第36話 セーブポイント的な
まんぷくテロリストは、ラジオ関連の建築を手伝うなどを約束。それより休みをとれと諭され、しばらく休暇をとることにした。
息をするようにスロットへ行く草食。彼女の行く先はBBのみぞ知る。プロペインは前々から興味があったという農場へ行くことに。
そして三人の子供達が残った。休めと言われても、彼らは常に車で移動してきた。故に、この世界、この街での休み方、遊び方を知らない。いやそもそもこの街を知らなかった。ここに来てから闘い続きだと気付いた。
「じゃあ、街を観光しましょう」
レモンの一言によって小さな冒険が始まった。
留守はラストルネッサンスがやってくれるという。オサムやレモンは快く受け入れた。BBはその信頼稼ぎにため息を吐く。
「まずは酒場に行かない?」オサムが指を上げて提案する。
「朝食は済みましたよ?」
「よく言うじゃん、レモン、酒場は情報の集まる場所だって」
「そうですね」オサムの言うことを瞬時に吟味。レモンは決める。「行きましょう」
三人は歩み始めた。BBは少し距離を置いて進む。彼は一人になりたかった。でもこの街のことを知らないワケにはいかない。
街は先の戦いの残り香が漂う。柵は未だにそのまま。レモンが作った高台が人々を見下ろしている。
市場。中心にベンチなどがあるところまで来た。彼らは酒場も探し、ビールの看板を見つけ入っていった。復興が早い。
西部劇に出るあのパタパタ開くドア(名はそのままウェスタンドアとも)を開けた。「いらっしゃいませ」の一言もない。不快ではなく、ただ文化の差異の一つとして、BB達には衝撃だった。
カウンターまで周りを見て歩いた。意外にも広く、カウンターとテーブル席がいくつか。朝食を食べに来た人でごった返している。
せっかく来たからには何か頼もう。そう思いBBはカウンターに近寄る。
「すみません。ドリンクって何がありますか?」
「おっと、らっしゃい」どこの廃墟で見つけたのか、つけ髭をつけたマスターが応対してきた。「ドリンクか。何が飲みたい? うちはドリンクは全てモロコシ一つだよ。安いだろう」
「モロコシ? 通貨とかあるんですか?」
「お客さん、この街は初めてかい?」
その街を救ったのは自分です。何て公言したくないので「はい」とだけ言う。
「そうかそうか。この街では主な生産物であるトウモロコシが通貨代わりなのさ。非常食にも日常食にも使える。賢いだろう?」
「オレは持ってないのですが」
「なら安心しな。弾丸と交換だ」
「ショットガンの弾で……いや、拳銃弾でいいですか?」
「おおっと、ショットガンは一つ三モロコシだぜ。払えば豪遊できるぞ」
まだ店内を回っている二人を横目で見た。
「じゃあドリンク三つ。何があります?」
「まいど。ウィスキー、ビール、ラムネがあるよ。ま、全部常温保存だけどな。しかもノンアルだ」
「ラムネ三つで」
「あんがとよ」
BBはラムネ瓶三つを受け取り二人の下へ。二人はダーツの的に興味深々だった。
「二人共、ラムネ買ってきたよ」
「ありがとうございます!」「あ、ありがとう」
レモンは元気に受け取った。しかし、オサムはまだ距離をつかめてない。BBも、ラムネを渡すにしてはどこかよそよそしい。ぬるいラムネの瓶も、その空気にあてられる。
「ぬるいですね」
レモンが一口含んで言う。そして、ここに冷蔵設備がないことを悟った。電気さえ通ってないのだから当然だが。久々の水以外の飲み物。これ以上不満はない。ごくごく飲む。
「お三方。ダーツに興味がおありで?」
店員が話しかけてきま。その不意打ちにオサムは吹き出しかける。店員はbotだと思ったのだ。
「おっとと。私はbotではありませんよ。他のはbotですがね。客に物運ぶだけなら人手はいりませんし」
「そうなんですか」レモンが小気味よく応対。
「ダーツ、やります? 三人で勝負なんてどうでしょう」
「私は、えぇと。サムさん、やります?」
「やるやる。……ハチもやる?」
「やる」
付き合いとしてBBは快諾した。レモンは少し遠慮気味だ。店員の女性は準備し始めた。
「三人共初心者とお見受けしました。なので、ルールはカウントアップでやりましょう」店員が手を広げて仔細を語り始めた。
「ルールは簡単。一人三本投げて、それを八回。得た点数が一番高い人が勝ちです。最初ですからね。投げ方となは気にせず、気楽にやりましょう」
「私は……」
「レモン、一旦やってみてから判断してもいいんじゃない? まずオレからやる。人のプレイ見て決めなよ」
BBはそう言ってダーツを三本受け取る。三つを雑に投げた。ダンダンダンと心地よく的が鳴る。12、3、9。合計24。
「レモンもできると思うよ。別に生死を決めるワケじゃないんだ。やってみなよ」
涼しい顔で言う。レモンもその気になる。
頷いて、三本受け取る。なんとなくのダーツへのイメージでポーズをとる。素人が見たら中々様になってるが、玄人が見たら目を覆う。
肘を曲げて腕の動きだけで投げた。指がもつれる。ダーツはあらぬ方向に飛び、弧を描いて地に落ちる。
BBは妖しげで悲しげな目で見ている。だが彼女は諦めない。今度は体全体を使って投げる。
14のダブル(細長い弧の部分)に命中。28になる。
「ナイス」
