第48話 採用の可不可
さまざまな想いを抱えて、まんぷくテロリストは要塞に戻る。また監視と案内人をつけられた。かのビルへ戻っていく。その間会話はない。やっと一歩踏み出せたのに、似合わない空気。
車を降りてビルの中へ。二階最奥、ゲンのいる部屋へ。案内人は先程と同じ者。雰囲気の違う五人に戸惑っている。それを感情で処理しないように気を付けた。
いつものノックで扉を開ける。もちろん挨拶も添えて。ゲンは権力者のように窓の外を見ていた。別に高いビルでもない。見える景色は貧しい。そこがアピールポイントなのだろうか。BBは邪推した。
「戻ってきたかね」
ゲンは笑顔で振り返る。まるで答えを予期しているように。薄気味悪く、一時閉口する一同。草食のみは何も感じず、一歩前へ。
「はい。あたし達、プレイヤーズに加わります」
「結構結構。ありがたい申し出だ」
デスクを回り込んだ。五人と何の障害物のない空間へ。それら動作一つ一つが演出に凝っている。
「しかし、だ」彼らの前に立ち、しかし遠くの位置に己を定めるゲン。突き放すかのような目付きは、草食に衝撃を与えた。「君達には特別にテストを設けたい」
「それは、どうして?」
「君達が、本当に、噂に違わぬまんぷくテロリスト、飯テロであるかの、証明をしてもらいたいのだよ」
そう聞くと反感が生じる。よく考えろと直感が返信。草食はあたかも孔子を試す弟子のような面持ちで、ゲンに問う。
「確かに、あたしらが偽物の可能性もある。そういうことですね?」
「その通り」
大きく頷く。ゲンは、良き聴衆を持った弁論家となる。その場を往来、歩き回る。ウロチョロして鬱陶しい。だがお喋りは大概動き回るものだ。
「この世界には、正式にクランとからチームとかの機能はない。それぞれが勝手に自分の名を看板にしているだけだ。よって、詐称も簡単になる。実際、私達の下によく来たのだよ。偽物の飯テロが。ハチ公殿の見た目をした、ひげ面を見た時は……おっと、BBくん、そんな顔をしないでくれ。本当の話だ。だから、テストをする。そうおかしな話ではないだろう」
「具体的に、どんなテストを?」
「話が早くて助かる」
草食の質問に笑顔で応じるゲン。彼は行間に、話の邪魔をするなと言った。BBはそのことを理解した。草食は鈍い故気付いていないが。
「ただの実力テストだ。戦闘をどこまでこなせるか。それを見せてもらう。なので、たとえ君達が本物でも、実力が備わっていなければ、かの飯テロではないというワケだ。いいかね?」
「はい」「ちょっと待ってください」
勝手に話を進める草食を止めるプロペイン。反論があるワケではないようで、ゲンも興味を向けた。
「俺、この四人と比べると戦闘はダメなんですよ。やっていることといえば運転と作戦を考えること。あとは機関銃撃つぐらいで」
「……それがどうしたのだね」
「私が証明します」
「レモンくんが? 頼もう」
「プロペインさんはまんぷくテロリストの頭脳です。彼がいないと、私達はただの暴力に過ぎません。なので、プロペインさんには別のテストを行っていただけませんか」
難しい顔をするゲン。レモンの証明はむしろ有益だった。まんぷくテロリスト用に指揮官を作らなくてもいいのだ。だが例外を認めるべきか否か。
数秒考え息を吐く。そもそもまんぷくテロリスト自体が例外だ。一つ二つ増えたところでなんだというのだ。
「よろしい。では我々の指揮官達にテストを任せよう」
「ありがとうございます」プロペインは慇懃に礼をする。
「よし。もう異論はないな。では、私も同行しよう。これで何度目かだが、これが最後になるのを願うよ」
背後の二人へ目配せをする。彼ら兵士達が無線で連絡する中、ゲンは部屋から出る。案内人も後から続く。五人も追う。
ビルの外から放送が流れる。まんぷくテロリストのテストを行う。全兵士は訓練場に集合とのこと。車で移動しなければならないこの要塞のこと。訓練場も遠いだろう。
外に出て、まんぷくテロリストはいつものバンに乗った。ゲンは専用の、頑強な装甲車に乗った。案内人はバイクに乗り先導する。
BBは、車内で怯えているオサムを見つけた。テスト、という名に緊張しているのだろう。大方、もしテストで失格になったら。もし離れ離れになったら。ということを思っているのだろう。それらは実際当たっていた。
「サム」
気遣い百パーセントの声。オサムの耳に鳴った。恋人にするようなスマイルでBBは座っていた。横目の瞳はオサムを包んだ。彼女には、彼が特別に映った。
「少なくとも、一人にはしないよ」
BBなりに言葉を選んだ。大丈夫と無責任に言いたくはない。直接一緒になろうと言うのは違う。思案しての一言だった。
我ながら下手な言葉だと冷笑する。レモンはどうなっているか、気になったが今はオサムに集中。
