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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第56話 金の魅惑


ファームシティとの同盟から二週間。要塞にもう一つ壁が造られた。巨大になった要塞。ラストルネッサンスの協力だ。さらに、各施設を移設。命であるベッドルーム、つまり居住区画は中心のまま。第二の壁の辺りに娯楽施設。ラスルネの意匠であるウッドハウスが並ぶ。しかしどうもゲンの意向に合わないらしい。近々コンクリート製にすると言った。


BBはそんな壁を遠くから眺めた。要塞外の荒野。BBはバイクに乗っていた。


暴風神風(ぼうふうかみかぜ)の至高のバーロースコスコにもらったバイク。これをどうするかで話し合い、結局BBが乗り回すことになった。彼は奇襲などの先鋒となることが多い。その足として、バイクは有用だ。そもそも彼に贈られたものだから、というのもある。


その結果、BBには特別にバイクの訓練を施すことにした。それを決定したのはヒトマル。彼がバイクを見た時の顔を、人々は忘れていない。「バイクというか、オートバイだ」とヒトマルは語っていた。続けて、自衛隊のものと同じであるとも。彼が自衛隊出身であることを、まんぷくテロリストは初めて知った。


「さてハチ。休憩は終わりだ。俺はただの普通科隊員なんだ。あとはマケメロンに任せるよ」


そう言って、ヒトマルは去っていく。彼もまたバイクに乗って。訓練にはヒトマルも参加した。自衛隊員と聞いて不安と安心がせめぎあったのも懐かしい。彼は鬼教官ではなかった。マケメロンが去る背中を目で追う。


「ヒトマルの奴。私ゃなんかに任せやがった。バイクが趣味とか言っていた癖に」バイクの上で瓶を傾けた。


「ヒトマルさんってバイク好きなんですか?」


「たまーに言ってるよ。そもそもプライベートを喋ろうとしないから、知らんことだらけだけど」


「そうなんですか」


「あいつ、本当は偵察部隊に入りたかったんだってさ。自衛隊の話ね。でも、まぁ適正とかがどうとかで、普通科の小銃使う隊員になったらしいよん。かなり悔しそうだったわ。しかし普通科ってなんだ?」


「バイク、乗りたかったんですね」


「まぁ偵察部隊になれたとして、私ゃとあんたがいる限り、この世界では役に立たないだろうけどね。普通科? ってのもどうかな。技術では勝てないけど、私ゃらならいけるっしょ」


BBと己を同一に扱うとは凄まじい自信だった。けどもBBは全く不快感を抱かなかった。ただ、性格的に一緒にされたくはなかった。


訓練を再会。BBは飲み込みが早く、もうすっかり乗りこなせた。それでも彼が驚いたのはマケメロンの運転だ。荒々しく、スタントでもやっているのかとばかり。彼女はこのぐらいしないと認めないと言った。冗談かと思いきや本気なので、BBもそれに合わせた。


そのせいで、BBは必要もない技術を手に入れてしまった。かっこつけには使える。空中での一回転やウィリーなど。いつか曲芸でもやらされそうだ。


訓練を終わり、要塞に戻った。バイクを駐車。そのまま食堂へ。もう昼だ。ごった返しているが無理もない。


トレイを持って並ぶ。迷彩服を着ていない者もいた。ラスルネのプレイヤーだ。あくまでも建築員なので扱いが違う。知っている顔も多くなってきた。友達を作ろうなんてBBは考えていない。話ぐらいは合わせたいと考えてはいる。


BBはそういえばと思う。レモンが他の見知らぬ人と話すのは見かける。オサムは見ない。大体自分と絡んでいる。こんなに人がいるのだ。コミュニケーションをとってほしいもの。自分がお節介な兄のようになっているとは気付かず食事を受け取っている。


ため息をこぼした。またトウモロコシだ。焼きトウモロコシ、コーンサラダ、モロコシパン。訴えるように配膳人を見る。


「ごめんねハッちゃん。またモロコシ」


顔馴染みのその人が言うならと諦める。すでに想像の内で黄色の粒を味わいつつ、席を探す。ファームシティのトウモロコシが流れてからはいつもこれだ。


どうやらあの街のトウモロコシは、生産過剰に陥っていたらしい。もうすぐインフレを起こすところだった。何せトウモロコシが通貨なのだから。そこにプレイヤーズが来て、トウモロコシで貿易、大量のそれを押し付けられたということだ。もう要塞で通貨扱いだ。ゲンはそれを嫌った。なんとか食事で減らそうとしている。


結果、現場は不満を持った。ポークビーンズが食べたいと思えるほど。


「ハチ! ここ空いてるよ!」


オサムが手を振って誘った。丁度よいとその席へ。


「お疲れサム。モロコシはいい加減飽きた?」


「それは誰にも言えることでしょ。それより、バイクはどう?」


楽しそうに、笑いながらBBと話す。BBも笑みを浮かべ、サラダをちょっとつまんでから話す。


「マケメロンさんにあれこれ教えてもらったよ。いらないものまでね。ウィリーとか使わないと思うけど」


「いいなー。わたしも乗ってみたいよ」


「乗せてあげるよ。いつかね」


そう言いつつ、最近の己の変化に目が行きつつある。悩むほどのもではない。だが、妙に不思議だった。以前は笑うことがなかった。それは自覚している。しかし笑わないと不気味に思われてしまう。なので笑いの仮面を着けた。笑っているように見せかけた。


