第53話 組織の一歩。個人の一歩
知らないうちになくなっていた、まんぷくテロリストの車が返された。許可もなく勝手に装甲化されている。むしろ嬉しいので感謝した。ついでに銃座もつけてもらっていた。プレイヤーズの整備班には頭が上がらない。
そんな彼らもキーコードとして任務に就いていた。今回の目標は弾薬工場の廃墟。そこを建て直し、弾薬の安定供給を目指す。そうヒトマルは言っていた。この要塞の弾の全てを、スカベンジで補っていたことに、BBは驚愕した。
「久々に運転すると、やっぱり違うな」
「そりゃあ色々鉄板とかついてるもの。変わるでしょうよ」
プロペインと草食がそう言う。このバンはあれこれと鉄板がつけられている。外から見るとその世紀末さが異様な輝きを放っている。迷彩の他車両と比べると場違い感が凄まじい。
銃座につくのはBB。オサムと揉めたが、結局BBがここにいることに。銃の腕を磨きたいと言って他四人を説き伏せた。本当はオサムにほんな責任を押し付けたくなかっただけだか。なぜ押し付けたくなかったのか。そう言われると、これが答えに詰まるのだ。相談できそうもない。彼はただ一人抱え込むだけである。
今回の任務目標である工場が近付いてきた。無線機から声がする。五人は何を言っているのかさっぱり判らない。ノイズが多すぎる。ヒトマルは事前に無線機の故障を伝えていた。新しいのを調達中だとのこと。草食の嫌そうな顔は、BB達に随分印象的だった。
先行車両が止まる。つられてみな止まる。また無線機から声が出てきた。周りを見ると各々降り始めている。まんぷくテロリストも空気に従い降車。
ヒトマルが大声を張り上げる。
「これよりゾンビ掃討作戦を開始する。工場内にいるゾンビをくまなく探せ。発砲は自由。何か緊急事態があった場合は無線で連絡。行くぞ」
言い終わると先陣をきり進む。他も続く。BBはアサルトライフルを見ながら武装を確認した。問題ないと言いたい。身体中についているポーチが鬱陶しい。銃が増えたために弾も増える。ポーチも増える。オサムも少しもたつく。
「ナタとかは使わないかな。ハチ」
「そうだろうね。基本的にライフルで応戦することになると思う。それにしてもゾンビって久しぶりだよね。いつぶり?」
「さぁ。姉さんがスロットやってたところの、地下にいたのが最後じゃないかな」オサムはファームシティ以前のことを言っている。
「……なんでスロットやってたの知ってるのさ。オレと姉さんだけの話かと思っていたよ」BBは小声になって聞く。
「当時は気付かなかったよ。でも後で考えたらさ。それこそ姉さんが異常なギャンブル好きと知ってから、そう考えちゃうんだよ」
BBは少し感心。オサムを見くびっていたかもしれない。鈍いと思っていたのだが。数ヶ月経っても人の知らない部分が現れるものか。BBもオサムもレモンも、近頃は訓練ばかりだった。
工場前に着く。車を離れた位置に置くのはゾンビの数に対抗するためだ。装甲車には機銃がつけられているから、守りは強い。あとは全滅しないため。とはいえゾンビだ。プロペインでさえもヒトマルの心配性を疑う。
「ではここから、予定通りアウターセブンとゴール・オブ・ジューシーの二チームに別ける。アウセブは俺に着いてこい」
そう言ってヒトマルは行った。そして残るはゴブジチーム。飯テロもそこに編入された。顔にペイントつけている集団の中に、カウボーイ女、スナイパー、筋肉、美少年、スポーツ少女が混ざっているのはシュールだった。
「んじゃあ私ゃらは個別に別れようか。どうせ向こうもそうしているだろうけど。チーム別けはテキトーで。四、五人ぐらいでいいかな、私ゃ飯テロと行くよ」
「姉貴ぃ。楽しようとしないで下さいよー。うちらも飯テロと組んで酒飲みたいんですけどー」
隊員の一人がぼやき辺りはゲラゲラ笑う。マケメロンは酒に反応した。
「おぉ? 今も酒、持って来てんの?」
「へっへっへっ。お代官様。酒はあっしが持っているバックにたんまりと……」
「よーし!」急に気合の入ったマケメロン。隊員もギラギラと目が輝いている。「終わったら各自好き勝手に飲め! ヒトマル共の意見は無視だ。とっとと終わらせて飲むぞー!」
おー! と酒でつられた者共が騒ぐ。ずかずかと内部に入り、もう銃声を鳴らしていた。
「そんじゃ私ゃらも行こうか。草食は早撃ちしてよね。その方が楽」
「えー。今度貸しつけてくれたら考える」
「ちぇっ。私ゃ監督官になりまーす」
そう言ってマケメロンは五人の後ろに立ってしまった。
とっとと終わらせたいのはBBも同じだった。彼とオサムは銃を構えて前に出る。レモンもリピーターを手に周囲を警戒。プロペインもアサルトライフルを構えた。草食はシリンダーを回して残段確認。探索を始める。
地下に続く階段があった。下から銃声。獲物がいると下りていく。早速ゾンビのお出まし。BBが胴体を撃ち抜く。倒れた。そこへさらに撃ってキル。銃声に気付きゾンビ共が群れる。プロペイン、オサム、BBが並んで撃つ。その他三人は援護。主に草食の早撃ちでことごとく片付く。
さらに進む。ゾンビを見かけて撃った。そこらに積まれている木箱から察するに、弾薬の保管庫なのだろう。こんな所で発砲して良いものか。BBはちと悩む。そんなの気にしないマケメロンと草食。
