第59話 危険の手潰し
「メロン! こちら草食。一体何が起きてるの!」
「その声は……草食! 生きてたの!」
「生きてたのじゃない! 鉱山の入り口を塞がれたんだよ。今は脱出したけど、その間何してたの!」
「今は話してる場合じゃないのさ! 前哨基地が攻撃を受けている! さっさと来てくれよん!」
無線機からは、確かに銃撃の音が鳴っていた。それを言われたからには無下にできない。草食はしかめっ面になりつつ「了解」と一言告げた。
「皆、車まで戻ろう」草食は仲間に言う。それにプロペインが答えた。
「基地で戦っているということは、もう撤退しているということだ。車もあるかどうか……」
彼の言うことは最もだ。だが行動しない理由にはならない。ひとまずは鉱山の入り口まで戻ることにした。
道中は登山だ。鉱山の入り口まで歩かねばならなず、体力を消耗することになった。特にレモンの顔に汗が流れる。BBとオサムは彼女の武器を持ってやり、山を登った。
そして入り口に着いた。そこには乗り捨てた飯テロのバンとバイクがあった。
「よし」
プロペインは早速乗り込む。エンジンを始動。BBもバイクを吹かし動くことを確かめた。プロペインと目が合う。互いに頷きあった。
「皆乗ったな? 俺達は基地へ援軍に行く。サム、いつでも撃てるようにしておけ。ハチは迎撃を頼む」
「了解」「了解」
二人の声と同時にタイヤが回転。トップスピードで発進。BBも負けじと追い付いていく。
広々とした荒野。緑なんてない。凸凹達が、BBを揺らす。今のうちに、バイクでの戦いを吟味することにした。
まず、バイクは突進力がある。ハッキリ言って、棒を横に伸ばし、バイクの速力でぶつけても、充分キルは狙える。刀であればあっさり斬れるのも道理。バイクの乗りながらの射撃は、残念ながら無理。草食であるなら話は別だが。よって、駆けて刀で切り捨て暴れる。それがバイクの基本戦闘となる。
この考えは、基地が最悪の状態であったらの話。マケメロンの部隊、ゴール・オブ・ジューシーはキーコードだ。そう簡単には落ちまい。
「こちら草食。メロン、今どうなってる? こっちは向かってる!」
「早くこーい! 押されてる! 基地の放棄も考えているよコンチクショー!」
プロペインは舌打ち。もっと急がねばならない。
さらに加速。急ぎ、前哨基地が見えてきた。所々から起きる爆発。それが、基地内に敵が侵ていることを何より示している。
BBは左手で左腰の刀を抜いた。オサムも機銃の狙いを定める。プロペインは声を張る。
「皆、このまま突っ込む! 暴れ回って敵を減らすぞ!」
そう言いきる頃には基地が眼前。BBはバンの後ろにつく。バンが金網を破り基地に入った。
「こちら飯テロ草食! 基地に来た! 好きにするがよろしいね!」
返答を待たず草食は六発撃つ。ヘッドショット。すでに基地は敵の手に落ちていた。BBの予想は外れた。ならば後腐れなく戦える。
BBはバンから離れた。この基地は、倉庫と宿舎と駐車スペースぐらいなもの。あとは司令部。敵はただ雑多に立っている。片付ける。
兵士達がこちらを向いた。知らない服。敵。撃ってきた。BBはもう連射を全弾斬れる。全ての弾丸を斬り一人を轢き二人目の首を飛ばす。他は後ろに残した。
金網が近付く。BBは体を右に倒し急カーブ。すぐ体勢を立て直し加速。
中央でプロペインらが暴れているのだろう。彼らを発見した兵士は中央に銃撃。そこを斬撃。敵は密集せず散開していた。故に狙いやすい。
刀を左へ右へ。自在に持ち変える。行く道にいる者を斬る。気付かれ、撃たれる。ウィリーになり肉体への弾丸を防ぐ。ウィリーをやめ、轢き飛ばす。前輪を地に強く着けて後輪で顔を吹き飛ばす。アクセル全開。突進して突き。敵を支柱に左へ曲がる。刀を抜き前進する。
