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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
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第42話 電光の一報


ゾンビの街は攻略した。雲が晴れて、その荒廃が露になる。コンクリートのビル共は老いて死なず。肝心のラジオ塔は巨人の如く生きていた。


プロペインの活躍によって窮地から脱したまんぷくテロリストは、塔でラストルネッサンスを待った。


「こちらまんぷくテロリスト。ラジオ塔確保。ラストルネッサンスは集合してください」


代表して草食が放送。結集を伝えた。功労者であるレモン、BB、オサムの三人はゆっくり休むよう言われた。


ラジオ塔下のビル。そこに機材やら何やらが置かれている。いわばラジオの心臓。そのビルの屋上で三人は休憩していた。


とはいえすることがなかった。なのでレモンのスナイパーライフルを借りて、残存するゾンビの射的を楽しむ。


レモンは屋上に落ちていた双眼鏡に目をあてて、BBの狙う先を見る。


BBがまずやってみる。さっきから撃ってはいるのだが、ちっともあたらない。見かねたレモンが狙い方を教える。そこに教えの才はなく、ただ外すだけだった。


それを見るオサム。心中複雑。朝はちょっと悪そうな仲だったのに、すっかり仲良しだ。友人ならば祝福すべきなのだろう。だができなかった。したくなかった。オサムにそんな経験がなかったからという理由じゃあない。


彼女は二人に嫉妬していた。BBと仲良くするレモンと、レモンと仲良くするBBに。友達が友達を奪っているようで甚だ歯がゆい。何よりも、そんなことを考える自分が醜く、矮小に思えた。


「サム、やってみる? オレはダメだよ。あたらない」


「ですから弾は落ちるんですよ。スコープの中心で捉えるのではなく……」


話しかけられたオサムは、下手な笑顔を作る。BBには容易く見破られた。BBも仮面を被り気付かないフリをした。


レモンも、何となくオサムの異常に感づいていた。だがそれが何か判らない。怒りだろうか。


レモンが声をかけようとする。と、草食が屋上への扉を勢いよく開けた。


「皆! ラスルネの人が来たよ。残念ながら休憩終わり! テストに付き合ってよ」


そう言うと風のように去って行った。「行きましょうか」多少のため息を吐いてレモンが言う。オサムは二人の会話、活動が終わったことを、嬉しくも苦しくも感じた。


階下へ。すでにラスルネの隊員が放送室に集まっている。動作チェック中だ。その室内には当然、サンドロチェリーもいた。


「おお皆」チェリーは三人を見た。「ラジオ塔の占拠ありがとう。また一つ借りができたね」


「いえいえ、大体ハチさんとサムさんのおかげです」レモンは手を振って答える。


「そうか。ありがとう、ハチくん、サムさん」


BBは肥溜めに落ちた仇を見る目で。オサムは単純な気恥ずかしさの目で。チェリーをそれぞれ見た。チェリーはただ苦笑するだけだった。


放送室には、放送のための機材、人、そして小さなラジオがあった。周波数を合わせようと、ダイヤルを回している。


「テストテスト。聞こえますかー?」


プロペインがマイクに向けて喋る。周波数を合わせたラジオから、同じ文言が流れる。全員首を縦に振った。成功だ。


「ここでジョークが言えればね」


壁にもたれかかる草食が軽口を叩いた。場は微笑で和んだ。


「あとは、この機材を街に運んで、同程度の設備を整えるだけだ」チェリーはそう言って伸びをした。「これでファームシティの経済も向上するだろうね」


そうして、ラスルネは機材を解体し始める。


クラフト画面を開き、ただ単に解体を選択。アイテムとしてその場にドロップする。それを回収し、ビルから出た。BBが話題をプロペインに振る。


「ところでプロペインさん。その機関銃はどうやって?」


「これか? 詳しく話してやるよ。俺は草食に引っ張られてあの場を脱出した。そのあとうろついてな。すると銀行らしきものがあった。中を探索していたら草食がいなくなった。あちこち探したら地下の金庫を独力で突破しやがってたんだ」


「すごいでしょ」草食は誇らしげ。


「実際すごいが、金庫破りは褒められたものかね。この世界じゃめずらしくもないかもだが。んで、その中にこの機関銃があったのさ。弾も一緒にな。草食は金目のものを探してたよ」


「金塊があったらよかったのに、札束しかなくてさぁ。こんな世界じゃ文字通り紙切れだよ。ま、コレクションとしてはいいかもね」


「……それ、何に使うつもりだったの」BBのジト目。


「そりゃあ……大丈夫。うん、大丈夫」


「なんで姉さんがスロットに使う前提なのさ。オレはまだ何も言ってないよ」


「全くだ」プロペインが言った。街中を歩いている。


「ところで」BBは次の疑問を他へぶつける。「サムはどうやってあの場を切り抜けたの」


「え、わたし? ただ逃げて、ゾンビを一体一体狩ってただけだよ。戦いの練習にもなるし」


「あのピンチでこうも前向きとはな」プロペインが草食を横目に見た。「草食も見習えよ」


「あたしは万年ポジティブだから無問題でしょ」


「おいおい……で、ハチとレモンはどうだったんだ?」


その話がでる頃には車の待機場所まで来ていた。ラスルネも機材を持って車に乗る。まんぷくテロリストも車に乗り、出発。


BBとレモンは道中のことを話した。もちろんBBがレモンの体に触れたことは伏せた。BBもレモンも、互いを良く評価した。順調だったのだと、他は推察した。


オサムは何か引っ掛かりを覚えた。BB達は何かを隠している。朝のこともある。何か、二人の間に進展があったのではないか。ジェラシーがあらぬ方向に突き刺さる。反射する。


