。前のベッドからやり直しでしょ。それがどこなのかは知らんけど」


状況は思ったより悪いらしい。ラスルネはほとんど壊滅。現在ここを守れるのはキーコード。


これは面倒だぞ。プロペインは舌をなめた。


「飯テロの皆は好きにしていいよ。特にサムハチはね。あんたら大活躍だし。いい加減休めや」


「そうだね」マケメロンに続く草食。「ハチとサムはもう休みなよ。特にハチ。昨日から寝てないでしょ」


「姉さんに気を使われるとはね。じゃあお言葉に甘えて寝るよ」


「じゃあハチ、行こうよ」


当然のようにサムも同行。二人はその場を去った。


元自宅が壊されたのになぜこんなに平常なのか。マケメロンは首を傾げる。何だかんだ、この家に住んでいたのは二ヶ月以上は前のことだ。そこまでとなれば愛着も薄れる。


二人は崩壊した街を歩いた。住民のプレイヤー達が、崩れた木々の破片を見てうんざりしている。かつての市場。そこは崩れた住宅街と様相が違わない。


恐らくは酒場だった場所の前に来た。ここで、かつてレモンと三人でダーツをしていた。BBが自分へいじわるしてきたのも、オサムは忘れていない。プレイヤーズに入隊してから日常らしい日常もない。オサムは寂しさを感じていた。訓練続きで、暇がない。


だから、こうした時間が愛おしかった。この崩れた街の中でもあっても。皮肉ではある。どうせなら前のままならロマンチックだろうに。


「ねぇ、ハチ」


オサムがたどたどしく甘い声を出す。BBを見た。彼は船を漕いでいる。何とか目覚めを維持しようと瞳を開けていた。抵抗は虚しい。


「……え、何? サム……」


彼の絞り出した声は、とても苦しそうだった。


考えてみれば、BBは一日中バイクを運転していた。それに合わせて前線で戦闘を繰り返していたのだ。むしろ過労で倒れなかったのがおかしな話。今まで張り詰めていた気力がついに切れたのだろう。


BBとしても、限界だった。だが彼の視点では、オサムも同等の疲労を有していると捉えている。ここで力尽きるワケにはいかない。そこにはオサムに対しての青いプライドがあった。だが、本人はそれを知らない。


オサムは気遣って声を優しくする。


「眠い?」


「……ちょっとね」


「ちょっととは思えないけど。そこら辺で横になろうか」


「サムも……横に」


「いいからいいから」


オサムに手を引かれ、日当たりのいい、建物の残骸がない地面へ行った。BBを座らせる。


もう会話も難しいのだろう。BBは半分眠っていた。オサムは、そんな少年らしい彼が可愛くて、スッと髪を撫でた。いつもならやり返すBBも、今は弱々しい。段々と庇護欲が湧いてきた。オサムにとって初めての感情。むず痒い。


それ故の畢竟で、オサムは正座。BBの頭部を優しく手で動かし、自分の太ももの上に置いた。BBはオサムに膝枕をされているのだ。本人は全く気付かない。オサムに撫でられるがままとなった。


「おやすみ。ハチ」


「……おや、す……」


み、を言えずそのまま寝入ってしまった。BBの顔はオサムの腹の方へ向いている。こっちのほうが撫でやすい。


オサムはまた過去を懐かしんだ。かつて、このファームシティに住んでいる時。BBの寝室に入ったことがあった。当たり前だがBBは寝ていた。しかし彼が起きると、侵入者たるオサムを拒絶した。そのことが、ショックだった。


だから、彼がもし起きた時。同じことをされる不安はあった。でも、今はそんなことはないと確信できる。BBは今の今まで弱みらしい弱みを見せたことはなかった。それが、今。こうして自分に向けて隙を晒している。そのことが、オサムの何かを満足させた。


オサムも眠気に誘われ始める。彼女も最前線で活躍したのは変わらない。BBとオサムで、テイル相手に大立ち回りしたのもある。夢へ導かれた。丁度、背にはもたれられる瓦礫もあった。


もっと眠るBBの顔が見たい。こう思うも結局睡魔には勝てず、オサムも眠った。




どのくらいたっただろうか。しかしオサムは自然と目が覚めた。徹夜して眠ると、どうしてか二時間ぐらいしか眠れない。いつもなら八時間なのだが。今回も同じことだ。そこまで長くは眠らず、太陽もまだ上にある。


太もものピリッとした痛み。BBの存在に気付く。まだ寝ている。赤子のような、あどけない寝顔。


周囲を見ると、プレイヤーズ隊員がいた。顔に星だのなんだのペイントを、していない。装備が充実している。アウターセブンだ。やっと到着したのか。もしくはもう着いたのか。寝過ごしただけなのか。ともかく、合流しないといけない。


そう思考しても、BBを起こすのは忍びない。寝顔が見たいだけでなく、彼の安眠を妨げたくはなかったからだ。どうすればいいのか解らない。とりあえず撫でておいた。


BBは微風を受け、目を開ける。意識はまだ覚醒せず、夢心地の中。この感じは妙だった。BBが目覚める時は大抵悪夢で後味が悪い。今は不味いコーヒーのようなそれはなく、ただ羽毛に包まれている。実に豊潤な安心感だ。