いつの間にか、飯テロは無言の連携をしていた。プロペイン達は中央で撃ちまくって相手の気を引く。そこへBBの刃が来る。知らず知らず、敵は数を減らしていった。
BBは基地を一週。もういくらキルしたか憶えていない。数えてもない。ともかく敵は劣勢を悟った。退こうとしている。ここで戦力を削らねば、あとで苦労する。プロペインはそう判断。逃げ始めた敵を追う。基地から出た。
「ハチ、お前は残れ!」「了解」
オサムは足で走り逃げる者共に向かい、容赦なく機銃を乱射した。撃ち返そうとする者は草食にやられる。オサムにとっては、ただ射的に興じていればよかった。
レモンは後部座席から、バンで追い抜いてしまった敵を狙撃。敵からすれば、どこへ逃げても飯テロにやられる。もう潔くKIAする者まで現れた。
「こちらBB、飯テロ。マケメロンさん聞こえてますか」
BBはBBで、連絡をとっていた。
「ヒィー。え、何? ハチ公! 基地はどーした?」
「取り返しました」
「おーナイスゥ」
気楽な調子。BBに不快感を抱かせるには充分に過ぎた。しかし気になるのは、なぜキーコードが退いたか。基地を攻めた敵は精強とは言いがたい。なのに彼女達が勝てないのはどういうことか。
「マケメロンさん。次は何を?」今は疑問を問う場面ではない。
「まぁ基地に戻らせてくんろ。そこから話し合おうか。向こうもエライ目にあってるらしいしね」
「向こう?」「あとであとで」
そう言って通信を切られた。BBはただ待ってるだけになる。
丁度、飯テロのバンも戻ってきた。四人は車から降りた。降りた、ということは戦闘終了ということ。BBもバイクを立て、降りた。報告をする。
「すでにマケメロンさんには報告しました」
「ありがとハチ」草食が軽く手をあげる。
「プロペインさん。今は待つしかなさそうです」
「そのようだ。それまでは、基地の被害でも見ておくか」
「あたしら、この基地のこと全然知らないけどね」
草食の余計な一言はあったが、ともあれ確認を開始。ベッドルームは見事なほど全滅。なるほどキーコードも退くワケだ。BB、納得。一緒に来たレモンも部屋を見た。
「ベッドは全滅ですか?」
「これでリスはできなくなってた。下がるしかなかった」
「そうでしょうか。何か引っ掛かります」
「と言うと?」
「……いえ、判りません。でも、何かおかしいんです。これだけでマケメロンさん達が下がる理由にはならないような」
静かになっていた外。車の音で音色が戻る。どうやら噂の人物が来たらしい。
「仔細はあの人から聞こうか」
「そうですね」
飯テロゴブジ共に合流。マケメロンは苦い顔をしていた。
「さて、どこから説明しようか」
マケメロンは、自分の乗って来た車に背を預けて言った。
「まず、なんで鉱山の入り口がしまったのさ」
「草食はそこが気になる? 理由は正直、解らない」マケメロンは草食をじっと見て言う。「突然爆発して、何が起こっているんだと揉めてね。その間に、基地のことが伝わったよ。流石にあそこを落とされるのはマズイ。だからこっちに来たワケ」
じっ、と見られ続けた草食。見捨てられたのはともかく、向こうにも事情があった。ならば仕方ない。そう合点した。
「では、私からも」手を上げるレモン。「ここを攻撃した敵は、そんなに強かったんですか?」
「どうだろうね。まーうーん。強いんじゃないかな」今度はレモンをじっくり見る。「私ゃらが着いた頃にはもうほとんど押されていてね。正直どうにもならんねぇ」
「貴方達をもってしも、ですか?」
「うんぬ。いくら相手の装備がボロっちいとはいえ、奇襲はね」
「装備では上回っていたんですか?」
「もちのろん。機銃とかはあったけども。ダメだったねぇ」
レモンにはしこりが残った。どうにも撤退の理由には浅い。この基地がそんなに重要なら、もっと抵抗できたハズだ。少なくとも逃げるほどではなかった。
