第47話 戦場の選択
ビルの中を進む。二階、荘厳な扉の前で五人と案内人は止まる。案内人は緊張しているのか、気の効いたことは何も言わない。
扉を三度ノックする。扉の前に警備をつけていないことを、プロペインは不審に思った。
「総長! まんぷくテロリストを連れて来ました!」
来ましたはこの場合おかしいのでは? なんて細かいことさえ気になるBB。彼もまた過敏になっていた。
「入りたまえ」
そのダンディーな声は人を圧倒させた。そのせいで余計に、BBは警戒する。これまでの人生経験のせいで、厳かな声というのを彼は嫌う。
「失礼します」
扉を開ける。室内には、窓を背景にデスクに座る男が一人。陽の光が後光となって、一つの演出になっていた。傍らには金属製のアーマーを身につけ、ポンプショットガンを持つ兵士が二人、いた。
男はデスクへ前のめりになっていた。オールバックの燃えるような赤髪。細身ながらも鍛えられたのが判る肉体。そのカミソリの眼光。この要塞のトップに相応する者であることを、言葉にせずして示していた。
「諸君が、かのまんぷくテロリストかね」
喋り方まで仰々しい。そういうキャラにしているのか。BBやオサムはまず否定から入っていく。草食は情けなくビビっていた。だがリーダーは自分だ。草食はその自尊心を頼りに、答えた。
「はい。まぁその、そう名乗ってます」
背を丸める姿が全く頼りない。しかし他の四人に軽蔑の表情はなく、無言の応援がある。それを少しプレッシャーに感じつつ、男から目だけは離さないようにした。
「ふむ」その眼で草食の格好を見た。「君があの、草食、という名だったかな」
「はい、そうです」
このような真面目な場でその名は、あまりに乖離が激しい。無論、茶化せる空気ではない。
「君の勇名はここまで届いているよ。それとチームの名も。ハチ公という名も。さてそのハチ公殿は、どちらかな?」
「オレです」BBが答えた。私、と自称すると生意気だろうか。そう悩んだ末の一人称。物怖じしない態度を見て、一、二度くらい口角が上がる。
「君がハチ公か。いや失礼、私は子供とは思わなくってね。それでいて強いのだ。尊敬するよ」
「ありがとうございます」
社交辞令をどう受け取ったのか。男は椅子から立ち上がる。警備に目をくれたが、結局彼らはそのままにした。そして、椅子をデスクの下へ。それが何かのスイッチになって、男の方が動き出す。
「さて、自己紹介が遅れたね。私のプレイヤーネームはゲン。この、プレイヤーズのリーダーを勤めている」
ゲンは聴衆の反応さえ待たず、ひたすら続ける。
「無論、聞きたいのは私のプライバシーではないだろう。諸君らは我々プレイヤーズの大義を耳にして、こうしてやってきている。あぁ勘違いしなくていい。君らを入隊へ強制しているワケではない」
「我々の大義は、言わずもがな、この世界からの脱出だ。我々プレイヤーは数ヶ月前、何者かの手によって閉じ込められた。それが誰かは不明だ。運営か、ハッカー集団か、我々に向けての声明はなかった。我々は不安の大海に叩き落とされた! いつ家族や恋人や、友人に会えるのか。元の生活に戻れるのか。その行く末さえ判らない」
「しかし、それからプレイヤー達は何をしたのだろうか。誠に遺憾なことに、何もしていない。未だゲームを楽しんでいる。何事もなかったかのように。……プレイヤーズを除いては」
「我々プレイヤーズは、閉鎖前から存在していた。その時は単なる武装集団だった。だが閉鎖が起きた時、私や協力者達はすぐに、この状況を打開するために動き、組織の目を覚ました。プレイヤーズとなった!」
「そして、兵士達の偉大な活躍により、ここまで成長できたのだ」
「……プレイヤーズの目的は脱出、とは言っただろう。だがどうやって脱出するのか。そこを諸君は問題にしているのだろう。まさか、人集めのためのプロパガンダかと疑ったかもしれない。しかし、ちゃんとやり方はある」
そこまで言って、ようやくゲンは息を吐く。草食はいつの間にか演説に変わった言葉の波に飲まれ、聞き入っていた。レモンとプロペインは演説をあくまでも説明として聞いていた。オサムとBBは、胡散臭いだのなんだの長いだのと否定をしていた。だが理はありそうだと心の矛を納めていた。プレイヤーズの兵士達は感動していた。
その場にいた全員は、ゲンの次の言葉を待っていた。待ちわびた。何度も聞いていただろう兵士達でさえも。その間を、ゲンはあえて間として作った。全神経を注目させ、次の言葉を、例え安物だとしても感動させるために。
そして、言い張った。
「我々は、脱出のために、ポストアポカリプス全土を支配下に置く」
「……は?」「……え」
BB、オサムが思わず呟いてしまった。よって視線も二人に集まる。オサムは口にしたことを恥ずかしがる。目を伏せる。BBは強い敵がい心でゲンを見据えた。
ゲンは、緊張した空気を裂くように高らかと笑う。空気に流され続ける草食は、自分も笑うところだったと焦る。
ゲンの喋りがまた始まる。