自分達のものではない銃声が近付く。恐らく大丈夫だが、念のため気を張る。廊下の角でばったり出くわす。
ヒトマルと傘下の部隊だった。
「飯テロか。それとマケメロン。片付いたか?」
「一応撃ち漏らしはないと思いますよ」
草食の曖昧な返答。若干不満を持つ。咎めるほどでもないので、肩をすくめる程度にする。マケメロンはその行いを無視した。
「よっすヒトマル。ここの弾ならしばらくは安泰だと思うよ。いくつか持っていっていい?」
「どうせ酒代に回すつもりだろう? マケメロン、ダメだ。これはプレイヤーズのものだ」
「かぁー! 世知辛いっぴー」
そして合流したまま工場内のゾンビを狩る。プレイヤーの方が有利すぎて、ゲームとしては楽しくなかった。このゲームは対人戦に価値があるのだろう。草食はそんなことを思っていた。
工場内に響く発砲音も止んできた。BB達も上に戻りブラブラする。掃除は終わったのか他の隊員と何度も会う。ヒトマルとは別れた。
その考えに至り、工場の外へ。兵士達がたむろしていた。ゴブジの連中は酒を飲みたくてウズウズしている。アウセブも暇そうだ。マケメロンは舌舐めずり。グングン歩いて、彼らに加わる。
「もう任務は終わった。せめて一杯やろうぜ」
そう言って、先の兵士のバッグから酒を取り出す。嬉しいことにカップまで入っている。ゴブジの兵士達は我よ我よと群がる。アウセブの隊員は呆れた。
まんぷくテロリストは何をしたらいいいのか。会社で手持ちぶさたな新人みたいな気持ちで突っ立っていた。マケメロンは彼らにもコップを押し付け酒をみるみる注いだ。
「あの、オレ達未成年なんですけども」
レモンとオサムを見てBBは言うが、
「ノンアルはジュースだから気にせんといてー」
子供達三人は注がれた液体をしげしげと見つめた。プロペインは意外にも遠慮なく飲んだ。見習って、BBも飲んでみた。知らない味だった。何の味だろうと、類似するものを必死に探してみる。色が琥珀色以外、まるで判らない。
「ラムか。どこで仕入れたんだ」
プロペインは何ともなしに言った。これがラム酒。ラムレーズンでしか聞いたことのないラム。まず、ラムレーズンをそうそう食べないBBだが。
「いや、スカベンジで手に入れた」マケメロンも一口。「いつか要塞でも作りたいよ」
そうこうしている内にヒトマルが来た。酒に溺れる隊員達を見て最初にまずため息をこぼした。
「まだ任務中だぞ」
「これはノンアルのジュースだからセーフ」
「あのなぁ。そんなことしていると評価に響くぞ」
「じゃあ私ゃらの代わりがいるのかって話だよん。他の奴らがキーコードになれんの?」
そう言われると弱い。ヒトマルもまた空気に流され酒を傾けた。
宴になった。その中で、マケメロンがBBの肩を叩く。見ると、着いてこいのジェスチャー。少しの警戒を脳裏に刻んで着いていく。
「ハチ公殿」ヘラヘラした態度は、酔っているようにしか見えなかった。工場内に連れ込んで何をするのか。続けて彼女は言う。
「あんたは何で戦ってるの?」
「そりぁ生き残るためですが」
「そう。じゃあ何を理由に脱出をしたいのさ」
そういえば、マケメロンは脱出に興味がないと言っていた。けれどこの質問にどういう意図があるのかは解らない。不気味に感じた。
「そういう貴方は?」
「いけないなぁハチ公。誤魔化しちゃあいけない。私ゃ脱出したくないよ。で、あんたは?」
「……仲間のためです」
この言葉を心理的妨害なしに言えたことに、自分で驚いた。警戒していたハズなのに。なぜ言ってしまったのだろう。それでも後悔はなかった。
「ふむふむ」彼女はコップを傾ける。「仲間がいなければ脱出はしないと?」
言葉に詰まる。考えてみればその通りだ。仲間、主にオサムが帰りたがっているから協力しているだけであって、自分が帰りたいかは二の次だった。
黙ったままのBBを見るマケメロン。その目は酷く濁っていた。何を考えているか読み取れず、溺れているようだった。
「よくないよね。そういうの」コップをチャプチャプ。「もう少し我が儘にならないと。誰がどうこうしていたから自分はこうする。のではなく、自分がこうしたいから自分でどうこうしないと。人は裏切るものだからね」
「……なぜそんなことを?」
「あんたは多分、かわいそうな人だ。私ゃなんかよりずっとね。怒らないでよん? これでも人を見る目はあるつもりでね。糊でベタベタのマスクを被っているように見えるのよ」
「それを話して、何が言いたいのです?」
「なんやろなぁ。まぁこっちにこいというか。現実に帰ってもキミ、仕方ないんじゃない? いや知らんけどさ。あぁクソッタレ。あんたを見ると昔の自分を思い出す。そのままだと色々辛いよ?」
「憶えておきます」
「……なんつーか。そういうところだよね。あ、もっと飲む?」
彼女はポーチから小さい瓶を取る。酒だろう。飲み気にはなれない。段々とこの人から離れたくなる。同族嫌悪に似たものだ。そのハズなのに、彼女のことが何一つ解らない。だから嫌悪が起こる以前の問題なのだ。
仲間の所へ行ったBBの顔は暗い。どうせ裏切る。その言葉を憶えてしまえば、虚しくなる。慣れているつもりだったが。