「解るよレモンちゃん」薄く笑うマケメロン。「これは撤退の理由にならないって思ったんだよね?」
「は、まぁそうですけども」
「それがね。都市連合の奴ら、ファームシティを狙っているとかの報告があったんだよ」
驚きで一同、固まる。だが飯テロの頭脳たるレモンとプロペインはすぐ理解。都市連合はただ戦線にいる敵を攻撃しただけ。あの街もその戦線の一つに過ぎないワケだ。
「ファームシティとこの基地の放棄に、なんの関連が?」それでも疑問点は尽きない。
「レモンちゃんは鋭いねぇ。ファームシティは事前にヒトマルが行った。ほら、別行動だったでしょ? でもそのヒトマルでさえファームシティは防戦一方。というか落とされかけてるってよ。だから、作戦を練り直す必要に迫られた」
「……なるほど」
「とはいってもこの一大事。皆揃ってお話しとはいかない。ここは私ゃの独自判断で、金鉱山辺りを切り捨て、戦線を下げることにした、ということよ」
「金鉱山を? 今回の主要目標では?」
「だからこそ、だよ」相変わらずマケメロンはレモンの目を凝視する。レモンも少したじろいで、目をそらす。けれどもマケメロンを見るとまた目が合う。
「だからこそ、鉱山は捨てた。あそこはプレイヤーズが狙っていると誰もが知っている。だから互いに案を考えやすい。でもね、都市連合はこう考えた。金鉱山を取られても、プレイヤーズの要塞を落とせば、実質、勝利は都市連合にありってね」
「無茶では?」
「その無茶で実際成功しているからねぇ。なんだかんだ言って、結局都市連合を落とさないと金鉱山は手に入れられない。あの鉱山を獲るために連合と戦うのであって、逆じゃないんだよ。総長が聞いたら怒るけどね」
レモンもプロペインも、ひとまず納得した。こちらの部隊は押して、他は押されている。それを打破するため、また他のことをする。
オサムは一人、疑問符まみれ。どうにも違和感がある。プレイヤーズは彼らに負けるほど弱いのか。それとも都市連合が強いのか。そうなら、純粋な戦力比として、向こうは戦車が何十台もあることになる。けれどこの基地に戦車は来ていない。車すら持っていない。
その疑問をBBに向けようと彼を見た。BBもそれは考えているようだ。目が合う。彼は肩をすくめるだけに留めた。自分も解らない、という表明だ。
言葉で伝えなくとも、BBとコミュニケーションがとれた。オサムは大さじ一つ、喜んだ。
「それじゃあ、これからどうする?」
「いい質問ですぜペインさん。私ゃらはファームシティに合流する。私ゃの計画外ではあるが、この基地も金鉱山も手に入れた。ここから追撃して連合を討つ。連合の諸都市はここから北。つまり北上して都市部を攻略。そのまま進んでファームシティかそこら辺りで仲間と握手。どう? いけるしっしょ?」
「補給は続くのか?」
「もう略奪しかないよ。幸い分断されているワケではないけど。だから補給そのものはできる。けどそんな暇はないよ。一気に突っ切る」
「強引だな。ヒトマルさんはそんなにヤバイのか」
「主力は向こうだからね。じゃあ、皆準備して。終わったらすぐ出発する。大丈夫だ、勝てば独断専行も許されるわな」
ゲラゲラ笑って、マケメロンは去っていく。
各々息を吐いた。ここからしばらく戦いかま続く。太陽もいい加減、銃声に飽きているだろう。
BBはただ、指揮官であるマケメロンへの疑惑をもて余した。ただ作戦に違和感があるだけでなく、その人となり、考えが理解できない。
それを言葉にできなかった。奥歯に詰まったようで、不快になる。
「ハチさん」レモンが後ろから声をかけてきた。
「どうしたの?」
「これから、大丈夫でしょうか」
その言葉には、多数の意味が込められていた。