パッと開いた笑顔。BBを見る。彼も応援の目線を向けた。
もう一度狙う。今度は、投げることではなく当てることを意識。それも狙った場所に当てることを。弾道はなだらかな丘のようなもの。それが解れば恐ろしくない。狙いは真ん中。投げる。50点。真ん中に当てた。
「やりました!」
ガッツポーズ。店員もBBもオサムも拍手。レモンは少し恥ずかしげに頬を染める。だが達成感が上回る。
「じゃあ、次はわたしかな?」
そう言いオサムはダーツを貰う。まぁできなくてもいい。オサムは言われた通り気楽になる。
BBと同様に雑に投げた。真ん中に当たる。「おお」とBBが感嘆。まぐれもあるものだな。オサムは再度投げた。真ん中。これには言葉を失った。
「やりますね。次も中央に当てます?」
無駄にプレッシャーをかける店員はともかく、オサムは後ろの空気を気にした。せっかく頑張ったレモン。その成果をこうも容易く塗り替えていいのか。
今はBBとも仲がよろしくない。これ以上白眼視されたくない。だがレモンもBBも聡い。わざとミスしたところで気付かれる。思わぬ実力と幸運に、オサムは追い込まれる。
「へー。サムってダーツ上手いんだねぇ」
BBが話しかける。いつもの、サディズムを過分に含んだ声。そしていつの間にか横にいる。
「次も50点以上狙える?」
意地悪な笑みは、朝の仕返しだろうか。思案するオサムの耳元にBBの口が近付く。
「当ててもレモンは拗ねないよ」
意外な声援にオサムはたじろぐ。そしてそれを言えるBBにも。切り替えが早い。いや、己を案じてくれたのだろう。オサムはただ、その優しさの理由を人知れず噛み締めた。
「さぁ、やれるかな?」
BBの挑発に、行動で返そうと投げる。
20点に当たった。……20点というマークに。盤外、つまり0点。オサムはずっこけたくなる。恥ずかしいので逃げたい。
BBが笑みを深めた。彼にはこれも想定済みだったらしい。
「少しいじめすぎたね。ごめんごめん」
そう言って機嫌の回ったBBは、またもマシンガンのように三つ投げた。
最終的にオサムが勝った。後半からレモンが追い上げて来たがギリギリ逃げきり。BBは途中から1のダブルを狙い初めていた。彼は彼で勝手に楽しんでいた。そして狙いは外さない。真面目にやったら勝てたのでは。そうレモンは思った。不満はなかったが。
「ありがとうございましたー」
店員の声を背景に、三人は酒場を出た。
少し歩いてから、「あ」とレモンが思い付く。
「この近くにに歓楽街がありましたよね。そこに行きません?」
「いいね!」オサムも元通り。底にある楽しさを引き上げている。「前はわたしら通っただけだし。ハチは行ったことないでしょ。行こうよ」
BBはカチンと固まる。歓楽街。つまり生きたスロットがある。イコール草食がいる。草食がスロットに打ち込んでいる。
BBも、草食がスロットにかじりついているところを見たことはない。見たら失望が絶望とミックスするだろう。無知な二人ならなおのことショックが肥大する。避けねばならない。
もう三人は歩き出している。オサムが遠くを見る。
「歓楽街って何があるんだろうね」
「カジノとかがあるんでしょうね。私、ポーカーとかやりたいです」
「レモンはポーカー? やったことないなぁ。ハチは?」
「オレもやったことない」
もう断れる状態でない。他へ行こうと提案もできない。もうその場へ行っている。
人の賑わいが激しくなる。けばけばしい看板が人の注目を集める。豪華にも、ガラス張りの建物がいくつかあった。
頼む、見つけないでくれ。そして見つからないでくれ。BBは彼女らの希望のために祈った。草食は、明るくお間抜けでしかし強い人なんだ。決してギャンブルで身を滅ぼすダメ人間じゃないんだ。
「そういえばさ」オサムが隣のレモンに向く。「前にオールドスランガーズのところでブラックジャックしたじゃん。あの時草食さんがコイン出してたよね。あれってここからなのかな」
不味い。変に好奇心を煽ってはならない。BBは即座に反応する。
「あれは、ずっと前に姉さんがカジノ跡を探索した時に見つけた物じゃない?」
「あ、そっか。その線もあるか。と、そういえばになるけど。草食さんってどこにいるのかな」
「ですね。いつの間にかいなくなってますね」
レモンも首を傾げた。BBはホッ、とひとまず胸を撫で下ろす。BBは辺りを見る。華美な装飾のビル群がより多くなっている。そしてスロットのやかましい音。草食はおそらくここらへ来ている。
だがBBはより安心した。座席は奥へ伸びている。まさか入り口手前に座るとは思わない。良い台を探して奥に。もしくはバレるのを避けて。
だが、いた。丁度、進行方向右斜め前奥。あのカウボーイハットは間違えない。間違いない。
徐々に距離が縮まる。見つけないでくれ。この電子の世界で精一杯祈った。一歩一歩、彼女らの声さえ遠くなる。
そして、通りすぎた。戦闘のような緊張感から解放。肩を下ろす。二人は全く知ることなくお喋りしていた。これで草食の名誉は守られた。
「……ちょっと待って!」
何かにオサムは気付いた。今更どうしたのだろう。突然来た道を戻り始めた。まさか。
完全に、寸分の違いなく、草食のいるガラスまみれのビルの前に、立った。
「草食さん……?」




