第57話 おどれしっぽ
プレイヤーズ全体に、金鉱山奪取への知らせが行き渡る。西の西、大陸中央部に位置するそこに戦いを挑む。すでに敵対組織は付近の諸都市と連携、「都市連合」という巨大なまとまりとなり活動をしているという。故に、キーコードだけでなく、一般隊員も引き抜かれることに。
キーコードはすでに西へ進軍していた。何日かかけてやっと中央部へ。そこで前哨基地を建てた。後々後続がさらに基地を造るようだ。補給には困らない。
「だいぶ大掛かりな作戦になったね」
「総長はよっぽどそこが欲しいらしいね」
BBが先に言い、オサムが答える。前哨基地で武器のメンテナンスをしていた。とはいえただマガジンに弾詰めをしたり、刀を研いでいるだけだが。
「そういえば聞きました?」先までスコープの調整をしていたレモンが割り込む。「ヒトマルさん部隊を別けるらしいですよ」
「となると、わたし達の上官はマケメロンさんになるの?」オサムが聞く。
「そういうことですね。しかしなんで別けるんでしょう。ヒトマルさんは北の方に行くらしいですが」
「下っ端が考えることではないけど……」BBも会話に参加。「そういうことは説明してほしいね」
そう言いつつ考え込む。相手の実力は未知数。都市連合がどれほどの戦力を持っているのかが解らない。教えられてないのだ。
ふっ、とため息も吐く。プロペインのタフさを理解できた。彼は一人バイクで移動。バンの銃座はオサムが担当。BBはその横を走る。疎外感はないが、オサムやレモンは気にしている。なので大声あげて会話などをしていた。無線を利用としたらヒトマルに叱られた。
「そうすると、私達とゴール・オブ……なんでしたっけ。ゴブジさん達と一緒に、金鉱山を落とすことになりますね」
「いきなり本丸を攻めるとはね。普通、外壁から攻略するんじゃないのかな。というか、守備はどうなってるんだろ」
「ハチさんはそう思います? 上の人達には考えがあるらしいですね。私達がオールドスランガーズを攻めた時と同じことをしたいのではないかって、私は思いますね」
「電撃的に攻めて短期決戦か。なるほど」
「でも、正直プレイヤーズがそうする理由が解らないんです。戦車はあるし、ガソリンにも困ってない。武器も潤沢だし、力で押さない理由もない。どうしてなんでしょう」
BBとオサムはチラリと目を合わせる。安らげに肩を落とした。やっぱり自分達は、レモンのように作戦を考えられない。電撃的に攻め込む。なるほど。で、彼らは終わってしまう。
「レモンはそこまで考えられるんだねぇ」何の嫌味も添加されていないことをオサムは言った。
「こういうこと考えるの、なかなか楽しいですよ」
「レモンとチェスはしたくないな。すぐやられそう」
「まぁサムもそう言わず。いつかやりましょうよ」
「その時はお手柔らかに」
フフフと少年少女は笑う。
無線機から声。マケメロンの声だ。
「キーコードは全員出発準備してくんろ。とっとと金鉱山落とすぞー」
三人は立つ。武器を肩にかけたり、のびをした。上の思惑がどうであれ、任務は任務。兵隊は兵隊。従っていればいい。そう考えれば、気も楽だ。特にレモンはそう考えるようにした。
まんぷくテロリストがそれぞれバンやバイクに乗る。そこへマケメロンが来た。いつものようにノンアルの瓶を脇にして。
「やぁやぁ飯テロ殿」
「メロン。どしたの」
もう草食とマケメロンは友人だった。悪友と言ってもいい。草食はマケメロンのことをメロンと呼んだ。マケメロンの方はいいあだ名が思い付かず、そのまま。
「いやね。私ゃ前に総長に呼び出されたじゃん。憶えてるかな?」
「……あったっけ?」
「ほら、五日前の総長のブリーフィング。そこで私ゃお命を頂戴してね。それがあんたらのことだからさ。話しときたくて」
「えー……。何か機密とかじゃないよね?」
「なんというかお叱りだよ。ずっと私ゃ不真面目だからさ。今回指揮官になるからシャンとしろってさ。だから何て言うか……その」
珍しく恥ずかしそうにうつむいた。赤くならないのはせめてもの抵抗か。その行為は五人の目を集めるのに充分だった。
「信頼してくれってことかな!」
急に明るくなって、舌をべっと出して唇を舐める。らしくなく緊張しているのか足が震えている。BBから見ればただのアル中だが。
「へいへい。上官として見ますよ閣下」偉そうに草食はふんぞり返る。
「へっへっへっ。そうこなくちゃ」
「だったら、その酒捨てなさいよ」
「いやこれは景気付けだからセーフ」
そう言い残して自分の車へ行った。そして全車発進。
マケメロンはあぁ言った。だが金鉱山の攻略は結局力押しだ。プレイヤーズ全体ではなく、アウターセブン抜きのキーコードによる、だが。何だかいつもと変わりないとも思える。
プロペインはもっと情報を探るように言った。それを受けたマケメロン。曰く総長の立案なので無下にできないとのこと。末期の軍みたいな思想だと、プロペインは呆れる。
