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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第52話 一兵士としての光景


BBとオサムはアサルトライフルでキル有りの試合をすることにした。別にいさかいがあったワケではない。彼らにとっていつもの、ただの訓練である。


射撃訓練場、近接訓練場、そして戦闘訓練場。戦闘の訓練場は、二つのチームに別れて戦う。サバイバルゲームのような訓練を主体としているものだ。普通一対一などありえない。管理人がそこは許可し、二人は戦ってみることにしたのだ。


あのハチ公と飯テロのオサムが戦うらしいぞ。ということで訓練なんて忘れて見物人がやってくる。それを想定していたのだろう。この訓練場には観客席がある。実に粋な計らいだ。プロペインも止めもせず観客席に座る。


BBは南方の待機所でライフルを手にしていた。他の武器は預けた。純粋な銃撃戦。ハッキリ言って、銃の腕は互角かオサムの方が上だ。立ち回りや思考の早さで勝負が決まる。


始まりの銃声が天に轟く。扉が開け放たれ、BBが駆ける。目の前には壁。訓練場は、中央に広場、それまでの道は迷路のようになっている。おそらく室内戦の想定だ。野外戦ならグラウンドに壁で囲えばできる。


BBは走るのをやめない。この勝負、まず中央を制すべきだと判断。どれほど先手を打てるかの戦略試合。だがどの道を行けば中央に行けるのか。彼は左手を壁につけて走っていった。いわゆる左手法というものだ。


そして、右手に壁がない部分がある。おそらく広場への入り口。呼吸を整え、壁に背をつける。そして飛び出す。


誰もいない。が、慌てない。まだ来ていないだけかもしれない。ここで相手の陣地へ攻めるのはよろしくない。ここは待つべきだろう。ショットガンがあれば角待ちで終わりなのだが。


銃口を向け続け、数十秒経つ。来ない。おかしい。彼女の運動能力ならばここまで来るの容易いハズ。まさか迷ったか。彼女は方向音痴だったのか。幾分かの迷い。


その惑いの数瞬、突然オサムが広場へ。彼女が壁から身を出し発砲。すぐ後退しつつ撃ち返す。お互い一発も当たらない。わずかな接触。だが情報は無限大だ。BBは少し整理する。


まず撃った弾数はおそらくワンマガジン。耳をすませば、オサムがリロードしている音が聞こえる。観客は静かだ。集中して聞こえないだけかもだが。リロード中に飛び出しても、この広場、その程度の時間で通れる狭さではない。そして彼女はこちらの様子を目で見ずに窺っていた。こちらの気の緩みを察知し攻撃してきた。一時たりとも気を抜いてはいけない。今、戦闘の主導権はオサムが握っている。


ここまで危険に晒されているのはいつぶりだろうか。BBはオサムの成長を素直に喜んだ。だが負けるつもりはない。


が、その決意は嗤われた。上から何者かの気配。すぐに広場の方へ逃れる。銃声。BBも振り返って頭上へ撃ち返した。壁の上へ。だがそこにはもういない。


オサムはBBが思案している間、壁の上を這って近付いて来たのだ。音も立てず、ゆっくりと。どうやら作戦を考えるのはオサムのほうが上らしい。少し悔しいが、なら、自分の得意分野で戦うべきだ。すなわち、正面きっての戦闘。


BBは元の通路へ戻る。足音に気付いたオサムはすかさず発砲。しかし、撃っているのはこちらもだ。そしてジャンプ。いきなり対象の動きが変わり驚いたオサム。銃口が追い付かない。


それでも二人のHPは恐ろしく減っていた。互いにあと一発くらったら終わり。むしろここまでHPが残っていたことに感謝すべきか。


BBはオサムの背後に着地。背のオサムへライフルで殴る。一歩下がられるがそこへ二、三発撃つ。寸でのところでかわされる。オサムは必死の形相。わずかな生を手に入れようともがいている。


