第41話 曇天よりも電波
レモンとBBの二人は街を進み行く。ゾンビを上手く蹴散らしながら、ラジオ塔へ向かっている。だがゾンビの数は桁外れ。真正面から戦うワケにはいかない。できる限り戦闘は避ける。
ラジオ塔まであと数百メートル。もうすぐだ。二人が安堵している中、野獣の轟きが木霊する。BBには聞き覚えがあった。クマの声だ。
レモンが音の発信源を、スコープで見る。冷や汗がポツポツと流れる。一匹、二匹、三匹、四匹、六匹、全部で九匹。ラジオ塔前広場。そこは血の花園であった。
「クマが数匹……」
二人は思考を力一杯回した。いくらBBとて、このまま戦うのは賢い選択とはいえない。
レモンにある考えが浮かんだ。この街自体、RPGで言うところの、ダンジョンとかそういうフィールドなのでは。ラジオ塔がゴールのゲーム。なら、そこら一辺に攻略のヒントがあるかもしれない。なのでレモンは言った。
「ハチさん、他の場所を探索しましょう。あそこを切り抜けられるアイテムがあるかもしれません」
「かまわないけど、この広い街を歩き回るのは至難だね。ゾンビもワラワラいるんだし。正直言うと、反対かな」
「確かに。なら、どうしましょうか」
と言って自分も考えを尽くす。BBも悩んでいる。このビルの角。その隅に隠れる二人は孤立無援。他のメンバーも悪戦苦闘しているだろう。
レモンは考える。爆弾で吹っ飛ばすのはどうだろう。いやクマがそう簡単にやられるか。もしやれたとしても何体やれる。一匹二匹じゃ意味がない。爆音でゾンビが群がる可能性も捨てきれない。
しかし爆破以外に良い案が思い浮かばない。今持っている爆発の選択肢は、手榴弾のみ。
いや待てよ。閃きのサインがやかましく点灯する。この街には爆弾になるものがあった。赤いゾンビ。奴らは撃たれると爆発する。奴を集めてクマに突撃させれば、キルまでいかなくても、致命傷を負わせられる。それを全てに。
「ハチさん。いいアイデアが思いつきました」
「どんなの」BBも傾聴の姿になる。
「ハチさんはこの街を走り回って、赤いゾンビを集めてください。そして、その集めたゾンビをクマのところまで連れて行き、私が狙撃します。それだけの量があれば、奴らも……」
「良いと思う。よしやろう。オレは街中を走り回るよ。レモンは狙撃ポイントまで行ってくれ」
「了解です。お気をつけて」
BBは立ち上がる。早速走り出した。街に蔓延るゾンビ共を釣り、新鮮な爆弾を輸送していく。
あっという間にゾンビと遭遇。そいつらはBBを見つけると我先に追いかけだした。BBは足を速め、追い付かれまいとする。奴らの中には赤いゾンビもいた。
直線コースをそのままに。すると、目の前にも軍団が。奴らも気付く。曲がり角を左に、そのまま直進。先の二倍の数が、背後にいる。足音、唸り声、どれもが緊張を煽るものだった。赤いゾンビはまだ数匹。まるで足りない。
後ろの足音は地鳴りとなった。それ故遠く前方にいるゾンビにも気付かれた。今度は右に曲がる。
運が悪いのやら良いのやら。曲がった先にはオサムがいた。彼女は幾多ものゾンビ相手に奮戦していた。BBほど手際よくはない。苦戦といったところ。助ける余裕はない。
しかしオサムのほうはこちらに気付いてしまう。だからBBの後ろにいるゾンビの群れも知ってしまう。顔はひきつり、戦意は瞬く間に消え失せる。
「サム!」BBは必死に叫ぶ。「オレと一緒に逃げるんだ!」
オサムはゾンビの引っ掻きを転がって避ける。そして地を蹴っ飛ばしてBBのもとへ。走る。BBはまた左に曲がった。丁度オサムと合流する。
