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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第49話 通報なし。依然晴天


テストの後、まんぷくテロリストは兵士達の前で本物と認められた。その後ゲンに呼ばれ、また司令室へ戻った。もう案内人はおらず、いるのは警備とゲンと五人だけである。


ゲンは満足そうに自分の頭を撫でた。そして整列した彼らを見る。あの戦力が手中にある。それだけでも彼の欲を満たすには過分と言えるほど。


「さて、改めておめでとう。いや、こちらが礼をするべきかね? 君達がいてくれて感謝する。これで我々の目的にまた一歩近付いたワケだ。実に喜ばしい」


「ありがとうございます」


草食は嬉しそうに答える。そして言った後に、上官に対する態度はこれでいいのかと疑問に思った。それを察知したか、ゲンがクスリと笑う。


「とはいえ、もう君達は我々プレイヤーズの傘下だ。客ではない。なので、こちらのルールに従ってもらう。これより、君達まんぷくテロリストはプレイヤーズの兵士なのだから」


レモンが黙って手を上げる。立場の理解が進んでいる。ゲンは密かにほくそ笑む。


「なにかね?」


「発言を遮ってすみません。一つ質問があります。よろしいでしょうか」


「よろしい」


「私達まんぷくテロリストは解散することになるのでしょうか」


BBはそれを聞けるレモンに無言の声援を送った。目線だけで解るハズないが。けれど誰もが気にしている謎なのだ。その謎を聞き開くのは勇気がいる。解散だと言われた時、どんな想いでそれに向き合えるか。知る者はいない。お別れだと笑えるのは人情知らずだけだ。


「それはこちらから言うつもりだった。君達にとっては最も気になることだったな」


ゲンは席に座った。回転椅子を回しBBを見る。嫌みなほど余裕を見せる。


BB以外も当然言葉を待つ。オサムにとっては人生の分岐点に沈んでいるよう。たとえ解散でもこの要塞には残る。会える。でも、自分以外の皆は他の人と馴染んでしまうかも。自分だけ孤独の内に落ちていたら。過去の仲良しこよしにすがってざめざめと泣き続ける自分を見出だして、背筋が凍る。


「君達はまんぷくテロリストという名称はそのまま、プレイヤーズの特殊部隊キーコードに編入される。君達はそこで作戦を遂行するだろあ。まぁ、特殊部隊と言っても、ただ他の兵士達より強い者の集まりだが」


「本当に、私達はこのままでいいんですか?」レモンがくどく問う。


「そう不安がらないでくれ。私は馬鹿じゃない。君達の、少なくとも表面は知っているよ」


五人は息を安堵として吐いた。一曲歌ってパーティーでもする気分。中でもオサムはウズウズしていた。笑顔いっぱいになるのをこらえている。BBはただ、ゲンの意図を悪い方向へ読んでいた。どうせ何か企んでいる。というぐらいの受け取り方だが。


「そして、君達飯テロには任務があるワケだが、その前に」


彼は手を二度素早く叩いた。上流気取りが鼻につく。BBは顔に出さず不快に感じる。これが自分達の最高司令官。そこまで思い詰めて目を閉じる。ここまでネガティブに捉える必要もないだろう。少なくともオサムは入隊を喜んでいる。レモンもだ。このお祝いを破壊する理由もない。


BBが目を開ける。扉も開く。振り向くとまたあの案内人。こういう役回りなのだろう。彼女は敬礼し入室を述べる。職員室でやることが、軍隊とか自衛隊とかでもあるのだろうか。学生らしい感想を子供達は抱いた。


「君、飯テロに要塞の案内をしたまえ。居住区へな。それと観光も少し。いつもの仕事だ。任せたぞ」


「了解しました。ではまんぷくテロリストの皆さん。こちらへ」


「また後で君達に通達する。それまでを好きに過ごしていてくれ」


プロペインと草食が歩き始める。レモンとオサムも着いていく。その中で、BBはゲンを喜ばせる方法を思い付いた。今後気に入られて待遇をよくする。それにはおべっかを使う必要があろう。そしてBBはおべっかが得意だ。


内心は冷笑でいっぱいだ。足の踵をそれぞれ合わせて背を伸ばす。右手をこめかみに当てる。敬礼。


「失礼しました。総長」


顔は見ずに部屋を出る。背後の視線から興奮が感じ取れる。案内人もBBを見習い、敬礼して退室した。


敬礼を見た四人。自分達が真に軍事組織に入ったことを理解した。あまり入りそうにしてなかったBBの奇行は、しかしらしく見えた。


案内人と外へ出た。案内人にBB達をしかと見た。足を肩幅に開き手は後ろに組む。


「では皆さん。これからこの要塞の案内をさせていただきます。それと、私の名はモビウスです。広報部に属しています。もう会わないかもしれませんが一応。あ、皆さんのことは存じておりますので大丈夫です。それでは行きましょう」


