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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第51話 戦人の風景


キーコードに認められてから一日。それでもまだまだ新人のまんぷくテロリスト。彼らは一日のスケジュールが厳密に決められていることに、体を慣らさなくてはいけなかった。


朝は日が昇り始めた頃に起きる。意外とそこはズボラだった。要塞内の放送で起床ラッパが鳴る。草食以外は大音量のそれに叩き起こされる。なんだなんだと外を見る。兵士達がノロノロと外へ出ている。行き先は食堂。言われてはいないが、朝だから起きろということだろう。


BBは装備を整えて扉を開ける。背中にあるアサルトライフルが頼もしい。意識が背にあるので、目の前のオサムに一瞬気付かなかった。


「おはようハチ」「おはようサム」


彼女の背中にもライフルがある。


プロペインの部屋、扉をノックする。「少し待ってくれ」との声。ガチャガチャと金属の擦れる音が騒がしい。開かれ、元気な顔に出くわす。


「おはようさん二人共。草食を起こしに行こうか」


二人は彼を見上げて朝の挨拶。一階へ降りる。部屋で、レモンが草食を起こすのに苦戦している。助太刀をするが、起きようとしない。頬を軽く叩いた。うんうん唸ってやっと起きる。


「……なんで集まってんの」開口一番がそれだつた。


「起床ラッパが鳴った。起きろってことだ」


「プロペインは厳しいねぇ。もうちっと寝かせてよ」


「じゃあ俺の肩で寝てろ」


「え」


プロペインは草食を担いだ。BBはいたずら心で彼女の落ちた帽子を背中に乗せた。眠気眼で今の状況を飲み込めない草食。そのまま外に出る。


バイクのエンジン音。何かと目を寄越せば、モビウスが乗っていた。降りて、バイクを押しながら手を振ってきた。プロペインの代わりに子供達が手を振り返した。


「おはようございます」モビウスが軽く頭を下げた。「ラッパで起きれたみたいですね」


「おはようございますモビウスさん」レモンが前に出る。「これから朝食ですよね?」


「そうです。着いて来てください。案内しますよ」


「ありがとうございます」


こうして彼らは昨日のように、モビウスの案内を受けた。BBは最初、叱られるのかと思った。仮にも軍事組織を名乗っている。時間には滅法厳しいと予測していた。鬼軍曹か何かが現れて、怒鳴り散らすものだと想像していた。


BBはそんな疑問を遠慮なくぶつけることにした。


「あの、遅れてませんか? オレ達。なんというか……」


「あぁ! やっぱりそう思いますよね。軍隊みたいなところだし、こういうのはうるさいもんだと考えるでしょう。私もそうでした。でも、そんなことないんですよ。総長曰く、我々はプレイヤーであってプロの自衛隊員ではないとのこと。時間にうるさくても、精々学校程度のことですよ」


「なるほど」


BBはそう一言。この答えに安心が生まれる。よく見れば、周りの兵士も気だるげだ。気になるのは、プロペインに担がれている草食を見る人が多いぐらい。BBの先入観はある程度取り除かれた。


そして食堂に着いた。案内は終わりということで、モビウスとは別れる。中に入ると、人の海。縫って行って、周りを観察。トレーの上にあれこれ盛っている。給食方式。懐かしいものだとBBは回想する。よくあれで食い繋いだものだ。自嘲を交えた微笑み。


配膳を受け取る。トレーの上に皿が乗せられる。そこにあるのはカレーライス。驚愕して炊事のプレイヤーを見る。その反応が面白いのかクスクス笑われた。手で移動を指示され、黙々とそれに従う。


席を探した。するとまんぷくテロリストを呼ぶ声が。見ると、マケメロンの姿があった。BBは後ろの仲間に「着いてきて」と言いそこに向かう。


「やぁやぁ諸君。本日もいい天気だ」


「はぁ」


マケメロンの情報がまだ少ない。だから曖昧な返答しかできない。プロペインはトレーをテーブルに置いて肩の草食を椅子に下ろす。カレーの匂いで目覚め、辺りを見る。目に止まるのは、マケメロンの飲料の量。


「何ですかコレ」草食は思わず質問する。


「全部ノンアル。いやー酔えないなんてクソゲーだね。だけど酒の味を楽しめるのはいいね。あ、飲む? ハイボールはあげないよ」


「いや、いいです」


「そう。それより食べなよ。冷めると不味いよ」


そう言われ、レモンは「いただきます」と行儀よく手を合わせる。BBもオサムもそれを倣う。プロペインも手を合わせたが、草食は気にせずカレーを口につけた。


オサムが目を輝かせてスプーンを動かす。BBもカレーを食べる。そして己の味覚をまず疑う。いつものレトルトカレーの味ではない。


「ふふふ」マケメロンが空の瓶を揺らす。水の音が鳴った。「そのカレーはちゃんとカレーパウダーが使われているのだ。ようはスパイス。そこらに落ちているレトルトとは違うのだよ。ま、それだけ食堂のレベルは高いってこった」


