第39話 一言で言えば趣味
まんぷくテロリストはラストルネッサンスの下へ行った。彼らのただならぬ様子に、リーダーのサンドロチェリーまでやってきた。
そして、プロペインがかくかくしかじか全てを伝える。親の前でイタズラを暴露される状況と似ている。それが大人のやったこととなれば、呆れもまた風を吹くもの。活躍した草食しか見てないチェリーは、これを深く疑り、件の警備員を呼び話を聞く。
その口からも、草食が家とどこかを往復していたことが判った。さらに要心深く彼女の行ったスロット店まで行った。実際に取引が多々行われたことが確認される。彼女の犯行は白日の下に晒された。
「なるほど」
前の作戦会議でも使った広間。皆座っている。チェリーは腕を組んで納得していた。ここまで証拠があるならもう疑えない。何より本人が認めているのだ。
「で、草食さんが溶かしてしまった分の物資を得たいと。そのための仕事を欲しいと。そういうこと?」
「そうだ」ため息と同時にプロペインは言う。「もうこいつ一人でどうにかなる量じゃない。皆で働かせてもらいたい。何かないか?」
「そうだねぇ。まず、ラジオ放送についての調査とか、先の戦争による武器の損害回復。それから、ボク達のしたいことなんだけど」
「何でも言ってくれ。リスポーンしてデスを繰り返すよりマシだ」
「フムン」チェリーはBBをじっと見る。足先から髪の先まで。BBは身震い。そんな少年に獣の笑みで返す。
「では、特別枠として草食さんとBBくんをお借りしていいかな。特別な仕事を与えたいからね」
「草食はまだしも、なぜハチを?」「え、あたしはいいの?」
「BB、……ハチくんには、別件の仕事をお願いしたいんだ。草食さんはウチで、まぁ、簡単な雑用をしてもらおうかなと。ハチくんを貸してくれれば、一ヶ月程度の物資はあげられる。どう? 悪い話じゃないと思う」
草食は報酬に目が眩む。期待の眼差しをプロペインに向ける。彼は悩みこむ。こんな旨すぎる話があるだろうか。もしやメイン火力であるBBを引き抜こうと考えているのでは。そうだとしたら大変だ。主砲のない戦艦にはなりたくない。
「何をさせるつもりですか」
いつでも立てる状態をキープしてBBが聞く。彼はまたチェリーを訝しむ。彼には、BBにとっての前科があった。食糧目当てに裏切ってきた過去が。その問題は確かに解決した。だからって疑惑の目を向けない理由にはならなかった。
「まぁまぁ、安心してよ。ただのテストだよ」手を振って笑うチェリー。「ボク達は、新しく事業をしようと思ってて。この街では建築を、ボクらがこなすことによって仕事を持った。だからここまで大きくなれた。オールドスランガーズと戦争できるぐらいにね」
チェリーは一息いれる。手を組み足を組み、恍惚となる。
「しかし、戦争で色々減ってね。ここであえて挑戦して、一気に財を取り戻す作戦なんだよ。その挑戦こそ、衣服産業だ」
「服。ファッションか」プロペインは話を進める。
「そう。これまで廃墟街で衣服を見つけてきた。その中でも状態のいいものを発掘して、売り出すワケ。いずれは自作していきたいけど、まずはここから。そしてハチくんにしてもらうのは、服の宣伝なんだよ」
整然とした説明に、プロペインは胸を撫で下ろす。咄嗟に出した嘘でもなさそうだ。信じてもいい。だが、念には念を。
「いいぞ。でもまずは本人の同意と、同行者を一人選出したい。いいか?」
「もちろん。誰を同行に?」
「その前に。ハチ。どうだ? やるか?」
瞬時に知恵を回し、終えた。ハチは頷く。「ただし、武器は持たせてください」
「よし決まりだ。じゃあ同行はレモンでお願いする」
「りょーかいです。ハチさんに着いて行きますね」レモンは快諾する。