歩き出す。草食は興味ありげだ。モビウスに対して。


「モビウスさん」


「はい? 何でしょう?」


「何で敬語なん……ですか? あたしらのほうが後輩じゃあ?」


「キーコードに入れる人に敬語を使わないワケないでしょう」


「え、秘密じゃないの、その情報」


「キーコードは特戦群でもSASでもないんですから。公開されている特殊部隊ですよ。入っている人のことは知ってます」


「へー」と草食は納得しかけて、特戦群とかSASのことを知らないためピンとこない。プロペインはその辺りの知識を持っていたためなるほどと強く頷いていた。他三人はあまり関心がない。


歩いて行く。またプレハブの群れ。その一つに、食堂と書かれた看板がある。一行はここで足を止める。


「ご覧の通り、ここは食堂です。付近の農場と提携しているので、出てくる料理は多いですよ」


「待って、料理?」草食は鋭く尋ねる。


「焼いただけとかではないですよ。鍋もコンロもあります。まぁコンロといってもただの……キャンプというか。まぁカレーとかを期待してください」


やはり食事が豪華だと羨望さえ暖かくなる。子供達三人は首が曲がらなくなるまで食堂を見ていた。オサムは、カレーという単語を頭の中で繰り返した。


彼らはまだ歩いた。プレハブ軍団を男女の兵士達が往来するのは物珍しい。その一人一人がアサルトライフルを携行。所々警備なのか、腕章をつけている兵士もいる。MPと書かれていた。その方面に詳しい人がいるのか、プロペインは気になる。


またプレハブに看板が。モビウスが立ち止まる。


「続きましては娯楽施設です。といっても、表向きは未成年に厳しいですがね。総長は大人の監視の下、とは言ってますが、ガチャをやる昨今、ギャンブルは珍しいものではないでしょう。だから、ギャンブルは実質全員に解放されています」


「ギャンブル! このプレハブの中に?」


「草食さんはギャンブルがお好きで? 結構。この中には丁半、ブラックジャック、花札、麻雀とか色々ありますよ」


「おお何か和風」


「管理者の趣味ですね。今はポーカーの導入が検討されています。テキサスにするかどうかが議論の的です」


テキサスポーカーの存在を知らない子供達。なぜ議論になるのかが解らない。ただ、草食を見る目はみな冷たい。ここまで生に感謝している人間は見たことがない。水で泣くならまだしも、ギャンブルで泣き喜ぶとは。特にレモンの絶対零度の視線はモビウスさえも巻き込んだ。


BBはここが交流の場になることにいち早く気付いた。ゲームのルールでも学んで遊ぶのもいいだろう。他に娯楽がないならここがたまり場になる。同年代の子と仲良くなり、派閥を作って……。


政治家じゃないのだ。やめようとBBは鼻で笑った。また、ここで遊ぶ予定も立てなかった。


草食の熱い目線でギャンブル場は見送られ、今度は居住区に行く。北西へ。


そのプレハブ群の一つ。入り口に名札がついているプレハブへ案内された。名札には、「キーコード・まんぷくテロリスト」と書いてある。その周りだけ、やけに人が多かった。


「ここが、皆さんの居住スペースになります」


「誰と住むんですか?」レモンは確認する。


「いえ、ここは皆さんだけの……家ですね」


「いいんですか? 不公平なような」


「総長のご意志です。まんぷくテロリストはいずれここに来る。丁重に扱えと言われていますので。このぐらいはしますよ」


ゲンの計画に、最初から自分達の色が加えてあった。プロペイン、レモンは策に溺れなければいいがと心配した。BBは気味悪さを感じた。


中に入る。新居独特の匂いがした。内装はないそうだ。ベッドが各部屋に一つ。タンスというか、なんでも入れられそうな大きなボックスが一つ。それだけ。皆で集まれそうなテーブルもない。一つの部屋の大きさが物寂しさを誘っていた。


モビウスがまとめに入る。


「ここが皆さんの住む場所となります。家具の新調はしかるべき部署に連絡してください」


「ありがとう。まずはリスポーンを変更しとこうか。それから好きにしよう」


そう言い、草食はずけずけと部屋へ行った。このプレハブは下の階に三部屋、上も同様。一つは倉庫にしていいとのこと。ただのあまり部屋だ。


部屋割りを決めた。BBは二階の一番奥の部屋に入る。隣にはプロペイン。扉を出て前にオサム。あとの二人は下の階。草食は部屋割り前に一階に居を構えた。夜な夜なギャンブルでもしに行くのか。


BBは武器を抜いて、ベッドで横になった。ファームシティ以来のベッド。あっちのほうが良かっただろうか。もう憶えていない。しかし木の暖かみは薄い。フローリングにコンクリートの壁。圧迫感。


これから自分達はここで生活する。思い出すのは、義理の親に散々虐待され、また次の家へ行くパノラマ。そこには冒険があった。蛇に噛まれ、泥に吸われ、溺死するような冒険が。新天地はない。フロンティアは枯れている。


そのハズだった。期待感が胸に逆風。彼は呆れた。少し知り合って、少し仲良くなった人々と暮らして、安心している。まだ数ヶ月の付き合いなのに。どうせいつか別れる。それなのに、刹那的に楽しむのではなく、未来を見て動く。愚もここまで来たらむしろ賢いのではないか。


どうしてか、オサムに会いたくなった。それを圧し殺し、寝返りをうった。日の光が鬱陶しい。

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