金鉱山前に着いた。防御陣地が築かれ初めている。まだ完成していない。まずは装甲車からの機銃掃射、内部に入って暴れれば勝負は決まる。ただし爆発物は持っていけない。
なるほど。レモンも納得。爆発物を使うと鉱山が崩れる危険がある。万が一鉱山を放棄されたら、おそらく爆破して埋められる。電撃作戦も間違いではない。金鉱山が欲しいから、そうするのだ。
「こちらマケメロン。これより作戦開始。向こうも当然気付いてるけど、ヘーキヘーキ。イケルイケル。車で外を壊したら飯テロが先行して内部へ突入。占拠。おーけー? ゴー!」
車は一気呵成に加速。BBもバイクで突撃。オサムは機銃を乱射。抵抗はほとんどなく、一瞬で外は陥落。
バイクから飛び降り、入り口の守衛と対峙。銃を向けられる。撃たれる前に斬り伏せる。他の仲間も降車。「飯テロ、突撃する」と義務的に草食は無線。内部へ侵入。
待ってましたと機銃の口。草食が早撃ちで撃たれることなく黙らせる。そしてBBとオサムが躍り出た。BBはジャンプで奥の方へ。オサムは入り口付近で戦う。
BBは首狩り族として、入り乱れる敵兵を即死して回る。刀で間に合わない者は拳銃で。縦横無尽に駆け回る姿は最早戦神。
オサムはわざと囲まれた。アサルトライフル持ちまみれ。下手に撃つとフレンドリーファイアが恐ろしい。撃てないと判断。仕方なく銃剣で突く。が、後の先。左手のナイフで弾いてナタで一閃。撃たれると避けて袈裟斬り。オサムは一発ももらわず粛々と戦った。
他三人はBB達の討ち漏らした敵を撃破していく。奥からどんどん敵が出てくる。プロペインは敵の残した機関銃を奪い、敵に向けて乱射し始めた。これまでのと二丁。それぞれの手に。
戦局は順調だった。だが、草食が違和感に気付き入り口を見る。まだ仲間が来ない。草食達はそこそこ深くまで来ている。これはおかしい。
無線機に目を移し、手に取った途端。地響きが起こり、爆音が来る。
爆音の方向を見ると、入り口にあった外の光がなくなっていた。閉じ込められた。敵の罠だ。
「メロン、メロン、マケメロン! 応答して!」
しかしノイズまみれで何も聞こえない。
「皆! 入り口を塞がれた!」
「なんだと!」
プロペインは掃射を止めて入り口へ目を向ける。撃つのに夢中で気付かなかった。そして異常に気付く。なぜ敵は道を塞いだ? こちらを逃がさないためか。
ならばしてやられた。仲間と分断され、孤立した。だが恐れはない。こちらはかの飯テロである。もしそれが彼らに知れたなら、こんなことはしていない。閉所でのBBは無敵だ。プロペインはすぐ平常に戻ったが、他はまだ混乱している。
その混乱の中、一人の男が現れた。
アメフトのヘルメット。錆びた鉄の鎧。右手に巨大な曲刀。左手に脇差。大男と言っていい体格。ただ者ではない。
「よう飯テロ共。皆噂しているから来てやったけどよ。なんだ? なんで入り口閉じてんだ? いくら腕に覚えがあるからって、舐めすぎじゃねえかよ」
男が来てから、場は静まった。レモンのライフルはすでに男の額を狙う。そしてためらいなく撃った。
放たれた弾丸は、左手の脇差で斬られた。レモンは言葉も出なかった。
「お、成功した。ハチ公って奴が弾丸斬れるって話聞いたんだよ。で、真似しているワケだが。意外とできるもんなんだな」
今度はプロペインが機銃を向ける。男はそれを手で諌めた。
「待て待て。そう急くな。おれはこの場を楽しんでいるんだ。飯テロさんよぉ。それに、あのプレカス共をぶっ潰すには、お前らを潰したほうが手っ取り早いからな」
大曲刀を肩にかけ、BBに脇差の刃先を向ける。
「それに何より、脱出を考えて、実行したがるのが気に食わねえ。世界はこんなに楽しいのによ。ま、そんな話はつまんねぇから置いておこうか」
「飯テロと知っているなら、どうして入り口を……」プロペインは呟いた。
「オレの指示じゃねぇな。どうせそっちのミスだろう」
ミス。それはあり得ないことだった。そもそもこの鉱山を封鎖したら、掘り出すのがまた面倒だ。それをわざわざするほど、マケメロンもバカではない。そして、事前に爆破するほどでもない。プロペインの脳内がパニックになる。
「おい、ハチ公」
男は言った。BBは答えない。
「オレはテイルってんだ。オレからすればハチ公、お前さんはレイドボスだぜ。いや、ラスボスだ! この手で討ち取れば、大層楽しい想いができるだろうよ」
「じゃあ、あなたが負けたらどうする?」
「おうハチ公。これは取り引きじゃない。オレの趣味だ。都市連合は変わらずお前達を追い詰める。オレはここで、鉱山の主として振る舞うまでよ」
人々は道を、場を受け渡した。小さなBBと、大きなテイル。二人が睨み会う。レモンはさりげなく脱出路を探した。
外の様子は不明。まんぷくテロリスト、孤立。