オサムは現状のことを何も聞いてない。聞く時間はない。また左に曲がる。そしてクマを発見した。BBはスピードを上げる。オサムも足の回転が極まっていく。
クマがそれらに反応し唸り声をあげる。レモンがどこから狙っているかは判らない。しかし今はクマの間を突っ切ることが最優先。
クマはもう目の前。動物園でも叶わない距離。BBへクマの横薙ぎパンチが来る。すぐに屈んで回避。突進が来たので右に跳ぶ。さらにスピードアップ。クマが眼前に立ち塞がり体を持ち上げる。右斜め前に飛び込んでのしかかりを避けた。後ろから他のクマが来る。
BB達は振り返って銃を乱射。一瞬の足止めに成功。そこへゾンビの大群。クマのそばを通過する。
重い銃撃音。ビルの上から放たれ、赤いゾンビへ弾丸が向かう。着弾。爆発。爆音が耳を打ち、近くの赤ゾンビに引火。起爆。それが連鎖し、クマ共は吹き飛ばされた。
……かのように見えた。
爆発とスモークの煙が晴れる。動かないゾンビの山と、ボロボロのクマが五匹。四匹はやれたようだ。BBは躊躇いなく抜刀。オサムもそれに合わせ、ナイフとナタを抜く。
言葉なき連携で、クマに挑む。
五匹が同時に襲いかかる。BBは突撃。オサムは守りに入る。BBに三匹。先頭の一匹が前足で殴る。横に避け皮を刃で撫でる。前足を横に薙いで反撃に移るクマ。跳んでBBは回避。頭から刃先で貫き刺す。目に当たった。キル。間髪いれず二匹目。噛みつこうとする口の中へ手榴弾を投げ込む。結果を見る前に三匹目。
オサムは二匹を同時に相手取る。片方が殴ってきた。半歩下がって避ける。振り切った前足を斬る。もう一匹がのしかかろうとする。転がってナイフで突く。タックルでお返ししようとしてきた。バク転で食らわない。拳銃を抜き空中で撃つ。倒れた。着地。もう一匹が殴りかかる。避けて斬り返し。ものともしない。もう一発来る。これも僅かな動きで避け目玉をナイフで刺した。
全部倒した。オサムはフゥーと息を吐いて落ち着いた。そして、状況確認に移った。
「他の人は?」
「レモンしかいない。さっき赤いゾンビを撃ったからどこかにいるハズ。サムは? 誰か見つけた?」
「いや。わたしは皆を探してた。ハチはどうしてここに?」
「皆ここに、ラジオ塔に来るんじゃないかと、レモンと話してね。あとは入ってしまえばいいかな。町内放送できるかな」
「じゃあわたしはハチ達に着いて行く。それでいい?」
「もちろん。レモンを待とう」
オサムにはちょっと気がかりなことがあった。レモンといるBBは居心地悪くないかと。朝のこともあったのだ。何かいざこざがあってもおかしくない。
レモンが来た。その顔はBBと問題を抱えているとは言えないほど、屈託がなかった。
「サムさん! 無事だったんですね!」
「う、うん。そっちこそ無事で何より」
「私達はこれからラジオ塔に侵入します。お手伝いは」
「もちろんやるよ」
「ありがとうございます。行きましょう、ハチさん、サムさん」
ハチさん、のところにしこりはなかった。オサムはドキリとする。返すBBの顔も清らかだ。もう問題はなくなったのか。解決したのか。
その疑問が、オサムの嫉妬心を刺激した。BBとレモンには、自分の知らない二人だけの関係がある。そこに介在することはできない。レモンは、オサムの知らないBBの姿を知っているのではないか。そういうものが腹に溜まって、吐き所を知らなかった。
「サム、行くよ」
BBの声でやっと我に帰る。先行している二人を追う。ラジオ塔の下にあるビルに入る。
