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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の2 ファームシティ編
35/137

第35話 ゲームに定休日なし


朝。この街、ファームシティは光源が太陽ぐらいしかない。その光を求めた人々は起きていく。


この日は忙しいことが予想されていた。ラストルネッサンス本隊の帰還。そして戦勝記念。しかし後者はすでに戦闘員が各々祝った。あとは責任者同士の話し合いぐらい。


BBは夢を見なかった。それでもよく眠っていた。オサムが朝食ができたことを伝えに部屋へ。BBの寝顔を、初めてじっくり見る。


起こそうとしてやってきたのに、オサムは彼の表情に釘付けだった。レモンから、深夜に起きていたことは伝えられていた。だからインナー姿であることも。


とこ、とこ。歩いて近付く。足音をたてないように。ベッドの少し空いたスペースに座る。様子を見る。


そこから寝顔を見て、彼女はドギマギさせられる。無垢な子供の愛らしさがそこにあった。普段はちょっと大人な顔をして困らせてくる。そのくせに今はこんな顔。それが意外。ただ仮面が外れているとは露にも思わない。


元々起こすために来たことを思い出した。しかし、こんな安らかに寝息をたてている人を、起こせるだろうか。オサムは良心によって躊躇する。だが好奇心が、彼から毛布を取り上げることを許した。


そう、これはあくまで起こすため。そう自身に言い訳。毛布をゆっくり剥がす。肩丸出しのインナー。ふとももまで見えるスパッツ。ちらりと見えるお腹。


いけないことをしている。それは知っていた。だから頬は赤い。でも彼女の中にある好奇心、それとは違うものが己を駆り立てる。彼女はこの原動力の行方を知らない。


彼女に知識があるならば、それが少年愛といったようなものに、類似したものと気付いたろう。


その体、部位全てが美少年を物語る。そう、芸術だ。だから知らず知らず目を離せない。


それでも時は訪れる。彼は芸術である以上に生命であり流動体であった。どうしたことか、目をパッチリ開けて跳ね起きベッドの済みに寄る。


その目には警戒がひた走っている。穴蔵に追い詰められた獅子のような、強い瞳。それにたじろぐオサム。張り詰めた空気が二人の口に吸われる。


「……なんでいるの」


その低音は当然BBから放たれた。オサム側、今完全に不審者である。


「ご、ごめん。その、起こしに来ただけ」


「じゃあ何で声をかけなかったの」


答えに詰まった。彼女自身なぜ見とれていたのか解らない。もう少し歳と経験があれば仔細に言えただろう。それは叶わない。だから、バカみたいに正直になる。


「キレイだったから」


「は?」


「ハチの体、キレイだったから」


目を何度開けて閉じたか。BBは言っていることが理解できない。それでも寝起きの頭を動かして解読に努めた。


どうやら己の体を見られ続けられたらしい。何と奇怪な。これはオールドスランガーズとの戦いの最中、脱がされたのと同じだろうか。しかし見とれていたとは。BBには自身の肉体がどういうものか知らなかった。


故に、恥ずかしかった。そしてオサムに対する怒りもあった。


顔を紅潮させ、縮こまる。上目遣いでオサムを見る。そんな姿に、オサムは心を奪われる。もう少しで涙が出そうだ。いつものBBならからかいにくるのに。オサムの独占欲がウズウズと震えている。


「出てって」


BBの、精一杯の抵抗。それさえ小動物の威嚇で可愛らしい。足の指先を内側に向けてもじもじ。黙ったままのオサム。客観的に見れば犯行現場だ。


「出てって!」


「ご、ごめん。すぐに出るよ。あ、皆が下にいるからね。ほら朝食朝食。それじゃあね」


逃げるように、いや実際にオサムは逃げていった。扉は大げさな音と共に閉められる。部屋には、ベッドと着替えとBBだけが残る。


彼は体育座りをして目を伏せる。このゲームにおいて、インナーとスパッツは実質裸。そんな羞恥の現場をわ食いつくように見られた。


あのスケベ手榴弾投手め。彼は内心毒づく。寝顔を、最も弱いところを見られたのも、苛立たしい。いつも見られているではないか。だけど今回のはまた別のものだ。下に降りるのが恥ずかしい。あの女、オサムとは顔を合わせたくない。