「荒唐無稽な話だと思うのは正しいよ、ハチ公殿。しかし、だ。そもそも考えてみたまえ。プレイヤーズが支配下に置いている場所は、所詮ポストアポカリプス全土から見れば、砂粒もいいところだ。ここから、全土に向けて人だの車だのを行かせ、情報を集める? 正気ではないとも、実際的でもないとも、好きに言わせてもらおう」
「ある一つの勢力がこの大陸を支配し、情報を一緒くたに管理できれば、そもそものこの世界の問題に、すぐアクセスできる。極論にすれば、その勢力は別にプレイヤーズでなくともいい。あくまでも、脱出の意思があればだが。そうでなくては全く意味がない」
BBもひとまず落ち着いた。実に力押しな考え方だ。だが今のところ、それ以外に案がない。はいそうですかと頷けなくても、許容しなければ進まない。
「つまり、我々はこの世界の抵抗勢力に向かって宣戦布告していることになる。ただゲームを楽しむために我々に反抗する者、現実から逃げる者、現実が気にくわない愚か者、それら全てが我らの敵だ」
「しかしそれらに勝てば、結果残るのは、情報の人手だ。全世界から情報が手に入る。それを使って脱出の手口を辿る。そう、我々プレイヤーズがだ。プレイヤーズがだ!」
そう言いきると共に拳を上に上げていた。兵士達は拍手をし、まなじりに涙を貯めていた。草食もボケッと拍手している。空気に合わせて他も拍手。空気に従っただけなので、拍手にも空気が含まれている音がした。
「……我々のことは理解できたかな? 我々プレイヤーズの意思は常に脱出にある。この世界から脱け出し、かの生活を取り戻そうとしているのだよ。どう思うかね。君らも我々の大義に参加してくれるだろうか」
「ちょっと待ってください」
そこは流石のプロペインだった。彼とて、何も考えず黙っていたのではない。この場で肯定を示すのは危険だ。そのぐらい承知している。
ゲンは笑みを浮かばせ、余裕を見せた。もし、これからも字自分達と話す時、兵士が近くにいたら。信用されておらず、また強制力もある。悪質商法のようなもの。プロペインは厳めしくそう思う。
「俺達が考える時間をください。それから参加の可否を決めます」
「これは失礼なことを。もちろん、いくらでも考えて来てくれ。心配しなくてもいい。兵士はつけないし、監視もしない。要塞の中でも外でも、どこででも話しあってくれ」
「解りました。そうさせていただきます。ほら草食、行くぞ」
「え? あ、うん」
プロペインを先頭に五人は外へ。車に乗った。来た道を戻り要塞の外に出る。道中草食は何度も振り返った。
要塞からはまだ見える位置で車は停まった。プレイヤーズには大砲がある。だからここまで逃げてもなお射程圏内だ。だからってそれ以上行っても仕方ない。
プロペインはシートにもたれ、皆に聞いた。
「どう思う?」
「あたしはいいと思う」
「草食、解っているのか? ゲンとやらの話が本当だとしたら、年がら年中日常の隅々まで戦争をすることになるんだぞ。あいつらの目的は俺達と一致している。だが手段にリスクがありすぎる。楽観できない」
「でも、今までみたいに聞いて回るのは非効率でしょ。それに戦闘ならいつもしてるじゃん。今までのあたし達よりよっぽど現実的だよ」
それを言われるとプロペインも黙らざるを得ない。今、脱出に関する情報は皆無だ。皆で協力しましょう一二の三はいとはいかない。いつまでも人を襲っているギャング達の存在が何よりもの証拠だ。
「ハチ達はどう思う」
プロペインの問いに三者三様の考えが浮かんだ。
「オレは反対したいです。でも、できない。ゲンという奴が言ったようなことが、今は現実的です。武力で全て解決しようというのはどうかと思うけど」
BBの意見にプロペインは共感した。どれだけ戦力を褒められようと、五人という数は覆せないのだ。他の二人に目を向ける。オサムが手を小さく上げた。
「わたしは姉さんに賛成、かな。というか、それ以外の選択ができないですし。レモン、何かある?」
「プロペインさんと同じ意見です。ですが、参加以外方法はないでしょう。懸念材料は山ほどありますけど」
消極的ながら、全員一致になった。外には、つけてくる兵士もいない。レモンに確認させても、監視する者もいない。それはそれで、不安は残る。
車を発進させた。要塞までは、一人一人がこれからのことを想像していた。
草食はあることに気が付いた。ギャンブルのことだ。もしかしたら禁止されているかもしれない。じゃあ何で暇を潰せばいいんだ。
オサムは軍隊らしい生活を恐れた。やはり厳しいのだろうか。毎日怒鳴られるのは嫌なのだ。そんな忙しないことを考えた。最後に行きつくのは、やはりこのチームの解散のこと。
この考えはレモンもしていた。もし人事移動おかで別れさせられたらどうしようかと。オサムとしては、新たな環境に慣れる自信はなかった。レモンも体育会系は苦手だ。
BBは、ただ窓の外を眺めていた。いくらかは冷めた気分だ。現実に帰ろうとするのはオサムのためというのがほとんど。これを失えば、もうどうでもいい。自分はそれまでだったということだ。
胸のどこかがチクッと痛んだ。その痛みを彼は知っていた。
いつもの投稿忘れ。ここまで来てまだ習慣化できてない