「ではでは、プロペインさんとオサムさんはボクらの探索チームの援軍に。仔細は向こうから」
「了解した。皆、これでいいな」
草食以外は頷いた。そしてその草食は、恐る恐る手を上げ発言権を求めた。
「どうしたの」チェリーが意外そうに声をかける。
「あの、あたしは……」
「草食さんは別動隊の援軍を頼むよ」
「アッハイ」
「それじゃあ、ハチくん、レモンさん。着いてきて」
「解りました。行ってきます」
レモンの上ずった声。BBとレモンの二人は、チェリーと共に行った。三人と別れる。
彼らは街を進む。農場の付近、建てられた大きな倉庫を確認する。その中に入った。近くで発電機と思われる機械の音。強く唸り、耳に残る。チェリーは扉近くのスイッチを押した。何の音もなく、電光が三人の目蓋に焼き付いた。天井は高く奥行きもある。使われているのは四分の一程度だが。
チェリーは何も言わない。使われている区画に突き進む。BB達も黙って後を追う。あるのは大きな鏡。着衣室。おそらく服を保管しているタンス。衣服の倉庫なのだろう。不審な箇所はない。チェリーがそれらを見渡した。
「さて……。これでボクの願いは叶う」
「願い?」ある種の不安を誘う発言。BBは刀の柄に手をあてる。
「そう。ハチくんに女装をしてもらうという、ボクの願いがね」
「は?」「は?」
BBとレモンは異口同音を発する。二人して言葉を失った。そしてBBは己を見るチェリーの眼の色を知った。そして激しく軽蔑した。この変態め。話にならない。
「ハチさんの、女装」
しかしここに味方はいなかった。レモンは目を輝かせていたのだ。BBは、その声と表情、そして現在を見て整理、逃げ場を絶たれたことを知る。なんという四面楚歌。プロペインは人選を間違えた。
「そして、ついでにゲストも入った。レモンさん、貴方には男装をしてもらう」
「え? 私が?」
「そして二人には、ファームシティをデートしてもらう。これをボクは見させてもらう。なんと、なんと至福の時間だろう! こんな可愛い子らをこの目に写し、脳内に留めることができるなんて!」
やめるとは言えない。そんなことをしたら、ラスルネとの友好関係に傷が付く。選択肢はない。そしてレモンは乗り気だ。
屈辱の表情。もっと例えよう。AV堕ちさせられた処女のアイドルのよう。辛く冷たく、BBは前に出た。それと反対の面でレモンは歩いた。
ワンピース、ドレス、セーラー服、スク水、好き勝手試された。それを見るレモンの顔。一生忘れられない。あの忌々しく艶々とした顔。今すぐ、チェリーを殴るか、逃げるか。そうしたかった。けれどスク水で逃げ回るのは死んでも殺されてもゴメンだった。
ノリノリのレモンが、BBへ死刑宣告を告げた。
「和服にしましょう! それも肩だし花魁で!」
「……中に黒いインナーを着て肩を出して歩く女の子に見える美少年花魁! その発想はなかった!」
「そんな発想捨てちまえ!」BBも流石にキレる。「絶対着ないぞ! ただでさえスク水着ているのに、そんなの着れるか!」
「報酬は一ヶ月半にする」
渋々了承した。そして、低身長の、胸元まで下げ、肩とインナーを出している、中身は美少年の花魁が完成した。表情もいい。恥を自覚している小鳥。すでに無敵。
そうして、レモンは学ランを着た。二人は街へ歩き始めた。レモンはBBに比べて堂々としている。なら当然彼女がエスコートすることになる。BBは目立ちたくない一心。レモンの半歩後ろに引いている。それがかえって大和撫子のようで愛らしい。美しい。
二人に衆目は集まる。レモンはあえてロングのまま。そして花魁BB。
「ハチさん、皆が見てますよ」
「言うな」
「恥ずかしいですか? 可愛いですよ?」
「可愛いとか、言うな」
