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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
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第40話 電波の呼び声


BBが女装してから数日が経った。彼はチェリーに対して並ならぬ殺意を抱いた。が、与えられた物資を見て怒りを沈めた。レモンはいつまで経ってもBBに反撃されないのを不服とした。ほういったレモンとBBの言葉ならぬ関係に、オサムは気付いていた。口を出すことはできなかったが。


ほとんどBBのお陰で、草食が食いつくした分の補充はできてしまった。草食は言外に見逃された。これで罪を精算されたワケではない。しかしこれ以上責めるなどBB達は思わなかった。


ラスルネ曰く、草食は囮にはなったようだ。オサムとプロペインも順調。彼女らは何を話したのか、打ち解けあっていた。BBがそれを聞いてみる。秘密の一言で返された。BBとオサムを応援しているとプロペインに言われただけだ。しかしそれを言うのは乙女心に反する。


さて、そんなまんぷくテロリストは朝食をとっていた。草食の賭けは通用せず、肉はない。その代わりうどんが出された。レトルトカレーの中に茹でたうどん。プロペインがパワーヌードルと言ってありがたがる。誰も意味を知らないが。


「さてと」プロペインがうどんを食べ終わる。「今日は全員で出撃だ。ついにラジオの計画が始動するらしい。俺達はそれを手伝いに行く。武器を持って行けよ」


淡々と話を進めた。みな食事を終え水を飲んでいる。いつもの如くレモンが反応する。


「戦闘って、何と戦うんですか? オールドスランガーズがどうこうって話では?」


「いい質問だ。確かに機材はあったそうだ。だが肝心の電波装置がない。これでは放送もできん。そこで、偵察隊が見つけた廃墟街のラジオ塔を利用するワケさ」


「そこにはゾンビとかがいると」


「そういうこと。まずは街を掃除する。しかしこれがかなりの大仕事になるそうだ敵がやけに多いらしくてな。注意しろよ」


「了解です」


話が終わる。各々準備をし始めた。BBは自室へ。弾薬を取る。刀を着ける。銃を納める。何も間違いはない。草食も弾を手に入れた。最大戦力になるだろう。そして相手はゾンビ。恐れる相手ではない。


BBは部屋から出て、階段を降りようとする。そこでレモンと鉢合わせ。BBに女装の記憶がよみがえる。あそこまで恥を公然に晒されたのは初めてだ。それを思いだし顔を伏せて赤らめる。それをレモンは悪い笑みでなぶった。


少し離れて、オサムがこの光景を見ていた。その背徳に染められた一枚は、オサムの心に沈殿した。そして、黒く栄える感情がベタベタと張り付き落とせない。レモンと目が合う。彼女はオサムに驚いている。自身は気付かなかったが、オサムの目は哀しい怒りで変色していた。逃げるように、レモンは階下へ。


オサムとて話は聞いている。BBが女装されたこと。なるほど見たくはある。だがそれを見たいと思うのは、BBに酷い失望を植え付けさせないか。その心配で、慈愛が溢れた。


「大丈夫?」


オサムはBBに近寄り声をかける。ムスッとした態度と返された。不快にはならない。


「何でもないよ。別に……」


「そっか」深く追及するのは酷だ。だから、雑談程度におさめる。「レモンのことどう思う?」


「人には、見えない、見たくないものがあるものだと。それだけだよ」


「そうだね。行こうか」


オサムが先に下り、BBが着いて行く。彼にとって、あれはショックだったのか。なら、何がショックなのか。


オサムには解らなかった。ただ言えるのは、彼は裏切りが心底嫌いなこと。そして、彼は裏切りを感じたこと。でもこの様子を見るに、どうにも怒れないタイプの裏切りのようだ。


