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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
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第45話 周波数、鉄の音


BBは迫り来る弾丸を全て斬った。それに戸惑っている隙に刀を踊らせ、眼前の敵を全滅させる。オサムも続き、敵地にジャンプで飛び込む。そして来る刃を待つ。


攻撃が来る。左手のナイフで弾き首を回転斬り。槍の突きをナタでそらしナイフで胸を突く。ショットガンを向けられるが撃たれる前に肉薄。腕を斬り落とす。ショットガンを拾い、密集する敵に放った。


BBもその間にも手早く敵を片付けた。急所を一撃で斬り伏せ、見慣れた一人虐殺を演じている。


恐れおののいた敵は必死に逃げ始める。そこにレモンの狙撃。一人一人と倒れていく。ついでに草食の早撃ちで六人が倒れる。プロペインはリピーターで援護していた。


「拠点に逃げたみたいだね」


草食がのんびりと弾を詰めて言う。誰もHPの心配をしていなかった。


「武器も下級。オールドスランガーズほどではありませんね」レモンがコッキングをする。


「拳銃……なんたら隊と同程度かな?」


「拳銃警察隊ですね。あれ以下だと思いますよ、姉さん」


レモンと草食の会話を流し聞く。BBは逃げた先の丘を見る。あそこを越えて、奥に逃げた。追えば容易く撃滅できる。自覚してないが、その自信が彼にあった。


現在、まんぷくテロリストは、最寄りのプレイヤー達の村を助けていた。その村では、ギャング団を結成したプレイヤー達に負けていた。街の支配権を実質奪われているところだった。物資を報酬に、まんぷくテロリストは件のギャングと戦っている。ギャングを滅ぼしているのは、まだ一時間程度のことだ。


ファームシティを出てから、二ヶ月が経っていた。ファームシティの人々は、自分達のことを忘れているかもしれない。そんな感傷にさえ浸れる。


その間、オサムとレモンは草食のことを「姉さん」と呼び慣れるようになった。暇さえあれば丁半をやりたがる草食を見れば、草食さん、なんて呼ばなくなる。


レモン、オサム、BBの三人は仲が良い。喧嘩せず、トラブルもなかった。腹の中はいかほどかは不明。オサムの想いも、レモンの想いも、知る者は本人だけ。とはいえ、BBがオサムをいじるのはいつも通り。レモンと気兼ねなく会話するのもいつも通り。レモンとオサムの少女話もいつも通り。


プロペインは、そんな三人を眺めてきた。彼もまた、いつもと変わらず。他と変わらず。草食はそんな毎日に満足していた。あまりにも深く。


「さて、奴らの本拠地はどんなものかね」


リピーターを背に戻すプロペインは、機関銃を手に乗せる。小さな拠点は軽々と潰した。後の事は簡単だろう。


彼らは敵の逃亡先へ歩み出した。その気だるげなこと。五人にとっては烏合の衆もいいところ。ダメージ一つ食らってない。


丘を越え、眼下にはオアシス。またこういうパターンかと、BBはため息。全く同意見なのか、オサムが肩を叩いて笑う。思えばオサムとの距離も縮まった。BBも彼女に笑い返した。


敵はこちらを指差して慌て出した。レモンが立ったまま狙撃。舐め腐っているように見える。彼女にとっては、立ち狙撃の練習台に過ぎない。やはり、舐めている。


草食も、堂々と歩きながら早撃ち。リロードでさえ身を守ろうとしない。


彼女らがそんなことをできたのも、BBとオサムのためだ。特に、BBが弾を集中して受けていなければできない。どれだけ撃ち込まれても全て斬り捨てる。刃先と鉛の衝撃音が鳴る。ある者を恐怖させ、ある者を安心させる音。オサムも狙われた。避けて対処した。


そして野晒しにされた寝袋敷くオアシスまで来た。そこで余裕なく待ち受けている者がいた。オールドスランガーズ四天王だった一人、逆走青年だ。当然、BBは憶えていない。だが相手はトラウマとして残っている。


「うわ、前から飯テロが!」


そう驚いている内に、BBが手を下すまでもなく、オサムが斬り捨てた。他の敵のついでという形で。オサムだってレモン達だって、彼のことは知らない。


オサムは手榴弾を三つ投げ、寝袋を一網打尽にする。これでリスポーンはできない。まんぷくテロリストの勝利である。


誰もリスしないことを確認。BBとオサムは水の前で座った。水筒を取り出し、汲む。飲む。勝ちの一杯。身に染みる。


「俺の活躍はゼロか」


プロペインはそう言い、しかし笑う。「こりゃ減給だね」と草食が返し、皆自然に微笑んだ。


そして、村に帰る。人々は感謝した。ここにはファームシティのラジオ電波も届かない。だから情報もない。故に、通りすがりの英雄は大ニュースだった。


「ありがとうございます! これでやっと水不足から脱せられる。もうリスポーンして脱水でデスすることもない!」


「それはどうも」草食が柔和に受け流す。見た目は快活な女性。こういった場面ではそれが頼りになる。


「ところで、貴女達はチーム名を名乗っているんですか。あのギャング共は『東京方面は右』と名乗っていました。誰も憶えませんでしたが」


「あたし達はまんぷくテロリスト。まぁただの旅人だよ。ところで、藪から棒なんだけど、ここら一帯でこの世界のことについての情報とかある? 例えばこの世界からの脱出とか」