だが、どうだろう。今は自然と笑える。あまりにも当然とばかり笑っていた。そうと気付くのに随分遅れた。しかしBBはその笑みがどうして現れるのか解らない。仮面の着けすぎでも、己を騙せるものか。それとも、心を開いたのだろうか。


心を開くなど。一笑で吹き飛ばせる。誰であろうと心を開くものか。オサムであってもだ。彼女は仲間だ。友達でもないし恋人でもあるハズがない。となると、彼のオサムに対する態度に疑問が湧く。本人には解明できない。


そう考えている間も会話は進んだ。どれも他愛のないことだった。しかし悲しいかな、交友関係の狭い二人の話は、規模が大きくなることはなかった。


食事を終え、さて何をしようかも考えた矢先、


「こちらヒトマル。キーコードは集合せよ」


肩を落とした。二人は司令部に行く。途中、マケメロンなどが加わる。何を話すのかとぐだぐだ言い合い歩く。緊急ならそう言うだろう。ならばただの事前説明だ。何の説明だろうか。


司令部に着いた。扉を開け、いつものブリーフィングルームに入る。マケメロンが入り口でピクリと固まった。どうしたと後ろで訝しみつつ中へ入る。そこには総長、ゲンがいた。


「総長」BBは敬礼した。倣ってオサムも敬礼。二人と比べて雑な敬礼をしたマケメロン。しげしげと男二人を見る。ゲン。ヒトマル。


「何かの作戦ですかぁ?」


ヘラヘラした態度のマケメロンにゲンは興味を示さない。しかし言葉への返答として頷いた。


まだプロペインなどの飯テロは集まっていない。BBは椅子に座る。オサムも横に。ゲンがわざわざ、彼らの近くへ。BBの目を見つめる。BBも意図を見抜こうと見つめ返す。


「期待しているよ。ハチ公殿」


また期待だ。とりあえず、自分がお偉いさんに目をつけられたことは間違いない。引き抜きされないよう注意することにした。


なぜ注意する必要がある。BBは自分の考えに驚いた。すぐ理由を見つけ納得した。ゲンは信用できないからだ。なぜ驚いたのかとさえ冷笑する。オサムもBBを見て、ゲンの意思を見出だそうとする。やはり意味のないことだった。


しばらくして、キーコード全員が集まった。誰もがゲンの姿を見て緊張。こういう場は苦手な草食は、帰りを待ち望む。


「さて、全員揃ったようだな」


「総長」ゲンの言葉を遮るマケメロン。「総長自らが来ると言ってくだされば、すぐ来ますんに、どうして」


「焦らないでくれ。私はただ、諸君らに直々に伝えたいと思ったのだよ」


何を? とは聞かなかった。隊長格であるヒトマルとマケメロンが立ったままなのはいつも通り。しかしゲンまでいるのは抵抗があった。そう、一般隊員達は思う。


「では、私から説明しよう」


ゲンが咳払い。


「さて、先の護衛のお陰で、プレイヤーズは新たにラストルネッサンスを友とできた。しかしながら、未だに我々の目的、この世界からの脱出にはほど遠い。その理由の一つとして、経済力の貧困があげられるように思える」


「言っている意味を理解しかねるかもしれないが、ラスルネを見れば簡単なことだ。彼らが街を従えられるようになったのは、ひとえに、経済力のお陰だ。トウモロコシを基盤とした経済は成功し、我々までその覇を唱えている」


「だが。なぜトウモロコシが通貨として使えているか。それを考えると、このままではいけない。あの食べ物が通貨として機能しているのはズバリ、食べ物だからだ。言うなれば食本位制なのだ。私はこれをどうにかしたい」


「そして、その答えはすでに見つけてある。かねてから偵察隊が発見していた、ここからさらに西の西。大陸の中央に位置する山々に、金鉱山がある。これまでは必要なかったが、今はそれが必要だ」


「だがこれだけでは諸君らキーコードを使うまでもない。問題は、そこを占拠している者がいるということだ。そして彼らは非協力的であるどころか敵対的である。我々さ彼らと武力衝突することになる。そこで、キーコードの出番だ」


やっと自分達の目的が明示された。BBは聞く気になる。それまでも聞いていたが。それにしてもゲンの話は長い。


「諸君らキーコードの目的は一つ。金鉱山の制圧だ。敵はチーム名を名乗らぬ烏合の衆だが、その金を使って勢力を伸ばしつつある。彼らを野放しにすれば、脱出はより遠くなる。だが諸君らであればそれを打ち破れると信じている」


「作戦は五日後。それまで英気を養うように。では、解散」


隊員達は立ち、敬礼。飯テロも同じように。そして、なぜかマケメロンに目配せし、ゲンは部屋を出た。首を傾げながらも、マケメロンは彼に着いていった。


「お前達、もう帰っていいぞ」


ヒトマルがそう言って、やっと動き出した。


「ヒトマルさん」プロペインは近付いて険しい顔で聞く。「なぜ襲う必要が? 大義に反してはいませんが……」


「疑問は最もだ。おそらくラストルネッサンスの経済的影響を取り除きたいのだろうよ」


「政治ゲームということですか」


「恐らく。これで奴らは退くと思うか?」


「ラスルネはそんな簡単に退かないでしょう。何か考えがあるのかもしれませんが」


「ともあれ、任務には変わらん。こちらでも敵のことを探っておこう。お前達は訓練を。それとハチ公」


呼ばれたBBは「はい?」と眉を下げる。


「バイク、頑張れよ」

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