これは、ただの、失望だ。期待外れだ。BBは知っていながら、自身を嘲弄する。レモンに対し勝手な固定観念を押し付けていた。ただそれだけ。だから怒れない。


家を出て、車に乗る。ガソリンはまだある。安心して乗り回せる。エンジンをかける。草食は図太く二度寝をし始めた。後部座席は少し固い沈黙。誰もお喋りしない。プロペインは不安。悩み多き少年少女のことだ。下手な介入はややこしくするだけ。車を発進させる。


前方にはラスルネの車列。全部で五台ほどか。彼らの行く先は廃墟街。しかしおかしな話だとプロペインは思案。ラジオ塔があり、そこにいるのはゾンビだけなら、とっとと奪えばよかったのに。オールドスランガーズなら余裕だろう。


さては何かある。プロペイン、一人覚悟。


着いた。その廃墟街だけ、どんより曇っていた。それを見たのはここにいるプレイヤー全員。本能さえ悟る。この廃墟街は、デスの量産地点と。


車は全部で六つ。それをチームで別け、ラスルネの一チームだけ待機。残る者は街へ進むことにした。


街の空気に威圧され、のそのそと歩く一行。アスファルトの道を踏む。行けば行くほど、ただならぬものが感覚として押し寄せる。


レモンが異変を察知。スコープを前方へ。他の者も、特にBBとオサムは轟音に首を傾げた。


レモンはその存在を認めた。身震い。BBも音が足音、走る音だと気付く。すぐに抜刀。レモンが叫ぶ。


「前方からゾンビの大群! 走って来ます!」


全員が武器を抜いた。レモンはすでに射撃。ラストルネッサンスとチェリーの周りは、アサルトライフルを持っている。それで応戦。耳を裂く銃撃音。


ゾンビが目視で見える距離に。草食の早撃ち、BB達の射撃、その他の銃撃。だが数は銃では捌けぬほどの物量。それでも何十体かは倒した。それでもまだまだ足りぬ。接触まで二百メートル。


オサムが手榴弾を投げる。爆発によって敵は散りキル。それでもなお足りない。百メートルまで接近。


「全員退け! このままでは勝てない!」プロペインの叫び。


「どこに退けば!」チェリーの叫び。


二人の応酬の中、ついに敵はここまで到達してしまう。BBは敵中に躍り出る。無双開始。敵の注意がBBに向く。


「体勢を立て直すぞ!」


プロペインの言葉に従い、後方に下がろうとする。その時、一匹のゾンビがBBを無視して突撃。そいつは、赤く爛れ光っていた。オサムは何者か、瞬時に理解した。


「皆避けて! このゾンビ爆発する!」


しかし注意は間に合わない。手榴弾並の爆発。そして異様に充満する煙。スモークも兼用している爆弾だ。全員その中でうずくまる。指揮系統は消失。個人が動くしかない。


オサムはすぐにその場を離脱。草食はプロペインを引っ張って逃走。チェリーらは勝手に個々で行動。レモンだけ動くのが遅れた。彼女がかすかに聞いたのは、肉体の斬れる音。煙が晴れる。もうそこには誰もいない。いるのは、ゾンビと、BBだけだった。


彼はレモンを守るようにゾンビを薙ぎ倒していった。先の銃撃で頭数を減らしたお陰か、ゾンビ達の間に空間がある。そこを素早く駆け抜けて首をはねていく。腕を振るわれても腕ごと断ち斬る。全く攻撃を受けない。