オサムは急いで階下に降りる。心配そうな目で三人に見られた。


「ハチが叫んでいたけど、何かあった?」


草食が聞く。いかにもお姉さんという風体で聞いてくれる。頼もしいが、今はかえって邪魔だった。


彼の体を見ていたら怒られましたなんて、犯行声明とするワケにもいかない。何も言えない。


「何かトラブルでもあった?」


ありました。でも言えない。草食がオサムの背に合わせて前屈み。オサムは良心が青ざめるだけ青ざめて、冷や汗をかく。


そこへ、BBが嫌そうに降りてくる。その一歩一歩が、オサムにとっての死刑宣告だった。彼が事実を暴露すれば、地位は最低の下になる。


目を合わせることもできない。もはやこれまで。夏休みの宿題を終わらせられなかった絶望感に似る。それに苛まれ、黙る。


「ハチ」草食が腰に拳をあてる。「さっき叫んでいたけどどうしたの?」


「……いやな夢を見たんだ。それでサムに当たっただけ。ごめんね」


「え?」


最後の言葉は自分に向けられていた。信じられず、耳を疑った。BBはオサムを庇ったのだ。


それに気付いてBBと目が合う。その目には呆れと怒りが純度百パーセントで混じりあっていた。許されたワケではない。しかし免除してくれた。


「そうだったの。ハチはもっとあたしらを頼りなよ。大丈夫。お姉さんは優しいよぉ? 悪夢みたいなことは起こらないって」


「ありがと、姉さん」


そう言って話は終わった。オサムには数多の罪悪感が残った。


「さて、朝食にしようか。ハチが食糧を家に運んでくれたからね。色々あるよ」


やってくれたのか。という会話はオサムとBBにない。それに激しい違和感を皆覚える。草食は静観を押し通す。


ダイニング部分では、プロペインとレモンが朝食の用意をしていた。草食はその間何をしていたのか。BBは疑問を感じる。だが並べられている食事の前に、それは消えた。


それは紙皿の上に乗っていた。肉。じっくり焼かれた肉である。ステーキだ。それで機嫌が回復するほどBBは単純ではない。それでも、人をたぶらかすたんぱく質の前には、欲望の重圧でひれ伏すしかない。


「おはよう二人共」プロペインが準備を終える。「ナイフは各自のサバイバルナイフを使ってくれ」


「ありがとう、ございます。これ、どうしたんですか」


BBの問いは草食を満足させた。プロペインは草食をチラ見。


「これは草食が肉屋で貰って来てくれたんだ。鹿の肉だ」


「姉さん、どうやって手に入れたの?」


「聞いて驚け! 賭けで手に入れたのだ!」草食が胸を張る。


「は! 姉さんが?」わざとらしい嘲笑。「八百長でもしたの?」


「あたしの運を舐めてもらっちゃあ困るなぁ。あたしが最初に、ロシアンルーレットで自分の頭撃ち抜いたら、肉を貰うって勝負をしたんだよ」


「それってずるくない?」


「頭脳プレイって言ってよね」


BBは軽くため息を吐き「ありがとう」と言って席についた。フォークに手をつけようとして、「いただきます」とあわてて言った。


ナイフで切り、口に含む。咀嚼する。脂身は少ない。肉の味がする。BBの貧相な舌には旨い以外なかった。だが、肉を食うのは贅沢だ。


「うん、旨い」


草食の下手な食レポ。それがかえって共感を呼んだ。


食べ終わったあと、皿を集めて片付けをする。そこへ扉のノック。「入るよ」と声がして開けられる。


チェリーが立っていた。警備のためか、二人程武装した兵士が付いている。


「おはよう。チェリーだ。今後のことについて話したいから、今いいかな?」


「いいよ」草食がソファにくつろいで言う。「昨日はそのまま寝ちゃいましたからね」


「ありがとう」BBは椅子を用意。三人分持ってくる。「ありがとね」と爽やかに言われた。爽やかな表情で返す。


チェリーは座り、まんぷくテロリストも座る。チェリーの近くに草食とプロペイン。少し離れてレモン。互い距離を離してオサムとBBが座る。


「さて、皆の今後なんだけど」


「何かあるのか」プロペインが応答。


「皆は、ここを拠点にして何をするのかなぁと」


「このゲームからの脱出方法を探る」


その断言に、チェリーは背筋を伸ばす。


「このゲームからの脱出。何か策はあるの?」


「ない」


「ない?」


「だから、ここから何でもいいから探すんだ」


「うーん」


口元を押さえ、じっくり考えこむ。そこには打算があった。


「なら、一つ提案がある」


「それは?」


「この街の発展に寄与してもらうこと」


「それをすると?」興味深いからこそ、プロペインは聞く。


「ボク達はラジオを流そうと思っているんだ。情報を発信する。それで、脱出についても呼びかける。どう?」


「ラジオ。またどうして」


「オールドスランガーズがラジオ放送をしようとしていた形跡があってね。ボクらも真似しようかと思っているんだ」


「なるほど」


腕を組んで、唸る。今のところ脱出についての情報はない。ゼロ。このまま探索し続けるより、世界に呼びかけ、同士を集めるのが最適ではないか。


プロペインはメンバーを見る。草食は頷いて承諾。レモンも等しく。オサムとBBも異論はなさそうだ。プロペインは代表して言う。


「しばらく、この街にいる。ラジオなどは手伝わせてもらうよ。あとは、仕事だな」


「そこはボク達がどうにかするよ。今後とも、末長くよろしくね」


この朝は、新たな太陽を迎えるものでもあった。

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