BBといえば余裕の顔。BBは以前HPがわずかで戦い抜いたことがある。オールドスランガーズとの戦いでだ。その経験が勝敗を別けた。


BBは接近。銃を振り上げ顎を狙う。頭をそらして回避されるがストックで鎖骨を叩いた。オサムは体勢を崩した。銃を体に戻し発砲。倒れることでオサムは避けた。がしかしすぐ狙いを定め接近。のしかかった。オサムの上にBBが乗る。


オサムも負けじと銃を向ける。銃は無念にも掴まれ投げられた。彼女は銃を失う。現状の勝ち筋を探す。ない。


BBは一発撃ち込んだ。頭の横へ。


「勝ちってことでいいよね」


まだ気は抜かない。彼女があきらめるで待つ。


オサムは深く息を吐いた。


「こーさん」


ようやく戦闘が終わり、BBはオサムの横に寝っ転がった。流石に緊張したのだ。これからは銃の時代だ。BBもその必要性を知った。


彼はオサムの方を向いた。褒めようとして。


「こちら司令部。キーコードは司令部に集合せよ」


その放送で、無情にも現実に戻される。BBは立ち上がり、屈んでオサムに手を伸ばす。


「これじゃあいつサムに追い付かれるか解らないね」


オサムはふふっと微笑んだ。引き上げてもらって、そのまま近寄ったらと思う。観客の存在と自身の羞恥に気付きやめる。


「追い付いてみせるよ。絶対」


「せめてとなりにいてよね」


二人は立ち、訓練場を出た。装備を受け取り、回復する。プロペインとレモンは合流し、草食がいないことを知る。ため息と共に、どうせサボっていると全員早合点。そのまま司令部へ。


「あー昇り調子だったのにぃ」


「いやー今回はついてるねあんた。ま、普段を知らんのだけど」


実際草食はサボっていた。マケメロンと一緒に。ギャンブルをしていた。これがバレたらどうなるか。


少し時間が経ち、キーコード全員集合。もちろん最後に来たのはマケメロンと草食。まんぷくテロリストもヒトマルも二人を見る目は冷たい。


「やっと揃ったな。で、作戦だが」いまいちやる気のないヒトマルは言う。「いつも通り、仲間にならない連中を攻撃するだけだ。敵の武装もそんなに変わらない。アサルトライフルも持っていない。だが各自油断しないように。それでは着いてこい」


なんのことやらと新参者の五人。だけど何となく、流れ作業をすることが解った。


着いていき、車で移動し、ショボい集落を見つけた。あまりにも貧相なため数と質の暴力で蹂躙した。


力押しというと愚かしく聞こえるが、最高の戦術は、勝つ前、戦う前から結果が見えることである。これはヒトマルの弁。奇策は大抵正攻法じゃ勝てないから考えるものだ。これはプロペインの弁。時には運試しも大事だ。これは草食の弁。


住んでいるプレイヤーを全滅させた。キーコードはそこらをたむろしていた。まだ使える物資などを調べ、あとに来るサルベージ隊に報告するのだ。それをしないまんぷくテロリストは暇をもてあそんであた。


そんな五人にヒトマルとマケメロンが来た。


「お前達が活躍するほどの戦力じゃねぇな」ヒトマルは顔を右へ左へ。


「キーコードの相手はこの程度なんですか」


いささか挑発気味な質問をしてしまい、少し後悔するBB。だがその疑問はもっともだ。ヒトマルは気にせず答える。


「そうだ。我々の主な敵はこういった、プレイヤーズに下らない勢力の掃除だ。これをいつも繰り返している」


「特殊部隊だから、裏工作とかするのかと思いましたよ」


「初期の頃はそんな感じのこともしていたな」


「なんか、その。強いんですかね? オレ達」


「強さは疑わなくていい。知ってるか? 特殊部隊ってのは大体、厚いサポートを受けて装備の整っていないテロリストをぶちのめすのが仕事なんだぞ。キーコードがしているのはそういうことだ」