「もっと可愛くすることもできますよ」
「しなくていい」
「ふーん」
レモンにだんだんと嗜虐心が目覚める。誰もが目に見えて判る。背丈は全く同じなのに、BBのほうが小さく見えた。花飾りが頭に付いている。それらの小物が、彼女と呼べるような彼の存在を際立たせている。
レモンはBBの手を引き頭を手繰り寄せた。
「何を」BBの顔は険しい。
「花魁のエスコートの仕方なんて知りませんけど、ハチさんのこと、ちょっといじりたくなってしまいました」
そう言って腕を差し出す。意味が判ると、その行為が恥ずかしく真っ赤になる。レモンもあとで恥のあまり後悔するだろうか。有頂天たる今では関係のない話だ。
「ほら、腕を組んでください。そのほうが皆注目しますよ」
「でも、この服が誰のか言わないと宣伝に……」
「いいから、ほら」
無造作に腕を組ませた。その姿は並のカップルでは到底叶わぬオーラを醸していた。BBは無理にほどくのも失礼に思い、顔を紅潮させたまま顔を伏せる。街を練り歩く。周囲からの好奇な瞳。BBに色気を与える。
レモンは彼を抱き寄せ、頭を撫でる。離れようとするBBを、組んだ手で引き寄せる。絶対に逃がさない。その固い心情が、BBを地面に縛る。
撫でるのに満足すると、今度はウッドハウスの民家に、BBを押し付ける。BBの左頬を撫でる。BBは目を閉じ精神的苦痛に耐えた。血を吸われる淑女のような儚さ。レモンはだんだんと嫉妬さえ覚えてくる。頬を撫でる手は首に移り、指先で首を愛撫する。
ここで首を掴んでしまえば、あとは自分の物。独占欲がレモンの内で燻る。欲に耐え忍び、手を肩へ移動する。肩を手の甲で撫でる。少年の肌に、少女のような細やかさはなく、しかし幼く愛を彷彿とさせる。
その手の先を、胸に変える。辛うじてBBが目を開ける。通行人は皆こちらを見ている。その目は光景を切り取っている。BBは恐怖で震えた。
彼の胸はインナーに隠されている。そこを手の平全体で触れる。ちょっとした弾力があり、レモンの豊満なそれとは違っていた。指先でぷにぷに押すと、肋骨のラインが判る。
歯を噛みしめ、耐えられなくなったBB。レモンを突き飛ばし、駆ける。慣れぬ下駄で転ぶ。その隙を見逃さずレモンが受け止める。青春のワンシーンがそこにあった。
BBは逃れられぬことに怒りを滾らせ、レモンを睨む。そこには一片の恐れがあった。
「大丈夫ですよ」レモンの甘い声。「貴方はこの程度で価値が下がる人ではありません」
「オレはただ恥ずかしいだけだ。だから、こういうのはやめろ」いつになく、威圧的。
「いいですよ。ただし、条件があります」
「何だよ」
レモンは、ようやく乙女らしくなる。BBを助け起こし、先までの彼と同様に赤くなって、
「今度は、私にそうしてみてください」
そう言った。まだ元の状態になりきっていない。レモンにやり返せると解ったBBは、イタズラに微笑む。冷や汗が流れ、体は震えている。それでも不遜に、肩を指で撫で、首に手を当てて引き寄せる。
「次は、オレの番だからね」
「サムさんには何て言うんですか?」猫のような戦い。
「付き合ってないし、そういう感情はないんじゃないの」
「どうでしょうね。あと、そんな話はしてませんよ」
ムッと驚き、頭をかく。一杯食わされた。それも後々やり返せばいい。BBとレモンに、不思議な協定が生まれる。だがそれは、レモンが有利なものだった。BBは、レモンに対し少しの怖気を抱いているのだから。
一方その頃。
「ぎゃあああ! ゾンビ相手に近接なんて無理だよもー!」
「草食さん! 戦ってください!」
草食は無能を晒していた。銃弾も銃もないので逃げ回るしか能がない。
フフ……下品なんですが……その……やめときます……