埃と、煤、何でもござれりゴミ屋敷。少し咳をして、口内に異物が入らないにする。はてこれは人工現実で意味があるのか。
「放送室を探しましょう。街に放送をかけられれば、集合できます」
レモンの発言に同意。三人は別れて探索する。BBは三階に上がり、廊下に面する扉を全て蹴り開ける。
その一部屋に、放送室と解る機材郡を見つけた。まさに学校の放送室。機材は全て日本語で書かれていた。マイクを取り、放送を始める。
「テストテスト。こちらはまんぷくテロリストのBB。ラジオ塔にて放送中。集まってください。繰り返します。ラジオ塔確保」
「あ、見つけたんだ。これで皆来るといいけど」
オサムが来てそう言った。BBは頷いて返し、二人で一階に戻ろうとする。
「サムは成長したよね」BBが唐突に話しかける。
「何が?」
「クマ相手に立派に戦えた。強くなれたじゃん」
「ありがと。次は体力満タンのクマと手合わせしたいね」
その軽い調子にすっかり安心。BBは堂々と階下に下りた。
だが様子がおかしい。ビルの外から、轟音がする。窓から見てみる。ゾンビの大群が押し寄せて来たのだ。
声をあげる間も無く、扉をぶち破られた。レモンはすぐ距離を取り発砲。だが一発ではどうにもならない。BBとオサムが斬りかかる。
BBは外へジャンプ。ゾンビの頭上を首斬り舞い。首を狩ったゾンビの体を反発材として、蹴り跳ぶ。その曲芸模様はレモンとオサムだけが見ていた。彼は実に見事なキルを重ねた。
オサムは苦しんでいた。多人数相手は得意とするものではない。攻撃を弾く、避ける、防ぐ。そして反撃。キルこそできないが、鉄壁にはなった。
だが二人の奮闘虚しく、ビル内にゾンビが溢れる。数えきれない。レモンが撃ちまくって止めようとするが意味なし。オサムは退きつつ敵に斬ってかかる。それでも奥に押し込まれた。
BBはジャンプしながらのキルを止め着地。刀を両手で持つ。走り、思い切り振るう。首をはねて回る鬼となる。跳ねて跳ねて、ビル内へ戻ろうとする。ゾンビが群がるも、素早い太刀筋の前には首を失ってひれ伏した。
オサムは手榴弾を使うタイミングを逃した。このビルの中へ投げ込めば、倒壊の恐れがあるだけでなく、爆発に巻き込まれてしまう。何としてでもレモンには近付けさせない。彼女にはそんな覚悟しかできなかった。
レモンはオサムによる鉄の守りに感謝。引き金を引く。だがこのままではジリ貧。負ける。
……外で銃声が鳴った。間のない連続の射撃。
「ふせろぉ!」
何が起こるを理解したBBが二人に叫ぶ。それに従い床に身を投げた。
銃声の正体は機関銃の射撃。間髪いれず、間断なく、合間なく。その音は物理の弾となりゾンビを撃ち薙いだ。体の上を弾が通過するのが判る。ゾンビの大群を貫通している。
ゾンビも倒れかかって、BBを襲う。しかしここで立てば機関銃のエサだ。寝た状態で対処する。蹴飛ばしたり、銃で撃ったり。レモンは匍匐になって、BB達に付きまとうゾンビを撃っていた。
そして、銃声が止んだ。ゾンビ共もバタバタと倒れている。足に絡まる生き残りを撃ち抜いて、オサムは立ち上がる。BBもやれやれと立った。
「よう。大惨事だったな」
機関銃を肩に担いだ男、プロペインが気さくに話しかけてきた。その安心感たるや。三人は息を吐き脱力した。
「この街では機関銃を使えっていう、開発からのメッセージなんですかね」レモンもライフルを肩につけて言う。
「だろうな。実際、街の金庫にあった。草食が金を漁っていなかったら、もっと酷いことになってたかもな」
草食の奇行に一同はクスクス笑いあった。それは、生き延びたことの喜びでもあった。