「なるほど。じゃあキーコード以外の人は何をするんですか」


「主に、スカベンジングと勢力内のパトロールだな。パトロールはもうそろそろbotに切り替えられる。ほとんどの奴は前者をやる。総力戦なんてそうないからな」


「じゃあ一般兵士はゾンビとかクマが相手になると」


「そういうことだ」


「楽な仕事だよねぇ」


マケメロンはポーチから瓶を取り出しガブガブ飲み始めた。ラベルはロシア語でウォッカと書かれている。「仕事中に飲むな」とヒトマルからたしなめられる。気にもしない。


「ところで。あんたら飯テロってどう集結したの」


「行き当たりばったりですね」BBが引き続き会話。「姉さん……草食さんが勧誘して、仲間になっていった感じです」


「へぇ草食がリーダーとは聞いてたけど。本当なんだ。私ゃ信じられなかったよ」


草食は苦い顔をした。それを見たマケメロンはケラケラと不敵に笑う。神経はよほど図太いらしい。ヒトマルが嘆息して、しかし弁えていた。


「ところで、そちらはどういった経緯でプレイヤーズに?」


プロペインが質問を返した。ヒトマルは周囲を見て、まだ作業が終わってないことを確認。話に移る。


「俺は閉鎖前からアウターセブンと組んで、プレイヤーズと協力していた。元々はプレイヤーズって名前はなくてな。ただのガチ勢集団の集まりだったよ。閉鎖されたんで、総長がプレイヤーズとしてまとめあげたんだ」


「このゲームのガチ勢って何するんです?」


「そりゃあ勢力争いだ。ただ遊ぶためのな。ゴール・オブ・ジューシーはその点全く違ってたな」


「私ゃあんたらみたいにしけてないよ」アルコールのないウォッカをラッパ飲みする。マケメロンは口を離して言う。「閉鎖されてもなんのこっちゃないよ。私ゃらは。ただ好きにしているだけだ」


唐突に、BBはマケメロンに奇妙な親近感を覚えた。話とは一切関係なく、彼女の内心について。仮面のような、外界と己を断つような空気。それをわずかに感じ取った。


「ゴブジとの戦いは実に面倒だった」ヒトマルが肩をすくめた。「こいつをただのギャングだと思って攻撃したが、とても強い。数もそこそこだしな。最終的に、当時最終兵器だった戦車を投入して勝てたよ」


「いやズルいわ。戦車には勝てんて」


BBはクスリと笑う。「いやいや、オサムなら勝てますよ」


彼の発言にオサムは焦った。雑談に巻き込まれた。このまま黙ってやり過ごそうとしていたのに。話すのも聞くのも得意な奴はこれだから。と、文句の一つや二つは軽く思い付く。


「はえー。オサムちゃんは戦車に勝てるの。どうやったん?」マケメロンは猫背で問う。


「いや、その。手榴弾投げ込んで、いや投げないで、鹵穫しました」


「うわつよ」


「姉さん……草食さんの援護なしではとてもとても」


BBは恥ずかしがるオサムのことをよく眺めた。やはり彼女をおちょくるのは楽しい。彼のサディズムをよく満足させてくれる。


それに気付いたオサム。抗議の意思を瞳で伝えるがBBは動じない。その二人の無言のやりとり。なんとも微笑ましいものとしてヒトマルらに解釈された。オサムはそれを空気で知り、嬉しいと思える。だがそう思うのはどこか恥ずかしい。オサムは赤くなるだけだった。


「隊長」兵士の一人が走り寄って敬礼。「マーク完了です」


「よし。撤収!」


ヒトマルはすぐ気持ちを入れ換える。車へ。まんぷくテロリストも立ち上がり、続く。マケメロンは笑っていない顔でその背中を見た。


こうして彼らは生活する。いつとも知れず。

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