道中とは違って快適なドライブであった。街の警備に通され、ラスルネ本部前に停めた。なお草食はまた寝ていた。


車から降り、全員集合。チェリーが見渡す。


「よし。機材は揃った。早速ラジオ施設をこのまちに造ろう。まんぷくテロリストの皆、ありがとう。報酬はまた後程。それじゃ」


そう言い、彼らはどこかへ去ってしまった。ラジオ塔を建てるのだろう。まんぷくテロリストの五人は完全にフリーとなった。というワケでプロペインは車へ行く。


「さて。俺はこいつを車庫に入れるから。四人は好きにしててくれ」


「おっしゃー!」手を挙げて喜ぶのは草食。


「スロットはするなよ」


「え」


「懐を管理したなら、やらせてもいいのでは?」


レモンの甘いとも言える提案に、プロペインはしかし納得した。


「じゃあハチ、頼んだ」


「何でオレなんです?」


「お前が一番草食の手綱を握れそうだからな」


「えっあたし犬扱い?」


「解りましたよ」BBは露骨に嫌な顔。「姉さん。今日はダメ。明日ならいいよ。明日ならね」


「……していいの?」


「明日」「アッハイ」


多少うなだれつつ、草食は家に帰った。プロペインは車に乗って行った。草食は置いてけぼり。三人が残る。


オサムはこの状況にハッとする。また、レモンが、BBが、互いを取り合うのか。二人共自分とは遠いところへ行くのではないか。


彼女は自分の感情が何なのか判明しない。嫉妬以上の何かある。ただ、二人を二人のままにするのは、とても、嫌なことだった。はたして原動力は何か。突き動かされた勇気は、彼女を行動に手繰り寄せた。


「ハチ!」


やけに決意めいた声を出してしまった。自分でも驚く。BBは目を見開いた。


なぜBBのほうを呼んだのだろう。これは、まだ自分がBBに依存している証拠なのか。解らない。でも、どうせ呼んだのだ。彼と一緒にいたい。


「訓練、してもいい?」


レモンは安心していた。とりあえず、彼女の抱えていたものは怒りではなかった。レモンにとって、オサムとよくいるBBが羨ましい。逆もそうだ。よく絡んでいて、楽しそうだから。そこに負の感情はなかった。


BBはBBで、オサムの心情を思んばかる。彼女は言葉にできないものを抱えているのでは。彼女が自分と訓練したいとはどういう心境か。どうだろう。


「いいよ。農場でやる?」断る理由はなかった。


「では私は家で姉さんを監視してますね」


「よろしく」


それでは、とレモンは帰宅する。BBとオサムの二人が残った。なぜか、それだけでもオサムは満足できた。


「それじゃあ行こうか」


BBは先を歩く。ここで手を伸ばして、自分の手を掴んでくれれば。オサムはそんなことを考える。自身の思考に戸惑い、目を伏せた。


農場の空き地に着いた。BBは、オサムが怒っていないことを知っている。しかし、不思議と、面倒を見る心が湧いて出た。今、もし二人に心理戦が起こったら、オサムは瞬殺だろう。


何も武術の達人とまでは言わないが、平常心だけは保っていて欲しい。ここで優しくすべきなのだろうか。すっかり教育者の悩みが芽生えたBB。


「今回は、オレは武器を使わない」


「……え?」


「だから、まぁ、殴る蹴るとか。容赦すると訓練にならないからしない。いいね? 一撃オレに与えられたら終わり。いいね?」


「え、うん」


刀を捨て銃を捨て。右足を後ろに下げ攻撃を待つ。オサムはイマイチ現実感がない。それでも武器を構える。


そのあとは、オサムに殴打が襲った。あまり強くないが。一撃も入れられず、低ダメージのパンチキック。地面に叩きつけられたり。何十分経ってもオサムは勝てなかった。


どうしてか、苦痛も悔しさもなかった。BBから触れられるのがむしろ心地良いぐらい。BBが見せる、オサムを殴ることへの嫌悪の顔さえも、目に残る。


オサムのHPが半分を切った。息も若干途絶えながらも立つ。最初に比べ、闘志も強くなる。


「サム」


「何?」


「言っといてなんだけど、君を殴るのは、その」BBにとって、ここまで避けられるのは想定外だった。


「じゃあ、他のことしてよ」オサムに調子が戻ってくる。


「じゃあショッキングなことしても?」


「やってみたら」


挑発に乗り、BBはオサムの頬に触れ、親指で押し込む。額と額が触れる。ちょっとどころか、かなりやけっぱちの行動だった。


その後、二人は顔を真っ赤にして過ごした。

戦闘書かないと不安になる症候群

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