「……ありがとう」
オサムの返事。それで充分だった。BBは後部座席を見る。レモンと目が合う。彼女は微笑を返した。強がりが、しかしBBを安心させるのに役立った。彼も無言の微笑みで返答した。
プロペインはバックミラーで彼らを見る。彼の目は暖かい。そうこうしているうちに訓練場まで着いた。
兵士達が車を取り囲む。ドアをノックされた。「降りてください」とのことで、みな降りた。兵士達の後を行く。そして、学校のグラウンド、その倍は最低でもある訓練場に着いた。土が平らで、整備されている。
これまたグラウンドにありそうな号令台。ゲンが登る。ざわめきが瞬時に消えた。
「諸君。またもまんぷくテロリストが現れた。これ以上の文言はもう聞き飽きているだろう。よって、すぐテストを開始する。ないとは思うが、不正がないか、その目で確認してくれたまえ」
規律のとれた歓声で答える兵士達。わざわざ見世物にするのは、兵士達の息抜きか。見られている状態でも実力を出せるかどうか。それを調べることだろう。BBはそのように納得した。不満はない。
それでも流石に緊張はする。胸が張り裂けそうなんてものではないが、落ち着かない。誰もがそうだった。草食なんかはピリピリしている。
まずは草食から始まる。早撃ちが得意。ということで早撃ちが自慢の兵士と勝負。したが、BBにも判らないスピードで銃を抜き撃った。そのためすぐ不正が疑われグダグダになった。ゲンの鶴の一声により草食は採用。楽なものであった。
次はレモン。訓練場の端から端へ狙撃するというもの。彼女にとってはぬるいなんてものではない。赤子の手を捻るほうがまだ難しい。兵士達は勝手に賭け事をしている。カウボーイハットの女が飛び入り参加し、勝っている。BBはそれを見ていた。
プロペインは現在指揮官達と社交中だ。よって、BBとオサムの番になった。
BB、オサム、双方戦場に出る。何の用意もされていない。不審に辺りを見回した。号令台に再びゲンが立った。二人は彼を見つめ、目で状況の説明を求めた。ゲンは観客へ向けて言う。
「さて諸君。こちらの二人はかのハチ公とオサムくんだ。二人共、近距離で戦うファイターだ。飯テロの最強はハチ公か、草食かで意見が別れる。だがどちらも長所が競合しない。見事住み別れている。となると、比べるにふさわしいのはオサムくんとなる。武器は何を使ってもいい。ただキルはするなよ。まだリスポーン地点を決めていないのだから。三分間の間に、どちらのHPがより減っているかで勝敗を決する。それでは諸君、楽しみたまえ」
全てが唐突。時間の隙間なくゴングが鳴る。もう戦いは始まっているらしい。二人は目が合った。歓声が割れんばかりに響く。
BBとオサムは、これから三分間戦うことになる。そんなルールは先に決めろ。説明しろ。文句をつけたい。だが異議の申し立ては許されなかった。戦えとやかましい。お互いため息を一つ。観客席の草食がとにかく煽り立てている。それを見つけたのだから余計ため息。
「やろうか」
「そうしないと始まらないしね」
BBとオサムは肩を落とした。
数秒の間。兵士達は殺気の臭気を嗅いだ。BBとオサム、二人は号令台のほうを見ている。目は離している。しかし一挙一動を探っている。
風が黙って吹いた。刹那、二つの手榴弾が転がる。爆音、爆発。BBはフラッシュを、オサムはフラグを。同時にジャンプして距離を取り銃を乱射し合う。オサムの弾丸がいくらか当たった。だがかすり傷。
爆風が晴れた。お互い得物を抜いている。オサムは焦った。この場合BBのほうが有利。彼女は弾を斬れないが彼は斬れる。銃を抜かれれば終わりだ。
BBは抜かなかった。その代わりゆっくりと距離を詰めていく。不用意な行動はとれない。彼の運動能力なら地を蹴っただけで眼前に迫り、斬れる。
攻撃を待つ。決して目を離さず。八メートル前後まで近付いた。そこから一歩も動かない。まばたきをしたら、確実に攻めてくる。逆を言えば、それ以外では攻めてこない。
勝負は一撃。ここで守りの攻めを行わずして勝ち目はない。いつの間にかテストのことは忘れていた。
まばたき。BBの体は勝手に動いていた。下から突き上げると見せかけて上段斜めからの振り下ろし。オサムは右手のナタで受け、ナイフを突き出す。
目を開けると、宙に浮いていた。まばたきの間のこと。ナタで受けたのと同時に足を掬われた。地面に倒れ、BBが覆い被さる。刀の先端を向けて、突く。右頬をかすめ地面に穴を開ける。
「うむ、勝負ありだ」
ゲンが一言、宣言した。歓声が耳に戻ってくる。BBもオサムも、深く息を吐いた。
「中々隙がなくなってきたね。サム。強くなっているよ」
顔を近付けBBは言う。甘い顔で、魅惑的。ならばと初々しい乙女の顔で返す。
全員の採用が、決まった。




