第62話 決戦と白日
夜が開けた。都市は陥落。進路上の障害は、ファームシティに残存する主力部隊のみとなった。マケメロン傘下のキーコードは戦いに向け、すでに動き初めていた。
マケメロンは偵察隊を出した。ファームシティが近く。ならばこれまでのような電撃作戦でなくともいい。また、プレイヤーズとの通信も試みている。簡易的な機材を立て、テスト。しかし芳しくない。
占拠している街は一掃済み。スカベンジをしている。BBも作業に参加していた。プロペインやマケメロンからは休めと言われていた。そんなのお構いなしだった。
「この光景を総長が見たら、どう思いますかね」
BBのそばにはレモンもいた。三階建てのビルの中。くまなく見ている。使えそうなものをポーチに入れ、膨らましている。BBは少し唸る。
「建前上はダメなんじゃない?」
「そうでしょうね。脱出のための組織がこんなのでは、とか何とか言われそうです」
「もう物を盗られるのは皆慣れてるんじゃないかな。オレが言えることじゃないけど」
「そう考えたら倫理観おかしいですね」
BBは砥石を見つけた。ナイフもあった。特別なことも物もない。ナイフはただのナイフ。しかしかつて所有者がいただろう。考えてみれば、自分が持っている物はほとんど人から奪ったものだ。刀はオルスラから。拳銃は拳銃警察隊から、ソードオフショットガンは手に入れたもの。ナイフは初期装備。ナタはオサムにあげた。
どこか不満を抱きつつも、砥石もナイフもポーチに入れた。ナイフは後でどこかに流そう。
「ところで、ハチさん」
少しためらいがちにレモンが声をかける。「何?」と優しく返す。優しすぎたのか、むしろレモンを緊張させた。
「ハチさんはサムさんのこと、どう思っていますか?」
言葉が口から離れる度、レモンはうつむいていく。BBも彼女の顔が見れなくて、影が差す。
「解らない」
自分でも驚くほど、トンと言葉が溢れた。本当の所、自分はオサムをどう思っているのか。二人乗りした時の感触を思い出す。気持ち悪い。自分にうんざりした。
「じゃあ、質問を変えます。ハチさんは、サムさんに、どう思われたいですか?」
これもまた難問だ。しかしこれ以上ウジウジしたくなかった。一秒考えて、何も思いつかねば解らないままでいく。
そして一秒。ホッと息を吐く。同時に笑う。もしかしたらこれは自嘲だったかもしれない。
「大切に思われたいね」
「大切に……?」
「それ以上は特にないよ。それと、答えとしては悪かった?」
「いえ、そんなことは」
「じゃあ、オレは先に戻るよ。休めと言われているからね」
レモンも休むんだよと言い残し、彼は去った。
大切に思われたい。それは、万人が共通して他人に抱く想いではないか。大切、という言葉。もしかしたら特別に置き換えられるかもしれない。その大切、特別とは、何を指し、なぜそう思われたいのか。
彼女は安直な結論を真っ先に思い付く。恋愛。好きになってほしいということか。好きだということではなく。そうなると不思議だ。BBは普段真面目。時に強引。その二面があると知れば、大切に思ってほしいなんて消極性に逃げるとは釈然としない。大切にしてあげるとでも言いそうなのに。
そしてそんな考えをする自分さえ悩ましい。では、己はBBにどう思われたいのか。彼女は判らない。全く。BBも同じ考えだったのだろう。人とどう関係を結びたいかがすぐ理解できるなら、今頃ハーレムでも築けてる。
レモンか皆の下に戻る。どうも事態は動いている様子。プロペインとマケメロンが顔を合わせている。
「ペイン。偵察隊がお戻りだ」マケメロンは言う。「すでに敵主力はこちらに向けて進軍しているらしい。これを討たんとね、戦いはドロドロのヌッマヌマだね」
「じゃあ都市を使って籠城を……いや忘れてくれ」
「ここに籠るのはウーン、ノーだね。守りを固める時間がない。それにそも、守りに向いてない」
「なら道中で迎え討つか。ただ真正面からはキツそうだ」
「だねぇ。相手にはどうも戦車がいるって話だし。嬉しいことは、対戦車兵器は勢揃いってこと。こっちのことは知られてるだろうから突っ込んでくる。問題は、どう迎撃するか……」