温かい食事なんていつ以来か。感動して、手を動かす速さも段違い。程よい辛さ。米とルーの快音。少ないけれど存在する具材の主張。


「ちゃんと噛むんだゾー。さて、今日のことなんだけれども」


マケメロンが次の瓶を開ける。スプーンを口に入れたまま耳を傾ける。全員が。その光景がおかしくてケラケラとマケメロンは笑う。


「今日は訓練をしてもらうよ。というか、任務がない日は全部訓練だよ。もっと強くなってくれちょ。サムハチコンビとプロペイン殿はアサルトライフルで射撃訓練。その他は近接戦闘の訓練。決まってることなんでよろしく」


咀嚼して飲み込んだ。「了解です」とだけ伝えたBBは食事を終えた。他の者も同じく。マケメロンは最後の瓶を飲み干して、立った。


「ごちそさん。ささ、着いておいで。早速つまらん訓練を始めようや」


まんぷくテロリストは彼女に着いていく。食堂を出て訓練場へ。そこにはすでに発砲音がいくつか。すでに朝食を終えた兵士達が訓練に勤しむ。意識の高さに、草食は気が萎える。自分に早撃ちの才能がなかったと思うと……こういうことは考えないようにした。


「じゃ、サムハチペインは撃ってコーイ。他はこちらへ」


マケメロンはあくびを押さえて言う。サムハチコンビと言われ満更でもないオサム。彼女は朝から気分がいい。バカに単純だと自虐する。それを跳ね返せるぐらいいい気持ちだった。カレーを食べられたのが、理由に含まれた。


射撃訓練場に足を踏み入れた。木材いっぱいのグラウンドだ。いわゆる射撃ポジションが用意され、その付近に的が用意されている。近い物、遠い物、様々。アサルトライフルの弾もマガジンも転がっている。好きなだけ撃てる。


BBは位置について、狙いを定める。近くの的へ引き金を引いた。銃は当然跳ね上がり弾もあらぬ方向へ。反動に気を引かれた。上から左手で押さえつけるようにした。反動には叶わず、銃が空を向く。


どうやら引き金を引き続けることはできなさそうだ。できても当たらない。BBはやっとそれを知った。


オサムもそれに気付き、引き金をちょっと引いて戻す。繰り返す。彼女には当たっているか判らない。けれども玄人みたいで気持ちがいい。プロペインも聞き齧った知識を実践すべく、試行錯誤していた。彼は辺りを見る。ここに教官はいないのか。いない。


その頃、レモンと草食の二人はマケメロンに案内され、グラウンドの広場へ。木のナイフで模擬戦をしている人々。彼女らも木のナイフを受け取り、空いている場所へ来た。ここは近接訓練場。訓練場とは言っても、ただの広場だ。


「あ、草食さんにレモンさん。マケメロンさんも飯テロのお二人はナイフの訓練ですか?」


モビウスがやってきて、話しかけてきた。一人のようだ。


「そうですよ」


「じゃあ、レモンさん、一緒にやりません? 苦手なら、教えられますよ?」


レモンはマケメロンを振り返る。マケメロンが興味なさげに頷く。レモンは気にせずモビウスの方へ行った。


「んじゃあやりましょかー。草食さーん」


「よろしくー」


草食としても、マケメロンのテンションが解らない。しかし、彼女のチーム名、ゴール・オブ・ジューシーというネーミングセンス。草食はそのセンスに仲間意識を呼び起こしていた。


マケメロンは少し距離をとって、構える。腰を落とし左手とナイフを持った右手を前に出している。草食も見習って同じく格好となる。


「おやぁ。草食さんは格闘戦慣れしていなぁい?」


「まぁ、リボルバーでどうにかなったし」


「ではでは。ご教授しましょう我が奥義。まずは突いてよ」


ナイフを持つ右手を引き、真っ直ぐ突く。かわされる。


「芯がブレブレだねぇ。ナイフを突く時はねぇ

ナイフを持つ手を片方のナイフで支えるんだよぉ。そしてナイフを動かす。クソッタレ彼氏をぶっ刺す時に使えるよへへへ。……もちろん冗談だよ。ただの聞き齧りだよ」


言われた通りやってみる。体の全身で突いている。マケメロンはわざとらしく拍手をしている。


「時に草食殿」ヘラヘラと、酔っ払ったようにフラフラと動き、尋ねる。


「現実に帰りたい?」


「……え?」


「そら動きが鈍った」


マケメロンが視界から消えた。その事実を知った瞬間視界外から鈍い感触。ナイフでどつかれたらしい。


「酒のある現実はクソだが、酒のないここもクソだ。私ゃどっちに居ればいいのかね」


「……何を言って」


「何って、酔っぱらいの戯れ言だよ。なんか、あんたと私ゃには同じ香りがする。ダメ人間って奴。私ゃ酒だけど、あんたは?」


草食は質問の意図を理解した。ふてぶてしくニッと笑う。笑顔には同志の発見を見る、堕落の悪魔が潜んでいた。


「ギャンブルだね」


「おおいい趣味だ。このあと抜け出して一緒に何かやらん? ノンアルと共に。ま、お互い喧嘩なんてしないようにってね。へへへ」


「……へへへへへ」


悪い友達とはこういう者達を指すのだ。長い間自分の趣味の理解者を、草食は持っていなかった。この出会いは故に感涙ものだった。


レモンは、モビウスに倒された。グッタリと大の字になる。目があちこちにいく。


「あれ、姉さんは?」


もうあの二人はどこにもいなかった。

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