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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の3 プレイヤーズ編
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第46話 プレイヤー名乗り


「皆! こっち来て!」


草食の声は緊急を告げていた。水遊びをやめて近寄る。もっと速くと手で急かされる。


「どしたの姉さん」


いつものように気楽なBB。彼から問われても、草食は平静を取り戻さなかった。プロペインは近くでラジオを聞いていたため、何が起きたか理解できていた。


「どうやら、何者かの電波をキャッチしたらしい」彼は補足する。「ノイズが多いのは、近くいないからだろうな」


そう言われるとみな黙る。ラジオから放たれるその声を待ちかねる。プロペインが言ったから信用できる。だが、さて。


「……繰り返す。我々は、プレイヤーズである。このポストアポカリプスという牢獄から人々を解放するために結成された、軍事組織である」


「今我々はこうして、プレイヤーズ要塞から発信している。電波塔を完成させ、やっと世界に繋いだ」


「さらに繰り返すが、我々は脱出を目的として組織されている。この悪夢のような世界から抜け出すべく、協力してくれないか。もちろん、入隊の際にしかるべき物資は与える。当然無償だ」


「我こそは、と思う者あらば、このラジオ放送がより明瞭に聞こえる所まで来てほしい。そうすれば、我々の要塞に着くハズだ。諸君らの入隊を待っている」


「繰り返す……」以下、最初に戻る。


「録音メッセージではなさそうだ」プロペインは早速結論を述べ始める。「どうやらCMだな。それも入隊の。しかし、スローガンは俺達と一致する」


「行こうよ」誰へでもなく、オサムが呟く。


「私もサムさんと同じ意見です」レモンは仲間を見る。「やっと探しあてた脱出の糸口です。これを逃してはいけません」


草食は、発見の喜びが失せていくのを自覚した。彼女にとっては、この日常は優しく快適なものであった。これらの変化は故に嫌う。だが反対すれば、わざわざ火を見る必要のないことが起きる。


そのうつむき加減で、BBは彼女の心情を想像できた。終点は変わらないが、念のために反論をしておこう。その心に、利用の意思がないことを、己さえ気付いていない。


「本当に脱出を目的としてるとは思えないな」


「あくまでも人集めのためにやってると?」


レモンの噛みつきようは、その無表情からは推し量れないほど。飢餓の時に落ちてきた木の実を食わんとする時、毒があるかもと言われ、理性は働くだろうか。


BBはなおも反論する。その論理性に主体性はない。


「その可能性はあるっていうことだよ。期待しすぎるってのも、よくない。でも結局、行かないと話が進まないってのはその通りだね」


「だな」プロペインはラジオを持つ。「行くか。周波数はこのまま。ノイズが減る所まで走るぞ。靴を履いて車に乗れ」


三人は靴を拾いに行った。草食は一人、罪悪感に苛まれた。人集めのための、建前。あまりにも深々と突き刺さる言葉。彼女の逃げ癖を発揮するのに丁度よかった。


「どうした草食。さっきから暗いが」


「別に。まぁ、変化があるのは苦手なんだよ、プロペイン」


「ギャンブル好きなのに、か? いやすまん。……安心しろ。俺達が付いている。相手が子供だからって遠慮しすぎるなよ。そういうの、子供には結構バレるもんだぜ」


「いやいや。流石にあんたを頼るよ」


「そりゃ嬉しい。俺もお前を信頼してるぞ、草食」


三人が戻ってきた。まだ足は濡れているようで不快感。しかしそれどころではない。五人は車に乗る。大地に向けて発進した。


ラジオの向こうでは、喉が渇いたのか水を飲む音がする。向こうは録音する環境がないのだろうか。ずっと一人で宣伝文句を語り続けている。今はその声だけが頼りだ。砂や石に揺らされつつ音の便りを辿る。


北はノイズまみれ。車は曲がる。西もノイズ。南へ向かう。


「プレイヤーズ……どんな人達なのかな」


「サムは心配?」


「ハチは気にならないの? なんというか、軍事組織って言ってるし。不安とか、ないの?」


オサムの発言にむしろ安心する。正直に自身の感情を伝える姿が、こんなにも頼もしく、愛らしいとは。


「あるね。軍事組織、つまり軍隊と言ってるようなものだし。色々厳しいだろうとは思う。そういうの、苦手?」


「うーん。体育会系みたいだし、苦手」


「わかるよ。めっちゃわかる。殴られたくないね。サムはやっぱりそういうイメージ?」


「うん。怒鳴られるの、やだなって」


「オレもやだ。そういうのされると泣くんだよね」


「ハチは泣かないでしょ」


「そう思う?ま、サムの前では泣かないよ」


「……へぇ」


BBとしては、そんな情けない失態はしないから安心しろという意味の一言。残念ながら、オサムや聞いていたレモンは違う解釈をした。


オサムが聞けば、それは二つの意味となる。男気を信用してくれと言われたということ。お前の前では涙を見せてやらないこと。泣くという顔を見せない。そのレベルまで信頼しているワケではない。そう聞こえた。そう捉えてしまう自分の面倒臭さに自分で毒づく。