「……さぁ。それは我々も知りたいぐらいで」


「だよねぇ」


五人の落胆は少なかった。これまで幾度も人々を助けた。そしてこの質問をした。そして全て無駄骨だった。もう聞き込みへ希望を持っていない。けど、それ以外で何と聞こう。何を知ろう。草食でさえ、知りたがるほどになった。


彼らは村の人々から物資を貰い受け、また出発した。東へ。海に向かって。希望はないハズなのに、笑いがある。BBはオサムと喋り、レモンが茶々入れて、プロペインがそれを聞き運転し、草食はうたた寝する。


彼らはもう、そんな日常に慣れ親しんでしまった。




さらに、数日後。車の前に、青い水平線が広がっていた。朝日に照らされている。プロペインはそれが何であるか、すぐには判らなかった。


それを理解した途端、久しぶりの興奮が湧き上がった。衝動でブレーキを思い切り踏んだ。車が前のめりになってストップ。車内の全員が叩き起こされた。草食だけ何も対応できず頭をぶつけた。


「なにぃ? どしたの。襲撃ぃ?」


「いや、見ろ! 海だ!」


その一言で目が覚めた。草食は車から急ぎ降り、海を、太陽を見る。明々と照らされた青き塩水が、我よ我よと主張する。


潮風さえ感じていた。海だ。草食はやっと理解できた。目的地に着いたのだ。


降りてきた子供達も太陽の下を見る。そこにある感動は、いささか春風に揉まれていた。目的の場所へ至った事実と、海というイベントを予感させる風景とが、彼らの心を激しく波打つのだ。


「皆車に乗れ!」プロペインが目を光らせた。「あそこまで行くぞ!」


「……はい!」


そう言葉にして、レモンが飛び乗った。聡いとはいえ、風の子ではある。海に行きたい。それは誰もが同じ。全員乗車。車は再び発進した。先ほどまでとは、違う喜びに満ちた速度で。


砂浜へ着いた。波が近くまで寄って来た。かと思えば、帰っていく。五人は車を降りた。五人共、風にあてられ、突っ立っている。喜びの前に、そもそもなぜここに来たのか。それを思いだし、今を知った。


「人、いないね」


残酷にもBBは告げる。それに合わせ、辺りを見渡す。見れど砂浜。聞けど波。人も人工物もありはしない。


レモンとオサムは肩を落とした。心理の急変を前にして、海は慰めとはならない。それで絶望するほど弱くはなかった。特にオサムは、ある程度覚悟はできていた。だから切り替えも早かった。


「誰もいないならさ」オサムはニヒルな笑みを浮かべる。「独占しちゃおうよ」


「海、泳ぐの?」


「ハチは泳ぎたくないの?」


「いや、服、どうするのさ」


目を何度かぱちくり。そう言われてみれば。草食も話題に乗っかり、顔をBBに寄せる。


「全部脱げばいいじゃん。どうせ全裸にはならないでしょ」


「……インナースパッツも充分恥ずかしいと思うよ姉さん。オレは脱ぎたくないよ」


彼はレモンとオサムに含みを持たせて言った。そう言われると草食も反論しにくい。彼女は、BBがオサムに襲われているのを見ている。自分にもその気があったら襲っているだろう。と思うくらいにはBBは可愛らしい。


「それにさ。海に入ったらベタベタするんじゃない? 塩水だし。インナーがベトベトになるのは嫌なんだけど。オレが入らなければいい話だけどさ」


さて沈黙がやってきた。BBの言うことは最も。事実上の加害者たる女の子二人には引け目がある。水着なんて洒落たものもないし、そもそもこの世界にあるのかどうか。スク水なら、あった。レモンはそう考えている自分に驚く。やっぱり、泳ぎたいのだろう。


「じゃ、私は泳ぎます」


「いってらー」


草食に言われた。スナイパーライフルを置き、駆け出した。BBは呆れている。それは、子供らしさへか。靴を脱ぐ。靴下も。素足に水が触れる。少し冷たい。いたずら心が揺れた。


「えいっ」


レモンはBBとオサムに水をかけた。かけられた水はベタつかず、まさに水だ。それを知った二人、意気揚々と水の中へ進んだ。そして、水をかけあった。


彼ら三人の姿は実に微笑ましい。プロペインはひとまず満足し、車からラジオを取り出す。草食も胡座をかいて、楽しげに見ていた。


ラジオが草食に渡される。彼女は受け取り、黙々とダイヤルを回す。周波数を好き勝手いじくり、遊んでいる。


BB達はもっと深いところまで行く。先ほどまでの発言が嘘のようにBBは遊び転げる。身体中水浸しだ。次第に水を避け隙あらばかける。遊びといえど本気になっていった。オサムも合わせて本気に、しかし楽しむ。レモンは二人の攻撃からなんとか逃れ、ちょっかい程度に水をかける。


横目で彼らを見る草食。ラジオの異変に気付いた。人の声が聞こえる。周波数を合わせようと、耳をすます。ノイズが多い。


声は段々と明瞭になる。


「我々はプレイヤーズ。この世界からの脱出を目的とする組織である」


その声は、足音だった。

飛びすぎぃ

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