寝返りをうとうと顔を上げる。そこには優しげなオサムがいた。美人。それが今の彼女に対する形容だった。


「おはよ」


オサムの声で、目が覚める。そのまま飛び起きたい気持ちはあった。離れたくないという謎の感情に遮られ、そのまま。


「……おはよう」


すっとんきょうな声が出てしまった。自分は今、オサムの下にいる。下にいるとはどういうことか。目を移す。オサムの腹、手。撫でられている。


膝枕をされている。それを認識し、BBの顔が赤くなる。けれど拒絶感はなく、でも恥ずかしくて、それでもこのままでいたくて。耳まで赤くなる。オサムと目を合わさずそっぽを向く。


オサムは彼のその行動一つ一つに、ドギマギさせられている。女装が似合う美少年に変わりはないのだ。その所作が愛らしい。少なくともオサムの語彙では可愛いの一言が限界である。そして心の渇望に突き動かされ、彼の頬へ手を。触れて、彼の顔を自分の目と合わせる。


しまった。オサムはやってすぐ後悔。こういうものはBBが一番嫌いそうだ。しかし、BBは一瞬目を合わせてすぐそらす。顔は赤いまま。


それがしばらく続いた。まだ続いた。まだ。


「えーっと、お二人さん」


草食の声ですぐ我に帰る。BBはバネのように飛び起きる。オサムはフリーズしたまま。


「その、今後について話すから。元自宅前まで来てね。イヤ、ウン、急がなくてもいいよ。少年少女だからね。アハハハハ」


乾いた笑い。草食は去っていった。BBは草食を恨んだ。なぜ、恨んでかは自分でさえ解らず、困惑。とにかくもう行かねばならない。


そう思い立ち上がる。オサムを見ると、いってんして苦しそうな表情をしていた。今度はオサムへの罪悪感で満帆になる。長い間正座で膝枕したのだ。そうもなる。どうしてこんなところも現実に忠実なんだ。このゲームさえ恨む。


「はい」


BBが手を伸ばす。オサムはその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。BBは彼女の肩に手をかけ担ぐようにする。彼女の回復を待ちながら、落ち着いて歩く。


BBは移動中、オサムのほっぺをつついた。疑問符の目で見られた。「さっきのお返し」と頬を赤くして答える。オサムは嬉しかった。寝てる間にそばにいても、彼に嫌がられることはないのだ。自然と顔は緩んだ。


元自宅まで戻る。ヒトマル、マケメロン、まんぷくテロリスト、そして、サンドロチェリーがいた。彼の装備だけ、初期のものだった。


自分で歩けるまでになれたオサム。チェリーを見て驚いた。


「チェリーさん……」


「あ、あぁオサムさんか。ちょっと待ってくれよ」


その待ってくれよはヒトマルに向けられたものだ。


「いえチェリーさん」ヒトマルは厳しい顔で挑む。「我々はただ、保護をするだけです。このファームシティは完全に崩壊した。そしてその支配者であるラストルネッサンスも、都市連合の攻撃により復活は困難。なら、しばらくこの街の主導は、プレイヤーズが行いましょう」


それは玉座からの追放だった。この戦争の開始前、プロペインとヒトマルが懸念していたことが現実となった。いかにプレイヤーズに対するファームシティの影響力を削るか。結果、この様だ。プレイヤーズが得をし、ラスルネは手痛い損をする。


これがゲン総長の狙いだったのか。レモンはそう推察する。随分と遠回りすぎて現実味がない。


「ボク達、ラストルネッサンスは……?」


「どうです? プレイヤーズの部隊として編入しましょうか。この街を立て直すのにも、人手と物資が必要でしょう。そこは我々の手を貸しましょう」


やはりこの街を仕切るために様々な苦労をしたであろうチェリー。飯テロの者は知らないことだが。でなければ、地位を奪われることに絶望などしない。何であれ、己の時間を割いたものは愛着が湧く。


プレイヤーズはラスルネを傘下に入れたいのだろう。そして巧妙なところは、ほとんど自分の手を用いていないこと。あくまでも街を滅ぼしたのは都市連合。街や文化を愛するサンドロチェリーにとって、その恨みはプレイヤーズに向かない。彼らは助けに来ているのだから。


だからこそ、次の言葉は効いた。


「それと、都市連合にとどめを刺せるチャンスは、これから一回限りでしょう。それをプレイヤーズがやるか、ラスルネがやるのかは……まかせますがね」


「……ボク達が?」


「我々の仲間になってくだされば、可能でしょう」


「なります」即答だった。


「そう、言ってくれますか」


「都市連合は今どうなっているんです? 仲間を集めて、攻撃します!」


「連合は今マケメロン……俺の副隊長のお陰で弱っています。もう一つ街を落とせば交渉に応じるでしょう」


「すぐに集めてきます。待っていてください」


そう言い残し彼は駆け出した。ラジオ塔は倒れている。あれで情報を共有することも、下らないゴシップを流すのも、もうできない。


「さて、まんぷくテロリスト」


ヒトマルが五人に向き合う。


「お互いの任務は終わりだ。あとは他に任せよう」


「いいんですか?」


「プロペイン。本来お前達の任務は金鉱山の確保であって、連合への攻撃ではない。しかしそれ以上の活躍をしたんだ。もう休んでいい。要塞に戻れ」


ヒトマルもその言葉を残し行ってしまう。


草食がだらしなくあくびをする。なんだかやりきれない。だがこれ以上やっても仕方ない。バンに乗った。

これからしばらく5000文字超えが続きます。

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