「ハチとサムのような迎撃隊、というか、別動隊を作って、挟み撃ちにするのは?」
「バイクに乗る奴を増やして、か。いいねー。敵の車列に突撃させて、暴れ、そしてお帰り。そうすっかー」
二人はうんと頷いた。
「よーし! キーコード出動! 全員乗るものに乗れ!私ゃらが敵兵力を討つぞー!」
「おおおおおお!」
隊の士気は充分。まさに仮眠をとろうとしていたBBはこれで飛び起きた。
BBは再びバイクに乗る。周囲の者も、みなバイク。別動隊が組まれ、敵の群れを縫って攻撃することに。その為、バイクの扱いに慣れた偵察隊員が多く参加した。
顔にペイントをつけているゴール・オブ・ジューシー。彼らに囲まれるのはかなり圧迫感がある。だがバイクの動きは申し分無さそうだ。マケメロンが無線に叫ぶ。
「全員発進! イケイケモーモー!」
「それ面白いと思ってんの」草食が車内で呟く。無線は通してない。
バイクは先に街から出た。さらに二手に別れる。互いが点に見えるほど離れて、敵の挟撃を狙う。まず車列と車列が正面からぶつかるのだ。そうしてバイク達を動きやすくする。この戦いの勝敗、彼らにあり。プロペインから通信。
「別動隊、停まれ。敵をスコープにて確認。奇襲のため俺達が惹き付けるまで待機。指示を待ってくれ」
BBはバイクを停めた。後は待つのみ。オサムの腕が巻き付いている。そのままにした。そのままにしたかった。
だけど彼の優しく素直でない心が、口を動かすのを促した。
「今、動いていないから。離してもいいんだよ」
「……別にいいじゃん」
オサムのいたずらっぽい言葉。BBも調子づいてきた。
「じゃあ次はオレが同じことをしたいな」
「ヤダ。ハチがバイク運転してよ」
「仰せの通りに。お嬢さん」
二人は小さく笑いあった。
その雰囲気は銃声が殺した。主力と主力がぶつかった。BB達には気付いていないようだ。当然。戦場は、BBから見ても遠いのだ。機械ならば近いが。
指示を待つ。その間、BBはいつでも発進できるようにした。オサムは手榴弾や火炎瓶を用意する。銃よりも車に効くのはこっちだ。
「別動隊、やってくれ!」
プロペインに声に応え、勇ましいエンジン音と共に駆けた。そこへマケメロンから無線。
「サムハチィ! 戦車をやってくれ戦車を!」
戦車を目視で確認。方向転換。BBに対戦車戦の経験はない。だが一発も当たらせなければいいとは知っている。
「サム!」「わたしが!」「頼んだ!」
戦車は敵車列後方にいる。そこから支援砲撃。なぜそこにいるのか。理由を考えている暇はない。砲口がこちらを向く。気付かれた。
爆音。砲弾が発射される。一寸の差で回避。機銃が火を吹いてきた。BBが刀で弾き防御。第二射が放たれた。横へ回避。BBは戦車の右手にバイクを動かす。
オサムが跳んだ。空中でハッチを開け火炎瓶と手榴弾を投げ入れた。跳んだ勢いのまま反対側へ。ここまで空中にいた。反対側にはBBがいた。バイクに着地。座った。そのまま走りに走り、後方から爆発音。そのまま敵の車列に突っ込む。
全車前進中。もうすぐ白兵戦に入る。その前に数を減らさないといけない。BBは車と車の間にバイクを潜らせた。オサムは車の窓や銃座から手榴弾などを投げ入れた。あみだくじのように蛇行。車を破壊していく。マケメロンも声を張る。
「全員白兵戦よーい! 敵の機銃手はサムハチが片付けてくれる! 遮蔽物は車で何とかしろ! うおっ、ロケランだ避けろっ」
BBが車列横に出ると車はそれぞれ側面を向けた。兵士達の盾もなる。プレイヤー達は車から降りて銃撃戦。または突撃して肉弾戦となる。
さてまた前線を荒らすこととする。というところへ無線。
「プロペインだ。サムハチ、こちらで大男がバイクで暴れている。草食は他に引っ張りだこで対処できん。やってくれ」
「了解。すぐ行きます」
前輪を軸に回転。自陣へ戻る。途中同じ別動隊員によってもう一両の戦車も撃破したとの報告を受けた。