またも赤いゾンビが来る。拳銃の乱射が直撃。爆発。レモンは、BBが一人で軍団を潰す姿を、あっけにとられ見ていた。


そうして数も減ってきたところで、BBはレモンを引っ張り起こす。手榴弾を投げ置いて逃げる。背後で爆発。二人はビルの中に入り息を潜めた。


やっと事態が落ち着いた。レモンは一息吐いた。彼女はBBを見る。


「ありがとう、ございます」


「ふーん。助けられたのにその程度?」


「え?」


レモンにとっては突然に、バッと抱き寄せられる。BBの目にはサディズムが十割含まれている。何も解らぬまま、額をくっつけられた。


「前はよくも恥をかかせてくれたね」


言っていることは怒り心頭だ。なのに笑っている。そのギャップがさらに混乱を生み、レモンから言葉を奪った。反撃してほしいとは思っていた。けど、ここで。


「目には目を。歯には歯を。って言うしね。セクハラなんて言わないでよね? オレも同じことされたんだし」


そう言って、BBはレモンの頭を撫でる。優しく、髪先を手ですく。ロングの髪を伝って、背中を指先でなぞる。「ひゃっ」と声をあげた。もう一方の手で口を塞がれる。腰から頭までの背中をなぞられ、肩まで帰る。少し脱がして、インナーを覗かせた。BBの目に情欲はない。あくまで冷静に、刑罰のように手の甲で撫でる。それが存外心地よくて、抗えなくなった。


指先は鎖骨まで行く。たっぷりなぶられた後、レモンは記憶から警告を受けた。このままでは胸まで触れられる。BBのことだから大丈夫。そう自分に言い聞かせた。けど、やはり怖い。


手の先が、胸まで来て、


「はい、終わり」


口から手を離された。少し、呼吸が乱れた。


「怖かったでしょ」BBは真面目な調子。


「……はい」


「それをオレは受けていたんだを反省してほしいね」


「……はい」


「よしよし。これでもうチャラ。今度またあんなことしたくなったら、同じか、それ以上のことをするから」


いたぶるような笑顔でそう言われた。その言外の意味を汲み取り、レモンは少し火照って、頷いた。少女らしい表情の変遷だった。


「それじゃあ、これからどうする?」


「ラジオ塔を探しましょう。おそらく、そこに皆集まると思います」


「判った。二人で行こう」


「その前に。私がビルの上からゾンビを狙撃します。数を減らしてから行きましょう」


「おーけー」


二人はビルを登った。最上階へ。それなりに辺りを見渡せる。ここはレモンの独壇場だ。スコープの先に見えるゾンビ共を撃つ。銃声に反応して、こちらに駆け出してくる。


「オレは下に行く。そこで食い止める」


BBは下に行った。すでにゾンビが幾匹か侵入している。


BBが接敵。掴みかかろうとするゾンビこ脇腹を斬る。その死体を蹴飛ばして盾にする。手榴弾を置奥に投げた。爆破し敵が吹っ飛ぶ。さらにゾンビの襲撃。二人が同時に来る。左手の方を首斬り。踏みつけて跳ぶ。そしてもう一人を頭から串刺しにする。抜きながら背後へ跳び敵中へ飛び込む。


赤いゾンビが遠くに見えた。すぐショットガンで周囲を蹴散らす。拳銃も乱射。赤いゾンビに当たる。爆発。スモークが展開。もう驚きはない。だが音に驚いたゾンビは動きが緩慢になる。その隙を逃さず斬り捨てていく。狙うは首。無意味な生命活動をシャットダウンさせていく。


そして、ほとんどのゾンビを片付けた。最後の一体。突いてキル。上に戻る。


階段の途中でレモンと会う。どうやら終わったようだ。頷きあい、ビルの外へ。


ゾンビはあらかた倒れていた。その死体の数には戦慄さえ覚える。どうやらここは攻略難易度が高いらしい。そんなことを、今更知った。


天を見上げれば、どんより雲を突かんばかりのラジオ塔。一直線にそこへ行く。足音をたてないように、しかし早歩きで。


ビルから狙撃できなかった位置まで来た。ゾンビの群れが闊歩している。まるで朝の新宿だ。その中には数匹、赤いゾンビがいた。BBは迂回しようと提案しようとして、ライフルを構えるレモンを見る。確かに、赤いゾンビを撃てば。


彼女は躊躇いなく発射。ゾンビが爆発。つられて他の赤ゾンビも爆発。地を揺るがすほどの大爆発。


「行きましょう」


破裂した水のようなゾンビを見つつ、二人は進軍する。

また遅れました。すみませんほんと

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