おかしい。オサムは歯噛みする。前の、それこそリピーターショットガンの髭面を倒す前に戻ってしまってる。実際には違うかもしれない。だがオサムはそう考えた。


レモンは、ただ心配だった。怒鳴られたら泣く、というのが気になる。怒鳴られることに、何かトラウマがあるのか。そして、涙を見せないこと。それは仮面を見せていることの示唆ではないか。いや、そんなことはない? オサムよりは心に余裕があるせいか、別のことで深読みしていた。


BBは急に黙った二人に疑問を抱く。ラジオの声量が変わっていることを知る。


「プロペインさん、そろそろです」


「そろそろと言われてもな。……うん?」


遠くの遠く。地平線の先にぼんやりと灰色がある。スピードを上げて灰色に迫る。それが何となく、コンクリートであることが判りかけてくる。


「見ろっ」


プロペインの鋭い声。メンバーさ考え事から帰る。


目の前に見えてくる建物は、巨大だった。一瞬理解を脳が拒んだ。それは要塞であることがやっと判る。近いものを挙げるなら、ペンタゴンだろう。ほとんど一面コンクリート、じっくり見てようやく傾斜の壁があることが判明する。


そして壁の上には、固定された機関銃、動画でしか見たことない現代的な大砲、サーチライト。軍事組織と名乗るのは伊達ではなかった。プロペインはその威圧に負ける。ハンドルを握る手が弱くなっていた。


草食に肩を軽く叩かれ我に帰る。すこしふらふらしだす車を制御する。


「あれが、プレイヤーズ」


後部座席から体を出すレモン。感嘆を溢す。


「こりゃオレ達じゃ勝てそうもないね」


「オールドスランガーズだって無理でしょ。というか、ハチは戦うつもりだったの?」


「まぁ、時と場合によりけりかな」


BBとオサムもどこか上の空。発言が肉体から出ていない。けれども勝てないというのは確かだった。あの組織が敵に回らなくてよかった。車内の者はそう考える。


車はどんどん進む。動く兵士達が肉眼で、どうにか視認できる程まで来た。彼らの服もまたミリタリーチック。茶色の迷彩とヘルメット。


門の前、兵士が来る車を認めた。プロペインは窓を開けて手を振る。敵意はないというサイン。それを汲んでくれたようだ。何かの機材を口に近付け、パクパク動かす。そして他の兵士達も集まった。


「あいつら無線を使ってやがる」プロペインが分析。「しかも見ろ。武器は全員アサルトライフルだ」


BBは顔をしかめた。流石にアサルトライフルとなれば、弾丸の量が多すぎる。斬りきれない。


門の前で停車。兵士が囲み、運転席の扉を叩く。それに呼応してプロペインが身を出そうとする。待てのジェスチャー。後ろに回られた。草食は思わずリボルバーに手が伸びた。それをプロペインが止める。


彼らはトランクを開け荷物を調べ始めた。仕方ないことだとみな諦める。だが押収されたらとっとと帰ってやる。そう考えてはいた。


荷物の監査は終わったらしい。前方に戻ってきた。窓に近付き、フランクな顔で口を開いた。


「ここへは、ラジオを聞いて?」


「そうです」運転席で会話。


「いくらか危険物があるので監視はします。入ったら、案内をつけるのでそいつに従ってください」


「待ってください。まだ入ると決めたワケではないですよ」


「そうでしょうな。しばらく体験するのもアリだと思いますよ。俺もそのクチで入ったんで。さ、監視人も案内人も来たんで、どうぞ」


前にはバイク。後ろに装甲車。サンドイッチされる。レモンは背後の車を見て目を輝かせた。その車の車種はバンだ。装甲を張り、上部に機関銃を取り付けたバン。自分達の車も、あんな改造ができたら、さらに戦闘力が上がる。


「じゃ、あたしに着いて来てくださーい」


バイクに乗った女性兵士が言う。ゆっくりと進む。そのスピードでよく転ばないものだとプロペインは感心した。


門をくぐり、影が光へと変わる。


まず目についたのは、数両はある戦車。オサムはこれを見て身震いした。オサムは知らないが、その戦車はオルスラが使っていた戦車ではない。より世代の上がった現代戦車だ。


真っ直ぐ進むだけでも、要塞の広さが感じ取れる。中央には塔があり、サーチライトで要塞を照らしている。そこをぐるりと迂回して進む。門から右斜め前の先に着く。ただのビルが面前に。プレハブと言っていい。兵士は振り返る。


「ここが司令所です。中に入って、総長と会ってください」


「総長?」プロペインの意識が向く。


「プレイヤーズのリーダーです。司令官と呼ばれたくないようで、そう名乗っておられます。ところで、貴方達ってグループ名とかあります?」


「まんぷくテロリストですけど」


兵士の目が変わる。出しちゃいけない名前だったか。戸惑っていると、バイクを降り、慇懃な態度を取り出した。


「それを早く言ってください! さ、総長が待っておられます」


BBは楽しげなため息を吐いた。「また飯テロの名が売れているよ、姉さん」と皮肉混じりに言う。


草食も悪い気はしない。リーダーとして堂々と降りた。多分この名を誇っているのは彼女だけだろうが、それは内緒の話。

前話の話数間違えちゃった。ごめんちゃい

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