自陣。鉄パイプを持って陣の中をばいくで走り回る者がいた。アメフトヘルメット、鎧。見覚えがある。プロペインがなぜ彼の名を言わなかったのか不思議なぐらいだ。
「テイルッ!」
BBは力を込めて叫んだ。こちらに気を惹くためだ。
「おおハチ公じゃねぇか。いいねぇ。リベンジマッチといこうや。テメェさえ片付ければ、後は草食で終わりだ。……行くぞ!」
「サム、掴まって!」
急発進したテイルがパイプを振るう。BBも急発進。バイクを横に倒して、転倒ギリギリで旋回。頭上のパイプを避けた。そのまま走り過ぎたテイルを追う。
オサムがライフルで銃撃。それに気付きテイルは急ブレーキ。BBを前に出す。すぐにオサムは後ろを向く。銃を向けるもテイルの射撃によってライフルは空中へ。銃弾を掠めるBBへ左へ右へ。
「サムの嬢ちゃん。あんたは邪魔だ。引っ込んでくれ」
BBも急ブレーキ。オサムは咄嗟に体重移動。落ちずに済む。テイルが前に出たが一瞬のこと。すぐテイルが背中を取る。オサムは拳銃を抜くもこれも撃ち落とされる。
テイルが速度を上げる。鉄パイプを振り回す。オサムがナタでガード。ならばとバイクの横に移動。一閃。テイルから離れ難を逃れる。再度テイルが後ろへ。上段から振り下ろし。オサムが受け流す。わずかな間だけハンドルから手を離したテイルが銃撃。両手が空いているのにバイクは倒れなかった。銃弾を斬れないオサムはまともにダメージを受ける。
このままではジリ貧だ。何より、オサムは歯を噛む。自分がいることがBBの足枷となっている。降りたほうが状況が好転するだろう。
降りる。ならば降りてやろう。
「ハチ。わたしバイクから跳ぶ」
「……わかった」
何をするかは不明。ただ降りるだけかもしれない。そんなオサムへの疑いを、信頼が上回った。
オサムはバイクの後ろでゆっくり立った。すでにマガジンの弾を撃ちきったテイル。物珍しげに彼女を見ていた。BBはひたすら転倒させねいようにハンドルを握る。
オサムはテイルのバイクに向けて跳んだ。ハンドルに着地。視界を敵が支配し、刹那、混乱するテイル。オサムはそれを逃さずナタを振るう。テイルは頭を横に動かし肩でナタを受けた。鎧で防がれダメージはない。そこにナイフの突き。首を狙うそれを掴み、鎖骨にそらす。速度を上げおとそうとするテイル。後ろへ飛ばされるオサム。しかし刺さったままのナイフを離さず、落ちなかった。
ナタを口で咥え、バイクに掴みかかる。そして腕の力だけで前進。バイクの後ろに着いた。テイルは刺さったナイフを抜いた。まだ脅威はある。滅茶苦茶に運転して落とそうとする。突然、背中に激しい衝撃が何度も響く。ナタで思い切り叩かれている。思わず背を丸めてしまう。
ナイフの鋭い突き。首をも丸めたためうなじが見えた。そこへ突く。鎖かたびらがあったために思ったより刺さらない。知ったことか。このまま頭部を殴り地面にぶち落してやると決めた。オサムははヘルメットをフルスイングで殴る。落ちない。口からナタを取り叩く。落ちない。
だんだん苛立ってきたオサムはテイルに掴みかかり、体重をバイクの外へ移す。テイルは抗えず、バイクはついに転倒した。
テイルとオサムは地面に転がった。オサムは起き上がるのが速いがすぐテイルに詰め寄る。首の後ろ、鎖に刺さったナイフを、とにかく蹴った。無理やり根元までぶっこむ。その殺意と蹴りのせいで、テイルはなすがまま。
最後のひと蹴り。ナイフはぶすりと入った。
「ぐおお! や、やるじゃねぇか……」
バタリと倒れ、ポリゴンとなっね消失。相手の油断と、不意打ちのおかげで勝てた。オサムはそう反省する。
隣にBBがバイクを寄せた。
「オレはいらなかったね」
珍しく軽薄に笑うBB。彼に呆れの笑みを返す。BBはオサムが暴れているせいで援護できなかった。
「さぁ乗って。最後にひとまとめだよ」
オサムはBBの後ろに乗った。バイクは発進。また前線へ。オサムとBBの猛烈な攻撃。草食の早撃ち。これらによって、敵はほとんど滅んだ。別動隊の働きは多くがBB達のお陰だったのも一つ。
そして、都市連合主力部隊は壊滅。残るは、ファームシティだけだ。




